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特許系エッセイシリーズ

さらばゴアテックス。軽量テントを求めるツーリングライダーは絶望の時代に。

 実は前回のエッセイ、本当は大塚家具について書きたかったのに、いつの間にかジムニーの話題になってしまっていた。


 まあジムニーについても一言言いたかったんだ。

 筆者は基本的にコスパという言葉が好きだ。


 そういう性格なので新車購入に「価格分の満足感がない」となると、どうしても一言言いたくなる。

 それが性能面では優秀な車であったなら尚更のこと。


 コストパフォーマンスというのは魔法の言葉だ。


 私はこの世の全ての工業製品において「高い耐久性」を求めるきらいがあるが、

 それはいわば「損しない」からである。

「損した気分に」ならないからである。


 所有欲を満たすのは何といっても、その製品が陳腐化したりして収納スペースの奥に仕舞い込まれていても、電源を付けたりすれば今でも動作するという「耐久性」と「品質」にある。


 稀に掃除して出てきたときに動作確認をした際に完全動作すると今でも「所有」している状態を認識するので思い出が蘇るのと同時に所有欲が満たされるのだ。


 例えば、同じ2万円でも10年保つものと3年で買い替えが必要なものがあったとしよう。


 これって後者はようは価格3倍の商品で「永久保証(条件付)」とかいうのが付いたモノが別途存在してたりした時、


 それが3年買い替え必須な製品より「耐久性も含めて全ての面で上回る超高性能」な代物だったら、間違いなくランニングコスト的には「永久保証(条件付)」が付いた製品の方が優れていると言えるよね。


 ここで筆者はどういう商品を選ぶかというと、2万円で10年保つものが超高性能なものに対してどの部分で劣っているかを探る。


 まあ何の話かってテントの話なんだが。


 ここ最近まで2日に1回程度で更新して、マンネリ化から打ち切った二輪を題材とした作品がある。

 そこでやり残したのがテント選びだ。


 それを少し語ってみたい。


 そうなんだ、また大塚家具について語れないんだ。

 ヘタするとそのまま書くことなく終わるかもしれないが、再び脱線することを許して欲しい。


「ファスト&パッキング」という言葉がある。

 山登りをする登山家や、バックパッカーを兼ねたりするキャンパーなどがよく使う言葉。


 一般論としては「極めて軽量」「設営と撤収が高速」「収納時に小さくまとまり、バッグ内の収納容積を圧迫しないツール及びギア」を使うことにより、体力の消耗を抑え、より長距離の移動を行うための装備のことをいう。


 類語に「ULウルトラライト」というものがあるが、こっちはキャンパーや登山家、バックパッカー曰く「軽量化」だけを重視し、収納性には目を瞑った状態を言う。


 まぁ簡単に言えば「とにかく軽いけど収納性に劣る」みたいな存在を言う。


 もう1つ似ている言葉として「ミニマム」というのがあるが、こちらは重量というよりも「最小限度と最低限度の装備」を意味していると思われ、国外ではこの3つが割と明確に区別されてジャンル分けされているように思う。


 ツーリングライダーにおいての野宿やキャンプにおいて重要なのもまた「ファスト&パッキング」であるのは関連雑誌などでも語られるとおり。


 ただし、ツーリングライダーにおける「ファスト&パッキング」とは「設営と撤収」だけを極限にまで重視し、重量は「ある程度許容できる」のであり、


 登山家やバックパッカー、自転車乗りが目指す「ファスト&パッキング」とはやや意味が異なる。


 筆者は基本的にこの「ファスト&パッキング」という概念はバイク自体の運用にも当てはまる言葉だと考えていて、


 駐車した状態からすぐ出発できて、逆に駐車したらすぐ元の駐車状態に戻せるみたいな車感覚で乗り回せるのが二輪と長く付き合うコツだと思っている。(特に大型は)


