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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第1章 異世界転移
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9.迷惑は掛けられない


 カイの服も買い、その後も色んなところを見て回り、昨日とは違うお店で早めの夕飯を食べた。


「あー、食った食った。お腹一杯」


「ちょっと金の使い方が雑過ぎじゃありませんかね」


「いいんだよ。お金は使わないと経済が回らないんだよ。お金持ちの人が使わずに貯めてばかりいたら社会にお金が出なくなっちゃって物価が上がっちゃうでしょ」


 今日1日で3000G程使った私にカイが呆れてように言ってくる。


 それに私がここまでお金を使うのは初めて行くところだけだ。

 つまり、昨日と今日でこの街のほとんどの店を訪れた私は、明日以降この街で大枚を(はた)くことはほぼないだろう。


「そろそろ帰ろっか」


「ん」


 私達は帰路に着くことにする。


 今日は少し遊び過ぎたし、汗もかいたのでシャワーも浴びたい。できることなら湯船にも浸かりたいのだが、大衆浴場というものは経験がないし、あまり好んで使おうとは思えなかった。


 それにカイは大衆浴場には行けないだろうし。




 宿屋に着くと、ロビーに設置された机を数人で囲んで食事を取っていた。


「ただいま戻りました」


 カウンターに立っているロンドンさんに戻ったことを伝える。


「お、おう。おかえり」


「…………?」


 すると、どこかぎこちないロンドンさんに返事を返された。

 そんなロンドンさんの反応に首を傾げていると、後ろから僅かに話し声が聴こえてくる。



「………………おい」

「…………ああ」




 ………………なるほどね。


「じゃあ私達は疲れたのでもう寝ますね。お休みなさい」


「ああ。おやすみ」


「ほれ、早く行くよカイ」


「あ、ああ」


 私達は2階の部屋へとさっさと戻ることにした。






 カイは気付いた様子はなかった。

 確かに話している内容は私も聴こえなかったし、本当にほんの少しの視線と、そして敵意に気付いただけだ。


 ああいう視線には人一倍敏感だからね私は。

 カイはもっと直接的な敵意に慣れすぎて、ああいった微妙なものには気付けないのだろう。


 それにしてもまだ2日目だというのに意外と早かったな。

 昼間ちょっと街で騒ぎすぎたかな。


 部屋に着き、私は真っ先に口を開いた。


「カイ」


「…………?」


 後ろにいるカイの方を見ずに言葉を続ける。



「明日この街出るから。準備しといて」


「へ?」


 カイは予想外の言葉だったのか間抜けた声を出す。


 が、他の宿泊客に気付かれてしまった以上は長居は無用である。

 私は別に良い。カイ自身もそういった悪意の(こも)った視線には慣れているだろう。


 しかし、このまま私達がここに泊まることで迷惑になる人もいる。

 好意でカイを泊めることも許してくれたのに、私達がいるってことで客が減っては申し訳ない。立派な営業妨害だ。ロンドンさんに迷惑は掛けられない。


「また急だな」


「ま、この街ももう粗方見終わったしね。確かここってアインツベルク王国の北端だったよね……じゃあとりあえず南に向かってみようかな」


 私がブツブツと今後の計画を練っていると、


「ま、オレはお前がどこに行こうと付いていくだけだし別に良いけどな」


 ポツリとカイが呟いた。


「……………………」


「…………? …………っ! ち、違っ、今のは別に変な意味じゃなくて、ただお前といればタダ飯が食えるから、ただそれだけだから!」


 ……これがツンデレ萌えというやつか。効果ばつぐんだぜ。


 私は嬉しさやら何やら言葉にできない感情が爆発してカイに思いっきり抱きつき、猫耳を撫でながら喉元をごろごろし、ついでに頬擦りも決める。


「本当に可愛いなお前は! おーよしよしよしよしよし! ここか! ここがええのか!」


「や、やーめーろー! ていうか、街を出るにも問題があるんだぞ!」


「え? どんな?」


 カイが気になることを言うので一旦スリスリ攻撃をやめる。


「いやどんなって……この部屋を埋め尽くさんばかりの荷物に決まってんだろ」


「あー……」


 確かに店からここまで運ぶのにも3回に分けたのにそれを全て持っていくというのは流石に無理がある。


「んー、捨てる?」


「はぁ? もったいねぇだろ。ふざけんな」


「じゃあカイが着てよ。私着ないし」


「オレ、男、これ、女物。ていうか着ないのに買うなよ……」


 しかし、本当にどうしようか……。


 荷物をどうするか2人で考えていると、いきなり部屋の入り口の扉がノックされた。


「…………? 誰だ?」


「…………」


 こんな時間に誰か来る予定なんてない。そもそも私もカイもこの街に知り合いなんてほとんどいない。


 となると考えられるのは……


「……カイ、ちょっと部屋の奥に行ってて」


「ん? わかった」


 カイがベッドの方に行くのを確認してから私は入り口へ近付く。

 

 先程ロビーにいた3人組。早速嫌がらせにでも来たのかな?


