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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第3章 王都にお呼ばれ
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3.アランカの獣人


 新たにクロスボウの矢を150本くらい購入した私は、一度屋敷に戻るのも大量の矢を持って街を歩くのも面倒だったので、屋敷までの宅配サービスを頼んだ後、ギルドへ向かっていた。


 ギルドではクエスト内容が書かれた紙が大量に貼ってある掲示板の前に冒険者達が集まっており、カウンターにはあまり人がいなかった。

 

 私はカウンターに向かい、ギルド職員の1人に話し掛けた。


「あの、今日ここのギルドマスターさんと約束している咲場 春なんですけど」


「ああ、聞いております。少々お待ちください」


 職員さんの丁寧な対応に私は頷いて椅子に座って待つことにした。

 3分くらい待っていると、カウンターの奥から何となく見覚えのある女性が現れた。


「お待たせしました。サクバ ハル様ですね? 私はアランカのギルドマスターでシルシといいます」


 赤縁の眼鏡を掛け、ピシッとしたスーツ姿をした黒髪ロングの美人な女性。

 ギルドマスターとはそのギルドで一番偉い人のことを指す言葉だ。しかし、一番のお偉いさんにしては随分と若い人だ。まだ24,5歳にしか見えないのだが。

 しかもこの人何となくデジャヴ感がある。


「あの、私達どこかで会ったことありましたっけ?」


「……? いえ、なかったと思いますが。基本的に私はギルドの裏方にいるので」


「あー、ここじゃなくて、もっと別の場所で」


「それだと尚更ないと思われます。私はここ数年この街から出ていませんし」


 そう言って両手で眼鏡の両縁を上げる。

 しかし、やはりこのピシッとした仕事出来るウーマンをどこかで見たことがある気がする。

 確か、私がまだこの世界に来たばかりのときに……


「あ! 思い出した! シルシさんってカンナギの銀行にいたお姉さんですよね?」


 そう、カンナギの銀行の職員にピシッとスーツを着こなした眼鏡を掛けた仕事が出来そうな女性がいた。カンナギを出ることになって捨てるにはもったいなかった服やら靴やら鞄やらを銀行のお姉さん達にあげようと思ったけど、一度あの頭の固そうなお姉さんに断られたのだ。


 まあ、結婚のことをほのめかせたら簡単に折れてくれたが。

 あの時のちょろいお姉さんでしょこの人。

 結構高級な服とかあげたのに忘れるとかひどくない?


「カンナギ? ああ、なるほど。サクバ様はカンナギの街にいらしたんですね。あの街の銀行で働いているのは私の姉です」


「へ? あー、姉妹だったんですか。道理でそっくりなわけだ」


「ええ、最近彼氏が出来たらしく、先日10枚分くらいの惚気手紙が届きました……」


 苦虫を噛んだような表情になるシルシさん。

 何でもあの時結婚に焦りを感じていたであろうシルシさんのお姉さんは、休日に私があげた服を着て街を歩いていたらいつも銀行を利用しているお兄さんに声を掛けられ、そこから交際が始まったらしい。私のギャップ萌え作戦大成功である。

 あとは結婚にがっつき過ぎて相手の男性に逃げられないことを祈ろう。


「一応カンナギでお世話になったので、私は今この街で元気にしてるって教えてあげてください」


 嘘は言っていない。行き場のない服達をもらってくれたのだから一応お世話になったと言っていいだろう。


「わかりました。今度手紙を出しておきます。さて、それではそろそろ今日の本題に入りましょう。2階の会議室を取ってあるのでそこへ移動しましょう」


「了解です」





        ×  ×  ×





 2階の会議室に移動した私とシルシさんは高級そうなソファーに向かい合うように腰掛けた。


「早速ですが、今日のご用件は?」


「はい、えっとシルシさんは私が今どこに住んでいるかご存知ですか?」


「サクバ様の住所ということですか? いえ、調べればわかりますが……一応個人情報ですので、ギルド職員でも個人の住所を覚えているということはありません」


 当たり前といえば当たり前なのだが、この世界にもちゃんと個人情報のセキュリティはあるようだ。


「そうなんですか。まあ別に隠してないので言いますけど、私今、街の外れにある屋敷に住んでるんですよ」


「屋敷? 屋敷ってあの作物が育たない土地に建っている?」


「そうそう、そこです。それで今はあの莫大の土地を持て余している状態なんですよ。作物どころか花も雑草すらも育たないので。そこで少し考えたんですが――その前に、シルシさんって、この街の獣人のことどう思ってますか?」


