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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第3章 王都にお呼ばれ
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2.退院祝い


 時刻はお昼過ぎ。


「……すぅ……はぁ……」


「なにしてんの? 早く入って」


 今朝無事に退院できたシュナは屋敷前で大きく深呼吸をしていた。


「待ってくれ、心の準備を」

「ただいまー」

「ま、待って……ああ、もう!」


 結局ハルに流されるように屋敷に入るシュナ。

 以前ハル達と初めて会った日に来て以来二度目の来訪。相変わらず広いなぁと玄関でキョロキョロしていると「おかえりなさい」と1人の少女が玄関までやってくる。


「……? そちらの方は?」


「ああ、紹介するね。こちらはシュナ。ほら、つい先日まで昏睡状態になって入院してた獣人冒険者の」


「ああ! 貴女が例の獣人の冒険者でしたか! この街のギルドでもお噂はかねがね伺っています。ここにいるということは無事退院したんですね。おめでとうございます」


「で、一応紹介しておくとこっちは……あれ?」


 今度はカナタを紹介しようとシュナの方を振り向くと、誰もいなかった。


「ずっとお会いしてみたいと思っていました! 私はシュナといいます! 冒険者の端くれをやらせてもらっています!」


「は、はい。聞いております」


「冒険者達の中では伝説と言ってもいいカナタ殿が目の前にいるなんて信じられません! 感激です!」


「そ、そんな。大袈裟ですよ」


 シュナはいつの間にか移動し、カナタの両手を握って病室にいたとき以上に興奮していた。


 今日のシュナはいつも通りフード付きの膝下辺りまであるローブを羽織っているのだが、フードは被っていないので頭の上から生えた耳がピクピク動いているのが見えており、ローブに隠れた尻尾もローブの上からでもわかるくらい忙しく動いていた。


