8.ありがとうとごめんなさい
「ねぇカイ~」
「ん?」
「ちょ~っとだけ手伝ってくんない?」
「…………?」
ベッドの上で猫のように寝転がるカイは疑問符を浮かべながら、首を傾げていた。
× × ×
「…………」
「~~♪」
「…………おい」
「んー? なにー?」
気分よく鼻唄を歌っていると、後ろからカイに呼ばれる。
「なぁ、お前馬鹿なの? 昨日も言ったけどやっぱり馬鹿だったの? なにこれ、馬鹿なの?」
「え、ちょっ、何かいきなり馬鹿馬鹿連呼されてるんだけど」
両手、両肘、両肩に大量の荷物を持っているカイが恨めしそうに私を睨んでいる。
「何なんだよ、このアホみたいな量の荷物は!」
「なんだ、と言われましても、昨日買ったけど1人じゃ運びきれなかった荷物だけど」
「お・か・し・い・だ・ろ! どう見ても1人が1日で買う量じゃねぇだろ!」
ちなみに私の両手にもしっかり服やら鞄やらが入った紙袋が掛かっている。
「ままま。これを部屋まで持っていったらカイの服も買ってあげるから」
カイは今日も私のパーカーをだぼだぼ状態で着ている。
袖とかも当然長く、流石に少し動きずらそうなので新しい服を買ってあげないといけない。
昨日まで着ていたあの汚い服は捨てちゃったし。
「ほらほら、早く行くよ」
「待てよ! オレに重い方ばっか持たせやがって!」
「男の子でしょ。そのくらいちょちょいと持ってよ」
「ちょちょいの量をはるかに超えてんだよ!」
ギャーギャーと騒ぎながらもちゃんと持ってくれるツンデレ乙。と喉まで出かかったが、面倒くさいことになりそうだったので言うのはやめておいた。
× × ×
「私が買ったところは基本的に女性専用のお店だったし、違うお店に行こっか」
荷物を宿屋の部屋まで運んだ私はさっそくカイの服を買おうと外に向かおうとする。しかし――
「待った、疲れた……休憩」
そう言ってベッドに倒れ込んだカイ。
私はそんなカイを見てついつい溜め息をつく。
「情けないなぁ。そんな距離もなかったのに」
「そんなに距離もないのに息が上がるほどの量の荷物を一度に持たせるなよ……」
「まぁ、一理ある」
仕方ない、少し休むか。
「つーか、こんな大量の荷物どうするんだよ」
「ほんとそれ。いい加減可愛い服を見つけたら衝動買いする癖直さないと。どうせ一度も着ないのに」
「一度も着ねぇのかよ!! 本格的にただの無駄遣いじゃねぇか。場所もとるし、マジで何で買ったんだよ……」
「もったいないし、カイ着る?」
「オレは男。流石にこんなフリフリは着ねぇよ……」
はぁ、と溜め息をつくカイ。
あれ? 何かすごい呆れられてる?
「まぁいいや、それで? どこ行くんだ?」
「カイの服を買いに行こうよ。まずは良さげなお店を見つけよう」
さーてさて、どんな服を選ぼうかなぁ。
カイは可愛いから何でも似合いそうだしなぁ。
「買ってくれるのはありがたいけど、こんなにいらないからな」
そう言いながら置場所に困り溢れ返っている私の服を指差すカイだった。
街中を歩きながら良さげな服屋さんを探す。
まだこの街に来て2日なので、気を抜いていると同じところを何度も回ってしまいそうなる。
この街は何故こんなクモの巣のような形にしてしまったのか。
建物もほぼ全て煉瓦造りで似たような外観なので、余計ややこしい。
キョロキョロしながら歩いていると、ある店を見つけた。
「…………あそこ、入ってみよっか」
私がそう言って指差した先には服の絵が描かれた看板が。
私に続いてカイも店に入ろうとするが、私はそこでカイを呼び止める。
「でもそろそろお昼だし、お金渡すからカイ何か買ってきてよ」
「え、オレが?」
「そ、オレが。お釣りはお小遣いにしていいから。あ、私コロッケとか食べたくなってきた。お? ちょうど向かいに肉屋さんがあるじゃん。じゃああそこでコロッケ2つ買ってきて」
「え、ちょっ……」
私はカイに有無を言わせず20Gを握らせ、店の外へと放り投げた。
× × ×
「いってて……何だよアイツいきなり。向かいの店って……っ」
カイがハルの言っていた向かいの店とやらを見てみると、そこにあったのは確かに肉屋だった。
「やられた……あのやろー」
しかし、あそこで買ってきてと言ったということは……そういうことなのだろう。
はぁ、と今日何度目かわからない溜め息をつくカイだった。
「……すみません、コロッケ2つください」
「はいよ。コロッケ2つね……ってお前……」
フードを被っているとはいえ当然気付くだろう。
何て言ったってこの店はカイに1000G分の損害を与えられた経験があるのだから。
「…………」
カイは顔を上げることができない。
肉屋の店主、ブライアンの顔を直視する勇気が出ないのだ。
「……金は?」
「あ、えっと、ここに……」
ハルから受け取った20Gをブライアンに渡す。
「10Gでいい、1つ5Gだからな。今から揚げるから、少し待ってろ」
「え、でもここにできてるやつが……」
「黙って待ってろ」
「う、うす」
10Gを受け取ったブライアンは新しくコロッケを揚げ始める。
カイはその間少し気まずそうにソワソワしている。
ブライアンはコロッケを揚げながらチラリと俯いている少年を見る。
すると向かいの服屋でこちらを見ていた少女を見つける。向こうも気付いたらしくこちらに手を振ってきた。
「……お前、あの姉ちゃんにちゃんと礼を言ったんだろうな?」
「え? あ、いや、まだ……」
「あんなお人好しそうそういねぇ。お前はまだツイてる方だ。あんな馬鹿に出会えたんだからな」
「…………」
「このコロッケ、1つは姉ちゃんのか?」
「……うん」
「そうか」
ブライアンは揚がったコロッケを油から上げて、手で持ちながら食べやすいようにコロッケの半分を紙で包む。
「絶対に手放すな。あんな奴、二度と出会えねぇぞ」
「…………わかってる。ありがと…………あと、すみませんでした」
カイはコロッケを受け取り頭を下げる。
「また来い。こんな冷めたコロッケじゃなく、いつだって揚げたてを食わせてやる」
ちゃんと金を払うならなと付け足し、ブライアンはさっさと行けと手を払うように振る。
そんなブライアンにカイはもう一度頭を下げ、服屋で待つ少女の方へと駆けていった。
× × ×
「買ってきたぞ」
「おっ、お疲れ~」
店に戻ってきたカイの手には2つのコロッケが握られており、その1つを受け取ろうとしたらサッと躱されてしまった。
「……やりやがったな」
「えー、なんのことー?」
ピューピューとわざとらしく口笛を吹きながら誤魔化してみる。
「……はぁ、まあいいや。店内じゃあれだし外出るぞ」
コロッケを持ったままカイが外へと出ていった。
確かに油がついた手で服を触るわけにはいかない。
店前のベンチに座り2人してコロッケを頬張る。
うん、上手い。
「…………ちゃんと謝れた」
「……そっか」
「……………………ア、アリガト」
「…………」
ソッポ向きながら小声で呟くカイ。
いつもなら思いっきり愛でてやるのだが、あまりイジって拗ねられてもあれなので、ポンポンと頭を撫でるに留めておいた。
その後は、私主催の着せかえファッションショーをやり過ぎて、着せかえ人形状態になっていたカイにいい加減にしろぉー! と怒られたのは言うまでもないだろう。
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