13.唐突な魔力切れ
ハルと部屋の前で別れてから2時間ほど。
夕飯がそろそろ出来上がるとのことでカイはハルを呼びにハルの部屋の前まで来ていた。
「おーい。夕飯だぞー」
扉越しに部屋の中へと呼び掛けるが、反応がない。
寝てるのか? と思い、もう一度ノックしてみるがやはり反応がない。
カイはロイドからハルの様子を見張っておくように言われていたが、カイから見ても昼間のハルは少し様子がおかしかった。
動きも表情もどこかぎこちなく、身体も怠そうだった。
あのハルを見たら、疲れて眠っているのかもしれないと思うのはごく自然なことだろう。
「入るぞー?」
普段の屋敷でも部屋の鍵を掛ける癖のないハルは、この王城で宛がわれた部屋の鍵も当然掛けていなかった。
女の子が無防備過ぎるとよくルルとリリィに普段から叱られているのをよく見る。
ただ今回の場合は、その癖のおかげで発見が早まった。
がちゃりと部屋の扉を開けると、案の定ハルは眠っていた。
ただし、ベッドの上ではなく、部屋の床に倒れるようにして――。
「! ハル!?」
慌ててハルに駆け寄り、身体を起こす。
しかしハルは目を覚ます様子はなく、冷や汗をかきながら顔色も悪く、呼吸が不規則に粗い。
一体いつから倒れていたのか。
もしもカイと別れてすぐなら、もう2時間は経っている。
とりあえずハルをベッドに運ばなければならない。
「………………あれだ、オレが非力なんじゃなくて、こいつが重たいんだ」
普通に体格差のせいなのだが、誰に言い訳しているのか、ハルを持ち上げることの出来ないカイはハルの体重が重たいせいということにし、助けを呼ぼうといったん廊下に出る。
すると、廊下の先の方でナイスタイミングとばかりにロイドが歩いていた。
「おーい! ロイドー!」
「……?」
名前を呼ばれたロイドは、振り向いてカイを見つけると歩いてこちらに向かってくる。
「なに?」
「いいから手伝ってくれ。オレ1人じゃハルを運べないんだ」
「運ぶ?」
カイに袖を引っ張られながら、大事な部分が抜けているカイの説明に耳を傾け、そしてハルの部屋の前までやって来る。
「何で扉開けっ放し? ハルは………………! なにがあった?」
部屋の中で倒れているハルを発見し、ロイドも急いでハルに駆け寄る。
「わかんね。夕飯の時間だから呼びに来たらもう倒れてた」
「最後にハルを見たのは?」
「2時間くらい前。この部屋の前で別れた」
ロイドはハルの手首に指を当て、脈を測りながらハルの額に滲んでいる汗を拭く。
それを見てカイはタオルのような拭くものがないかと置いてあったハルの鞄を開け、中を探し始める。
「どう見ても魔力切れの症状だよ。いったい何が原因で……ん? こいつか……」
「どうしたんだ?」
「これだよ、これ」
そう言ってロイドが拾い上げたのは、ブレスレット型の魔道具。
「あ、それハルの……」
「そう。多分こいつに魔力を補充しようとして、魔力が切れた」
「いや、でも。ハルは魔石に魔力を貯めるのを日課にしてたんだぞ? どのくらいの量を入れればいいかとか、そういう境界線はわかってたはずだろ?」
「それが分からなくなってるんだよ」
「……? それってどういう……」
ことだ? と訊こうとしたが、言葉が最後まで続かなかった。
というよりも、遮られた。
「男2人で女の子の部屋に入ってナニをしてるのかな?」
開いた扉をコンコンと叩きながら、目が笑っていないカナタが笑顔で立っていた。
「カナタ? いや何って……」
「…………はぁ…………はぁ…………」
汗をかき、息を切らして寝ているハル。
「…………」
(タオルを探すために)ハルの着替えも入っている鞄を漁るカイ。
「…………」
(ベッドに運ぶために)ハルの肩を抱こうとしているロイド。
「…………」
