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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第4章 彼女の師
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10.次なる事件


「冒険者を育成する機関のう……その若さで大したもんじゃ。それでシュナはそのガッコウの教官役をしておると」


「……私だけではないがな。この2人も先生だ」


 一通りからかわれ終わったシュナが、若干不機嫌そうにそっぽを向きながら答える。


「だがそうか……人間の子供も獣人の子供もそこに通っておるのだな」


「そうですね。といってもまだ15人だけですが。それでもこの先どんどん増えていけば良いと思ってますよ」


「ふむ……だが、それができるのもアランカが冒険者の多く住む街だからじゃないかの? たとえばキサラギなら? あそこはアインツベルク王国の中でも王都の次に大きい街だったはずじゃが、その分人口も多く、獣人を毛嫌いする人間も多いと聞く」


 残念ながらそこに関してはグリフトの言う通りだった。

 この学校という機関を作ることができたのも、アランカが獣人に寛容な冒険者が多く住む街だからである。それにキサラギの街も獣人コレクターのファネルがいなくはなったものの、それであの街の人間の獣人嫌いが直るわけではない。お得意様のファネルがいなくとも、あの闇オークションだって続いていないとは限らない。いや、獣人が売られているかは別としてオークション自体はまだきっと続いている。


 そんなキサラギの街で王立と銘打って同じように学校を開いたとしても、生徒になろうと来るのは人間の子供だけだろう。そんなことは分かっている。


「そんないっぺんには変えられませんよ。1歩ずつ、確実にです。少なくともうちの学校では人間の生徒も獣人の生徒も仲良くしています。これは紛れもない事実ですから」


「……そうじゃの。それは良いことじゃ」


 グリフトはどこか悲しげに頷く。

 ただそれも一瞬のことで、グリフトはゆっくりと立ち上がると大きなリュックに鍋などを詰め始めた。


「さて、儂はもう少しこの山を散策することにしようかの。話を聞くところによると、この山の洞窟には珍しい鉱石や魔石なんかもあるらしいしの」


 そう言ってグリフトは大きなリュックを背負い、ハル達に向き直る。


「ハル、といったかの。お主の心意気は大したものじゃ。その気持ちを忘れずに、これからも励みなさい」


「は、はい」


「ウィーネ。お主はかなりの実力者と見た。未来ある子供達を立派な冒険者にしてやって欲しい」


「任せてください」


 ハルとウィーネに一言ずつ添えたグリフトはシュナの目の前まで近寄ると、一度だけシュナの髪をくしゃりと撫でた。


「……シュナ。良い仲間を持ったの」


「そうだな。最高の仲間だと、胸を張って言える。あと、髪型が崩れるから触るな」


「おおう……最後の最後までお前という奴は……」


 頭に乗せられた手を雑に払うシュナだが、彼女の表情からそれが照れ隠しだということはハルもウィーネも理解できた。


「それじゃあの。またいつか、どこかで会える日を楽しみにしておる」


「ああ。お前がポックリ逝かなければどこかで会えるだろう」


「一言余計じゃ馬鹿者」


 最後の最後まで軽口を叩きながら、グリフトとはここで別れた。

 洞窟に向かうと言っていたが、その後はアランカにでも寄らない限りはシュナから会うということもないだろう。だが、シュナ達がアランカに住んでいることは知らせたので、彼からは会おうと思えばいつでも会える。

 次会うときは、師匠を越す弟子の姿でも見てもらうことにしよう。

 シュナは30メートル級のドラゴンの死体を見ながら、そう心に誓った。





        ×  ×  ×





「結局、キラースコーピオンやスケルトンソードはあのドラゴンが急にやって来たのが原因って感じですかね?」


 ウィーネの言葉に忘れかけていたクエストのことを思い出す。


「だろうね。ただ1つ気になるのはどっから来たかは知らないけど、時期的に結構前からあそこにいたってことになるよね?」


 そう、このクエストを最初に受けたのは田舎から出てきたアマネ達だった。つまり、ギルドからクエストが出た時には既にモンスター達が麓近くまで逃げていたことになる。となると、逆算しても今朝グリフトに倒されるまで軽く2週間以上はあのドラゴンはあそこにいたことになる。


 考えられる理由は色々ある。

 たとえば、最近少しずつ気温が下がってきており、冬が着々と近づいていることが分かる。

 となると、洞窟の多いこの山に冬眠のためにやって来たという考えがある。大方、この考えがあってるのではないかとハルは思っているものの、そうなると何故洞窟ではなく、あんな山のど真ん中にいたのかという疑問も生まれてくる。


 確かにあの場所は木々がなく開けた場所ではあったので、いったん休憩がてら着陸するには最適な場所かもしれないが、2週間もジッと滞在するような場所でもない。ただ、あそこから再び飛び上がれば、アランカの街の人が誰か気付いてもおかしくはないので、やはりずっとあそこにいたことはまず間違いないと思われる。


 では何故?