 旅に出るというのにいちいちバイクを出して自宅近くまで持ってきて、たとえ事前に荷造りを終えていたとしても大量の荷物を30分ぐらいかけてバイク本体にあーだこーだして仕込んでいって――というような状態を続けていると、そのうち「旅に出ること自体が億劫になる」というのが経験からくる理解であり、


 荷造りを終えた状態からなら荷物を背負って駐車場まで向かい、ささっと乗せて3分程度で出発みたいな状態の方がなんだかんだで長く付き合っていけるとは思っている。(荷造りの時間も20分未満で、常に出かけられる体制を作っておく)


 その辺は別作品の本編にも序盤で多少触れたかな。

 そこで重要となってくるのが各種ツール選びなのだが、今回はテントについて語ってみようと思う。


 前置きが長くなってしまったが今回は「ツーリングライダー」のテントについてのお話だ。


 テントといえば野宿とキャンプにおいて重要なツール。

 グランドシート+テント+マット+寝袋の4つがあれば「とりあえずキャンプツーリングは可能」というのは別作品でも語った。


 このテントについてだが、現在においては1kgを軽く切って来るような超軽量タイプが普通に存在している。


 1kg切ってくるのは基本的にソロ用となるが、今回語る話においてはこのソロ用テントの重量を基準として語ることにしよう。


 これらのテントの性能は筆者からすると「これはどうなんだろうか」と言いたくなるような代物が多い。


 価格帯にもよるが、一連の超軽量テントの多くはシングルウォールと呼ばれるテント自体がフライシートなどを用いない一層式のものばかりだ。


 ダブルウォールのものもあるが、ダブルだろうがシングルだろうが生地が薄すぎる。


 10Dナイロンとか正気の沙汰とは思えない。


 ここでいうDとはデニールを指し、一定重量に対しての糸の太さを表すのだが、10Dってちょっとした小枝が風で飛んできて当たっただけで穴が開く程度の耐久性しかない。


 どんなに表面加工や他の生地と重ね合わせたりしたところでペラッペラである。


 一昔前まで、ウルトラライトなどと呼称されたテント生地はナイロンだと30Dだった。

 それでも筆者のように耐久性が欲しい性格の人間からは「従来のテントの半分以下の糸の細さ」であり、


 耐久性を高めるための構造、例えばリップストップとか、積層構造とか、特殊表面加工とかが施されたものでないと絶対使いたくなかったし、そういったタイプのテントは非常に高額だった。


 巷でよく言われるのは、軽量化を求めて生地の薄いものであればいいのならば2万円台から軽いテントは存在するが、それらの耐久性は悲惨なのが基本で、雨量が多くなると使い物にならないような簡易防水みたいな耐水性能。


