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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第3章 王都にお呼ばれ
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15.点と点が繋がり、死へと繋がる


「お、おっはー……」


 ハルは恐る恐る皆が集まっているであろう客間の扉を開ける。


 部屋の中ではこの1週間ずっとハル達の給仕などのお世話をしてくれている初老の男性、ゾイスタがテーブルを拭いていた。


「おや、おはようございますハル様。今日はお早いお目覚めで」


「おはようございます。そんなに早いですか?」


「ええ。皆さん起きてきていませんよ? まだ朝の6時ですので」


「うぇ!? 早っ! あー、そういえば起きてから1回も時計見てなかった」


 ハルの反応にくすくすと上品な笑みを浮かべながら、ゾイスタはワゴンの上のティーポットを手に取る。


「朝食の準備がまだですので、よろしければ紅茶でもいかがですかな?」


「あ、もらいます」


 ハルは適当な席に座り、特に何もせずにぼへーっと紅茶を待つ。


「それにしてもその左目、どうかしたのですか?」


「……あー、いえ、朝起きたらちょっと目が充血してたんで、あまり人には見せたくないかなと思いまして」


「そうですか。それは失礼しました」


 ゾイスタはそれ以上深く追求することなく、左目を瞑っているハルの前に紅茶を置いた。


「どうぞ」


「いただきます」


 ティーカップを手に持ち紅茶を軽く啜る。

 漂ってくるローズの香りが鼻腔をくすぐり、上品な味わいを舌で楽しむ。


 これは旨い。


 お家柄上ハルも高級な紅茶は腐るほど飲んできたが、それでもどちらかと言えば紅茶よりもコーヒー派だった。


 しかし、彼の淹れた紅茶を一度飲んでしまえば紅茶派にならざるを得ない。


「大変美味しゅうございます」


「……お、お口に合ったようで、安心しました」


「いや、キャラ変わってるから」


「……?」


 その声に振り向くと、扉のところにロイドが立っていた。


「部屋にいないと思ったら、ここにいたんだね」


 そして、そのロイドの後ろからライン王子まで顔を出す。


「王子、ロイド様、おはようございます」


「おはよう、じいや」

「おはよう」


 ライン王子とロイドに挨拶をするゾイスタ。

 流石は執事長。お辞儀1つでも様になっている。


「……やっぱり一晩で目を覚ましたか」


「だね」


 ロイドとライン王子がハルを見ながら頷く。


「……? それってどういう……?」


 ハルの疑問にニコリと笑顔を見せた後、ライン王子は執事のゾイスタに目配せをする。


 ゾイスタはそれに無言で一礼し、ワゴンを押して部屋を出ていった。


「……それで? 今のはどういう意味ですか?」


 ゾイスタが部屋を出たのを確認してから、ハルはもう一度同じ問いをする。


「ハルは昨日、魔力切れで倒れているところをカイに発見されたんだよ」


「魔力切れ? ああ、なるほど」


「なるほど?」


「いや、昨日の記憶が途中から全くないからさ、魔力切れで倒れたって聞いて納得したよ」


 昨夜の記憶がないという起きたときからの疑問はロイドの話を聞いて解けた。


 うんうんと納得していると、ロイドとライン王子が怪訝な表情を見せる。


「どうやらあまり状況を把握できてないみたいだね」


「はぁ……そうみたいだな」


 呆れたような溜め息を吐くロイドに、ハルは頬を膨らませながら半眼で睨む。


「何さ、その状況っていうのは」


「お前は昨日、魔力切れで倒れた。アランカの事件のとき魔力切れで倒れた奴はハル以外にもいたっしょ?」


「……!」


 アランカの事件で倒れたのはハルを除いて1人しかいない。

 その人物とはもちろんシュナのことだ。

 あの時魔力切れで倒れたシュナは命に別状はなかったものの、昏睡状態で3日ほど目を覚まさなかった。



「つまり………………どういうこと?」


 

 ガクリとずっこけるロイドとライン王子。


「シュナは目を覚ますまで3日掛かったのに、お前は一晩で目を覚ましたってことだよ」


「つまり、私が凄いって話?」


「いや、まあ、お前がというよりは…………」


「…………」


「…………?」


 ハルの顔を見て突然黙り込むロイド。

 ライン王子も不思議そうな表情をしている。


「なに? 私の顔に何かついてる?」


「ついてるっていうか……」


「ずっと気にはなってたんだけど、ハルちゃん左目どうかしたの?」


「あ」


 そういえば今も左目は瞑ったままだった。


「あー、えっと、実は……」


 先程クァルフには心配をかけないように誤魔化したが、この2人なら原因がわかるかもしれない。


 そう思ったハルは、思いきって瞑っていた左目を開ける。



「「……!」」



 宝石のように真っ赤に輝く瞳。

 ハルの右目を見てわかるように、昨日まではハルの左目は右目同様普通の黒目だった。

 しかし、今のハルの左目はその黒目の部分が赤く染まっている。


「なんか朝起きて鏡を見たら、こんなんになってて……」


 頭を掻きながら照れたように言うハル。

 こんな中二病のようなオッドアイを人に見せるのは流石のハルでも少し恥ずかしい。


「…………なるほど。そういう形で現れたのか……」


 ハルのオッドアイを見て、ライン王子が呟く。


「なるほどって……これが何なのか、原因とかもわかるんですか?」


「うーん、その目の能力とかは調べてみないと分からないけど、原因はハッキリしてるよ」


「本当ですか?」


 ハルの疑問にライン王子だけでなく、ロイドも頷く。


 実はいきなりの身体の変化に内心怖がっていたハルだが、魔法のエキスパート2人がこう言っているなら大丈夫だろう。


「ただ――」


「ただ?」



「そのまま放置してると、ハルちゃん死んじゃうかも」



 ん?


