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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
52/186

18.発表会をぶち壊す!


 参加者のうち既に20人が発表を終えた。


 次は最後から2番目の発表者、ミラーである。

 そのミラーが司会者に紹介されてまずは1人でステージに上がる。


 ハルは背中の装着具からクロスボウを外し、安全装置(セーフティ)を解除する。


「……マジでやるんだな?」


 フードを被ったカイが小さな声で問い掛けてくる。


「もちろん。人命には変えられないからね。もし本当に私の勘違いなら弁償だってするし損害賠償だって払う。牢屋にだって入るよ。牢屋なら一度入ったことあるしね」


「はぁ……こうなったらどこまでだって付き合ってやるよ」


「流石カイきゅん。それでこそ私の相棒だよ」


 フードの上からカイの頭をぐちゃぐちゃと強めに撫でる。


「こんなときだけ調子いいんだよ。……んじゃ、やるか」


「うん。……全部終わったら一緒に謝ろうね」


「ま、オレは怒られ慣れてるからな。問題ない」


 自嘲気味に笑うカイに少しだけ肩の力が抜ける。

 スカートに隠れるように右の太腿に巻かれたナイフケースの中身を確認する。今朝ヒーラが届けに来てくれたソレを見て、もう一度心の中でヒーラに謝罪をしてからステージ上に目を向ける。


「……よし。それじゃあ、魔法科学者達による魔道具発表会……私達の手でぶち壊すよ」


 ステージ上のミラーが両手を広げながら客席に語りかける。


『さあ! まずは皆様に見てもらいたいものがあります! ステージに上がってきなさい!』


 その声と共にステージ上に1つの人影が歩いていく。


 それを見てハルはクロスボウを天井へと向ける。


 右手首に装着された籠手に嵌め込んである魔石には2週間毎日1日も欠かさず魔力を注ぎ込んできた。


 今この魔石にはハルの2週間分の魔力が溜め込まれている。


 その魔石から少しだけ魔力を放出し、矢に雷の魔法を付与する。そして天井へ向けて引き金を引こうとしたとき、カイに服の裾を引っ張られる。


「え、ちょっ、なに?」


「……あれ、シュナ、だよな?」


「え……」


 カイが指差す先。たった今ミラーの指示でステージに上がったのは、頭の上に犬耳を生やし、腰に刀を携え、健康的な褐色の肌をした獣人。


 この街唯一の獣人冒険者であり、ここ1週間所在が不明だったシュナがそこにいた。


「おい、どうするんだよ……シュナにあの魔道具が埋め込まれてるとしたら、シュナは……」


「……シュナがミラーの指示に従うなんてまずあり得ないんだから操られているのは間違いない。作戦通りまずは客を避難させるよ」


 ハルは再び天井にクロスボウを向け、雷魔法を纏った矢を放つ。


 青白い光を纏った矢は天井に突き刺さり、その瞬間眩い光が会場内に広がる。


 光が治まった後、客席が騒がしくなる。


「何なの今の光は!?」

「おい! 天井に穴が空いてるぞ!」

「ていうか、穴が空いたところから火が出てないか!?」


 強い電圧により天井に炎が上がる。

 どうやら会場の土台や側面の壁は石造りでできているようなのだが、天井は黒塗りの木材でできているようだ。


 炎が天井に広がっていくのを見て客席にパニックが起こる。


 身体を乗り出して1階を見下ろしてみると、客が雪崩のごとく出入り口へと向かっている。


 パニックを起こしているにしては思っていたよりはスムーズに避難できている。恐らく出入り口付近にいたルルとリリィが上手く誘導しているのだろう。


 ハルはステージ上のミラーに視線を向けると突然の出来事に混乱しているようだった。


「カイ、行くよ!」


「ああ!」


 カイを抱き抱えて2階から飛び降りる。

 2階とはいえ、1階の客席が斜め状なって並んでいるため、普通のマンションでいえば3階くらいの高さである。


 自由落下に身を委ねながら、既に次の矢をセットしておいたクロスボウを落下地点に向けて撃つ。


 放たれた矢が地面に刺さると同時に巨大シャボン玉のような水の玉が発生する。


 ハルがカイを抱き抱えたままその上に落下すると、巨大な弾力性のあるシャボン玉が形を変形させ、その勢いを吸収してハル達を弾ませる。


トランポリンのように弾んだハルは無傷で着地し、すぐさま次の矢をクロスボウにセットしてステージ上のミラーに向けた。


「…………またお前らか……っ」


 ハル達を見つけた途端、険しい顔で睨むミラー。


「客は全て避難済み。本当にあなたがシュナを操れるなんて思ってなかったけど、あなたがここにいる限りシュナを自爆させることは出来ない。そして、私はあなたを逃がすつもりもない」


