19.黒幕
床には手足が拘束されたシュナが蛇に模した縄から抜け出そうともがいている。
そんな拘束されたシュナを見て、ミラーが怯えたように後ずさる。
「お前のその魔法は一体何なんだ……さっきから矢に様々な魔法を付与していると思ったら、矢の変形まで……」
「……魔法じゃなくて、魔道具だよ…………ヒーラさんが作ったね……」
「魔道具だと? そんな魔道具あるはずが……」
刀が貫通した腹部の痛みに耐え、しどろもどろになりながら答えるハル。
「ハルちゃん! 喋っちゃダメだ!」
「……ヒーラさん。今のうちに逃げてください……ここにいたら、巻き込まれます」
「そんな状態のハルちゃんを置いて行けるわけないじゃないか!」
「いいから! できるだけこの会場から離れてください。私はまだここでやることがあるので。大丈夫、今回はちゃんと準備を整えてきたから」
「準備……?」
ハルの言葉に首を傾げる。今回はと言ってもヒーラは前回の狸耳の少女やファネルのことを知らないのだから、この反応は正しい。
「……絶対に無事に戻ってくるんだよ? 回復魔法が使えるお医者さんを探しておくから」
「はは、お願いします……」
ヒーラは一度頷いてからハルに背を向けて会場の外へと駆け出した。
それを確認したハルはミラーに向き直る。
「シュナは無力化した。もうあなたに勝ち目はない……投降した方がいいよ」
「……ちっ、舐めるな!」
ミラーはそう怒鳴ると同時に何か液体の入った試験管を取り出し、それを地面に叩きつける。
するとそこから真っ白な煙が発生し、ステージを瞬く間に包み込んだ。
「煙幕……!? こんなの持ってたの!? くそっ、油断した! 逃がすか……ッ! うっ、かはっ!」
急いで追いかけようとするが、刀による激痛が走り口から吐血し、その場にへたりこんでしまう。
「ぐっ……くっそ……カイ! カイ!」
「……う」
シュナの蹴りで客席まで吹き飛ばされ気を失っていたカイは、ハルの声で目を覚ます。
「起きたならミラーを追って……煙幕で逃げられた……!」
「……っ! わかった、シュナは頼んだぞ!」
「まかせなさい」
煙幕のせいでステージ上のハルの姿が見えなかったカイは煙幕に向かって一言残し、ミラーを追う。
それを音だけで確認してから煙幕のせいで見えないが恐らく目の前で横に倒れているであろうシュナに目を向ける。
「ハル? そこにいるのはハルか!?」
「!? シュナ、気がついたの?」
「あ、ああ。何故か身動きが取れなくて、左足にも激痛が走っているが意識はハッキリしている」
煙幕が徐々に晴れていき、微かに輪郭が見えてきたシュナに向かって頭を下げる。
「左足はごめん。シュナを止めるために私が撃った」
「私を止める? ……まさかとは思うが、私は操られていたのか?」
「その通りだよ。ついさっきまで、私達と戦ってた。……それで今は意識が戻ったとこ」
「まて、操られていたのに意識が戻ったってことは……っ!!」
自分の右胸の辺りを見てシュナの顔が驚愕の色にに染まる。
「ハル! 今すぐ私から離れろ! 爆発するぞ!」
「そうしたいのは山々なんだけどね……ちょっと今動くのはキツいんだわー……」
「……! その刀……私の……」
ようやく煙幕が完全に晴れ、ハルの姿を確認したシュナは目の前にいるハルの姿を見て目を見開く。
「……ッ! それなら私の拘束を解いてくれ! 私が走って離れる!」
「でもシュナも足に穴空いてるし、無理だと思うよ?」
「……!」
ハルの指摘にシュナは己の左足の激痛に意識を向ける。
確かにこの状態でハルが安全となるくらいの距離を走れるとも思えない。
「何故そんなにも冷静なんだ! まさかもう諦めているわけじゃ……」
「そういえばシュナには言ってなかったね。多分爆発を止められる方法があるんだよ」
「そうなのか!? 一体いつの、ま……に……」
シュナの顔が一瞬強張る。
しかしそれも一瞬のこと。ハルが何をしたいのか理解したシュナは一度フッと軽く微笑んだ後、すぐにダガーと呼ぶには少し短い短剣を持ったハルに真剣な表情を向ける。
「なるほどな……私が死ねば私の体内を流れる魔力も止まる。魔力の流れが止まればこの右胸に埋め込まれた魔道具にも流れていかなくなるというわけか……考えたな、それなら迷わずやってくれ」
魔力とは血液と同じようなもの。人が死ねばその人の体内に流れている魔力はその流れを止める。
それは人間だろうと獣人だろうと変わらない。
「…………」
「一思いにやってくれ。私はハルを殺したくはないんだ。あんな男に操られ自爆させられるくらいなら、ハルの手で殺してほしい」