ゴミを見る目。
「「多分誤解をしている!」」
× × ×
「ハルさんが魔力切れで倒れてた?」
事情を説明してカナタにハルをベッドに運んでもらう。
「……確かにこれは魔力切れの症状……でもどうして?」
「多分こいつに魔力を補充しようとして、魔力を使いきってしまったってとこだと思う」
「……? そんなことってあり得る? だってハルさん退院してからも屋敷で普通に魔力補充してたよ?」
「段々身体が魔力に追い付けなくなってきてるんだよ。だから魔力の制御も段々出来なくなってきてる。前も話したけど、身体には魔力の限界値が定められてるからね」
「「…………?」」
基本物理攻撃スタイルの2人にはロイドの説明は難し過ぎた。
別にロイドも2人に理解出来るように説明し直す気もない。
原因は分かっているからだ。
ロイドとライン王子しか知らない真実。
「……とにかく、ハルが目を覚ましたら言うべきだな」
ロイドのその呟きはカナタとカイには届かなかった。
× × ×
――時は王都初日の夕暮れ時まで遡る。
「ロイド……どうして彼女の中に、君の魔力が流れているんだい?」
「…………」
確信に迫る一言。
流石はロイドとカナタの元師匠。
魔法を扱うのはロイドの方が上だが、魔法及び魔力を見極める能力はライン王子の方が数段上である。
「……ま、僕も話は粗方聞いてるけどね。確かアランカの街を守るために生命活動に必要な魔力をも攻撃に回したんだっけ? まったく、見かけによらず無茶するねあの娘」
「……そうだな」
「あの事件からおよそ3週間。その時の症状を聞く限りまだ昏睡状態でもおかしくない。いや、正直なところ生きてること自体不思議なくらいだけどね」
生命活動に必要な魔力を消費するということは、つまり生命を維持出来なくなるということだ。
もちろんその魔力を全て失えば即死なので、あの時のハルには多少の魔力は残っていた。
ただ、体内のあらゆる器官の活動を最小限にまで留め、なんとか、ギリギリのところで生き長らえていた状態だったのだ。
そんなハルが翌朝普通に目を覚まし、1週間後には旅に出てモンスターと戦い、3週間後には国の王子と魔法バトルなんて出来るはずがないのだ。
「でも彼女はそれを平気な顔してやっていた。……つまり、彼女はたった一晩で瀕死状態の魔力量を回復させたことになる。そんなの、誰かが魔力を与えたりしない限り不可能だ」
「かもね」
「…………ロイド、なんでそんな無茶をしたんだい? 今彼女の身体を動かしているのは君の魔力であって彼女の魔力じゃない」
そう、ハルの魔力はまだ回復していない。
そもそも生命活動に必要な魔力は回復しないというデメリットがある。
だからこそ、生命活動に必要な魔力は本来、加齢以外で消費してはならないのだ。
「君も十分承知のはずだ。人の肉体と魔力というのは絶妙なバランスで成り立っているもの。回復の早い君の魔力は、彼女の身体を君の身体と勘違いして、これからも増え続けることになる」
「…………」
「魔力っていうのは肉体のキャパから少なすぎても多すぎても駄目なんだ。……このままじゃ、いずれ君の魔力が彼女の体内で暴走を始めるよ」
「……そうなると、アイツはどうなる?」
「……はぁ、当然増え続ける魔力に肉体が耐えられなくなり、次第に簡単な魔力制御も行えなくなる。調子が悪いわけではないのに身体が怠くなったりしたら魔力が肉体のキャパを越している証拠」
「簡単な魔力制御も行えなくなるっていうのは……?」
「…………例えばだけど、今までと同じ感覚で僅かしか魔力を放出していないつもりなのに、魔力切れになるくらい大量の魔力が勝手に放出されたり、とかね」
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