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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第3章 王都にお呼ばれ
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10.ゆー うぃん!


「その武器、矢の装填時間が弱点になってるね」


「…………っ!」


 煙幕のせいでその姿は見えないが、間違いなくすぐ横にいる。

 

 ハルは慌てて次の矢をセットしようとする。

 しかしハルは、違和感を感じて矢の装填をいったん止め、思いっきり横へと大きく跳ぶ。


 その数瞬後、ハルがいた場所で小規模な爆発とも呼べない破裂が起こる。


 人に直撃すれば死にはしないだろうが、それなりの怪我はするであろう規模の爆発が。



「……避けた? 僕の『ボム』を? 一体どうやって……」



(うおっ、あっぶなぁ! なに今の!?)


 ハルは煙幕に紛れながら走り出し、今度こそクロスボウに矢をセットする。


(さっきの爆発が王子の魔法だとして、あれを避けられたのは運が良かった。それにしても、王子が私の居場所が分かる以上煙幕は完全に逆効果だった…………ッ!)


 ハルは再び違和感を感じる。

 微かな空間の歪みのような。


 それを再び横っ飛びで躱す。

 転がるように飛び退いたハルがいた場所で小規模爆発が起こる。


「いたた……私もカイやシュナみたいにバク転とか出来たらもっと格好良く避けられるんだろうけど……」


 跳んで転がるようにしか躱すことの出来ない自分の運動神経の悪さが恨めしい。


 しかし、あの攻撃がどこから来ているのか分からない以上、ライン王子がどこにいるのかも分からない。

 いっそのこと煙幕を晴らそうかとも思うのだが、考えが纏まるまではこのままの方がいい。向こうも声のみでハルの場所が分かっているだけで見えているわけではない。


「……ッ……また……っ!」


 今度は走っているハルの前方の空気が歪む。


 ハルは素早い判断で矢を地面に撃つ。

 するとその矢は水の壁に変化し、ハルと爆破点の間にそびえ立つ。


 爆発は水の壁に阻まれ、ハルまで届かなかった。




 3発連続で避けたとなると、流石に偶然ではない。

 ハルは確信を持ってライン王子の攻撃を躱している。


(僕の『ボム』を躱すのか……うーん、僕の『ボム』は不可視のはずなんだけどな……)


 ライン王子は目を瞑り読心魔法を発動させる。

 ハルの考えている言葉が右前方からしっかりと耳に(・・)届く。


(今度こそ……『ボム』!)


 突き出した杖に魔力が貯まっていく。

 そしてその杖が指す先で小規模爆発が起こる。


(……また手ごたえがない。どうしようか……)


 またも魔法攻撃を躱されたライン王子は苦笑いを浮かべた。




 4度目の爆発も躱したハルはあの爆発の正体を見極め始めていた。


(……魔法、だよね……? どんな魔法かは分からないけど、あれが本当に魔法ならそこには魔力も存在する……物は試しだ)


 ハルは走り回っていた足をいったん止め、クロスボウを背中の装着具に戻す。


 そしてスカートを軽く捲り、太ももに巻かれたケースに入っている短刀を取り出す。


 その短刀を右手で逆手に持ち、真っ白な視界の中で意識を集中させる。



(若干だけど、煙幕も晴れてきた……これなら………………っ!)


 

 自分の右肩付近に微かな違和感を感じる。

 先程までと同じ僅かな空間の歪みを見つけたハルは、その歪みに向かって短刀を突き立てた。


 すると、先程まではそのまま膨張し破裂していた空間の歪みが、徐々に収縮していき、やがて短刀に吸い込まれていくように消えて無くなった。


(本当にできちゃったよ……これは王子も焦るでしょ)


 ライン王子の『ボム』の魔法を不発にしたハルは、また走り出す。


 それからも何度か魔法を撃たれたが、その全てをハルは魔石で作られた短刀で吸い取っていく。


「…………」


 そして走り回り、爆発を吸い取っている間に、ハルはあることに気がついていた。しかも、そのまま勝利に繋がるような重大なことにだ。


 ここまでライン王子の攻撃は、何故か全て一発ずつの攻撃だ。

 

 たとえハルが躱そうが、消滅させようが、連続で撃てば一発ぐらいは当たるかもしれないのに。常にハルの居場所が分かっている王子にとってそれは造作もないことのはずなのだ。


 では何故ライン王子は連続で攻撃を仕掛けないのか。


 理由は簡単である。

 ライン王子は走り回っているハルの正確な位置を常に把握している訳ではないからだ。

 魔法を一発撃つ度に、毎回ハルの位置を確認し直さなければならないのだ。




(――つまり、読心魔法は他の魔法と同時に使うことが出来ない。違いますか? ライン王子)




