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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第3章 王都にお呼ばれ
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4.いざ行かん


 早朝、ハル達は全員屋敷の前に集合していた。


 今日は王都への旅立ちの日。

 王都までは途中でグリフォンという獅子の身体に鷲の頭と翼を持ったモンスターを倒すまで徒歩で向かう。


 それぞれがそれなりに武装している。

 問題なのは今回はユニーが留守番ということだ。

 つまり馬車はなく、荷物も最小限にしなければいけない。


 特にハルの武器は消耗品である上に、かさばるので持っていける矢の数も限られてくる。


 一発撃ったら矢が使い物にならなくなる魔道具を使った魔法を付与した攻撃は多用できない。


 シンプルにハルの成長した射撃の腕を師匠に見てもらうことになる。

 実際先日の事件でも、ロイドが駆け付けた時にはハルは昏睡状態であり、ハルが戦っている姿は見ていない。


(魔道具にばかり頼っていたら腕も鈍りそうだしな~)


 今回は仲間もいるし、魔道具を使わなくてもいい状況は多いだろう。


「それじゃ、そろそろ行くよ」


 ユニーの喉を撫でていたロイドが皆に声を掛ける。

 各々リュック等を背負い直し、街の方へと向かおうとした時、少し上の方からハル達を呼び止める声が聞こえた。


「おーい、皆もう行くのかい?」


 声のする方を見上げると、研究所の2階、ヒーラの自室がある2階の玄関からぴょこりと顔を出したヒーラが手を振っていた。


「いつも寝起きが悪いヒーラさんがこんな時間に起きてるなんて珍しいんですね。もしかして起こしちゃいましたか?」


「いや、さっきまで色々と研究してて、今から寝るところだよ」


「あー、ヒーラさんらしいですね」


 ヒーラはイケメンでとても優しい完璧超人に見えるかもしれないが、私生活は意外とだらしない。


 料理も出来ないし、部屋も常に散らかっている。

 本人はその事をあまり気にしていないのだが、顔が超美形というだけで、どちらかと言えばハル側の人間だ。


 最近は女の子らしくなりたいならそういう私生活から気を配りなさいとルルからよくお叱りを受けている。


「……ていうか、ヒーラさん。いつも通り白衣なんですね」


 2階から下りてきたヒーラの格好を見て僅かに目を細めるハル。

 そしてそのままその目をルルとリリィに向ける。


「ち、違うわよ? ちゃんと可愛い服を買ったわ!」


「そ、そうです。それにさっきまで研究してたって、言ってたので、白衣は当然では、ないでしょうか……!」


 それもそうか。

 ハルはいったんルルとリリィのお小遣い減額を保留にし、再びヒーラに向き直る。


「ヒーラさん、ユニーのお世話お願いします。できるだけ早く帰るつもりなんで、ご飯をあげて、たまに敷地内を歩かせておけば大丈夫なので。ヒーラさんの言うことならちゃんと聞くと思うし」


 ユニーだけではなく、ユニコーンという生き物は全て人間の言葉を理解している。

 その上で女の子の言葉には大抵従うので、ヒーラなら大丈夫だろう。


 男で言うことを聞くのはユニーを買った馬車屋の店主とロイドくらいである。

 カイにはいつまで経ってもなつく気配がない。


「うん、こっちのことは任せてゆっくりしておいでよ。王都へは初めて行くんだし」


「まあ、観光気分で行くことにします」


 国王様に呼ばれているのに観光気分とは聞く人によっては無礼だと怒られるかもしれないが、そもそもハルはあまり今回のお呼ばれにあまり乗り気ではない。

 しかし、師匠達のメンツを潰さないために仕方なく行くというところがほとんどだ。

 

