僕はいつまでも、あなたと共に
初めて投稿した作品です。アドバイスや感想など、よろしくお願いします!
「やあ、こんにちは。おチビさん」
僕の前に現れたその人は言った。
白髪混じりで、シワシワの顔をしたその人は、震えている僕を見て微笑んだ。
「柴犬か。かっこいい顔をしているなぁ」
白髪のその人は、誰かと話をしているらしい。他にも2人のニンゲンがいた。どちらも同じ青っぽい服に、青い帽子。僕をここに連れてきた張本人たちだ。
「わかりました。ここで保護しましょう」
「ありがとうございます」
しばらくして、2人のニンゲンは帰っていった。残ったのは、僕とあの白髪の人。白髪の人は、僕に手を伸ばした。すかさず、僕はうなり声を上げて、その手を避ける。
また、やられる。痛いのは嫌だ。
あのときの光景が、頭の中でぐるぐる回る。
薄暗い部屋。大きな手が、すぐ上にある。僕は吠える。嫌だ!やめて!でも、その訴えが、ご主人様に届くことはない。そうして、僕はまた叩かれる。どうして叩かれるのか、わからない。
ある日、僕はまったく知らないところに置き去りにされた。
僕は、牙をむき出しにしてうなった。白髪の人は、スッと手を戻し、僕を見つめた。悲しそうな目で。
「君は悪くないよ。ごめんな」
その人がなんて言ったかわからない。
すぐにどこかへ行ってほしくて、何度もうなり声を上げる。白髪の人は立ち上がって、部屋から出ていった。
それから、何ヶ月も経った。
僕は嬉しくて、ついリードを引っ張ってしまう。
「ははっ、待てよ。そんなに引っ張るなって」
今では、あの白髪の人を心から信頼している。他のニンゲンも怖い人ばかりではないとわかった。この人は僕のことを考えてくれる。優しくしてくれる。
大好き。
そう、僕はこの人が好き。前のご主人様より、すごく好き。ずっと一緒にいたい。
僕のいる施設には、たくさんの犬がいた。みんな、僕と同じように捨てられた犬だった。僕と一緒に遊んでくれたり、犬の社会のルールがあることも教えてくれた。みんな優しかった。すぐに、みんなのことが大好きになった。
僕と白髪の人は、みんなと一緒に、何度もお散歩をした。大好きな人たちとするお散歩は最高だった。前のご主人様は、なかなか外に出させてくれなかったから、お散歩なんて数回しか行ったことがない。嬉しかった。幸せだった。大好きな人たちと過ごす毎日は、僕の心の傷も癒してくれた。
いつものようにお散歩コースを歩く。でも、途中、いつものコースを外れて公園に来た。
みんながいないのはどうしてなんだろう。
今日は僕と白髪の人だけ。ちょっぴり寂しいけど、今日は僕が、この人を独り占めにできる。
その公園には、3人のニンゲンがいた。髪の短い人と、長い人。その横で、小さいニンゲンが僕をジッと見つめていた。
僕は思わず尻尾を振る。この人たちを知っていたから。よく施設にやって来る。僕を見て、何か話していたっけ。その近くにはいつも白髪の人がいて、一緒に話をしていた。
なんだろう。
白髪の人の顔を見つめる。目が合って、にこりと笑ってくれる。
「大丈夫だよ」
ダイジョウブ。僕は安心する。いつも、僕が怖がっていたり、不安になっていたりしたとき、この言葉を言う。ダイジョウブ。そう言って、僕を抱き寄せてくれるから、すごく安心したんだ。
ダイジョウブなんだ。なんでもないんだ。
そう、思っていたのに。
白髪の人は、髪の短い人と何か話して、僕の首に繋がっているリードを渡した。
「よろしく、お願いします」
「家族の一員として、大切に育てます」
僕は途端に不安になる。なんだか、もう会えなくなる気がした。
あのときみたいに、また僕を置いていくの?
僕のこと、嫌いになったの?
一緒にいたいと思ってたのは僕だけ?
「大丈夫だ。大丈夫。今度こそ、本当の家族と、幸せになれるんだよ。じゃあ、またな。幸せになるんだぞ」
そう言って、僕を抱き寄せた。
そのとき、気づいた。
ああ、そうか。
仕方ないんだ。
この人もずっと僕と一緒にいたいと思ってる。
だって、顔を見ればわかるよ。
僕を見てる。その目には、たくさんの色が見える。嬉しい。寂しい。その中で、ひときわ輝く色がある。うまく言葉では表せないけど、きっとそれは、願い。
短い間だったけどさ。
僕、わかるんだよ。
あなたの考えてること。
わかっちゃうんだよ。
僕は、僕が入れるくらいのケージに入れられて、車に乗り込んだ。あの3人のニンゲンの車。車に乗るのは初めてじゃない。でも、やっぱり不安。
ケージごと乗せられた座席からは、外の様子が見えない。あの人の顔が見たい。あの顔で、にこりと笑ってほしい。ダイジョウブって言ってほしい。なのに、なのに、見えない。
車が発進する。僕は吠える。
待って!
僕もあなたと一緒にいたいんだよ!
一緒にいちゃ駄目なの!?
ねえ!お願い!
僕もあなたと帰りたいんだ!
僕は必死に訴える。でも、前と同じ。伝わらない。僕の隣の座席に座っている、あの小さいニンゲンが僕に言った。
「よしよし、だいじょうぶだよー」
車が見えなくなってから、白髪の人が、流れる涙を隠すように泣いているのを、僕は知らなかった。
こんにちは。お久しぶりです。今日も天気がいいですね。僕は今、新しい家族と遊んでいます。
あなたと別れてから、随分経ちました。新しい家族はとても優しいです。怒ったりもするけど、それは僕が悪いことをしたから怒るだけで、叩かれることはありません。
僕は新しい家族が大好きです。もちろん、今でもあなたのことも大好きですよ。
僕は、とても幸せです。あなたのおかげです。
あなたの、僕への願い。
それは、もう一度、ニンゲンを信じてほしいこと。
人間の中には、ひどい人も、悪い人もいる。だけど、大丈夫。きっと、いつかきっと、君を守ってくれる人が現れるから。だからもう一度、人間を、信じてみてくれないか。
あのとき、あなたの願いに気づいた僕は、あなたと、これからなる新しい家族を信じてみることにしました。
あなたが僕を手放したのは、僕のためなんでしょう?あなたは、捨てられて、心に傷を負った僕たちを、幸せにしたい。だから、僕を手放した。わかっていました。でも、あなたと離れるのはつらくて。
僕が怖がっていたり、不安になっていたりしたとき、新しい家族は、ダイジョウブって言ってくれます。僕は今、とても幸せです。あなたは元気にしていますか。どうか、体には気をつけてください。
今までありがとう。
どうか、安らかにお眠りください。