それは神の一撃
本当は即位礼正殿の儀の日に投稿したかったけど死ぬ程面倒な仕事が回ってきたので遅れました。ごめんなさい。
三種の神器が奉納され、その一つ一つが莫大な霊力に置換されて空へと昇っていく。
本来はこのまま各国の上空に浮かぶ神殿へと奉納されるのだろう。だが、今回ばかりはそうはならなかった。
溢れ立ち昇る霊力の柱に呼応する様に儀式用に描かれた魔法陣が輝いたかと思えば空へ昇る霊力の柱に奇妙なことが起きた。
ある一定の高さまで登ったかと思えばまるでそこに見えない壁でも存在するかの様に鬩ぎ合う様な動きを見せている。空の上の見えない壁に抵抗する様に霊力の柱の勢いが増し、昇り上がる霊力の量がどんどんと増幅し続け、それが最高潮に達した時
“ピシリ”
空間に亀裂が入った。
蜘蛛の巣状に出来たヒビ割れは注ぎ込まれる霊力の増大と共に大きくなり続け、空一帯を覆うほどにまで広がって砕けた
「!?」
“圧”
それも尋常では無い圧が戦場全体に降り注いだ。
力弱き者はそれだけで膝をつき武器を手放し平伏してしまう。
特にラブマシーンが召喚した偽物の中でも有象無象の者たちや、儀式のためだけに連れてこられたレベルの低い【神職】たちなどひとたまりも無い。
その圧倒的な圧を浴びただけで偽者は即座に光の玉へと還り、レベルの低い【神職】達は有無を言わさず膝をつき平伏する。
たが、平伏したのは彼等だけでは無い。レベルが高く圧の中でもそれなりに自由に動ける【神職】達も当然の様に膝をつき平伏している。何故なら彼等は知っているのだ。この圧の主を、いかなる者の手によってこの状況が齎されているのか知っていれば、この変わってしまった世界で尚、神々に祈りを捧げる彼等が平伏し、崇め奉らない訳が無いのだから。
逆にその圧を受けてもレベルに関わらず佇んでいる者達もいる。彼等は一様に光の向こう側を見ているがその視線の先はてんでばらばらであり、驚くべき事に彼等の視線の先は誰一人として被っていない。ただ確信した様な、十年来の友でも待っている様な、そんな笑みを浮かべてただ佇み見上げている。
そんな意味のわからない状況の中でラブマシーンは光の向こう側から感じる莫大な圧を感じた直後、己の持つ億を優に超える全てのアカウントの偽物を展開し始め、それらの持つ能力群の中から己が力と最適な組み合わせを選び出しステータスに装填した。
「あーだっる」
最初に聞こえてきたのはそんなやる気のない声。
「姉上。こういった場ではもうちょっとしっかりしてくれませんか?」
「やーだー!部屋に戻って歴戦王やりたいー!」
「見切りしくじっていの一番に乙るのに一番元気だよね♪」
「喧嘩売ってんの?オモイカネ」
「おっ!やりますぅ?見切り成功率100%の僕相手にやりますぅ?」
「…恒星玉」
「ちょっ!?姉上それ駄目!世界壊すなって制約があるでしょうが!」
「…ちっ」
光の向こう側から現れた3人の男女の一人が掌に生み出したどう見ても小型太陽と思しき物が消えて安堵の声がほうぼうから聞こえる。
「真面目にやってくださいよ姉上」
「ちっ。仕方ないわね」
先程恒星玉なる心底物騒な物を生み出した女が一歩前へ進み出て語りかける。
「先ずは一言。よくやった、と言っておきましょう。千年以上もの間私がニニギに渡した神器達をこの時代まで繋いだのは人の世を思えば奇跡と言って然るべきでしょう。…故に、私達は今この時のみ貴方達との会遇が許されているのです」
その女…巫女装束によく似た衣を纏いその衣の随所に大神が身に帯びている紅い隈取りとよく似た紋様が描かれている女が一際大きな声で叫んだ。
「我が神名は【天照大御神】、高天原の主宰神にして天皇家の皇祖神なり。我が神名においてこの戦、神道が神格群による加勢を約束しよう!」
その号令を合図に光の向こうから次々と人影、いや神影が飛び出してくる。
八つ首の大蛇が、雷纏いし剣の神が、夜を統べる月の神が、桜纏う安産の女神が、数多の神々が飛び出し己が依り代の元へと駆けて行く。
そして大神が自分の神を怨敵でも見る様な目で見ながら全体へ向けて叫んだ。
「いま此処に天神降臨は成った!故に我らに敗北は無く無益な死も無い!この戦、絶対に勝つぞ!」
「「「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」」」
「では私が先陣を切りましょう。…億単位の敵とは胸躍る物ですね」
「あんたは剣をぶん回したいだけでしょ?」
「スサノオ君は無双ゲー好きだしね〜♪」
「では、開幕一刀を此処に。…来い【草那藝之大刀】」
その男神【須佐之男命】が呼び出したのは先程奉納された【神器】の一つ【No.003 覇國神剣 アメノムラクモ】によく似た剣であった。だが違う、その覇気が、その神々しさが先程まで見ていた神器達が紛い物としか思えない程の圧倒的な差を感じる。
「いやー、此処まで昂るのは八岐大蛇以来ですかね。兎も角、この勝戦の始まりを告げる一撃をお見せしましょう」
スサノオが剣の切っ先を真上に向けて構える。
「我が剣は八丘八谷に跨りし八頭八尾の蛇頭を落とす一刀なり。」
“命” “活” “回” “流” “復” “永” “存”
偽物達の大軍の各所にその七つの文字が浮かび上がったと思った途端、その周囲が纏めて切り裂かれた。
「…八國断静【七生天衝】」
そう言いながらスサノオはその場でゆっくりと剣を振り下ろす。
“斬!!!”
明確な音となって空間が切り裂かれる音が響き渡る。
「…ふむ。やはり威力制限を受けるとこの程度ですか」
スサノオがそう言いながら【草那藝之大刀】を納刀する。
この程度
そう言い捨てるがそんな物では断じて無い。先の一撃にて敵軍は全体の約3%が消滅した。たかが3%そう言い捨てるのは簡単だが敵軍の総数は約3億である。つまり彼の神はたったの一撃で900万人もの敵を屠ったのだ。しかも疲れた様子など微塵も無い。多少の溜があったとしてもあの威力だ。何の問題にもならない。
これが神。超常の存在にして具現化した信仰の形。そして今この戦場には50を超える神々が降臨している。これ程までに頼もしい存在は他に無いだろう。
この景色を為せると考えたが故に日本国は今回の作戦に踏み切った。そしてその考えには何の間違いも無く、この戦いは恐らく勝利で終わるだろう。
だが、神々の降臨とその力の一端を見ても尚、戦意を滾らせ瞳の奥に怪しい輝きを宿すラブマシーンは一体何を想っているのだろうか




