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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第4章 彼女の師
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1.今日も彼女は刀を振るう

第4章開始です。


 それは暗い暗い森の中。

 1人の少女が右も左も分からない森の中で腹を空かせて彷徨っていた。


 まだ10歳にも満たないような少女が1人でこんなところにいること自体、あまりよろしくない。

 しかも、布切れのようなボロボロの服を着ただけで、全身が泥や土で汚れている。ずっと裸足で歩いていたのか、足の裏には多数の切り傷ができている。


 だが、それでも少女は歩みを止めない。

 こんな幼い少女が涙も流さずに痛がらない傷には到底見えないのだが、それでも少女はフラフラと前へと進む。


 どうやら、傷よりも空腹。痛みよりも空腹が彼女の中では勝っているらしい。確か、最後に食べたのは2日前の木の実1つだけ。

 空腹のせいで朦朧とする意識の中、彼女は不意にスンスンと鼻を鳴らす。


 頭頂部から生えた犬耳がピクリと反応を見せる。


(…………!)


 虚ろだった少女の瞳に光が宿る。

 そして鋭い眼光を煌めかせ、少女は全身に力を入れる。最後の力を振り絞る。


 犬科の特徴を活かし、匂いを頼りに全速力で駆け出す。


 その眼は既に獣のそれだ。

 野生の獣が獲物を狩るときに見せる本能をそのまま剥き出しにし、少女は草の根を掻き分けて突き進む。


 そして、自分の背の高さと同じくらいの雑草の中を抜けた先に、いかにも旨そうなスープを作る老人がいた。


 バッと勢いそのままに少女はスープの入った鍋に食らいつく。


「のわっ!! なんじゃお主!? ていうかスープに顔を突っ込んだら……」


「~~~~~~~~~~っ!?!?」


 火を起こして温めていたスープに顔ごと突っ込めば、熱いに決まっている。顔に軽い火傷を負った少女は両手で顔を押さえながらゴロゴロと転げ回る。


「な、なにしとんじゃお主は……」


 呆れたように転げ回る少女に近付くご老人。

 しかし、その接近を察知した少女はシュバッとバックステップで距離を取る。


「フーッ、フーッ……!」


 火傷で顔を軽く赤らめながら、犬歯を剥き出しにして威嚇を始める少女。


「落ち着かんか。なんじゃ、腹が減っておるのか?」


「ガルルルル……!」


「ふむ……どうやら言葉が通じんようだな」


 ご老人は少女が言葉を話すことができないことを悟り、茶碗にスープをよそうと地面に置く。


「食え。子供はたくさん食わんと大きくなれんからの」


 それだけ言ってご老人は自分の食事を再開する。

 鍋からスープをよそい、木製のスプーンでズズズッとスープを飲んでいく。


 ご老人に敵意がないことが分かったのか、少女は恐る恐る近付いていき、これでもかというほどのスピードで地面に置かれた茶碗を取ると、再びご老人から距離を取る。


 まずはひと口。

 先程の反省を活かし、犬よろしくスープをペロリと舐める。


「……!!」


 こんな旨いものは食べたことがない! とでも言いたげに瞳を輝かせると、残りのスープを一気に(あお)り、ぽーいと茶碗を放り投げるとご老人の前にある鍋をロックオンする。


「フーッ!!」


「あ、ばか……っ!」


「~~~~~~~~~~~~!?!?!?」


 再び顔を押さえてゴロゴロと転げ回る少女。彼女に学習能力というものはないのだろうか。


「そんな慌てんでもおかわりならくれてやる。茶碗を持って来い」


「……?」


「違う。お手じゃなくて茶碗じゃ」


 差し出された手に首を傾げながらポンと自分の手を乗せる。

 ご老人はその手を払い、先程放り投げた茶碗を指す。


「……!」


 何を示しているのか気付いたのか、だだだーっと茶碗を取りに行き、だだだーっと帰ってくる。

 瞳を輝かせながら茶碗を差し出してくる少女にご老人は目を細くする。


(……ふむ。言葉が話せず、格好は布切れ1枚。靴すら履いておらず腹を空かせた獣人の小娘か……)


 ご老人はすっかり垂れ下がっている自分の犬耳(・・・・・)をポリポリと掻きながら少女の頭を乱暴に撫でる。


「…………?」


「待っとれ。今よそってやる」


 茶碗を受け取り、鍋からスープをたっぷりよそう。

 先程よりも多いスープに少女は尻尾をバタバタと忙しなく振っている。


 すっかり気を許したのか、今度はご老人の横でスープを飲み始める少女。

 そんな少女を見てご老人は口を開く。


「お主、儂と共にくるか?」


「……?」


 言葉の通じない少女に訊いたところで何も返ってはこない。

 何を言われたのか分からない少女は口の周りをベタベタにしながら首を傾げるだけだ。


「フッ……ほれ、口を拭くから動くな」


「うーーーー……」


 美味しい食べ物をくれる人は良い人。

 まだ言葉も話せなかったこの頃から、少し危険とも取れるこの考えは何1つ変わっていない。


 これが、獣人冒険者シュナと、その剣術を教え込んだお師匠の出会いだった。





        ×  ×  ×





 懐かしい夢を見た。

 あの頃の自分はまだまだ未熟者だったと、自分の見た夢に顔が熱くなるのを感じる。


 ふかふかの布団から身体を起こし、ぐーっと伸びをする。

 彼女がこの家に住まわせてもらうようになってから常々おもっていること、それはこの家のベッドは宿屋のベッドの5倍くらいふかふかであるということだ。初めてこの布団で寝たときからこの布団には人を駄目にする魔法がかけられているのではと彼女は睨んでいる。

 もしも外がもう少し寒くなってきたら、この布団から抜け出すのには一苦労しそうである。


 枕元に置かれた時計の針は5時半を示している。別に目覚ましをセットしている訳ではなく、最近早く起きるのが癖となっているのだ。早く起きればその分、鍛練に時間を割くことができる。


 ベッドから離れ、寝間着からいつもの格好に着替えていく。


 少し前の彼女は常に貧乏の冒険者だったため、鍛練をする時間があればその分クエストを受けて小金を稼いでいたところだが、現在の彼女は定期的な収入があるため無理をしてクエストを受ける必要もない。


 とはいえ、実践の勘が鈍ってもあれなので、暇なときは受けるようにもしているが。


 それでもやはり彼女は、今までで以上に鍛練に力を入れている。というのも、彼女の憧れである最強の女冒険者カナタに出会ってからだ。


 自分よりも3つも年下であるにも拘わらず、国王の護衛任務を任される程の実力者。実際一度手合わせさせてもらったが、自分とは天と地ほどの差があった。


 彼女自身、別に弱いわけではない。彼女だって幼き頃から師匠にしごいてもらっていた。自分でも自分の力に自信もあった。

 ただ、いざ最強を前にしてみれば、自分の力が情けなくなった。


「……よし。行くか」


 着替え終わり、刀を腰に携えたシュナは部屋を出る。

 いつも彼女が鍛練に使っている街の外にある山へと向かうのだろう。

 

 例え力及ばずとも、諦めるのは性に合わない。

 最強の背中はまだまだ見えない。

 それでも、努力は決して自分を裏切らないと彼女は信じている。


 いずれ憧れの最強に追い付くために、今日も彼女は刀を振るう。







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