 +2万出すと防水能力は補完されるが、今度は結露に悩まされたりする。


 同価格帯で結露に悩まされないテントは低い耐久性をさらに犠牲にしてベンチレーション性能を高めているか、


 耐久性が低くなる二層構造という形でより高性能な透湿防水素材を用いているかとなっており、完璧を求めるとさらに+2万出して初めてまともな性能のテントとなる。


 ――というのが一昔前の常識であった。


 大体10年前ぐらいの話である。


 この頃の30D~40Dのナイロンを使うテントは2kg切って1kg級が基本で、コスパを犠牲に重量を半分にするというイメージがあった。


 収納時の体積は3分の1ぐらいになっていただろうか。


 価格が一定以上のものは透湿防水素材にゴアテックスを使用。


 ゴアテックスを用いたテント生地のものなら3万円ぐらいからあったと思ったけど、3万円台だとゴアテックス二層式シングルウォールだったりして結露や耐久性に悩まされ、


 5万円台となってようやく三層式の高性能な代物となってくる。


 それでも重量は既存の耐久性に富む標準型のテントの半分行くかどうかな程度しかない。

 どちらかといえば重量よりも「収納性」の高さを買われていたように思う。


 その分だけ、他の荷物を増やすことが出来るというのが利点だった。


 あれから10年近く。

 実はテント業界と一部のライダーには去年の年末に激震が走っていた。


 ゴアテックスを製造するメーカーが昨年の年末でテント用ゴアテックスの生産を終了を発表。

 以降の供給は無いということだった。


 危険な兆候は10年近く前よりあった。


 かねてより耐久性の高さで評判を呼んだゴアテックス。


 これはもう、各種検証実験サイトや動画サイトにおける検証動画を見ればわかるのだが、透湿防水素材においてもっとも耐久性が高いのはゴアテックスである。


 まあゴアテックス自体にいろいろ種類があってややこしいのだが、二層と三層構造の違いなどを説明していると話が終わらないのでそこはネットでも簡単に調べられるということで割愛するが、


 ゴアテックス自体も何度かアップデートされているので、近年においてはもう本当に「ゴアテックスより先に表面のナイロン生地の方が劣化する」と言われたりするぐらいだ。


 耐久性については20世紀の頃から今の今まで「どうして同じ耐久性のものが作れないのか?」といわれ続けており、未だにその耐久性を上回るような素材が登場していない。


 アメリカ人はジョークで「ゴアテックスはエリア51で開発され、墜落したUFOに乗ってた宇宙人の衣服を解析してリバースエンジニアリングした結果生まれた」などと、とある米国のアウトドア番組で言ってたが割と半分本気でそう信じたくなる。


 問題はここからである。


 実はこのゴアテックス、たった1つだけ大きな弱点があった。

 それは「燃えやすい」という可燃性素材であること。


 出た当初から夢の素材とか革命的と言われ、それこそ今日の「老後に登山やキャンプが楽しめる」なんて万人の夢を叶えたほど恐ろしいブレイクスルーを起こした存在だが、


 当時から「可燃性」の問題は指摘され、「初期型ゴアテックス」と呼ばれる存在はその中でも特に燃えやすかった事から、米国は「一部用途へのゴアテックスの使用禁止」を通達する。


 以降、欧州なども追随したことで初期型ゴアテックスは2000年代中盤から一部用途への利用が全面的に禁止された。


 日本などのアジア諸国などを除いて。

 というか生産自体も表向きは打ち切られたことになった。


 しかし実はこの初期型ゴアテックス、ゴアテックス製品群の中では唯一「通気性」というものを完備。

 ようは「テント」に使うことが唯一可能な素材だった。


 通気性が無いということは当然「窒息」などのリスクが生じる。


 例えテント内で何かモノを燃やさなかったとしても、呼吸だけで窒息のリスクが生じるため、テントに使えるのは「通気性」のある素材だけ。


 知ってる者なら知ってるが、現在ゴアテックス唯一の短所と言われる「ゴアテックス製品の衣服の内側に結露が発生すると簡単に乾かない」という弱点があるが、これは初期型には無かったものだ。


 つまりゴアテックスは初期型こそが「可燃性」という弱点を除けば最優だった。(耐久性は現在のものにやや劣る)


 なんで初期型ゴアテックスの製品群がやたらめったら「高額」で取引されているかは大体これが理由。


 ただし、初期型ゴアテックス製品が高性能であっても剥離のリスクがあるわけだし、表面を形成するナイロンやポリエステルなどの素材の経年劣化もあるので、その性能を永遠に性能を維持できるわけではない。