「……ちっ」


 ミラーからの舌打ちが聞こえる。

 

「それで、一応確認なんだけど……あなたはこの会場で客を巻き込んでシュナを自爆させるつもりだった。それでいいよね?」


「……今さら違うと言っても信じないだろ?」


「まあね、むしろ知りたいのは動機の方。事前発表会で嘲笑(わら)われたくらいでする規模の復讐じゃないと思うんだけど?」


「事前発表会? 何か勘違いしてないか? それに今回の計画は復讐のためではない。僕の未来のため、そして世界の未来のために必要なことなんだよ」


 両手を広げながら仰々しく言い放つ。


「僕の素晴らしい頭脳を、発明を認められないこの馬鹿な国に教えてやるのさ。実際に体験してもらうことによってね」


 言っても理解できない馬鹿には実際に体験してもらうしかないだろ?

 そう言ってミラーは不敵な笑みを浮かべる。


「そんなことしたら認められる前に捕まると思うんだけど?」


「問題ない。この発表会が終わったら僕はこの国を出るつもりだった。こんな国にもう用はない。他の国、特に未だ戦争中の国からすれば僕の発明は喉から手が出るほど欲しいはずだ。そして他国で活躍し、この国の脅威となった僕を見てこの国は初めて気付くのさ。僕という天才魔法科学者を今まで放置していた自分達の愚かさにね」


 言い終わると同時に高笑いをするミラー。

 そんなミラーを見て、ハルは心の中で大きな溜め息を吐く。


(結局、構って欲しくて悪戯する子供と同じじゃん。いい歳して馬鹿じゃないの?)


 いつものハルなら心の中だけじゃなくはっきりと言っているのだが、今のハルには他にも訊きたいことがあったのでグッと堪えることにした。


「じゃあ操っている人を全て獣人にしている理由は? 獣人じゃないといけない理由でもあるの?」


 ハルが一番気になっていたこと。それは今回のシュナも含めて例の魔道具で彼に操られているのが全て獣人だということだ。


 狸耳の少女は魔法科学の発表会のことをハル達に教えてくれたし、この発表会に来る予定だったらしいのだが、事前発表会には一度も行ったことがなかったらしい。


 また戦争中に使われていた魔道具ということは獣人以外には使えないというわけでもない。


 事前発表会にも関係なく、獣人にしか使えないというわけでもないのに、毎回獣人を操っている理由がずっと分からなかった。


 しかし、ミラーはそんなハルの問いにキョトンと首を傾げると、


「理由? そんなの別にないけど?」


「……は?」


「まあ、強いて言うなら……″獣人だから″じゃないか?」


 その言葉にハルとカイの表情が明らかに険しくなる。


 ″獣人だから″

 カンナギやキサラギの街ではそこそこ聞いていた言葉だが、この街に来てからは一度も聞いていない言葉だった。


 だからこそ、久しぶりに聞いたその言葉に2人は異様に反応した。


「獣人なんていうのは何の生産性もない生きている価値のない存在だ。爆死しようが誰も気にもしない。それが僕みたいな天才の実験台になることでほんの少しでも世界の役に立てたんだ。むしろ感謝して欲しいくらいなんだが」


「…………ッ!」


 ミラーの言い分に流石に我慢できなかったハルは引き金に添えてある指を強く曲げる。よりも前に、ハル以上に短気であるカイがミラーに向かって駆け出す。


 両手には既にダガーが握られ、走りながらその内の1本をミラー目掛けて投擲する。


「……っ! 危ないな」


 しかしミラーに向かっていたダガーはカイとミラーの間に入ったシュナによって弾き落とされた。


 それでもカイは勢いを止めずに残りの1本でミラーに斬りかかる。


 それを確認したシュナはダガーを弾き落とした刀を構え直し、カイのダガーがを受け止める。


「……ちっ、どうなってんだ。操られている奴は武器を振り回すくらいしか出来ないんじゃなかったのかよ」


 そう。以前シュナがリリィを守りながら戦ったネズミ耳の男は、持っている鎌を振り回すくらいの攻撃しかしてこなかった。


 しかし、明らかにカイの動きに反応し、対処している今の動きはどう見てもシュナのそれだった。


「この2週間僕が何もしなかったと思うのか? 前の2回はあくまでも実験。今日のために改良を続けてきたのさ」


 意識がなく自分の意思で動いていないにも拘わらずその動きはシュナの動きそのもの。

 

「ぐっ、相変わらず速ぇな!」

 

