9.れでぃーふぁい!
「勝負するって言っても、クロスボウは使えないよね? 下手したら死ぬよ?」
「大丈夫だよ。回復魔法が使える人も準備してるし、頭と心臓意外ならどこ狙っても構わないよ。むしろ、殺す気でいかないと速攻でやられるかもよ?」
殺傷能力の高いクロスボウを一国の王子様に向けて撃つのはかなり危険と言える。
いや、地球ならそもそも人に向けるようなものではないのだが。
しかし、ロイドがここまで言うということは、やはりライン王子もそれなりの実力者ということだ。
(読心魔法……本来その力が発揮されるのは戦闘の中ではないはず。交渉、尋問――使い道は様々でも1対1の戦闘ではそこまで役に立たないと思うけど……)
「それはどうでしょう?」
「わっひゃあ!!」
突然背中から掛けられた声に飛び跳ねながらつい変な声が出る。
普通に声を掛けられただけならまだしも、いきなり後ろから心の声に応えられると流石にビビるのも仕方がない。
「……王子って常にその魔法を発動しているんですか?」
「うん? いや、そんなことはないよ。使うときはちゃんと標的を決めて、自分のタイミングで使ってる。それにそんな常に発動してたら四六時中うるさくて敵わないし、魔力も勿体無いでしょ?」
「確かに……」
一理ある。
しかし、今の言い方では、使おうと思えば四六時中使うこともできるということだ。
「まあ、そうなるね」
(………………本当は常に発動してるんじゃ)
ハルがそう思うのも無理もないほど、ライン王子の返答は毎回的確だった。
「その方が例の?」
「へ?」
突然の声に間抜けた声が出る。
声の主がライン王子の背中からぴょこりっと顔を出す。
金色の髪に薄ピンク色のドレスを身に纏った少女。少しつり目気味な蒼い瞳がまるで彼女の強気な性格を表しているかのようだ。
「えっと……そちらは?」
「あ、この子はね……」
「どうも、わたくしの名前はカリナ=アインツベルク。どうぞお見知りおきを」
ライン王子をズイッと横にどかし、ハルの前へ出るカリナ。
「え、アインツベルク……?」
「ええ。ライン兄さまとは従兄妹に当たります。わたくしの父親がダルキ=アインツベルク国王陛下の弟になりますね」
「はぁ、なるほど」
「それで?」
「へ?」
「人に名乗らせておいて自分は名乗らないのかしら?」
やけに高圧的だなぁと思いながらも、年上のお姉さんとしての余裕を見せようと軽く得意の営業スマイルを作るハル。
「これは失礼しました、私は咲場 春。今回は国王陛下のお呼び出しにより王都まで足を運ばせていただきました」
「そ。ま、そんなことはどうでもいいのよ」
(いいのかよっ!)
心の中で律儀にツッコむハル。
では何故この少女はこんなにハルに高圧的なのか。
誰にでもそうなのか、それともハルだけになのか。
当然彼女とは初対面だし、いきなり嫌われるような心当たりはない。
「そういえば、先程仰っていた例の方、というのは?」
恐らく5つは離れているだろう年下の少女に丁寧に敬語で話す。こういうところは小さい頃に父親から叩き込まれた成果である。
「…………あなた、ロイドの弟子というのは本当かしら?」
「え? まあ、本当ですけど」
「……っ、なんでこんな女を……」
「…………!」
小さく呟くカリナを見て一発で気づく。
(なるほど。この娘も年頃の女の子ということか)
地球で学生をしていた頃は女子からは基本嫌われており、男子からは近寄りがたかったのか距離を置かれていたハルは今までそういった話をする友達はいなかった。
所謂恋バナというやつだ。
今までそういったキャッキャウフフな会話という経験がないハルでも彼女の反応を見ればすぐにわかる。
ここでロイドとは全くこれっぽっちもそういう関係ではないし、正直そういう対象にもならないよ。と言うのは容易い。
だが、ここでそんな言葉を掛けられるくらい素直なら、学生時代にぼっちなんてしていない。
いや、ある意味素直と言えば素直なのかもしれない。
ただあくまでも、″面白そうなことにはとことん首を突っ込む″という自分の欲望にだが。
「そうですね~、ロイド師匠には大変お世話になっています」
「……む」
「色々と手取り足取り教えてもらったり……」注:射撃のことです
「なっ!」
「夜の森で一緒に寝たこともありますし」注:カナタやカイ達も一緒に野宿したときのことです
「そんな、まさか……!」
「ていうか、最近まで同じ屋根の下で暮らしていましたし」注:カイ達と暮らしているハルの屋敷にロイドとカナタを泊めていたという意味です
「」
11歳少女に大人気ないと思われるかもしれないが、当の本人はそんなこともお構いなしに笑いを堪えるのに必死だった。