 それでも初期型に拘る人間は「可燃性なんてポリエステルとかも加工無しならクソやろ! ゴアテックスだけの問題ちゃうやん!」といって希少価値の付いたものを購入するが、


 実は初期型ゴアテックスは別の形として市場に流通していて、キャンプ衣服のオーダーメイドを手がけるような一部の仕立て屋なんかは、それに気づいて仕入れていたりした。


 そう、ゴア~とかいうテントが一時期より「X-TREK~」と名前を変えた「X-TREK」こそ、初期型ゴアテックスそのものだったのだ。


 ようはガンダムで言えば「ヅダ」である。

 冗談抜きでヅダそのものである。


 wikipediaでは「難燃性のあるものに変更した」というが、ゴアテックス自体はなんら仕様変更などされていない。


 初期型のままだ。

 ヅダのエンジンが爆発するように、「X-TREK」と呼ばれる透湿防水素材も可燃性のものだ。


 この裏はこうだ。


 かつてゴアテックスにはゴアテックスとゴアテックスXCRというものが存在していた頃があった。

 いつの間にか消えてしまったが、登場時にXCRはより高性能な次世代ゴアテックスであると宣伝された。


 だが、実際にはこのどちらも「同一のゴアテックス素材メンブレン」を用いた存在だった。

 にも関わらず、あたかも両者は「全く別のものである」かのように宣伝されていた。


 その裏側を見ると、ゴアテックスXCRは表面加工されたナイロン生地などの表地との三層構造にしたものが特に高性能な対水性能を誇ることから「XCR」というブランドを名乗ることが許されていたということ。


 ゴアテックスはやたら豊富にバリエーションがあるように思えるが、実際にはメンブレンと呼称されるゴアテックス本体は2種類程度しかないことは日本法人が実は普通に認めていたりする。



 だが日本法人の者達の言葉を借りるなら「ゴアテックスは単体では使わないですし、これらのバリエーションはゴアテックスに合わせて、その性能をさらに強化できうるようゴアテックスのためだけに専用の表地や裏地を新たに共同開発したりしてブランドとして作ったので――」ということで、


 表地や挟み込むための裏地ありきのゴアテックスだからこそ、表地・裏地と併せてバリエーションが豊富であると見せるのは特に間違ったことではないという主張をしている。


 まぁここは受け取り側の問題だろうけど、表地に使われる素材だってあれやこれや試行錯誤されてシルナイロンだのなんだの開発されていったわけだから、


 ゴアテックス+専用表地&裏地という形で、総合的な性能でもってより高性能な耐水性をもつものにあたかも別の素材を使ったように見せかけることに筆者は特に不満は無い。


 ただし、いつの間にか消えたXCR。てめーはダメだ。

 次世代でもなんでもなかったのに次世代とか言い張ったからな。


 まあ当時インターネットも何もなかった時代だが、あの頃から冒険家や冒険者とされる人間たちにとってはゴアテックスの性能差は本気で生死を左右するので非常に重要で、アウトドア系雑誌でも実験を重ねて性能を確認、証明する者達が多くいたことから、すぐにその嘘がバレて消えたのだろう。


 現在はモンベルなどの製品の説明書を見てもわかるとおり、「こちらは表地と裏地が違うだけです」と表記されるようになった。


 米国じゃ訴訟モンだよね。実は次世代でもなんでもなかったんだから。


 そういえば昔パソコンでも8800GTを9800GTとか名前だけ変更して「次世代!」とか言い張ったグラフィックボードがあったような気がしたな。


 それはどうでもいいか。

 でも、これでわかっただろう。


 ようは「難燃性」というのは第一世代ゴアテックスと挟み込んだ「ナイロン」または「ポリエステル」などの表面生地などでどうにかしようとしたのが「X-TREK」の正体だ。


 完全にヅダそのものである。

 ヅダよりは多少マシかもしれないが、可燃性素材を難燃性素材でサンドイッチしたのが「X-TREK」ということだ。


 実際には何度も問題視され、訴訟にも発展した「初期型ゴアテックス」は表向き生産を終了していたが、「X-TREK」という形で生き残り、「燃えにくい生地」で挟み込むことで何とか生きながらえたのである。