 今、聞き捨てならない言葉が聞こえてきたような……。


「そうならない為にも、早めに調べた方がいいかもね」


 ロイドの言葉に、ハルは高速で頷くことしかできなかった。





        ×  ×  ×





「はいじゃあ、まずはその左目を開いた時、何が見えてるのかな?」


 学校の保健室のような部屋に連れてこられたハルは、何故か白衣に着替えたライン王子に質問を投げ掛けられる。


「えっと、両目を開いてる時は、皆の身体の周りに薄ぼんやりと青白い光が浮かんでいるのが見えます」


「ふむふむ。じゃあ左目を閉じて、右目だけだと?」


「今まで通りです。その光りも見えなくなりました」


「はい、それじゃあ、左目だけ開くと?」


 ライン王子の指示通り右目を瞑り、左目を開くと――



「!?」



「……何が見えるかな?」


「2人の……身体の中をさっきの青白い光が流れてる……?」


 両目を開いている時とは違う。


 ハッキリと光の流れや動きが見てとれる。


 心臓部分から始まり、身体の隅々まで行き渡り、そして心臓へと戻っていく。

 その動きはまるで――



「……血?」



 そう、ハルが見ている光はまるで血液のような動きをしていた。


「おしいけど、君が見ているその光は血ではなく、恐らく魔力だよ」


「魔力?」


 紅い瞳を光らせながら首を傾げる。


「もう一度右目だけ開いてごらん」


 ライン王子の指示に従うハル。


「これ、何をしているように見える?」


「なにって……王子が杖を出したようにしか……」


 懐から30センチ程の杖を取り出し、それを顔の前で構えている。


「うん。じゃあ、次は左目だけで見てみようか」


「……? なんの実験です……か?」


「どう見えるかな?」


「……杖の先端に、光が集まってる……」


 右目ではライン王子が杖を構えているようにしか見えなかったのだが、左目に変えた途端、光の塊が視界に映り込む。


「間違いないね。君がその左目で見ているのは魔力だよ。僕と手合わせしたときも何となく見えてたでしょ? そんなに驚くことはないんじゃない?」


「いや、でも何でいきなり魔力なんて見えるように……」


「……1からちゃんと説明しようか」


 



 そこからライン王子の説明が始まった。


 アランカでハルが倒れた際、ロイドの魔力をハルに与えることでハルが一晩で目を覚ましたこと。

 

 本当なら今もなお、昏睡状態のまま眠っていたかもしれなくて、下手したら死んでいたかもしれないこと。


 魔力と肉体は絶妙なバランスで成り立っており、本来なら他人の魔力を身体に取り込むなんて危険すぎるということ。


 そして実際、回復の早いロイドの魔力が、今まさにハルの身体から溢れんばかりに増え続けていること。


 肉体のキャパを越し、魔力過多になるといずれ肉体が耐えられなくなり、魔力が暴走。簡単な魔力制御も出来なくなってしまうかもしれないということ。


 ライン王子とロイドの説明は、ハルには心当たりのあることばかりであり、最近の身体の怠さも、魔力切れで倒れた原因も全て繋がった。



 そして――、もう既に自分は、魔力制御が出来なくなりつつあるということも。



「それで、この眼は?」


「多分だけど、体内で行き場のなくなったロイドの魔力が、無意識に魔法を出現させることによって放出されているんだと思うよ」


「魔法?」


「そう。その眼は間違いなく魔法だね。ただ、問題なのは、無意識に発動してるってこと」


 確かに、この紅い瞳はハルがやろうとしてやっているものではない。

 だから当然、元に戻すことも出来ない。


「それって、何か問題があるんですか?」


「いや、問題しかないでしょ」


 ロイドの言葉にハルは首を傾げる。


「なんで?」


「ふぅ、いいかいハルちゃん。魔法っていうのは魔力を消費して使うもの。それが例え、無意識に発動している魔法だとしてもね」


「は、はあ……」


 流石のハルでもそれくらいは分かる。

 ブレスレット型の魔道具だって魔石内の魔力を消費して魔法を使っているのだから。



「つまり、24時間その魔法を使い続ければ、いくら回復の早い僕の魔力だろうと、すぐに底を突くことになる」


「……!」


「このままじゃハルちゃんが死んじゃうかもしれないって言ったのは、そういうことだよ」






 ――ふと、部屋に置いてある姿見に映った自分の姿を見る。



 自分の周りに浮かび上がっている青白く光る魔力が、ほんの1時間程前に寝室で見たときよりも、明らかに薄くなっていた。






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