「は、はは……それじゃあそろそろ始めようか」
恐らく読心魔法でハルの心を読んだライン王子は苦笑いを浮かべながらハル達を促すのだった。
× × ×
「それでは両者準備を」
「いやゴドウィン、こんなところで何をしてるの?」
向かい合ったライン王子とハルの間にはゴドウィンと呼ばれた鎧を身に纏っているゴツい男性が立っていた。
「あ、さっき国王陛下の後ろにいた……」
「アインツベルク騎士団団長のゴドウィンだ。この手合わせの審判をさせてもらう」
「は、はあ……」
「いやいや、仕事しようよゴドウィン。騎士団長って暇じゃないでしょ?」
「そのお言葉、そっくりそのまま返させていただきます。王子の仕事も決して暇ではないはずですが?」
ギロリと一睨みを効かせるゴドウィン。
その視線にライン王子は苦笑いをしながらも何も言い返せずに肩を竦めるだけで終わった。
「それに、ロイド殿のお弟子がどれ程の実力なのか、私も見てみたいので」
(わぁお、何か勝手に期待されてるぅ……)
アインツベルク王国最強の魔法使いの弟子になり、アインツベルク騎士団団長に期待されながらアインツベルク王国第1王子と手合わせする状況になっているなど、つい数ヶ月前まで運動が苦手な普通の学生だった自分に言っても絶対に信じないだろう。
(まぁいいや。集中しよ)
背中のクロスボウを装着具から取り外し、安全装置を解除する。
右手首に装着してあるブレスレット型魔道具を確認する。
(魔石にはロイドの魔力がたっぷり貯めてあるし、魔力切れということはまずないと思うけど……)
「へえ、面白そうな武器だね」
「!?」
(しまった……この魔道具のことがバレたか?)
「その弓矢? 変わった形だね。初めて見たよ。ゴドウィン、見たことある?」
「いえ、私も長年戦場に立っていますが、見たことがありません」
ライン王子とゴドウィンが興味深そうにハルが持つクロスボウを見ている。
(あ、なんだ、そっちか……)
「――それで、その右手首の魔道具には魔力が込められていると」
(やっぱりバレてるし!)
ライン王子の読心魔法の何が厄介かというと、心を読まれた側がそのことに気づかないというところだ。
完全ノーアクションで発動することのできるその魔法はルルとリリィの幻覚魔法同様、回避不可能だ。
さっきはおどけた人のように見えたが、こうして改めて正面に立つと素人のハルでも分かるくらい隙が見当たらない。
(今やアインツベルク最強と言われているロイドとカナタの土台を作った人……油断できないよねこれ)
「最後に確認ですけど、これは王子もさっき言ったように弓矢に似た武器。なので最悪王子の身体を矢が貫くかもしれません。そうなった場合でも私、処刑とかなりませんよね?」
「……ぷ、あはは。大丈夫だよ。これは僕から仕掛けた勝負なわけだし、遠慮なく撃ってきて大丈夫だよ。――それに、ただの弓矢じゃ僕には届かないよ」
「…………その言葉が聞けて安心しました。それでは遠慮なく」
ハルはクロスボウを構え、ライン王子に照準を合わせる。
「それでは、始め!」
ゴドウィンの合図と同時にハルが引き金を引く。
『シールド』
ライン王子が軽く杖で円を描くと、王子の前に半透明な壁が発生した。
その壁に矢が衝突した瞬間、矢が破裂する。
「……!」
破裂した矢から真っ白な煙幕が発生し、あっという間に闘技場を煙が埋め尽くす。
「目眩ましかな? でもこれじゃあ君も僕の位置が分からないんじゃない?」
「ご心配なく!」
煙幕を焚いたと同時に走り出したハルは、ライン王子から一度距離を置き、クロスボウに矢をセットする。
(普通の人間ならこの煙幕の中では不用意に動けない。それならもともと相手がいた場所を覚えておけば、自分がどこに移動しようともある程度の場所は分かる)
元いた場所とは真逆の場所、つまりライン王子の背中側に移動したハルはライン王子がいるであろう場所に向けて矢を放つ。
今度は魔法を付与しない普通の矢だ。
「1ついいことを教えてあげよう」
「!?」
その声は矢を放った場所とはまるで違う場所。
ハルのすぐ隣から聞こえてきた。
「僕の読心魔法は標的にした者の心の声が、本当の声のように聞こえてくるんだ。そうそれはまるで、″その人が本当に喋っているかのように″ね」
「……!」
本当に喋っているかのように聞こえる。
つまり彼は――
「ごめんね。煙幕の中でも簡単に動けちゃう、普通の人間じゃなくて」
ハルの声を頼りに煙幕の中を移動したということになる。
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