 それも「X-TREK」は日本限定の流通とされた。


 それが2009年からのこと。

 この2009年までの時点で世界各国ではゴアテックス製のテントが静かに消滅していった。


 ゴアテックスの耐久性の高さと透湿防止性能を求める層は「真のジャパンクオリティ」たる「X-TREK」で作られたテントを購入するしかなかった。


 この手のゴアテックステントの基本は30D~40Dぐらいのナイロンを表地としていたが、実はゴアテックス自体が生地全体の耐久性を高める効果があり、三層構造にするとなぜか50D、60DクラスのPU加工されただけのナイロン製のテントと比較しても遜色ない耐久力があった。(ゴアテックスを使うと生地が伸びなくなる特性を得るためと言われる)


 一方でゴアテックスを販売するメーカーが現在においてもジレンマとして感じているのは重量で、性能に対してこれ以上の軽量化がゴアテックスは行えなかった。


 ゴアテックステントが日本などを除いた世界各国から消滅していく以前から、すでに軽量化のために「脱ゴアテックス」へとシフトしていたメーカーは少なからずあり、それらのテントは耐久性を犠牲にしながらより軽いものであるということを武器に躍進。


 ライバルがいなくなった後は更なる軽量化が見込める透湿防水素材を用いた上で、前述するように平然と10Dナイロンとかいうような存在を使ったテントが販売されているわけだが、


 これらの重量は1kg切ってきているし、モノによっては500g台が見えてくる。(500gクラスはもはやテントというかシェルターのような感じではあるが)


 でもこいつらの耐久性、正直話にならない。


 ちょっとした小枝が風で飛んできただけで平然とそれが普通に刺さるような耐久性しかないような10D以下のナイロンを採用したテントなんて絶対使いたくないし、6万円も出してゴアテックス以外の透湿防水素材は使いたくないというのが筆者の本音。


 筆者も、「ファスト&パッキング」によって軽量化を目指してたある知り合いがファミリー層の多いキャンプ場でテントを展開していたら、付近で子供が鬼ごっこをしていてずっこけて盛大にテントにダイブしてきて破れたという話を破れた実物を見せながら聞かされたことがあるが、


 そのテントがフレームで全体を支える自立型ではなくロープで形状を保つ半自立型で、ペグダウンして全体的にテンションをかけていたとはいえ、子供の重量すら支えられないような代物なんていざという時を考えたら怖い。


 強風で何か飛んできても衝撃を支えられないということである。

 それが10Dナイロンのテントというものだ。


 それでも尚、テントを製造するメーカーは軽量テントにおいては10D以下のナイロンに拘った。


 元々、三層構造ゴアテックスは10Dナイロンを使おうがほぼ確実に1kgオーバーとなってしまうことから、同じ面積の生地で他の軽量透湿防水素材を使えば重量は半分に抑えられるぐらい重いとは言われていた。


 だからゴアテックスを用いる場合は30D以下に生地を薄くする利点は耐久性が落ちるだけで殆どなく、耐久性と重量の均衡がとれた状態が30D~40D前後のナイロン生地だったのである。


 一方で30D程度のナイロン系生地を用いたテントは他の透湿防水素材を使った際の耐久性は総合的に見てもそこまで秀でたものではなく中途半端。(ダブルウォールにすればある程度改善可能だが重量的なアドバンテージが薄くなる)


 だから軽量テントはゴアテックスが使えなくなるなら、さらに軽量化する方向性へシフトするという予想はされていて、


 アウトドア雑誌でも「ゴアテックスに匹敵する完全な代替品となるものが出ない限り、より軽量なテントが増えて既存の軽量テントは駆逐されるのでは?」と盛んに主張されていた。


 実際問題、ゴアテックス系軽量テントは永久保証などがあったりするように、耐久性にはメーカーが胸を張って保証するぐらい高いものがあったのである。


 それを使い続けていた消費者が耐久性も重量的にもアドバンテージがないものを買う理由は薄く、


 となると「これと同じかそれ以上耐久性のもので重量増加することに目を瞑るか」「性能低下に目を瞑るか」「耐久性に目を瞑ってさらに軽くて収納性バツグンのものを選ぶか」の三者に分かれるのはメーカー自身、わかっていたことだった。


