15.同一犯かそれとも……
「今の話、本当ですか?」
カンナギにはロンドンやガラントといったカイと共にお世話になった人もいる。キサラギにだって警備団のローラントなどもいた。
今来た2人の話が本当なら、彼らが事件に巻き込まれたりしていないことを願うしかない。
「サクバ様、来ていらしたのですか。はい、姉の話によればそれなりの事件になっているようです」
「キサラギも同様、いえ、キサラギの場合マヒユ教の巣窟とも言われているだけあって、死亡者数もかなり多いようです」
そして、どちらの街でも起きたマヒユ教徒殺害事件は、今回アランカで起きた事件同様、鋭い刃物で斬殺された死体ばかりで殺人事件として捜査が進められているらしいが、未だにこれといった進展はないらしい。
「どちらにせよ、その2つと今回の事件は何かしら関係はありそうですね」
ハルが言うと、クワシンも大きく頷く。
こう言ってしまってはなんだが、これでハルやシュナの容疑はほぼ晴れたと言っていいだろう。どう考えてもここ2、3週間でカンナギ、キサラギ、アランカの教会にいた教徒達を皆殺しにするなんてのはハル達には不可能だ。毎日のように学校で授業をしていたのだから当たり前だ。そもそも、キサラギからアランカまででも馬車で3週間はかかる。カンナギからアランカを往復するとなると2ヶ月弱はかかることになるだろう。
しかし、そうなってくると未だこの街にその大量殺人鬼が潜んでいるということになる。
今のところその犯人の目的はマヒユ教徒の殺害にあるようだが、いつまでもそうだとは限らない。事件に巻き込まれて一般人が怪我をしない保証もない。
それに、マヒユ教とは獣人を積極的に差別する人類至上主義を謳っている。つまり、マヒユ教徒が連続で殺害されるとなると、まず一番初めに疑われるのはどうしても獣人ということになってしまう。
決して、犯人が獣人ではないということではなく、関係のない獣人まで獣人という理由だけで疑われてしまうということだ。
「あと……もう1つ気になることが……」
警備団の団員が小さく手を挙げて、発言の許可を求める。
「何だ?」
「これは今回の事件に関係あるかわかりませんが、事件が起こる数日前に街の近くでドラゴンの姿が目撃されています」
「ドラゴン……? それが本当なら確かに一大事だが、今回の事件に関係あるのか?」
クワシンの言う通り本来ならドラゴンの目撃は今回の事件にはあまり関係ないようにも感じる。しかし、ハル、シュナ、そしてギルドマスターのシルシは3人ともクワシンとは違う反応を見せた。
「……シュナ」
「ああ、無関係とは言いにくいな」
「ん? 何か心当たりでもあるのか?」
2人の様子にクワシンが不思議そうに首を傾げる。
1週間前、ちょうどあの火事があった日の午前に、ハルとシュナはもう1人魔法使いのウィーネと共にシルシに頼まれたギルドからのクエストをこなすために街の外に立ち並ぶ連峰へと入った。
クエスト内容は、モンスターの異常行動の調査というものだったのだが、そのモンスター達の異常行動の原因がドラゴンの出現によるものだったと結論付けられた。
「つまり、その目撃されたドラゴンと森にいたドラゴンが同一のドラゴンだと?」
「まあ私達はその街で目撃されたドラゴンを見ていないので何とも言えませんけど……でもドラゴンっていうのはかなりレアなモンスターだっていうのは私でも知っています。そんなドラゴンが何匹も近くにいるとは思えないですし、思いたくないんですけどね」
「ただ、そのドラゴンが仮に同一のドラゴンだったとして、今回の事件とどんな関係があると言うんだい?」
「……さあ?」
「いや、さあって……」
そんなことを言われても、これ以上のことは分かるはずもない。そもそもクワシンの言う通り、あのドラゴンと今回の事件が関係していると考えるには少し無茶な気がしないでもない。
今回の死者は皆鋭い刃物で斬殺されており、まさかドラゴンに殺されたなんてことは万が一にもありえない。
キサラギとアランカでマヒユ教徒殺害事件が起きた時に、たまたま近くにドラゴンがいただけという説明のほうが全然納得ができる。
「そのドラゴンはまだ森にいるのかい?」
「既に死んでますけどね。でも死体ならまだ残ってるんじゃないですか?」
「では、そのドラゴンの死体を見に行くとしようか」
「え、何でですか?」
「正直、今現在犯人を見つける手がかり的なものが何もない。分かっていることはマヒユ教に恨みを持ち、鋭い刃物を有しているといったくらいだ。僅かでも手がかりになるかもしれないのなら、見ておいて損はないだろう」
