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異世界の何でも屋さん  作者: 三木羊示
第一章 異世界召喚編
2/15

2 奴隷


 表通りに出れば、様々な店が立ち並んでいる。出店のような小さな店から、戸建ての店など、小規模だが様々な形態の店が並んでおり、活気がある。売り物は様々なようで、食べ物が売られていたり、見慣れぬ道具が売られていたりするようだ。買い物は硬貨でやり取りされているようだ。


「このお店はなんだろう?」


 店構えは高級感があるが、店頭には何もなく、重厚な扉が設えられているのみである。看板には鎖の絵が描かれている。


「絵からすると奴隷を売買している店かな」


 ユウが答える。確かに、街中でも時折、鎖をつけた人を見た。あの人たちが奴隷というものなのだろうか。日本人からすると奴隷というものに対しては複雑な印象を持ってしまう。少し考え込んでしまうと、扉の脇に立つ男性がにこやかに声をかけてきた。


「もしご要望等ございましたらうかがいます。」


 どうやら、奴隷を買いに来たと思われたらしい。


「いえ、街を見物しているだけで…。なにか買いたいものがある訳じゃないんです。」


「それでしたら、店内も見物されませんか。その土地その土地で奴隷の特色が違う場合も多いですし。ご旅行中でしたら、観光の一環ということで。私たちは豊富な人材をそろえておりますので、あるいは一期一会の出会いがあるかもしれませんよ。」


 どうやら、旅行中の金持ちだと思われているようだ。ユウの耳に顔を近づけて、小声で伺ってみる。


「どうしよう。こういう勧誘された時ってどうも断れなくて…」


「せっかくだから、見せてもらおう。そもそも散策してこの世界の情報を集めることも目的の一つだからな。その点、奴隷なんてものは俺らからするとかなりなじみのない文化だからな。それに、店員の姿勢もかなり低いから、質問がしやすい。おそらく、奴隷は高額だから必然、接客も金持ち向けのものなんだろう。それとなく聞いてみたらいろいろわかるかもしれない。」


「それもそうね….」


 方針が決まったところで、店員に向き直る。目の前でこそこそ話をしているというのに、にこにこと丁寧な物腰を崩さずに、こちらの返答を待ってくれている。実際、接客についてはかなり教育を受けているようだ。


「じゃあ、せっかくだから案内をお願いするわ。」


「かしこまりました。それではこちらへ。」


 そうして店内に案内される。中は高級感のあるエントランスになっており、幾つもあるうちの個室に案内される。個室はそれほど広くはなく、ソファーとテーブルしかないような部屋ではあるが、それらは私たちの目から見ても上質なものであり、居心地の良さを感じさせる空間である。


 しばらくすると、先ほどとは違う店員が現れる。


「お待たせいたしました。こちらが当店で扱っている商品の目録になりますので、よろしければご覧ください。」


 そう言って、分厚い冊子を手渡してくれる。見ると、各奴隷の似顔絵とおおまかな体の寸法やプロフィールが詳細に記載されているようで、カタログの様になっている。右下のところに値段が書いてあると教えてくれたが、見たことのない言語で記載されているので、似顔絵以外は読めない。


「もしお探しの条件等がありましたら伺いますが」


「えーと、ふらっと寄ってみただけなので、これといって必要なわけではないんです。」


「そうなんですね。それでも、もちろん結構ですよ。目録をみて、もし実際にご覧になりたい商品があればお申し付けください。」


「そうですね…」


 そのように言われても困ってしまう。そもそも奴隷が必要な時とはどんな時なんだろうか。助けを求めるようにユウの方を向くと、ユウが助け船を出してくれる。


「私たちはこの町に来たばかりで、また、奴隷についても購入したことがなくあまり詳しくないので、いろいろと伺ってもよろしいですか」


「もちろんです。」


「こちらを拝見すると、だいたい数百くらいまでがだいたいの相場みたいですね。このあたりの物価に詳しくないんですけど、このあたりの人の収入等と比べるとどの程度なのでしょうか」


「なるほど、たしかに都市によって物価や相場は異なりますからね。ここはクイドクアム王国の王都ですので、比較的物価は高い方となります。平民階級の平均的な所得はだいたい1月で金貨1枚と銀貨5~8枚程度でしょう。金貨数十枚から数百枚というのも、地方と比べたら若干高い値段設定かもしれません。」


「なるほど。この町に来てから、このあたりでまだ食事をしてないんですが、一食どの程度ですかね」


「鉄貨8枚から銅貨1枚くらいで、それなりに良い物が食べれますよ。」


「なるほど。よく分かりました。ところで、目録の奴隷で気になるものがありますので実際に拝見してもよろしいでしょうか。」


「ええ、もちろんです。」


 そういうと、ユウは2人ほどの奴隷を指す。


「それでは、すぐにご用意致しますので、少々お待ちください。」


 そういって店員は扉を開けて、退室した。退室したところで、ユウに詰め寄る。


「ねえ。もしかして、あなたさっきの文字が読めたの?」


「いや、読めないが。なぜ、そう思った?」


「だって、値段について金貨が何枚とか言ってたし。目録見て、見せてもらう奴隷も選んでたじゃない。」


「値段については、目録をぱらぱらめくってみた中で10種類の文字のみしか出てこなかったから、十進法の数字が書いてある部分だと推測したんだ。値段の単位は分からないが、出てきた桁数が1から3桁までだったから、なんらかの単位で数百までだと分かる。奴隷については値段の桁数が1桁のものと3桁で容姿が平凡な人を選んでみた。」