「シュナ、今日夕飯食べてくでしょ? 退院祝いをやろうよ」


「いいのか!?」


「うん、リリィに伝えとく。カナタ、ロイドは?」


「リビングにいるよ」


「じゃあシュナはカナタとロイドとリビングでゆっくりしてるといいよ」


 ハルの提案にパアァッと表情が明るくなる。

 もうローブがバサバサ鳴るレベルで尻尾を振っている。


 シュナはカナタに手を引っ張られてリビングへと連れていかれた。


 刀と大剣という違いはあれど、どちらも前衛という意味ではカナタも色々と訊きたいことがあるのだろう。

 シュナはその100倍くらい訊きたいことがありそうだが。


 ハルは2人を見送って、リリィがいるであろうキッチンへと向かった。





        ×  ×  ×





「では、シュナの退院を祝して、乾杯!」


『かんぱーい!』


 リリィが腕によりをかけたご馳走が、ところ狭しと食卓に並んでいた。


 4人で使うとなかなか広いテーブルなのだが、流石に7人で囲むとかなり狭い。


「うまい! この肉料理は一級品だ!」


 一応今日の主役であるシュナの前には他の人よりも多くの肉がよそわれていた。


「……やっぱりリリィが一番料理が上手いよね。それなのに何で意地を張って当番制になんてしてたのか」


 ロイドの独り言にハルとルルがピクリと反応する。

 カイは肉に夢中だ。

 ちなみに今まで当番制だった料理係は、この屋敷に泊まっているロイドの一言でリリィが専属に決まった。


 しかし、それも仕方がなかった。


 リリィは料理を作る度にどんどん上手くなっているのだが、他の3人はちっとも上手くならなかった。

 ハルに至ってはいつもお肉に塩を振って焼いて、適当に野菜を手で千切るだけの簡易サラダという適当な料理ばかりで、上手くなろうという気概が見られなかった。


「……その方が不公平じゃなくなるでしょ? いつもリリィばかりに料理当番を任せるのは可哀想じゃん」


「それで不味い飯を食わされるよりはマシだと思うけどね」


「まずっ……!? ちょっと? 流石にそれは言い過ぎだと思いますけど! カイが可哀想でしょ!?」


「え、オレ!?」


 いきなり飛び火が降ってきて、肉を口からはみ出させながら驚くカイ。


「はっきり言うけど、この中じゃハルが一番料理下手だと思うよ。それに家事は料理だけじゃないんだからそっちをやれば不公平にはならないと思うけど?」


 その言葉にホッと息を吐くルルとカイ。

 自分より下がいるという事実に安心したといったところだろう。


「そ、そんなに言うなら2人は料理できるの!?」


 半分涙目でロイドとカナタに迫るハル。


「あ、カナタさんはよく、料理を、手伝ってくれます」


「え?」


「ロイドも王城ではよくライン王子に頼まれて、渋々クッキーとか焼いてますよ?」


「え゛!?」


 衝撃の事実に愕然とするハル。

 恐る恐る肉を頬張っているシュナに目を向ける。どこかすがるような瞳だ。


「……? わたひも、ん、ごくん。私もある程度ならできるぞ? 何日もかかるようなクエストだと野宿をすることもあるし、よく火を起こしてスープを作ったりする」


「」


 どうやらハルのライフが0となったようだ。


「そんなことより、明後日の朝出発するから、準備しておいてよ」


「……そんなこと……はぁ、わかった。明後日ね。この前の事件で無くなった矢とかも補充しておくよ。ついでにギルドにも用があるし」


「ギルド? クエストでも承けるのか?」


「いや、ちょっとギルドの職員さんに訊きたいことがあってね。カイ達も来る?」


「あー、悪いけどオレはパス。ちょっと用事があるというか、先約があるというか……」


「先約?」


 この街でカイの知り合いはハルの知り合いでもある。

 しかし、カイが約束をするほど仲が良い人なんていたかな? と思っていると、カナタが話に入ってくる。


「明日はカイがどれだけ成長したか見ようと思いまして。私と午前中は特訓です」


「あー、なるほど。それはそれは、頑張ってね」


 カイはゲンナリとした表情になる。

 以前キサラギの街に向かう途中の森の中で一度だけカナタとカイの特訓を見たことがあるが、あれは特訓というよりはしごきだった。私には到底ついていけるわけもないようなことをしていた。


 こういうところ、ハルの師匠は全くやる気がないので助かる。と、ハルは内心ホッとしていた。


「ず、ズルいぞ!」


 すると、突然肉を食べていたシュナが立ち上がった。


「え、なにが?」


「わ、私もカナタ殿と手合わせしたい!」


 何故か勢いよくハルにそれを言うシュナ。そんなことをハルに言われてもハルはどうしようもないのだが。


「うん。それは私じゃなくてカナタとカイに訊いて?」


「う、うむ。あの、カナタ殿。私も是非手合わせをしてもらいたいのですが……」


 確かにずっと憧れていて目標にしていると言ってはいたが、3つも年下の女の子にここまで緊張して畏まるのもどうだろうか。


「い、いいんじゃないか? うん、全然良いと思う! シュナも一緒に鍛えてもらおうぜ! な! カナタもいいよな? な?」


 道連れとなる仲間を捕まえようと必死である。


「もちろん。シュナさんも是非一緒にやりましょう。ハルさん、隣の敷地借りますね?」


「どうぞどうぞ。屋敷とヒーラさんの研究所に傷さえ付けなければあとはお好きなように」


 隣の敷地というと、恐らくヒーラと一緒に魔道具の実験をした実験場のことだろう。


 あそこには矢の的となるような岩や丸太が立っているので、障害物としても使えるはずだ。


 少し可哀想と思わないでもないが、強くなるためにカイには頑張ってもらおう。余計なことを言うとロイドも何かやるとか言い出すかもしれないのでできるだけ黙っておくことにする。


「ルルとリリィは?」


「私達は明日ヒーラさんと買い物よ」


「え、なにそれ私聞いてない」


「そりゃ、言ってなかったし?」


「なんで!?」


 女だけで買い物というなら何故自分は誘われていないのか。軽く、いや、かなりショックを受けるハル。


「ごめんなさい。ヒーラさんが、ハルさんは誘わないでって、言っていたもので」


「余計なんで!?」


 ハルのお見舞いに来てくれた時は涙を浮かべるほど良かったと言ってくれたのに、実は嫌われていたのかなどと的外れなことを想像していると、


「単に恥ずかしいんでしょ。明日はヒーラさんの女の子らしい服を買いに行く予定だから」


「なにそれ行きたい!」


「だから駄目だって」


 自分の服は動きやすさや機能重視ではあるが、元々買い物好きなハルにとって、ヒーラの女の子らしい服選びなど絶対に楽しいに決まっている。

 

「なーんーで!! 私だったら凄く可愛い服とか選んであげるのに! ヒラヒラとかヒーラさんに似合いそうな超可愛い服をいっぱい選ぶのに!!」


「だから嫌だったんじゃない?」


「そんな!」


「で、でも、買った服は、ハルさんに着て見せるつもりとも、言ってましたよ?」


「……!! それなら我慢しようかな……よし、ルルとリリィに命ずる。絶対にヒーラさんに似合う超絶可愛い服を買わせること!」


「そこに関しては任せなさい」

「が、頑張ります」


 よし、と頷いたハルはルルとリリィに500Gずつ渡す。


「「……?」」


「これで2人も好きな服買ってきなよ」


「え、でもそれは……」


「わるいですよ……」


「いいって、いいって。その代わり、ヒーラさんに似合わない服を買わせたらお小遣いを減らすから」


「「そんな!!」」


 わりとガチトーンで言ったハルから本気度が窺える。やはり誘ってもらえなかったことを気にしているらしい。


「おい、2人ばっかズルいぞ」


「わーってるわーってる。カイ達には特訓が終わる頃にお肉系の何か食べ物を買ってきてあげるから」


「ん、ならいい」


 カイは頷きながら食事に戻り、シュナは肉! と目を輝かせ、カナタはすみませんと申し訳なさそうにお礼を言う。

 こういうところに性格が出るのだろう。


「それで、ロイドは?」


 黙って食事を続けていたロイドはサラダを齧り付きながら、


「僕? そうだな……あのユニコーンが結構気になってるんだよね。以前は森の中でゆっくりできなかったし、明日1日かけてあのユニコーンと仲良くなるよ」


「それはやめといた方がいいと思うぞ。アイツ、男には全くなつかないから」


「……ふっ、それはそれで面白いけどね」


「……?」


 ロイドの不敵な笑みにカイは首を傾げるが、まあいいかと目の前の肉を食べることに戻ることにした。







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