確かに理にかなってはいるが、冒険者ではないクワシンが街の外へ出て大丈夫なのだろうか。
「ということで、ハル君とシュナ君には一緒に来てもらうよ」
「「え、何で?」」
「私1人で街を出たら、すぐにモンスターにやられてしまうではないか。ついてきて護衛してくれ」
「「いやでも、今色々と忙しいし……」」
「息ピッタリだな! どれだけ行きたくないんだ!」
「「だって、1回見てるし」」
「息ピッタリ! すごいピッタリ!! もういいから、じゃあハル君の罰はこれでいいから」
「喜んで引き受けましょう」
「それでいいんですか!? クワシンさん!」
団員の青年が何かツッコんでいるが、上司の決定には背けまい。これでハルの刑は決まった。実に適当な法律である。こんな適当な法律しかないからこそ、そんな過激すぎるマヒユ教が我が物顔で跋扈しているのだろう。
× × ×
ハルとシュナ、そしてクワシンの3人は警備団の詰所を出て、ドラゴンの死体がある山へと向かうこととなった。その最中、途中まで一緒に来ていたシルシに「事件後に街を出た人がいないなら、逆に事件の日に街に入った人を探せばいいのでは?」と言われ、門番をしていた警備団の団員に話を聞くことになった。
確かに、カンナギ、キサラギ、アランカの街で起きた事件が全て同一犯の仕業だとしたら、事件が起きた日にち的にも移動にかかる日数から考えると犯人は事件が起こった日、どれだけ早くてもその2、3日前くらいにこの街に来ていることになる。
しかし、門番の団員の話によると、ここ3日間で街に入った人の中でまだ街から出てっていない人はいないという。上からの命令で今日は誰も街の外に出していないとのことなので、昨日の犯行が起こるまでに、街に入ってきていた人は皆出て行ったということになる。
「また謎が増えた……」とクワシンが頭を抱える。
こうなってくると、3つの街で起きた事件は別の人物の犯行と言った方がしっくりくる。
ただ、クワシンが気付いていない可能性にハルは気が付いていた。
「クワシンさん、別に門を通らなくても街から出る方法はありますよね? 逆に入る方法も」
「……? どうやって?」
「転移魔法ですよ。転移魔法を使えば登録してある場所なら一瞬で移動できちゃいますし、現にこの間ライン王子が転移魔法を使ってうちに来ましたし」
「ライン王子!? ライン王子ってあのライン王子!? え、もちろん護衛付きでしょ!?」
「ううん、1人」
「何故すぐに我々に知らせない! この街でライン王子に何かあったら我々警備団が何を言われるか……」
実際にその状況を想像したのか、さーっと顔を青くするクワシン。
そんなクワシンをよそにシュナが顎に手をやりながら思案顔をする。
「なるほどな。そうなるともうこの街には犯人はいないという可能性が出てくるな。ん? いや待てよ。だが転移魔法では街から出ることはできても、入ることはできなくないか?」
「え? 何で?」
「さっきハルが自分で言っていたではないか。転移魔法は登録している場所にしか転移できないって」
「登録してあったんじゃない?」
「しかし、登録は一度来たことのある場所しかできないぞ?」
「じゃあ来たことがあるんでしょ」
「…………お前、まさか見当がついているのか?」
「何!? 本当かハル君!」
「いや、断言はできないよ。ただ、そういうことができる人もいるんじゃない? っていう1つの可能性を提示しただけ」
「だが、そもそも転移魔法というのはかなりの高位魔法と聞いたことがあるんだが……誰にでもできるようなものなのか?」
「誰にもは無理なんじゃないですかね。実力者のウィーネさんでも使えないらしいですし」
「そうなると、もし本当に転移魔法を使って移動しているのなら、犯人はかなりの実力者ということか?」
「そもそも、次の日まで誰にも気付かれずに大量殺人ができてる時点で、実力者なのは間違いないよ」
ハルは今まで会ってきた転移魔法が使える者を頭の中に浮かべていく。
とはいえ、ハルが知る中では転移魔法が使えるのはたったの3人だけなのだが。
「うーん……まあいい。とりあえずはドラゴンを見に行くとしよう」
とはいえ、先程ハルが言った通り、転移魔法はあくまでも可能性の1つであり、転移魔法が使える者が犯人であると決まったわけではない。予想するのは勝手だが、決めつけてしまうと固定観念に囚われ、視野を狭くしてしまうのも確か。
今は目の前にある情報に集中すべきだと自分に言い聞かせ、3人は街の外へと出た。