「え?」


「いや、獣人自身というよりも、どちらかと言えばこの街の獣人に対する対応をどう見てますか?」


 私の質問がいまいち理解できないのか、それとも何故私がそんな質問をするのかが分からないのか、シルシさんは首を傾げたまま何も喋らない。


「……私は今までカンナギとキサラギの街を見てきました。はっきり言ってキサラギは論外。カンナギもキサラギほどではありませんでしたが、それでも獣人を迫害差別している雰囲気は確実にありました」


「……なるほど、そういう意図の質問でしたか。確かにその2つの街と比べればこの街は獣人に理解のある人達が多く住んでいると思います」


「でもその理解のある人っていうのはほとんどが冒険者の人達ですよね? この街で一番人口の多い冒険者が何も言わないからそれ以外の人も仕方なく何も言わず一緒にこの街で暮らしている。私はそんな風に見えるんです。実際、人間が開いている店に獣人は行かないし、逆に獣人が開いている店に人間は行かない。ただ同じ街に住んでいるというだけで、互いに干渉しないようにしているように感じるんです」


「…………」


 それはこの街に住んでいる者なら誰でも気づいていることだろう。

 それくらい、この街の人間と獣人の間には目には見えない、だが誰にでも見える溝がある。


 最近は街の人達も慣れてきたのか何ともないが、初めの頃は街中で私とカイ達が一緒に歩いていると、物凄く視線を感じていた。それは人間側からも獣人側からもだ。


「それで、そのこととサクバ様の所有する土地に、何の関係が?」


 シルシさんの言葉に私はお得意の営業スマイルを作る。


「そこで私に考えがあるんです。ギルドからも少し協力してくれないかなと思いまして♪」





        ×  ×  ×





「たっだいまー。おーい、頑張ってる……かぁ!?」


 用事を終えて帰ってきたハルは、屋敷に戻る前に屋敷の隣にある実験場を覗いた。


 するとそこには無数に空いた巨大クレーターがあり、そのうちの1つに猫耳と犬耳が倒れていた。


「えぇっと……これは……」


「あ、おかえりなさいハルさん。用事はもういいんですか?」


「う、うん。もう終わらせて来たよ。いや、今はそんなことどうでもよくて……あれは一体……?」


 どうやら屋敷の冷蔵庫で冷やしていた水を取りに行っていたらしいカナタがハルの後ろから現れ、クレーターに一度目を向けてから、頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。


「い、いやぁ、思った以上にカイが強くなってて、あとシュナさんもかなり強かったから……嬉しくてやり過ぎちゃいました。てへっ」


 仕草と惨状が合っていない。

 聞くにこのクレーターは全部カナタがやったようだ。

 もう実験場は跡形もなく、よく見ると実験場以外の場所にも敷地の至るところにクレーターが出来ていた。


 それでも屋敷と研究所には傷1つ付いていないところを見ると、約束はちゃんと守ってくれたようだ。


 ハルはカイとシュナが倒れているクレーターを下りていき、買ってきた牛串を2人の鼻に近づける。



 ピクピク、ピクピク、バタッ。



 これは重症だ。

 この2人が肉に食い付かないなんて。


「まあ大きい怪我はないでしょうし、大丈夫ですよ…………タブン」


「聞こえてるから」


 最後の部分だけ小声にしてもちゃんと聞こえている。

 しかし、見たところカナタは傷1つ付いておらず、息も全然切れている様子はない。

 

 カイもシュナもそれなりに強いはずだ。

 特にシュナに関してはこの街では獣人冒険者というだけでなく、普通に実力者という意味でもそれなりに有名な冒険者のはずだ。


 そんな2人が2人がかりで挑んでも、手も足も出ないとは……流石アインツベルク最強の女冒険者なだけはある。国王様も護衛として側に置いておきたい気持ちもわかる。


 ただ――


 カナタ自身の話では、カナタはロイドにまるで敵わないと言う。単純に中、遠距離タイプのロイドと近距離タイプのカナタでは相性が悪いだけではと思うのだが、カナタ曰くそんな次元の話ではないとか。


(我が師匠がストイックじゃなくて本当によかった)


 クレーターのど真ん中で倒れる我が相棒を見て心底よかったと思う。


「おー、何か凄い音がするなとは思ってたけど、凄いことになってるね」


 上から声がしたため見上げてみると、クレーターの縁にユニコーンのユニーに跨がったロイドの姿が。


「おお! ロイドってば男なのに本当にユニーとなか、よ、く……?」


「……?」


 ハルの反応にロイドがユニーの上で首を傾げているが、当のユニーが何とも微妙な表情をしている、ような……?


「えっと……師匠? どうやってユニーと仲良くなったか訊いても……?」


「どうやっても何も、普通に言葉を交わして(・・・・・・・)だけど? な?」


『ぶ、ぶるる……』



(どう見ても話し合いでどうにかした感じじゃない!?)



 どうやってユニーを従わせた(・・・・)のかは怖いのでそれ以上訊けないハルだった。








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