「……ま、それはあのドラゴンに訊いてみないと分からないか」


 この答えは未来永劫分からないということだ。つまり、考えるだけ無駄ということになる。


「とりあえずギルドに報告して、しばらくして麓にモンスターがいなくなったら原因はあのドラゴンだったってことで決まりだね」


 帰りは運良くモンスターと出会すこともなく、街の門まで辿り着いた。

 ただここで、シュナが不意にスンスンと鼻を鳴らした。


「シュナ?」


「………………少し急ごう。家の方角からおかしな匂いがする」


「え? でもギルドに報告は?」


「そんなもの後回しでいい! 急げ!」


 突然走り出したシュナに呆気に取られながら、ハルとウィーネも首を傾げながら後を追った。


「おかしな匂いってどんな匂いですかシュナ先生?」


「何かが焼けるような煙の匂いだ。少なくとも料理中にでるような匂いではない! ……っ!?」


 シュナが急に足を止め、遅れてウィーネも足を止めた。

 前方、やや斜め上に視線を向け、目を見開きながら固まっている。


 だいぶ置いていかれていたハルがようやく2人に追い付き、足を止めている2人の視線を追ってみると、息もままならないのにそんなことも忘れるくらい全力で再び駆け出した。


 足を止めていた2人もハルに追い付き、3人でアランカの端に位置するハルの敷地まで辿り着く。

 そして、間違いであってほしいという願いを踏みにじるかのように、確かな現実が3人に突き刺さる。



 全力疾走で呼吸を乱す3人の前には―――轟々と音を立てて赤く燃え盛り、黒い煙を天高く上らせた学校の校舎があった。



「一体何が……」


 シュナがその光景に立ち尽くしていると、ハルが未だ燃え盛る校舎に向かって走り出した。


「ハル!? 待て、どこへ行くつもりだ!」


「中に誰かいるかもしれないでしょ! だったら助けに行かなきゃ!」


「……! くっ、ならせめて水を被ってからじゃないと、中に入るのは無理だぞ!」


「水なんか汲んでる時間ないよ!」


「問題ありません! 私の水魔法で――」


 そう言ってウィーネが魔法の詠唱を始めた時、走っていたハルの腕が不意に掴まれる。


「……!?」


「待ったハルちゃん。大丈夫、校舎の中には誰も残ってない」


 いつもの白衣を着て、目の下に隈を作っているイケメンにそう言われ素直に足を止めるハル。いつもならまた徹夜ですかヒーラさんと軽口を叩くところなのだが、今はそれどころじゃない。


「ヒーラさん! 一体なにがあったんですか!?」


「いったん落ち着こう。ウィーネさん、水魔法が使えるなら消火を手伝ってあげてください。今、カイ君達が手分けしてやってるので」


「わ、分かりました!」


「私も手伝おう!」


 ウィーネとシュナが急いで校舎の方へと向かう。水魔法が使えるのなら、ウィーネが行けばすぐにこの火も鎮火されることだろう。


「どうなってるんですか……」


「ごめん。正直僕も理解が追い付いてない。徹夜明けでちょっと仮眠を取ってたんだけど、外が騒がしいから窓から覗いたらもうこんな状況だった。ちょうどカイ君達が水を汲んでるのが目に入って僕も慌てて手伝おうとしたんだけど、反対側からハルちゃん達が走ってくるのが見えて、カイ君に軽く状況を聞いてすぐハルちゃんを止めに来たってところ」


「校舎に誰もいないっていうのは本当なんですね?」


「うん。今日の授業は全部終わって、生徒達は皆帰った後だったみたいだよ。他の皆は校舎の外にいたのをこの目で確認したし」


 それを聞いて少しだけ体の力が抜けるのを感じた。

 とにかく怪我人はいないようなのでそこは一安心と言える。ウィーネが到着して水魔法を使っているのか、火も徐々に小さくなってきている。もうじき消火も完了するだろう。



「ヒーラさん、徹夜明けで申し訳ないんですけど、呼んできて欲しい人がいるんです」









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