「じゃあいってきますね」


「うん、いってらっしゃい」


 ヒーラとユニーに見送られながら、ハル達は屋敷をあとにした。





        ×  ×  ×





 街の門にやって来たハル達は、そこで待っていた少女を見つけて立ち止まる。


「……シュナ? 何してんの?」


 そこにいたのはいつものローブを身に纏い、刀を左腰に携えた犬耳の褐色少女だった。


「私も連れていって欲しい。昨日カナタ殿と手合わせしてもらったが、あそこまで力の差があるとは思わなかった。私はまだまだ修行が足りなかったみたいだ」


「はあ」


「だから私も一緒に行って、是非とももっと近くでカナタ殿の戦い方を見たいのだ。頼む、私も一緒に連れていってくれ!」


 パンと両手を合わせて頭を下げるシュナ。

 ハルにとって仲間が増えることは悪いことではない。むしろシュナほどの実力者ならこちらから頼んででも仲間にしたいくらいだった。


「私は全然構わないよ。皆は?」


 確認を取るように皆に振り返る。

 他のメンバーも特に反対する者はいないようで、ハル達は7人で王都へ向けてアランカの街を出た。





        ×  ×  ×





「先に言っておくけど、今回は王都に着くまでにグリフォンを見つけて倒すのが目的。最悪倒せなくてもいいけど、グリフォンの羽はいくつか欲しい」


 アインツベルク王国第一王子であるライン王子がロイドにグリフォンの羽ペンが欲しいと頼んだことから今回の任務が発生した。


「だから、グリフォン以外の敵に基本僕とカナタは手を出さないから。他のモンスターは君達だけで頑張ってね」


 森に入ってすぐ、ロイドがそんなことを言い出した。


「いや、は? 確か、王都に続く森ってグリフォン以外にも強いモンスターがうようよしてるんだよね?」


「そうだけど?」


 何を当たり前なことを言ってるの? と首を傾げるロイド。


「何でそれを私達だけで? そんな面倒なことをしくてもロイドとカナタならちょちょいのちょいでしよ?」


「それじゃ何の意味もないでしょ。カナタは昨日カイの成長を見たみたいだけど、僕はまだ弟子の成長を見てない。僕は特訓だの修行だのしない代わりに実践で全部やらせるタイプだからね」


 それを言われては何も言い返すことが出来ない。


 どうやらやる気がない訳ではなく、ただ方針が違うだけだったようだ。

 鍛練に鍛練を重ねて力を付けていくカナタと、実践で経験を積ませるロイド。

 どちらが正解とかはなく、強いていうならどちらも正解だろう。


「うーん、まあ頑張ってみるか……」


「その意気その意気。というわけで、早速アレの相手、よろしく」


 そう言って親指を自分の後ろに向けたロイド。

 指した指の先に視線を向けるが、そこには何もいない。


「…………いや、上だ!」


 すんすんと鼻を鳴らし、索敵したシュナが木の上に視線を向ける。


 そこにいたのは高さ5メートルは優に越える巨大熊が空中に浮いてこちらを見下ろしていた。


「うおっ、なにあの熊。背中かから羽生えてるよ羽!」


 初めて見る奇妙なシルエットをした熊に目を見開くハル。


「あれはフライベアだ。以前アランカに群れで来たことがあっただろう」


 シュナが言うと、ハルは何となく思い出す。

 