 だが10Dテントだったり、ゴアテックスを使わないテントを見ると「永久保証」なんて言葉は見つからない。


 そりゃあ、何年保つのかとか保たないのかとかそういう次元ではなく、開封して初めて袋から取り出した時すら慎重にやらないと何かの拍子に穴が開くような代物だ。(そこから生地が裂けて使い物にならなくなるというほど脆弱な構造ではないが……)


 そんなものに保証など付けることなんて出来ないのはメーカーもわかっている。


 だから軽量系は割り切って、それこそ過酷な冬山などへと向かう際に「少しでも他に持っていけるものを増やす」または「少しでも全体重量を軽くして、万が一のリスクを低くする」ことを目的に「定期的に買い換えて使う」ものへと、いろいろ割り切った形で進化していったのだった。


 というか、10Dナイロンって元々「ツェルト」などの一般的には「テントではない」と言われたシェルター系で採用されていた生地だったはず。


 なぜそれが「テント」を名乗れるようになっているのか理解できない。


 でも「ツェルト」よりかは耐久力を増加させる積層構造となっていて、ツェルトよりも保温性能などがあることから「テント」であるらしい。


 実際は緊急時を想定したツェルトと同程度の耐久性しかないのだが。


 これら一連の製品群が「ファスト&パッキング」とか「ULテント」という形で台頭してくると、予想通り、2018年現在は次第に30D級軽量テントがカタログ落ちという形で消えてきている。国外メーカーを中心とした話である。(国内でもダンロップなどが製品バリエーションを削った)


 ゴアテックスを用いない場合の性能が中途半端で、重量的にも耐久性的にも中途半端で売り上げが明確に落ちてきたのが理由の1つであるらしい。


 でも、従来は国外がそういう形で30D級テントの販売を終了しても「日本には日本の優れた職人が作るX-TREKがある」と言い張れた。


 そして過酷な山にX-TREKを使ったテントを持ち込んで「難燃性よりも耐久性」と言い張る外国人登山家も多くいた。


 2009年、X-TREKが登場すると同時にゴアテックスを製造するメーカーが「数年だけの特別措置だけどな!」などと言っていても、「きっとハイパロンみたいに東レあたりがOEMとかでどうにかしてくれる!」と思っていた。


 ……残念ながらそれは完全に筆者の希望的観測でしかなかった。


 初期型ゴアテックスと同様、今では日本国内でしか生産されない「かつてハイパロンと呼ばれた」素材がある。


 その昔、登山とキャンプ系の用品においてはゴアテックスが登場するまで不動の地位を築いていた合成ゴムによる防水素材だ。


 圧倒的耐久性から軍用ゴムボートなどにも採用された素材だが、燃やすと生半可な焼却場では大量のダイオキシンを発生させるという事から現在は発明したデュポン社を中心に生産していない。


 唯一、高性能な焼却場を持っていて短所が短所とならない日本が特許切れなどを利用して生産を続け、その品質が本家と遜色がないということから、一連の素材を日本から輸入して軍用製品などに活用しているという状態だ。


 国によっては処分が簡単ではないので、費用を自己負担する代わりに焼却可能な国に焼却処分を依頼することもあるハイパロン。


 その耐久性は抜群で、「革命」と言われたゴアテックスが登場しても、その当時は手が届かないほど高額であったことで市場においてはしばらくの間「ゴアテックスかハイパロンか」なんて日夜騒がれたものの、徐々にゴアテックスの価格は下がり、最終的にハイパロンは透湿性がないなど前述する理由から駆逐されて現在に至る。


 そもそも「透湿性能0」の合成ゴムであるハイパロンは基本的に勝ち目などなく、現在でも耐久性と防水性能から筆者のような一部「ハイパロン好き」が愛用する以外は、壮年や熟年の登山家やキャンパーが「壊れない」ので使い続けている例を除けば使用者は皆無で、めったなことでは出会うことはない。


