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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
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24.師匠は最強


 ――暗い。

  ――深い。

   ――寒い。


 海の奥底に沈んでいく感覚。


 水の中で身体が上手く動かなくて、息苦しくて、ゆっくり、ゆっくり、自分の身体が衰退していくのがわかる。


 この感覚は以前経験した。

 あの時はこんなにゆっくりじゃなかったけど……暗闇の方へ落ちていく感覚は同じだ。


 それだけでわかる。

 ああ――、私は今から死ぬんだ、と。


 ゆっくり、それでも着実に死へと向かっていく。

 人が死んでも、死神が迎えに来ることはない。それは既に実証済み。


 人は死んだら異世界に行くんだ。


 …………いや、まあそれは私だけかもしれないけど。

 次はもう行けないかもしれないけど。


 もし私がここで死んだらカイ達はどうなるのかな……


 また、私と出会う前の生活に戻るのかな……


 カイは生きるために盗みをして、ルルとリリィは売られて獣人コレクターに買われて……


 あー……あと1回だけでいいから、皆に会いたいなぁ。



 ――じゃあ会えば?


 へ?


 ――1回と言わず、ずっと一緒にいればいいじゃん。


 あのね師匠。何でこんなところにいるのか知らないけど、それが出来ないから今私はこうやって嘆いてるんだよ?


 ――ふぅん。僕の弟子はこんなに諦めが良かったんだ。知らなかったよ。


 いや、だから諦めるとか諦めないとかそんなレベルじゃなくて……


 ――人は意外と目の前にあるものを見逃しがちなんだよ。よく目を凝らしてみな、まだ生きたいなら、まだあの子達と一緒にいたいなら、そこに光が見えるからさ。


 あ、師匠! 待って……っ。






「師匠!」


 パチリと目を開ける。

 真っ暗な部屋。ここは……病室?


 私は首だけ動かして辺りを見渡す。ツンッとした薬品の匂いと、何となくデジャヴ感のある部屋の作り。


 どの街でも病院の造りなんてそんなに大差ない。

 間違いなくここはアランカの街の病院だろう。


 私は目を瞑り最新の記憶を思い出す。

 最後に覚えているのは、アランという男の攻撃に私の最大出力の攻撃をぶつけたところだ。


 あの後どうなったのかはわからないが、病院にいるということは恐らく街は無事だったのだろう。


「……あれ、何か夢を見てた気がするんだけど……」


 全然力が入らない身体を無理矢理起こし、今度は自分の身体をチェックする。


 アランとの戦いで受けた傷はどこにも残っていない。ちゃんと治療を受けた後なのだろう。


 ただ、身体には極度の疲労が溜まっている。

 例えるなら、1日かけて体力測定を行った次の日の朝のような。息が切れるような疲れではないが、何となくダルいといった感覚だ。


 私は今日1日を振り返る。


 結局、犯人のミラーは黒幕だったアランとアルに殺されてしまった。ただし、シュナに埋め込まれていた魔道具がミラーが犯人だったという十分な証拠になるだろう。

 あの魔道具にはミラーが開発した魔力を増幅させる魔道具が付け加えられているのだから。


 あと、魔道具発表会を無理矢理中止にさせてしまった。


 仕方がなかったとはいえ、かなりの人数の人達を危険にさらし、迷惑をかけてしまった。あの中には他国のそれなりに偉い人何かも来ているみたいだったし、最悪の場合牢屋行きも覚悟しておかなければいけない。


 あと、唯一自分の魔道具を発表できなかったヒーラさんにも謝らないと。あれほどの魔道具を私のために作ってくれたのに、これは酷い仕打ちだ。


 それに私はあの魔道具に何回命を救われているか分からない。


 言ってみればヒーラさんは私の命の恩人だ。


 やっぱりちゃんと謝ろう。それはもう土下座も辞さないレベルで。


 街が無事だということは恐らくアランとアルもあの後退いたのだろう。

 あいつの実力を知っている私としては、倒したというのは考えづらい。


「…………あー、やっぱり身体がダルいな。貧血とはまた違う感じだけど……ん?」


 そこでふと、ベッドの横に置かれている机の上にある1枚のメモ用紙を見つける。


 そこにはたった2文字だけ。

 カイよりは綺麗で、ルルよりは汚くて、リリィよりは丸くない字でこう書かれていた。



 ″寝ろ″



 誰の字かは分からないがどこか安心できる字を見て、私はその言葉に従うように再び眠りについた。





        ×  ×  ×





「ハル!」


 ばんっ! と音を立てて病室の扉を開き、中に入るカイ&ルル、リリィ。


「ふぉふひんへふぁおひふはひぃ」


「何て!?」


 ごくん。


「病院ではお静かに」


 ハルは口に入った食べ物を飲み込んでから言い直す。


 今夜が山でしょうと言われ、たとえ一命を取り止めたとしても、目を覚ますなんて一体どれだけ先になるか予測もつきませんと言われたハルは、翌朝普通に目を覚まし病室に運んでもらった朝食をばくばく食べていた。