 そういえば、ハル達が初めてシュナと会ったとき、街ではフライベアの群れが山から下りてきたとかで冒険者が退治に行っていたはずだ。


「あー、シュナが私達のことを襲ってきたときのことね」


「確かにその通りだが、あれはもう忘れてくれ」


 からかうように言うハルに顔を赤くしながら、シュナは腰の刀を抜く。


「集中した方がいい。あそこまで大きなフライベアは私も見たことがない。あの大きさの翼からすると、かなりの魔力量だ」


 フライベアとは背中から翼の生えた熊で、今回ターゲットにしているグリフォンと似た特性を持っている。


 まず、その名の通りフライベアは空を飛ぶことができる。

 しかし、飛行はその翼を使ってしているわけではなく、飛行魔法で飛んでいるに過ぎない。


 では、その翼は何のためにあるのか。


 あれはいわば魔力貯蔵庫で、翼に魔力が貯められているのだ。

 故に、翼が大きいフライベアほど魔力が多く、強い個体だと考えて問題ない。


「それで? あのフライベアの翼は他のフライベアと比べて大きいってことでいいのかな?」


「ああ、両翼合わせたら恐らく6メートルは越えている。普通は大きくても2、3メートルのはずなんだが……」


 ハルも背中のクロスボウを装着具から外し、安全装置(セーフティ)を解除する。


「魔法で飛んでいる、か。確かに飛んでいるっていうより、浮遊してるって感じだもんね」


 空中で停滞しているフライベアはジッとこちらを見つめている。


 フライベアは雑食で、木の実から森に入ってきた冒険者の肉まで何でも食べる森のハンターである。

 恐らくハル達のことも餌として見ているに違いない。


「って言ってもあの大きさじゃ素早い動きも小回りも効かないでしょ!」


 フライベアに向かって矢を放つハル。

 魔法は付与していない矢がフライベア目掛けて進んでいく。

 

 が――、


 その矢はフライベアまで届かなかった。

 

 フライベアは背中の翼を一度羽ばたかせることで強風を生み出し、向かってくる矢を吹き飛ばす。


「うおっ……何だよこの風!」


 カイは片膝で地面に手をつき、ルルとリリィは身を寄せあってその風に吹き飛ばされないように耐える。


 ハルとシュナも足に力を込めて、強風に耐える。


「翼のたった一振りでこんな風……これも魔法ってこと?」


「そういうことだ。フライベアは近距離では鋭い爪とパワーで、中距離では風魔法を操って戦う頭の良いモンスターだ」


 この強風の中では矢も撃っても真っ直ぐ飛ばず、すぐに落とされてしまうだろう。

 しかし敵が空にいる以上攻撃手段はハルのクロスボウしかない。


 貯めてある魔力も無限ではないしできるだけ使いたくはないのだが、状況が状況だし仕方がない。


 ハルは右手首に装着したブレスレット型の魔道具を起動させ、魔石に貯めてある魔力を魔法に変換していく。


 強風すらも切り裂くほどの風魔法を矢に纏わせようとした時、ハルの右手首が何者かに掴まれる。


「……!? ビックリした……どうした?」


 ハルの手首を掴んでいたのはいつの間にか近づいていたルルだった。


「魔力の無駄遣いよ。その魔道具は確かに強力な攻撃を生み出せるけれど、この先のことも考えたらそれはまだ使うべきではないわ」


「いや、確かにそうかもしれないけど、今の状況は使うべき時だと思うんだけど?」


「それを使うのは本当に他に手がないときだけにしておきなさい。はっきり言って、ハルのその魔道具が使えなくなったらこの先かなり厳しくなるわ」


「だからその他の手がないから使うんでしょ? あの高さじゃカイもシュナも届かない。私の矢もそのままじゃ強風のせいで届かないんだから」


 それを言うと、ルルは不満げな表情を見せる。


「……おかしいわね。アタシとリリィの魔法なら風も高さも関係ないはずなのだけど、何で候補から外されているのかしら?」


「はぁ? それこそ魔力の無駄遣いでしょ。ルル達の魔法は1日に2回しか使えないじゃん」


 ルルと言い合っていると、反対の手も誰かに掴まれた。


「わたしたちの魔法は、攻撃力がないので、あのフライベアを倒すことは、できません。でも、地に降ろすことなら、できます」


 左手を掴んだのはリリィだった。


「その魔道具を使ってもこの強風の中じゃ一撃で倒せるかは分からない。でもアタシ達の魔法なら必ずあの熊を地に落とすことができる。それにアタシ達は明日になればまた魔力が回復するわ。それでもまだアタシ達に任せられないって言うの?」


「……はぁ、わかったよ。チームワークってやつね。んじゃ、2人ともお願い」


「ええ」

「はい……!」


 強風が吹き荒れる中、ルルとリリィは手を握り合い、互いの魔力をリンクさせた。







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