 ハイパロンの場合は「そこまで難しい技術ではなかった」のと「特許技術などが公開されていた」のと「デュポン社の姿勢によってOEM生産などが積極的に行われた」ことからどうにかなったが、ゴアテックスは完全な企業秘密として守られており、製造過程も品質管理も全く不明である。


 それでいて名だたる化繊メーカーがゴアテックスを目指して製品を作ろうとしても全くもってその領域にまで製品性能が届かない。


 初期型ゴアテックスは若干耐久性が劣るとされるものの、その初期型ゴアテックスすら他と比較すれば凄まじい耐久性を誇り、他にそこに匹敵する素材が無く弱点は「可燃性である」ということのみ。


 おそらくこの初期型の作り方さえわかれば現在の改良型にまで至るのは技術者的には難しくないのであろうことから、彼らは「生産終了」という形でもってその製造技術を封印してしまった。


 おかげで去年の年末から今年の夏ごろまで、しきりに生産終了と相次いで宣言され、X-TREK系テントは通販での価格が上昇し、数少ない在庫は奪い合いとなったのだった。


 30D級ナイロンを用いた別の透湿防水素材を採用するテントはモンベルやアライテントを含めた各社が以前から商品展開しているので生産を続けるものの、ゴアテックスならびにX-TREKを採用した高性能軽量テントは2018年10月現在、ほぼ全てのメーカーで在庫切れまたは生産終了となり、入手困難となっている。


 これによって、日本は9年ほど送れてそれまでキャンプ系の世界で成立していた常識が破綻したのだった。


 それは「金をかければ耐久性も高くて居住性も優れた、そこそこ軽量のテントが手に入るよ!」というもの。


 もう一言加えるなら「シングルウォールテントでも凄いのはあるよ!」というのが破綻したかな。


 例えばツーリングライダーの中ではアライテントで言えばX-ライズがある種「到達点」と言われた時代があった。


 軽量、設営が早い、耐久性が高い、収納性も高い。

 よくツーリングライダーの中には「トレックライズが最強」なんていうけど、トレックライズはダブルウォール。


 X-ライズはシングルウォールでいてトレックライズと同等以上の性能を誇っていた。


 ダブルウォールよりも素早く設営できるシングルウォールでありながら、軽量なダブルウォールテントであるトレックライズと並ぶというのは凄まじいことであり、


 ゴアテックスであったからこそ可能だった。


 ただ、重量面で見るとゴアテックスの欠点の1つである「重量増大」によってダブルウォールのトレックライズに対して全く重量的優位性というものがない。


 でも「フライシートがいらない」というのは「設営・撤収の簡便さ」と「収納性」の面では上回る。


 トレックライズ+6000円~8000円でこれなのだから、「到達点」と言われるだけの性能があったわけだ。

 ちなみにX-ライズの方が耐久性も防水性能も高い。


 とはいえ選択肢がないので、今後軽量なツーリングライダー向けテントを買いたいとなったらトレックライズが1つの答えになるのだろう。


 そしてこれからはこれまで以上に「ダブルウォール」が基本となり、「シングルだっていいものがあるんだ!」なんて言われることはなくなるだろう。


 シングルウォールは性能を妥協した産物へと退化するのだ。

 

 筆者は「高いけどゴアテックス+シングルウォールはキャンプツーリングや野宿の理想系の1つではある」と主張していたし、軽量テントの中ではゴアテックス系だけは唯一認めていたが、それは去年の年末で終わったのだった。