 言われてみれば、会話の中で自然と十進法で考えていたが、十進法であるという確証はそもそもなかった。すべてが自分の常識と違うということを疑ってかからなければならないのだろう。正直かなり疲れる気がする。


「容姿が平凡な人を選んだってどういうこと?」


「どうせ見るならその方が良いと思っただけだよ。高値が付く奴隷はどんな理由で高値がつくだろうか。」


「うーん...奴隷の用途にもよりそうだけど…。まあ、容姿が良ければ高くなるんじゃないかな。それと、力もちとか、頭が良いとか能力がある人。それと、有名人とか珍しい人種が奴隷になったとかでも高くなりそう。プレミア?みたいな」


「うん。さっき選んだ高額の奴隷の人は、俺の主観だけど、とりわけ容姿が良いと言うわけでもないし、絵の上では珍しい特徴がある訳でもなかった。であれば、有名人の奴隷とかもなくはなさそうだけど、能力や技能が優れていることによって高額だったとみるのが可能性が高いと思う。」


「確かに有名人とかはあんまり現実的じゃなかったかも...」


「ただ、能力や技能に、力持ちや頭の良さを上げてくれたけど、それだけで日本円で1000万以上の価値の差がついたりするだろうか。実際そうなのかもしれないが、ここは俺たちの知っている世界じゃない。俺らの知らない技能や能力が存在していてもおかしくないだろう。もしそういうものがあった場合、向こうも商売である以上、実演してくれたりするんじゃないかと思ったんだ。」


「ちょっとまって!」


「何だ?」


「日本円で1000万以上の差ってどういうこと?さっきの会話だと金貨、銀貨、銅貨、鉄貨があるのが分かったけど。ほかの種類の通貨があるかもわからないし、例えば金貨と銀貨の対応とかもわかんないし、だから日本円との対応もわかんなくない!?」


「さきほど、平均所得が金貨1枚に銀貨5~8枚と言っていた。5~8枚といったのは職種による収入のばらつきがそれくらいあるというさっきの店員の考えだろう。

 今仮に、銀貨100枚で金貨1枚になるとすると、銀貨5~8枚というのは数%の単位でしかばらつきがないことになってしまうが、それは小さすぎる。もし金貨と銀貨の間の価値の硬貨が存在しているならば、ばらつきはさらに小さくなるだろうが、それは考えにくい。従って、銀貨10枚で金貨1枚の価値になると考えられる。

 また、鉄貨10枚で銅貨1枚だろうな。仮に、鉄貨100枚で銅貨1枚とすると、それなりに良い質の1食分が鉄貨8枚から銅貨1枚というのはやや幅が広すぎる。日本で言うならば、それなりのレストランでの一食が80円から1000円で食べられるといっているようなものだ。

 また、食事の値段と1月の収入を考えれば、銅貨10枚で銀貨1枚と考えるのが妥当だろう。従って、日本の感覚でいえば、金貨が10万円、銀貨が1万円、銅貨が1000円、鉄貨が100といったところだろう。金貨より価値が高い貨幣、もしくは鉄貨より価値が低い貨幣があるかはわからない。」


「ぬぅ…」


 言われたことを咀嚼して考えてみれば、確かにその通りかもしれないと思える。ただ一方で可能性が高いだけで、確実ではないんじゃないかと反論してやりたい気もするが、いまは否定しても仕方のないことである。


 そんなことを考えているうちに先ほどの店員が戻ってきたようである。


「お待たせいたしました。」


 そうして、2名の奴隷とともに入ってきた。どちらも清潔でシンプルだが質の良い衣服に身を包んでいる。


 一人は30代くらいの男性でとりわけ体格が良いというわけではないが、健康そうで力仕事などにも向いていそうである。


 もう一人は20代くらいの女性で、体格は華奢、顔は特に特徴がある訳ではないがどちらかと言えば地味といった印象である。あまり、力仕事はできなさそうだが真面目に家事や事務仕事をこなしてくれそうな印象を受ける。


「こちらの男の方は代々農家に労働力として仕えておりました。力仕事にも向いておりますし、農業に関する知識も持ち合わせております。

 こちらの女性の方は、家事手伝いとしてお仕えすることができます。文字の読み書きができますので、事務員として働くこともできます。また、魔法の適性があり、いくつかの術式を行使することができます。適性がありかつ行使することできる人材は稀ですので、値段設定も高めとなっております。」


 今、さらっとすごいことを言われた気がする。魔法とか言わなかったか。理解が追いつかず唖然としていると、ユウが表情を変えずに応える。


「それは素晴らしいですね。よろしければ、いくつか魔法を見せてもらえないでしょうか。」


 そう言うと、女性が一歩前に進み出てユウに応える。


「はい。私は“光成“と”水成“の魔法を行使することができます。」


 すると、女性が何か聞き取れない言語を詠唱し始める。すると、両手の間にピンポン球サイズの、光源が現れ優しい光を放ち始める。次に、女性が詠唱を始めると、今度は女性の両手の上に一掬いほどの水が湧き出てきた。


 なるほど。この世界では物理法則すらも疑ってかからないといけないわけだ。レイは初めて見る魔法に胸を躍らせるよりも先に、諦観の念にかられるのだった。



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