 シュナからの反撃に何とか食らいつくカイ。


「カイ! いったん離れて!」


「……!」


 ハルの声に反応し、後ろ跳びでシュナから距離をとる。


 それと入れ替わるかのように、風の魔法を纏った矢が普通の矢の5倍の速度でシュナに向かう。


 並の冒険者では反応すら出来ない速度の矢を、シュナはいとも容易く刀で弾く。


 獣人の反射神経を舐めていたわけではない。カイを見て獣人の反射神経の良さを知っているハルはむしろそれを警戒して矢に風魔法を纏わせたのだ。


 それでもその矢はシュナには届かない。


「やっぱり、シュナって凄い冒険者だったんだ。前はルルとリリィの魔法があった上、シュナはカイ達に危害を加える気はなかった。でも今は……」


 目が虚ろになり、視点が定まっていないシュナを見て溜め息を吐く。


 以前ギルドでシュナに襲われた時とは違うシチュエーションに頭を抱えたくなる。


(ていうか、よくこんなに強いシュナを操れたよね。魔道具を身体に埋め込むには抵抗されないように気絶させたりしないといけないだろうに……)


「ハハハ! やっぱり僕は天才だ! 改良不可能と言われていたこの魔道具をここまでのものにしたのだから!」


「…………!」


 ハルは今の言葉に目敏く反応する。

 今の言い方からすると、ミラーはあの魔道具を1から作ったわけではなく、本当に昔戦時中に使われていた魔道具に自分の魔道具を付け足し、改良しただけなのだ。


(問題はそれをどこで手に入れたのかってことだよね)


 気になることはまだまだ多いのだが、それはミラーを捕まえてからじっくりと訊けばいい。


 今はとにかく目の前に立ちはだかるシュナを何とかしなければいけないのだが、正直カイとハルの2人だけでシュナを殺さずに止めるというのは難しい。

 それも、逃げられないようにミラーにも気を配っておかなければならないこの状況はかなり苦しい。


(とにかく、まずはシュナの動きを止めないと……)


 どうやってシュナの動きを止めるか。

 そのことだけに考えを巡らせていると、ステージの脇から聞き覚えのある声が響いた。


「やっぱり、貴方の作った魔道具ではなかったんだね」


「……! ヒーラさん!? 何でここに……早く避難して!」


 ステージに上がってきたのはミラーの後に発表するはずだったヒーラだ。


 いつもの白衣に黒縁の眼鏡。

 そんな眼鏡の奥にある瞳がハルを見つけて、軽く微笑む。


「ごめんね。どうしても黙って聞いていられなかったよ」


 優しい声でそう言うと、ヒーラはミラーに向き直る。


「ここは色んな魔法科学者達が自分の作った魔道具を発表する場だ。もともとある魔道具に少し手を加えただけの物を持ち出さないでくれないかな。自分の魔道具に真剣に向き合っている僕達に失礼だ」


「何だと……お前のような低能科学者が図に乗るなよ」


「自分の魔道具に自信がなかったから既存の魔道具に頼ったのだろう? 貴方は逃げただけなんだよ。自分の心からも魔道具からもさ。天才科学者が聞いて呆れるよ」


「き、貴様ぁ!!」


 ミラーの声に反応するようにシュナがヒーラの方へ駆け出す。


(まずい……!)


 ハルは再び風魔法を纏った矢を駆けるシュナに向けて放つ。


 が、シュナは刀を一振りするだけで矢を弾き返す。


「死ねぇ!」


 ミラーの叫びの直後、キィンと甲高い音が響く。

 

 いつの間にか初めに投擲したダガーを拾い直していたカイが両手にダガーを握り、シュナの動きを刀を受け止める。


「図星突かれたからってキレんなよ。みっともねぇぞ」


「どいつもこいつも! 低能共が僕の邪魔をするな!」


 シュナは振り下ろしていた刀をすぐさま引き、カイの腹部へ強烈な蹴りを入れる。


「ガハッ!!」


 一切の手加減もないシュナの本気の蹴りにカイは体重の軽さも相まって客席まで吹き飛ばされる。


 そしてシュナが再びヒーラに向き直り、刀を突きの姿勢で構える。



 しかし、誰がどう見ても絶対絶命なピンチをハルだけはチャンスに変えようとしていた。


 いや、チャンスになるようピンチを利用した(・・・・・・・・)



 シュナの突き出す刀がヒーラに届く寸前に、ハルがシュナとヒーラの間に割って入った。


 何かで防御するわけでもなく、正面からの突きを受けたハルの腹部に刀が貫通する。


「ハルちゃん!」


 目の前で刀が貫通するハルの姿を見てヒーラが叫び声を上げる。


「…………つーかまーえた」


 自分の腹部に深々と刺さる刀を握っているシュナの手首を掴み、左の太腿に矢を撃ち込む。


 左太腿に矢が貫通した瞬間、矢が蛇の姿に形を変えてシュナの全身を拘束していく。


「……ハァ……ハァ……これでもう、動けないっしょ」


 刀が刺さったままの腹からボタボタと血を流し、ハルはミラーに向けて口角を上げながらそう呟いた。







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