「元気じゃねぇか! どうなってんだ?」


 ハルの横で腕を組んで立っているドクターに問いただす。


「うーん……いや、正直私もよくわからないんです。昨日の時点では間違いなく危険な状態だったんですが、今朝病室に来たら普通に立って元気に不思議な踊りをしていました」


「不思議な踊り?」


「踊りじゃなくてラジオ体操! 私がいた国の代表的な準備体操だよ!」


 今朝起きたら昨夜より身体が少し軽くなっていたので、ベッドから起きて窓際で朝日の光を浴びながら久しぶりに故郷の体操をしていたら病室に入ってきたドクターにバッチリ見られてしまったのだ。


 不思議な踊りをしているのを見て操られているのではと思ったドクターにしっかりしろと肩をぐわんぐわん揺らされ、顔を真っ赤にしたのが今朝のことだ。


「じゃあ何でいきなり朝起きたのかは不明なの?」


 カイの後ろから顔を出したルルがドクターに問う。


「ええ。消耗していた魔力も完全ではないですが、こうして普通に意識が戻るくらいには回復しています。正直まだ信じられません」


 「正直、~~。」が口癖のドクターがうーんと悩んでいると、食事を終えてナイフとフォークを置いたハルがルル達に目を向ける。


「ていうか、昨日の夜にも1回起きたんだけどね」


『ええ!?』


 ドクターも含めた全員が驚く。


「何故その時に呼ばないんですか!」


「いや、だってまたすぐ寝ちゃったし。それよりおかわりありませんか?」


 ドクターに叱られてもなんのその。図々しくおかわりを要求する。


 ドクターは溜め息を吐きながらおかわりを取りにいったん病室から出ていった。


「何か私が一番重症だったんだってね。でもカイはあの大男と戦ってたんでしょ? よく無事だったね」


「カナタが助けてくれたからな」


「え、カナタ? カナタが来てるの?」


 予想外の名前に若干驚きを見せる。


「じゃあロイドも?」


「お前を助けたのが他でもないロイドだよ」


「マジか!」


 恐らく意識が無かったので全く知らなかった。

 すると、突然病室の扉が開く。


 ドクターがおかわりを持ってきたのかと思ったが、そこにいたのはカナタとロイド。

 カイ達は昨日既に会っているが、ハルからすれば久しぶりの再会である。


「おー、おっひさー。カナタ、カイ達のこと助けてくれたんだって? ありがとね。ロイド師匠も私のこと助けてくれたんで、しょ……?」


 ロイドが無言でベッドに近づくと、ハルの額に手を添える。


「えっと……なに?」


「…………魔力はかなり戻ってるね。でも――」


「どわっ!!」


 そのまま添えていた手に力を入れて、ハルを強引にベッドに倒す。


「今日は1日ベッドから起きないこと。魔力を回復させるには確かにたくさん食べるのが大事だけど、昨日まで死にかけてたくせにいきなり食べ過ぎたら今度は違う原因で死ぬよ」


 これはロイドなりの優しさなのだろう。

 言い方とやり方が少々厳しいが、今はカナタも咎めることはせず、にやにやしながら見守っている。


「おかわりは僕が断っといたから」


「ブーブー」


「いや、子供じゃないんだからさ」


 そんなやり取りをしていると、ハルの病室は昨日とは打って変わって明るい雰囲気に包まれていた。






「それで、ロイドとカナタは何でアランカに?」


 寝ろとは言われたが、昨日たんまり寝たせいか全然眠くないハルはロイド達がここにいる理由を訊ねる。


「ん? ああ、まあ、それは追々話すよ。少なくともハルが元気になるまではこの街にいる予定だし」


「そうなんだ。んじゃ、さっさと元気にならなきゃね。あ、そういえばルルとリリィは初めて会うんだっけ?」


「昨日ちゃんとカイから紹介してもらったわ。まあ、未だにアインツベルク最強の2人が貴方達の師匠だっていうことに驚きなのだけど」


「は? アインツベルク最強? 誰が?」


「……? だからこの2人が」



 …………。



「ええ!? そうなの!?」


「ええ!? 知らなかったの!?」


「ええ!? マジかよ!?」


「貴方もなの!?」


 ハルとカイは初めて知る衝撃的事実に驚きを隠せない。

 ここが病院だということも忘れて大声を上げる。


「いや、確かに強いなとは思ってたけども……」


「普通そんな凄い人だなんて思わねぇし」


 確かにちょちょいと巨大ドラゴンを屠ったり、カイがまるで敵わなかった本気を出したアルを簡単にあしらったりしていたが、まさかアインツベルク王国最強なんて呼ばれているとは思いもよらなかった。


「この国に住んでいる人なら、誰でも知っていると、思いますけど」


「冒険者でありながら国王の護衛に任命されることもあるとか、私達ですら知ってるんだから、間違いなく貴女達の方が少数派よ」


「「マジか……」」


 今までの不敬を謝った方がいいのだろうかと2人が悩んでいると、ハルがあることを疑問に思う。


「え、じゃあ何で貧乏なの?」


「は? 誰も貧乏だなんて言ってないけど?」


「え、でも初めて会ったときたった1000Gで護衛を引き受けてくれたじゃん」


「貧乏じゃないけど、お金は大好きだからね」


 なるほど、納得した。


 にしても、まさか自分達の師匠が国最強の称号を持っているとは、未だに実感が湧かないハルとカイであった。






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