誰かを殺すことに、それもこの街に来て仲良くなった者を目の前で、自分の手によって殺すことに恐れているのか、身体を震わせているハル。
自分の右胸に埋まる魔道具が放つ光がよりいっそう強まる。
しかしシュナは焦る素振りを見せず、震えるハルに優しい笑みを向ける。
「大丈夫だ。その短剣を私の首にでも突き立ててくれればそれで爆発は収まるのだろう? 操られた時点でどのみち私は死ぬ運命だったのだ。あとは自爆するか、大事な友人に殺してもらうかの違い。誰もハルを責めたりしない」
「………………うん」
未だに身体を震わせながらも、シュナに1歩ずつ近付いていくハル。そして蛇型の縄に縛られたシュナの横にしゃがみこみ、短剣を逆手で強く握る。
「恐れないで、一思いにやるんだ」
「……う、うん。なんかごめんね」
ドスッというハルの振り下ろした短剣がシュナの胸に突き刺さる音が静まる会場に響いた。
× × ×
「……ハッ、ハッ…………ククク、ざまぁみろ、ざまぁみろ! 僕を舐めてるからこうなるんだ! 当初の計画は駄目になったが、あの女と獣人はあんな状態じゃ動けやしない、ムカつくあの女は確実に死ぬ。仲良く爆死すればいいさ!」
煙幕に紛れて会場を抜け出したミラーは逃走しながら不気味な笑い声を上げていた。
「……? そろそろ爆発が起こってもいいと思うが……あの獣人の魔力量と僕の魔道具が合わさればあの会場くらい軽く吹き飛ぶはずなんだが……」
そう。実はミラーが操る実験台としてシュナを選んだのは単に冒険者で戦闘能力に長けているという理由だけではない。
シュナは魔法の才能が限りなく0に近いため魔法が一切使えないのだが、生まれ持った魔力量はカイやハルの数倍、もしくは十数倍にもなる。
もし魔法の才能があれば物凄い魔法使いになれたことは間違いないないほど。
しかし、魔法とは魔力量があればすぐに使えるというほど甘いものではない。
それをまだ小さな頃に師から聞いたシュナは師に教えを乞い、剣の道に進んだ。
ただ、ミラーが持っていた魔道具は魔力量が多ければ多いほど効果は絶大。魔法が使えようが使えまいがそれはまるで関係ない。
そしてシュナの魔力量を知ったミラーはシュナを最後の実験台にすることに決めた。
「…………おかしい。魔法を発動させてから1分以上は経っている。何故爆発しない!」
「どうやら爆発はしないみたいだぜぇ」
それはあまりにも唐突で――、
にも拘らずまるで初めから隣にいたかのように自然で――、
ミラーにとっては一度だけ対面したことのある者の声だった。
「あ、あんたは……!」
「よぉ、久しぶりだなぁ天才科学者さんよぉ。それでさっき言ってた何で爆発が起きないのかって件なんだが」
「さっきまで会場で感じられていた大量の魔力が徐々に消滅していき、今は完全に感じられなくなった」
巨大男の陰からもう1人男が現れる。
2人とも似たような服装をしており、全身黒装束で頭にもフードを被っている。
「ま、理由は不明だが……どうだったよ、俺達が貸してやった魔道具の感想は」
「あ、ああ。もちろん良かったよ。あんたらが言った通り僕の魔道具を取り入れて改良にも成功した!」
「そぉかいそぉかい、そりゃあ良かった。んで? 何か風の噂でお前さんが俺達の魔道具を自分の作品として発表会とやらに出したって聞いたんだけどもよ」
「そ、それは違う! ただ僕は僕達の魔道具でこの国の愚かさを知らしめようと……ガッ!!」
ミラーの必死な言い訳を遮るように巨大男のアルがミラーの首根っこを掴み、壁に叩きつける。
「……俺達はこう言ったんだよ。お前の魔道具でこいつを改良しろってな。一体いつからてめぇのもんになったんだよ、あ?」
「う、ぐっ……悪かった。二度としないから……だからこの手を」
「って言ってるけどどうするよ、アラン」
「俺達に必要なのはそいつの魔道具であってそいつ自身じゃあない。そいつは色々と知りすぎている」
「つまり、殺せってことだってよ」
アルが不敵な笑みをミラーに向けると、ミラーは瞳に涙を浮かべながら必死に暴れて抵抗する。
「ま、待ってくれ! 僕ならあんた達の計画にもきっと役に立てる! そうだ、今別の魔道具も作って……」
「人から借りたもんを私利私欲のために使うような奴信用できると思うか?」
「今回は大丈夫だ! 絶対に裏切らな――」
「1回裏切ってる奴が言ってもなぁ」
全て言い終える前に、ミラーの首と胴が離れた。
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