14.身体に起こった異変
魔力切れを起こして倒れたハルは、翌朝、いつも通りに目を覚ました。
自分でも自分がよくわからない。
昨夜は途中から記憶がない。
カイと部屋の前で別れ、魔石に魔力を補充しておこうといつもと同じ感覚で魔力を魔石に向けて放出したら、いきなり全身の力が抜けて――
そこから記憶がない。
でも、不思議と身体に疲れは残っていない。
昨日まで感じていた怠さも感じない。
むしろ体調だけなら絶好調と言ってもいいだろう。
およそ1週間前、王都を訪れた最初の日の夜。
ハルの部屋を訪ねてきたロイドに訊かれた言葉を思い出す。
″お前……身体はまだ平気か?″
何となくだが、違和感というか、身体に異変は感じていた。
ミラーの事件で入院することになり、その日の晩、不思議な夢を見た。
見た、気はするのだが、その内容はいまいち覚えていない。
聞けば到底一晩で目を覚ますような状態ではなかったという。
では何故そんな奇跡が起こったのか。
自慢ではないが、ハルは人よりも体力が劣っている自信がある。
運動が苦手で走ったりしてもすぐ息が上がってしまう。
そんなハルが、死の淵まで立たされた状態から一晩で回復するなんてありえないのだ。
ただハルは何となく、予感はしていた。
あの日、あの夜に見た夢が、何か関係しているのではないか。
最初に違和感を感じたのは退院初日の夜。
ヒーラから受け取った新しいブレスレット型の魔道具に魔力を補充しようとしたときのことだ。
まだ完全に回復し切ったわけではないのだから無理はしないようにとドクターから言われていたので、魔力はいつもより少な目にしておこうと思った。
しかし、身体の中から放出された魔力はいつもと同じくらいの量だった。正しくはそんな感覚がした。
確かに違和感はあったものの、その時は特には気にしなかった。
実際次の日からは前までと同じように魔力量をコントロール出来ていた。
アランカの街を出発してからは魔道具をルルとリリィに貸していたため、もうあの時の違和感のことなんてすっかり忘れていた。
しかし、1日1日が過ぎていき、何故か次第に身体が怠く重たくなっていった。
まぁ初めてユニコーンのユニーなしでの長旅だし、普通に疲れているだけだろうと思ってそのときも特に気にはしなかった。
王都に着いた辺りからだ、身体にハッキリとした違和感を感じ始めたのは。
皆には心配かけまいと黙っていたのだが、何故か視界に靄がかかり始めた。
その靄も何も無いところでは見えないのだが、人が視界に入ると必ず見え始める。
最初は本気で疲れているのかと思った。
身体も何だか怠いし、一刻も早く休みたいと思っていた。
しかし、休みたいと思うと同時に、何故か無性に魔法が使いたかった。
よくわからない、今までにない欲求。
旅の最中は魔道具がなかったため魔法が使えず、そのせいで魔法に対する欲求不満が溜まっているのかと内心自虐気味に思っていたのだが、そんなところにちょうどライン王子が勝負してみるかと言ってきた。
初めは王子様に対して矢を向けるのはマズイだろとは思ったが、王子には悪いが久しぶりに暴れるチャンスだと思ってやるからには思いっきり暴れてやろうと思った。
そして初撃。
ハルの撃った煙幕の魔法を付与した矢は、ハルが思っていた攻撃とは違った。
煙幕の濃度も、範囲も、持続時間も、ハルがイメージしたものよりも数倍は濃く、広く、長いものだった。
久しぶりの魔法で感覚がおかしくなっているなぁと呑気に思いながらも戦闘を始めた。
戦闘を続けているうちに少しわかったこともあった。
ライン王子の使っていた魔法。
あの見えない小規模爆弾が何故かハルには見えていた。
一発目は空間が僅かに歪んだ? 程度にしか思わなかったが、二発、三発と避けているうちに、その正体を掴んだ。
あれは魔力の塊であり、今まで自分が見えていた靄も魔力だったのでは? と。
何故かは知らないが突然人の魔力が可視化出来るようになった。
それを理解したハルは、確信をもってライン王子の不可視爆弾を無力化していった。
そして戦いが終わり、その後国王との交渉も終え、部屋に戻ったところで、ずっと怠かった身体が限界を迎えた。
丸4日、ハルは目を覚まさなかった。
それをカイから聞いたとき、確かに驚きはしたが、不思議と納得してしまった。
ああ……だろうな。という感想が心の中に浮かんだ。
それくらい身体が怠かったのだ。
たくさん寝た分疲れも取れたかなと思ったのだがそれからも身体の怠さは続き、むしろあの勝負の疲れもプラスされてないか? と疑うくらい疲れが取れていなかった。
しかし、今朝目を覚ましてからは昨日までの身体の怠さが嘘のように消えている。
身体が軽い。
理由は分からないが、とにかく絶好調だ。
溜まっていたストレスが解消されたような――
全てがリセットされたような――
そんな感覚。
これだけ元気なら今日中にでもロイドの転移魔法でアランカに帰れるだろう。
早速着替えてカイ達に報告しよう。
今までの違和感も全部忘れて、ウキウキ気分で姿見の前に立つ。
「…………………?」
ハルの身体の周りに青白い光が浮かび上がっている。
前まで見ていた靄とは違う。
それははっきりと可視化されていた。
だが、そんな事がどうでもいい事のように思えるほどの異変がハルの身体に起こっていた。
「……私の、左目が――」
姿見に自分の顔を近づける。
日本人特有の真っ黒な右目とはまるで違う。
そこに写ったハルの左の瞳が――
まるで、紅玉のように真っ赤に光り輝いていた。
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