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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
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20.魔法使いアラン


 ぼとり、とミラーの胴体が落ちる。

 切り離された首から上部分を持ったアルはその持った部分も捨てるのと同時に、背中の大剣を抜く。


 そして振り返り様に両手にダガーを持った小さな人影の攻撃を防ぐ。


「久しぶりだなぁ、ガキんちょ」


「――ッ、おらっ!」


 ダガーを防がれたカイはそのまま空中で回し蹴りを繰り出す。しかしそれもアルの側頭部に届く前に足首を掴まれ止められてしまう。


「おらおら、ちったぁ強くなったんじゃねぇのかよ!」


 カイの足首を掴んだアルはそのままカイを投げ飛ばす。

 猫宜しく器用に空中でバランスを取ったカイは無傷で着地する。


「またお前かよ……」


 そう呟くカイ。

 アルを見て、それからアランに目を向ける。


 以前はアランが出てきたときに気を失っていてカイはアランの姿を見ていなかった。

 ハルから話は聞いていたが、話によると魔法を使うらしい。


(……流石に1人で出ていくのは早計だったか? せめてハル達が来るまで時間を稼がねぇと……)


 カイは重心を低くしてその身体の大きさを生かし、小さく素早く動く。


「ちょこまかと、鬱陶しいんだよ!」


 アルが地面に剣を振り下ろすと、地面がひび割れ、足場を脆くする。


 そこへちょうど踏み出そうとしていたカイは足を取られ、体勢を崩す。


「うわっ」


 アルがその隙を逃す訳もなく、一瞬でカイとの距離を詰めてカイの身長を遥かに越える長さの大剣を構える。


(あ、やば……)


 カイに体勢を直させる暇さえ与えず、流れるような動きでアルは大剣を振り翳した。





        ×  ×  ×





 ハルは今クロスボウ片手に会場の外を走っていた。


 爆発を止めることには無事成功した。

 しかし、シュナは昏睡状態になった。

 原因はハルがシュナにあの短剣を刺したから、ではなく、急激かつ強制的に魔力の増幅をした上、その増幅した魔力のほとんど全てを爆発のタメのエネルギーとしてあの魔道具に吸い取られたことにある。


 以前の事前発表会でミラーはあの魔力増幅魔道具を使用した直後は凄まじい疲労感に襲われると言っていた。


 それは本来その人が持つ以上の魔力量を強制的に絞り出すからである。故にその効果が切れ、本来の魔力量に戻った後は体内の急激な魔力の増減に身体が耐えられず、疲労感が襲ってくる。


 しかし、身体に埋め込まれる魔道具は爆発の為にその増幅した分の魔力と元々の魔力をほぼ全て吸いとってしまうため、魔力増幅の効果が切れたときに掛かる身体への負担は想像を絶する。

 

 ただ、今回の場合は効果が切れてその負担が現れる前に自爆してしまうのだが。


 つまり魔力をほとんど吸い取られたシュナは明らかな魔力切れの症状を起こし、意識不明の昏睡状態に陥った。


 では何故魔力を吸い取られたのにも拘わらず、シュナは自爆しなかったのか。


 理由は簡単である。

 ハルが短剣でシュナの胸、正確には胸に埋め込まれた魔道具を突き刺したからである。


 ハルが取り出した短剣とは以前ハルがヒーラに頼み、今朝完成させて届けてくれた物である。


 刀身が全てハルが手首に着けたブレスレット型魔道具にも使用されている魔力を吸収し、貯め込むことができる魔石で出来ている短剣だ。


 それで突き刺すことで、シュナの増幅した魔力を吸い取った魔道具からさらにその魔力を吸い取ったのだ。


 しかしそれをシュナに返す、何てことは出来ないので、結局シュナは魔力切れで倒れてしまった。


 回復魔法を扱う医者を連れてきたヒーラにシュナを任せて、ハルも腹部の傷を治療してもらった後、会場を出た。


(さっきの戦闘で魔石の中の魔力をほとんど使いきっちゃったからな……シュナ、シュナの魔力使わせてもらうよ)


 ハルは短剣に貯め込んだシュナの魔力を、右手首の魔道具の魔石に移す。

 

 できればもう使わないことを望むのだが、もしミラーがまだあの魔道具を持っていたとしたらまた被害者が出ているかもしれない。


 警戒心の強いカイに限ってそんなことにはならないとは思うが、もしカイが操られていたとしたらハルはカイに矢を向けなければならない。

 その最悪の場合に備えて――



 ドゴォン!!!