 私は警戒しながら入り口の扉を開けると、そこには顎髭を生やし茶色い髪をオールバックにした大柄の男性、この宿屋の主であるロンドンさんが立っていた。


 



「どうかしたんですか? ロンドンさん」


「…………うむ。すまん、この通りだ」


 いきなりロンドンさんが頭を下げだした。


「はい? え? 何のことですか?」


「廊下まで話し声が聴こえていた。お前さんがこの街を出ていくと決めたんなら止めはしない。だが……謝らせてくれ」


「いやいやいや、聴こえてたならなおのこと、何で謝るんですか。私達はこの街でもう見るところがないから出ていくんですよ?」


「…………」


「…………?」


「……わかった、そういうことにしておこう」


 ロンドンさんはチラリと部屋の中を見る。


「何か色々と持ち込んでると思ったが、何だありゃ。あれ全部持ってくのか?」


「いや、それをどうしようか考えてたところですね」


「そもそも、ちゃんと装備なりなんなり持ってるんだろうな?」


「は? 装備?」


「……おいおい、まさか武器も防具もなしで街の外に出るつもりじゃないだろうな」


「出るつもりです」


「……はぁ」


 何か私はこの世界に来てからよく溜め息をつかれてる気がする。私ってそんなに常識がないのだろうか。


「いいか? 街の外にはモンスターがうじゃうじゃと居てだな、倒すまではいかなくても、せめて自分の身を守るための武器ぐらいは持ってないと危険だぞ」


 モンスター。そうか、ここは異世界。獣人という地球にはいない生命体がいるのだから、モンスターなんてものがいてもおかしくない。


 しかしそうなると、運動神経ゼロの私にモンスターをハントするどころかそのモンスターから身を守るのも逃げることもできない気がするんだけど。

 況してや武器なんて使ったことないし。


 やっぱり容姿端麗で成績優秀、おまけに運動神経も抜群な大金持ちのお嬢様なんてリアルにはいないよね。

 ソースは私。


「でも私、運動神経悪いですし、武器も使ったことありませんよ?」


「確かに、あの時オレに全然追い付けてなかったもんな」

 

 いきなり違う声がしたと思ったらカイがいつの間にか私のすぐ後ろまで来ていた。訪れたのがロンドンさんとわかって出てきたのだろう。


「っていうか、そういえば私あの肉まんのことまだ謝ってもらってないんだけど?」


「うっ、と、とにかく、この街を出るにしてもあの荷物と道中のモンスターをどうにかしないと出発できないぞ」


「話を逸らすな話を」


 まったく……。だが、カイの言う通りか。大型の車でもあれば荷物はなんとかなるんだけど…………大型の車?


「……あ、そうだ。この街って馬車とかないんですか?」 


「馬車か。まぁ借りられるところならあるが」


「買えるところは?」


「馬車を買うのか!? ま、まぁ同じところで買うことも出来るが、いくらするか分かってるのか?」


「お金なら大丈夫です。よし、これで荷物の問題は解決かな」


 車がないのに人はどうやって遠方まで移動するのか。

 どの世界でも馬車っていうのは通る道なんだなぁ。


「馬車でもこの量は流石にキツいと思うぞ?」


「え、マジですか?」


「多分な」


 マジかー、もっと頑張れよ馬。


「ていうかさ、馬車を買うはいいけど、ハル馬車の運転できんの?」


「え? カイがしてくれるでしょ?」


「いや、オレ馬車なんて乗ったことないし」


「私もないんだけど」


「ダメじゃん」


 おい、前途多難過ぎるでしょ。


「はぁ~、しゃあねぇ。出発は明後日以降にしておけ。そんでもって明日はその荷物をどうにかして、その後俺のところに来い」


「へ? 俺のところに来いって……」


「武器選びにその使い方、馬車の乗り方やモンスターに出くわした時の対処法とかその他旅に出るときの注意点を叩き込んでやる」


「ロンドンさん詳しいんですか?」


「ふん。元冒険者舐めんな」



 ロンドンさんが元冒険者? マジか!




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