「…………ッ!」


「……! そこか!!」


 心の声によるライン王子の僅かな動揺を敏感に察知したハルは、短刀をいったんしまい、素早くクロスボウを構え、風の魔法を纏った矢を放つ。


 放たれた矢は煙幕を晴らしながらライン王子へ向けて突き進む。


「『シールド』!」


 高速で防御魔法を唱えたライン王子は、ギリギリのところで何とか己に向かってくる矢を止める。



 が、それはまだハルの攻撃の最初の一手でしかない。



 矢を放ったと同時に意外と距離が離れていたライン王子の方へと走り出したハルは素早くクロスボウに矢をセットし、二手目に備える。


 風の矢のおかげで煙幕が晴れた結果、視界が開け、ライン王子もようやくハルの姿を肉眼で確認する。


 矢を構えて自分の方に向かってきているハルの姿を――


「……っ……『ボム』!」


 走ってくるハルに向かって魔法を唱えるライン王子。

 しかし、そこでライン王子は驚くべき光景を目にする。


 今までは煙幕のせいで何が起こっているのか分かっていなかったが、今は肉眼でしっかりと確認ができた。


 

 ――走りながら再び短刀を抜いたハルが、ライン王子が爆発点に決めた場所に向けてその短刀を突き刺した。



 途中から爆発の音さえ聞こえてこなくて内心焦っていたライン王子だが、まさかあんな短刀1本で自分の爆発魔法が防がれているなんて、思いもしなかった。


(あの短刀は……それに不可視の爆発点が見えているのか……!?)


 そのありえない光景に一瞬反応が遅れる。


 ハルが既に2射目を放っていた。


(しまった、ギリギリ間に合うかっ……?)


 先程よりも高速で防御魔法を唱えようとするライン王子だが、矢が描く軌道を見てその詠唱をキャンセルする。


「これは!! まさかロイドの……!」


 矢はライン王子の足元に突き刺さると、その瞬間矢はその姿を水の膜に変え、ライン王子を絡め取ろうと襲いかかる。


 そう、この魔法はロイドがグリフォンに使おうとしていた魔法だ。


「くっ……『ボム』!」


 ライン王子は自分に襲い掛かる水の膜に向けて『ボム』を放ち水の膜を吹き飛ばすが、その爆発点が近すぎたせいでライン王子も反動と爆風で後ろに飛ばされる。


「いっつ……!」


 ゴロゴロと転がりながら何とか体勢を立て直し、片膝を付いた状態で顔を上げる。


 すると矢の先端が既に目の前まで突き付けられていた。



「…………はぁ、まいったよ。降参」


 目の前でクロスボウを構えているハルに向けて両手を挙げながら降参を告げた。





 こうして、勝負はハルの勝ちで終わった。

 




        ×  ×  ×





 軽いすり傷を回復魔法で治してもらったライン王子は医務室を出てロイドを探す。

 すると、意外とすぐに見つかった。


「……いやー、強かったねハルちゃん。流石はロイドの弟子だよ」


「まぁ、お前が『ボム』以外の魔法も使えば勝てなかっただろうし、言うことを聞かせる権限は無しにしてあげるよ」


 ロイドもライン王子の隣に並び2人で歩き出す。


「それにしても、あの魔道具には驚かされたね。どんな魔法だろうと矢に付与することができるのかな?」


「詳しいことは知らないけど、他にもいくつもパターンはあるみたいだね」


「おっそろしーなぁ……あれを発明した人には是非とも王城で専属科学者として働いてもらいたいものだね」


 わりと本気で検討する王子。

 あれほどの魔道具を作れる発明家は国中を探しても滅多にいないだろう。


「んで? 僕を探してたみたいだけど、本題は?」


「…………」


 ロイドの問いに少し黙り込む王子。


「……?」


「……ハルちゃん、本当に凄かったよ。戦っている最中に気が付いた。あの娘には君と同じものを感じたよ」


「…………いやいや、あいつが僕並みのレベルなわけないでしょ。買いかぶりすぎ……」


「ロイド、はぐらかすな」


 ライン王子の声が唐突に真剣なものに変わる。


「この僕が、あの少女に君と同じものを感じたと言ったんだ。″君に似たもの″じゃない。″君と同じもの″を感じたと言っているんだよ」


 ロイドは彼が何を言いたいのか初めから分かっていた。

 分かった上ではぐらかしていた。






「ロイド……どうして彼女の中に、君の魔力(・・・・)が流れているんだい?」






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