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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第3章 王都にお呼ばれ
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12.違和感と倦怠感


「お、カリナちゃーんだ、やっほー」


「げっ、弓矢女……」


 王都に来てから何だかんだで1週間が経っていたある日のこと。カイと一緒に王城内を散策していると、前方でライン王子の従兄妹であるカリナ=アインツベルクが歩いているのを見つける。


「うわぁ、ひどいなーカリナちゃん。これは弓矢じゃなくてクロスボウっていうんだよ?」


「そっちかよ」


 会って早々げっ、と言われたことにではなく、クロスボウを弓矢と呼ばれたことにハルは引っ掛かりを覚えた。


 カイのツッコミはもっともなのだが、もしハルがカリナの立場であるのなら自分でもああいう反応をしてしまうだろうから、そこは仕方ないと思う。


 ハルはどうもカリナに苦手意識を持たれているのだ。


 理由は明白で、彼女と初めて会ったときにハルの言った冗談が思った以上に彼女には効果ばつぐんだったらしく、誤解は解けたものの、未だ距離を詰められないでいる。


「こんなとこで何してんの?」


「貴女には関係ないでしょう?」


「うひゃあー冷たい! 冷たいよカリナちゃん!」


「ちょっ、くっつかないでくださいます!? 暑苦しいですわ!」


 ハルに抱きつかれ、鬱陶しそうにハルの顔を手で押し返す。


「大体、なんでわたくしにそんなに構ってくるんですの!?」


「そりゃあ、カリナちゃんをからかうの面白いし」


「人をおもちゃのように扱うのはやめてくださる!?」



 未だ離れようとしないハルにカリナは本気で抵抗を始める。



「あー、何すんのー、カリナちゃん身体が冷たくて気持ち良かったのにー」


「わたくしは貴女の冷却装置じゃ……」

「おい」


 カリナの言葉を、カイが途中で遮る。

 いきなり掛けられた声にカリナはビクリと肩を震わせた。


「え、な、何かしら?」


「ん? ああ、悪い。お前じゃなくて――」


 そこまで言ってカイはハルに近づく。


「お前、まだ体調悪いのか?」

「………………!」


 しまった、と思ったハルはできるだけ動揺を悟られないように表情を崩さずいつも通りの対応をする。


「えー、そう? んー、確かにまだこの前の勝負の疲れは残ってるかも……?」


「この前のって……もうあれから1週間経ってるぞ?」


「だよねぇ、私ももう歳かな?」


「10代のくせに何を言ってますの……」


 ようやくハルから解放されたカリナからツッコミを頂く。



「3人揃ってこんなところで何してんの?」



 後ろからいきなり声を掛けられそちらを見ると、そこにはハルの師匠であり、カリナの想い人でもあるロイドだった。


「……休んどけって言っておいたはずだよね?」


 ギロッとハルに鋭い視線を向けるロイド。

 手には何故か魔法の杖が握られている。


「言うこと聞けないなら無理矢理寝かせることになるけど?」


「き、昨日まではちゃんと休んでたよ! この私が1週間も布団の上でジッとしてたんだよ!? もういいじゃん!」


「やっぱりお前、どこか悪いのか?」


「あー! ほら、ロイドのせいでカイにまで心配かけさせちゃったじゃん。大袈裟だよ大袈裟!」


 ブーブーと子供のように喚き始めるハルにカイはより一層怪訝な表情になる。


「…………まぁいいよ。でも、少しでもおかしいって感じたら、僕かもしくはあの馬鹿王子に言うこと。わかった?」


「はいはい。わぁーってますよ」


 しっしっと面倒臭そうに手を振るハル。

 そこで、ハルは良いことを思い付く。


「あー、そういえばカリナちゃんさっき買い物に行きたいって言ってなかったっけー?(棒)」


「はえ!? い、いきなりなんですの?」


「それならロイドについてきてもらえばいいんじゃない? ほら、カリナちゃんも王家の血筋だし、護衛をつけておくに越したことはないでしょ?」


「そ、それはそうかも知れないけれど……」


「ほらほら、外は何があるか分かんないんだから。ロイドならこれ以上ないくらいの護衛でしょ?」


「で、でも……」


 ちらりとロイドを見るカリナ。

 その顔はまさに恋する乙女の顔である。


「ん? なに? カリナ買い物行くの? まあ荷物持ちくらいならしてもいいけど……」


「はい決まり。ほれ、行ってこい!」


 ロイドとカリナの背中を押して、2人を無理矢理買い物に行かせる。

 あれ以上ロイドにグダグタ言われるのは勘弁だったハルと、ロイドと一緒に出掛けることができて嬉しいカリナ。

 これぞWin-Winの関係というやつである。

 この際ロイドの意思は無視する。


 すると、ふとカリナと目が合う。


(ガンバッ!)