 という轟音と共にハルが走っている先に建物より高い土煙が上がる。


「……!? 爆発音、じゃない? でもカイにあんな土煙が上がるほどの攻撃はないはず……」


 ハルは既に限界が来ている己の足に喝を入れる。自分の体力の無さと運動神経の悪さに嫌気が指す。


「カイ!」


 先程土煙が上がったであろう路地裏にやって来たが、そこにカイの姿はない。


「誰もいないの? カイー?」


 路地裏の奥へと足を進めると、少し先の地面に何かが落ちている。


「…………ッ!!?? な、に……あれ……」


 地面に倒れている首の無い人の体(・・・・・・・)。そして、その横に体の持ち主であろう人の頭が転がっていた。


「………………うっ」


 大量の血の海に倒れているその死体を見て気分が悪くなる。胃液が逆流し、吐き気を催す。


「…………はぁ、はぁ……か弱い乙女になんてもの見せるんだよ、くそっ……」


 吐き気を何とか飲み込み、死体に近づく。


 目の前で友人が自爆させられたのは確かに見たのだが、爆発後体は粉々になってしまったので、体がちゃんと残った殺された死体というのは初めて見た。


 しかも首が切断されている死体など、一生に一度でも見る人の方が遥かに少ないだろう。

 どこの名探偵だよ、と心の中でツッコミながら転がる顔を見てみると、ハルの顔が再び驚愕に染まる。


「……なっ、ミラー、だよね? カイがやった、んじゃないよね……カイのダガーじゃこんな風に首を切断するなんて無理だろうし……」


 それなら一体誰が? そして、ミラーを追ったはずのカイは今どこに……


 ハルはそっとクロスボウの安全装置(セーフティ)を外す。


(ミラーを殺した者とカイが遭遇して、戦闘になった。さっきの土煙はその戦闘中に起こったもの……まだ近くにいるはず)


 静まる路地裏で意識を集中させる。



 ジャリッ。



 後ろから聞こえたその音に反応したハルは素早く振り返り、クロスボウをそちらへ向ける。


「お前は……確かアラン、だっけ?」


「あの獣人のガキがいたんだ、お前がいても不思議ではないな」


 そこにいたのは男性にしては少し小柄な全身黒ずくめの男。

 フードを被り、口元も黒い布で覆われており顔がほとんど見えないので歳は正確にわからない。

 ただ、声からしてハルよりも年下ということはないだろう。


「カイはどこ?」


「今はアルと遊んでいる。遊ばれていると言った方が正しいか」


「……あの大男もいるんだ。この死体は貴方達がやったってことでいいんだよね?」


「まあ、そうだな」


 まるで隠そうともせず認めるアラン。

 ハルは引き金に掛けた指に少し力を入れる。


「つまり、貴方達がミラーにあの魔道具を渡した。いや、ミラーだけじゃない。キサラギの街でファネルに隷属の首輪を渡したのも貴方達なんじゃない?」


「……ほう」


 ハルの問いに僅かに目を細めるアラン。

 

「何が目的かは知らないけど、貴方達のせいで被害者が出ているのも確か。死人だって出てる」


「……で?」


「……っ、アンタをここで捕まえるんだよ!」


 右手首の魔道具から矢に魔法を付与させる。

 炎を纏い終えた矢をアランに向かって放つ。


「……!」


 ズドォン!! と炎の矢が着弾し、小規模な爆発が起こる。

 

「…………くそ、これだから魔法使いは……」


 小規模爆発で舞い上がった土煙が晴れると、そこには無傷のアランが片手をハルの方に向けた状態で佇んでいる。


「……お前の魔力量でこのレベルの魔法が使えるとは思えないんだが、どういうトリックだ?」


「教える義理なし!」


 すぐに次の矢をリロード。次は雷の魔法を付与し、青白い光を纏った矢を放つ。


 雷の力で速度も威力も格段に上がっている矢がアランに向かう。

 アランは先程と同じように片手を前に突き出し、向かってくる矢がアランの手に接触する寸前にその矢がピタリと動きを止める。


「なにそれずるくない?」


「それが魔法だ。それより、火属性の魔法の次は雷系の魔法か。右手首のそれ、面白い魔道具だな」


(……バレてるし)


 アランがハルの右手首に装着された魔道具に興味を示す。


「魔法が使えない者の攻撃としては申し分ない魔道具だ」


「涼しい顔して防いでる癖によく言うよ。嫌味か」


 アランは一度考えるような素振りを見せた後、先程までとは逆の腕を前に突き出す。


「次は防御力を見てやる。さて、一体どこまで耐えられる?」




「…………!!」




 その言葉を皮切りに、地獄のような魔法の雨がハルを襲った。






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