勝者と影より見守る者達
“ガブリ”
俺の首は確かに最後のジャグラスに噛みちぎられた………筈だった。
「はえ?」
祝寿癒聖福賀慶縁幸光希恵稲望穂日月輝陽芽唯天護弾防繋一始栄繁養啓宝験瞬宙遍広治生
首筋のジャグラスの牙が突き刺さったあたりから緑色の意味を成さない漢字の文字列が溢れ出しそれが物理的な障壁となって俺を守っていた。
《【神格】が発動しました。》
《残りの発動回数は二回です。》
「あっ…」
【神格】。日に三度だけあらゆる致命の一撃を完全防御するチート能力。そういえばそんなのがあったなぁ。
理解しているつもりだったが今迄一度も発動しないものだからすっかりその存在を忘れていた。
俺もジャグラスも驚愕に目を見開いていたがシステムアナウンスのお陰で一足早く俺の方が先に立ち直った。
なあ。そんなぼうっとしてていいのか?
「死ね。」
素早くジャグラスの首根っこを掴んでその首を切り落とした。
「お前で最後だな。」
俺は残った一匹を見据えサバイバルナイフを構えながら言った。
「ガアアアアアアッ!!」
ヤケになったのか真っ正面から突っ込んでくる奴の動きを見据えゆっくりと動き出す。
「ふっ。」
“スッ”
一切の抵抗無く相手の攻撃を最低限の動作で躱しその首に刃を滑り込ませた。
落ちるジャグラスの首、それが光へと変わりドロップアイテムの鱗を落とす。それを目にしてようやく勝ったのだという実感が湧いてきた。
うおおおおおおおっ!!!
ダンジョンで下手に騒げばモンスターがやってくる。だから心の中でひっそりと叫んだ。もしかしたら側から見れば喜びを堪えた子供にしか見えないかもしれない。
ともかく勝利だ。さっきの奴をぶちのめしたら帰ってビールでも飲んで祝杯をあげたいところだ。
その為にもまずはしっかりと体力を回復しながら入り口を目指して歩き始めた。
鈴木亮一郎VSジャグラス六匹
勝者:鈴木亮一郎
────────────────────
◆◇ダンジョン外部・自衛隊基地◇◆
『こちらA隊神崎。被疑者加藤裕也を捕縛。これより本部へ連行します。』
「本部了解」
「ふむ。加藤とやらは無事逮捕出来たようだな。」
「はい、隊長。新刑法に則り
『ダンジョン型間接殺人』の罪で逮捕しました。」
「その殺人犯に殺されかけた被害者はどうなった?まさか死なせてはいないだろうな。」
「はい。即座にダンジョン内を探索中のB班に要請して救護に向かって貰ったのですが…」
「何か問題でも起きたのかい?」
「それが…被害者は6体のジャグラスを相手に勝利した模様です。」
「…何?被害者の情報は?」
「はっ。被害者は鈴木亮一郎。ダンジョン発生後、所属していた会社を辞め探索者となっています。特記事項…これは。」
「どうした。続けろ。」
「はっ。特記事項、固有属性保有者にして、オモイカネの加護保有者。推定神格は2、推定保有【加護能力】は情報系統とのことです。」
「固有属性と【加護能力】の両方持ちとはまたレアなやつが出たな。情報系統ということはもしや【知力】の項目に補正を受けているのか?だとすれば是非とも話を聞いてみたいな。」
「はっ。後ほど参考人の名目で引っ張りますか?」
「いや、加護持ちと拗らせるとかなり面倒なことになる。…一応確認だが無いとは思うが【逸話能力】は発現しているか?」
「いえ、【巫女】の『神格鑑定』では加護持ちということ以外確認されていません。 」
「わかった。ならば件の彼には殺されかけたことに関する重要参考人ということだけでどの様にジャグラス達を殲滅したかについては追求するな。何より【知力】項目に補正が入っているのならば何としてもこちら側に引き込まなければならない。」
「ええ、ステータス5項目の内で唯一鍛錬や修練で数値の上昇しない【知力】項目はいったいどのような効果を持つのか我々にとっても未知ですからね。」
「ああ、何としても件の彼を引き入れろ。ただし強引な手段は許さん。わかったな。」
「了解しました。失礼します。」
部下が出て行き一人だけとなった部屋の中で男が愚痴る。
「オモイカネ。神話上の有名な逸話は確かアマテラスを天岩戸から出す際にその知恵で見事にアマテラスを外に出しただったか?
予測できる【逸話能力】は『解放』『叡智』…下手をすれば『最高神操作』などの極悪能力すらありえるな。」
仕事上軽くではあるが神道の神全てを暗記している男にも一体どんな能力を持つかイマイチ想像がつかなかった。
この男こそが自衛隊とギルドの橋渡しを担う特別役職『異界将』にして最高神にして太陽神である天照大神の依り代、大神照義その人である。
「くそ、神々がもうちょっとマシな思考回路していればここまで面倒なことにはならんのにあのクソ大神ときたら!」
神々がアレなさいで彼の苦労は留まることを知らない。
◆◇■■■◇◆
「うわー照君大変だねー。僕もあの子に目を付けられたことには同情するよ。」
その名を知る者は多いがその場所は誰一人知らない場所で一柱の神がぼやいていた。
「というか僕も地上の文化の影響で多少の歪みが出るのは覚悟してたけど何で神話で男って名言されてるのに女になってるの?…いやまあ名状しがたい脳味噌触手の化け物にされるよりはマシなんだけど…。」
誰もいない彼女だけの社の中で彼女は一人愚痴っていた。
「そんなことより亮君だよ!僕の与えた能力フル活用してくれて嬉しいなぁ♪にしてもまさか僕の求めてやまない《虚》を持つ人が出るなんて思わなかったよ。」
オモイカネとは神格化される物が実在する物であることの多い古代日本において、世にも珍しい『知恵』という概念を神格化した物であった。
故にその神体は神という器に知恵という可視化も具象化もしない物を概念として収めているが故に空っぽの神であった。
「ふっふ〜ん♪過度なサービスは駄目らしいけどこれくらいならいいよね?アマツさん。」
《アクセス権確認》
《認証完了》
「鍵はこっそりコピーしておいたからこれで良しっと。」
《知神議決をが開催されました。》
《議題No.4 『天啓システム』実装の可否の議決を開始します。》
《【常世思金神】可》
《【知恵女神】可》
《【授叡天使】可》
《【学問知神】可》
《【知略悪魔】可》
《【極智天使】可》
《【博識悪魔】可》
《【知識大神】可》
《【叡智人王】可》
「僕以外全員偽の権限使ったけどいいよね♪」
《半数以上の可を確認しました。》
《『天啓システム』を実装します。》
《ワールドアナウンス》
《半数以上の知神の可決を持って『天啓システム』が実装されました。》
《一定以上の神職保有者及び各神々の依り代に『天啓システム』の【加護能力】を付与します。》
「さあて、君がどんな世界を描くのか楽しみに見させて貰うよ。亮君♪」
神々さえも知らぬ間に一柱の神によって世界の変化は加速し始めた。
────────────────────
【TIPS】
日本国は八百万の神々を信仰する神道が主流の為、世界で最も多くの依り代が所属している。
逆に神の数が少ない宗教は天使や悪魔などの依り代がおり、その力は決して神に劣るものではない。