(べ、別にこれを借りだとは思いませんからっ)


 ビッと親指を立てるハルに、カリナは微かに頬を赤らめてプイッと顔を背けた。


「おい、本当に大丈夫なんだよな?」


「大丈夫だって。カイくんは心配性だなぁ」


 ケラケラと何でもない風に話しているが、カイが心配するのも無理はない。


 本来なら、今頃ハル達はとっくにアランカの屋敷に帰っている予定だったのだ。


 国王との顔合わせも済み、ライン王子との突然決まった勝負も終わり、国王との学校建設における交渉も済んだ。


 あとは適当に王都の街を案内してもらって、ハル達は2、3日で帰る予定だった。


 では何故1週間も経った今も王城を徘徊しているのかというと、王子との勝負が終わり、国王との交渉も全て1日で終わらせたハルはすっかり疲れきってしまい、その日の夜、そのままとても深い眠りについたのだ。



 ――丸4日も目を覚まさない程の深い眠りに。


 

 翌朝中々部屋から出てこないハルの様子を見に行ったルルとリリィが、ハルが目を覚まさないと慌てた様子でカイ達に告げたのだ。


 それを聞いたカイ、シュナ、ロイド、カナタが急いでハルの部屋に向かい、ベッドの上で静かに眠っているハルを見に行った。


 ハルは規則正しい寝息を立てて、とても気持ち良さそうに寝ているのだが、いくら揺すっても、叩いても、目を覚ますことがなかった。


 そして4日後、何をしても起きなかったハルが、普段通り欠伸をしながらおはよーと言いながら起きてきたのだ。


 ずっと眠っていたハルに当然その自覚はなく、本人的には普通に翌日起きたつもりだったらしい。


 本人に丸4日寝てたんだぞと伝えると、一瞬驚いた表情を見せた後、「どーりでお腹が空いているわけだ」とすっとんきょうな返答をしていた。



 ハル自身起きた後は身体が重く、初めは寝過ぎたせいだと思っていたのだが、その身体の怠さがそれから3日経った今でも少し残っていた。


 自分の手をグーパーグーパーとしながら見つめる。


 やはりまだどこか本調子とは言えない身体の重さを感じる。


「ま、もっと体力つけろってことだよね」


「……?」


 ハルの呟きにカイは疑問符を浮かべながら首を傾げるが、深く追求することはしなかった。





        ×  ×  ×





 買い物から帰ってきたところをからかって顔を赤らめたカリナに一通り追い掛けられた後、ハルは宛がわれた部屋に戻って一息吐いていた。


「あー、やっぱりカリナちゃん面白いわー。からかいがいがあるわー」


 顔を真っ赤にしたカリナちゃんを思い出して1人でクスクス笑っていたハルは、背中のクロスボウを装着具ごと下ろす。


「はぁ、今日こそ外に出てやろうとクロスボウとか装備したのに、結局ずっとカイに見張られて出れなかったなぁ。カイめ、私を裏切ってロイド側につくなんて……」


 ハルの見張り役に任命されたカイはここ2、3日ずっとハルと行動を共にしていた。


「ま、本調子じゃないのは確かだけどさぁ」


 まだ少しだけ怠い身体ではあるものの、もう既に体力測定の翌日の怠さくらいには回復しているのでハルの中では明日か明後日には全回復していると予想しているのだ。


「まったく、皆心配性なんだから……」


 そう呟きながら手首の魔道具も外す。


「――あ、そういえば王子との勝負でこいつの魔力も結構使っちゃったんだった。魔力補充しとかないと」


 ブレスレット型の魔道具に嵌め込まれた魔石。

 ハルの場合クロスボウの矢に付与する魔法の元となる魔力を貯めておく場所。

 

 ここに貯めておけば貯めてある分はいくらでも魔法が使い放題ではあるが、当然その魔石の中の魔力が空になってしまったら魔法は使えなくなってしまう。


 なので、ハルは日頃から魔力を魔石に貯めていくという日課があるのだ。


 しかし3日前目を覚ましてからは周りから心配されたり色々あったせいでその日課をすっかり忘れていた。


 久しぶりに魔力を補充しておこうと魔石に手を翳し、魔力を魔石へ注入していく。



 それはいつもの感覚で――

 いつもと同じように――

 いつもと同じ量を――





「……………………あれ?」


 


 そこでハルの意識は完全に途切れた――



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