 ちなみに別の二輪を題材とした作品では定番系という形でムーンライトついて一通り説明したが、実際の筆者はムーンライトはもう使っていない。


 重量3kg未満。

 フライシートはポリエステルでUVカット能力があり、紫外線に弱いナイロンのインナーテントを保護する理想的な構造。


 適材適所の素材配置をしながら、各種構成部品は極めて頑強で長寿命で補修部品も豊富で修理対応もしている。


 特に紫外線は完全無加工で1日天日干ししておくと70D相当で2%ずつ耐久性が低下していくというが、紫外線劣化は虫歯のごとく徐々に内部に浸透していくために糸がより太ければ太いほど耐久性は維持しやすいといわれる中、


 今では数少ない70Dの素材をテント生地に用いている日本メーカーのテントはタフライズの生産がゴアテックス系テントと並んで終了してしまった今、1つの「理想系」であるとは言える。


 ちなみにここでいう耐久性の低下とは引っ張り強度のことだが、加工されたナイロンについての耐久性は未知数であり、ある程度高級なテントメーカーは逆に表面加工されたナイロンに拘ってたりする。


 他の山岳系テントとかの30D~40D系の軽量テントも最近では耐久性があがってきたと言われてはいる。


 でもね、それってみんなダブルウォールなわけ。

 一度でもゴアテックス系シングルウォールテントを使うと設営と撤収が楽すぎて戻れないのだ。


 ゴアテックス系のシングルウォールテントは冗談抜きでキャンプツーリング、それも野宿もするようなライダーにとっては究極系の1つだったからね。


 筆者なんかは貧弱なフレームで強風に弱いDODのワンタッチテントよりも早く設営できる自信があったほどだ。


 一応言っておくが、DODのテントのコスパは最悪。

 特にフレームの弱さは口コミでも何度も書かれている通りで、2万円出して買う価値は無いと言っておく。


 しかし設営の楽さであればシングルウォール系に並ぶから、あれに惹かれてしまう者がいるのも理解できる。


 一時期DODの呪いにかかりそうになった自分も気にかけてたけど、実物見てどうにか正気に戻ることが出来た。


 そして売り切れる前に3倍の額で予備のゴアテックス系テントを買った。


 それでもそれが壊れたら終わりである。

 他に選択肢はないのかというと無くは無いが……


 実はゴアテックスを使った宿泊用アイテムが1つある。

 ビビィサックである。


 まぁ日本においては「それシュラフカバーでよくない?」ともっぱら言われる存在で、正直ムーンライト1型より狭い「死体袋」などと揶揄される存在だが、なぜかこいつに対してゴアテックスを使うことは禁止されていない。


 しかもこのゴアテックスはX-TREKではないので通気性はないのだが、通気性については「ベンチレーションでどうにかしてるから!」といって割とがんばっているらしい。


 どうやら国外の情報を見る限り、今までは「は?お前は寝袋に寝そべりながら調理すんのか? 火気を近づけるのか?」なんて言ってゴリ押ししてゴアテックスを採用していたが、これも今後は規制されていく方針らしいのでゴアテックスを施した宿泊用ツールの最後の砦はシュラフカバーとも言えるような、繊維で出来たカンオケとも言えるようなものであるようなのだが、


 まー動画サイトの使用者の構図を見ても「これならモンベルあたりのゴアテックス製シュラフカバー+タープでよくない?」とは思った。


 というか、上記ビビィサックへの使用も規制されるのだとしたら次はゴアテックス系シュラフカバーも危ないのでは?


 どちらにせよツーリングライダーにとってゴアテックステントを失ったのは大きな損失だ。

 これから軽量テントを探すという方々は、かつてものすごいテントがあってそれを知ると絶望したくなる状況をどうか知ってもらいたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] e-ventを信じるのじゃ・・・いつの日かe-ventはGore-Texを超える え、値段?
[良い点] ゴアテックスの歴史、勉強になりました。そんなことになってたとは。 [一言] 自分は四輪移動前提なので、クッソ分厚い青黄フライの古いSierraDesignsテントを未だに使ってます。米国製…
[一言] 「ズダ」じゃねぇ、「ヅダ」だ。 申し訳ないけど指摘させてください。
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