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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
51/186

17.0か100かじゃない


 いよいよ今日は魔法科学者達による魔道具発表会の当日。

 アランカの街は朝から喧噪に包まれている。

 

 ハル達の屋敷にまで街の人々の声が聞こえてくるほど、今日は盛り上がっているようだ。


 しかし、ハル達の顔はあまり優れていない。

 結局、この日までに犯人を捕まえることはできず、今のところ一番怪しいと思われるミラーからもこれといった証拠は出てこなかった。


 さらに、発表会の日までミラーの見張りをすると言っていたシュナともその日以来会っていない。

 警備団の詰所に行きシュナのことを訊いてもここにも来ていないと言われてしまい、誰1人としてシュナの所在が分かる者はいなかった。


 今もなお見張っているのならまだいいのだが、もし見つかり捕まっていたりしたら……


 ハルの脳裏に狸耳の少女が浮かぶ。


 シュナの実力を知っている4人はシュナに限ってそれはないだろうとは思うのだが、万が一ということもある。


 それに、ずっとハルの中に気になっていることがある。


 それは昨日警備団の詰所に行った時のことだ。





        ×  ×  ×





「もう明日になってしまった……結局何も出てこなかったか……」


 警備団の男性が溜め息交じりに呟く。

 シュナと連絡を取る手段もなく、証拠も他にないので再び捜査が停滞したままついに発表会を翌日に迎えてしまった。


「やっぱりもう魔道具は全部使っちゃったのかな~」


 ハルも進まない捜査にイライラしながら頭を抱える。

 そんな時、カイがポツリと呟いた。


「……あのさ、路地裏で殺された人達は2人とも事前発表会に行ってたんだよな?」


「そだよ~」


「それで、明らかにやりすぎってくらいグサグサに刺されてたんだよな?」


「……? 何? いきなりどうしたん?」


「何で最初の捜査の時は相当恨みを持った者の犯行だって言って捜査してたのに、今はそのことに全く触れないんだ? オレが知らないうちに恨み云々っていうのは考えなくていいってことになったのか?」


「…………!」


 椅子の背もたれにもたれ掛かるように座っていたハルが背筋を伸ばしてカイを見つめる。


「そうか、証拠が見つからないなら動機から考えればいいじゃん」


「あん? どういう意味だ?」


「元々ミラーに行き着いた理由の1つも被害者が私達を含めて皆事前発表会に行っていたから。ミラーがグサグサに殺したくなるほどのことが事前発表会であったってことだよ」


 …………。


「……え、もしかしてあれが動機ってことか?」


「う、うーん……でも、実際舞台上にいた本人からしたら我慢できなかったことだった、とか」


 2人の頭の中には一応思いつく出来事が思い浮かんでいた。


 魔道具の欠点を言った途端嘲笑に包まれる会場。

 馬鹿にした笑い声を一身にぶつけられて歯を食いしばりながら耐えるように佇むミラーの姿。


「確かに、あれを毎月毎月受けていたとすると……うん別に余裕だね」


「だよな。やっぱりあれが動機じゃないだろ。あんなんで復讐するとかどんな豆腐メンタルだよ」


「ごもっともで」


「おい、2人共何の話をしているんだ? もっと詳しく聞かせてくれ」


 それまで黙って聞いていた警備団の男性だが、事件に関係ありそうだと判断したのかハル達の会話に参加する。

 

 そんな男性にハル達は以前事前発表会で何があったのかを説明し、それを聞いた男性が難しい顔で唸る。


「なるほど……動機としては十分考えられるな」


「「え」」


 ハルとカイがハモるほど驚く。

 この2人も周りから少なからず避けられ、はみ出し者として生きてきた2人だ。

 嘲笑はおろか、敵意や殺意まで向けられた経験がある。


 そんな2人からしてみればちょっとひと月に一度笑われたからといって、その笑った奴を殺そうなどと思いもしない。


「心が弱い者は少し傷つけられただけで自我を失ってしまうことがある。そしてそんなフラストレーションが溜まり過ぎると耐えられなくなり、自殺したり、逆に仕返し、もっと言うと復讐しようとしてしまう。今回はどうやら後者だったようだが……」


「「…………」」


 話を聞いて唖然とするハルとカイ。

 自殺? 復讐? 意味が分からなかった。

 やられたらやり返す。そこまではまだ分かる。でも、殺すまでに普通至るか?


 しかし、誰もが2人のように強いわけではない。

 やられたらその場でやり返す。それが出来ない者は地球だろうが異世界だろうが変わることなく存在する。


「しかし、そうなると本格的に明日が危険かもしれないぞ」


「……! どういうことだ?」


「そういう奴は一度やってしまうと歯止めが効かなくなる。明日は会場にその時にいた者も大勢来る。最悪の場合そこで爆発を起こすということも……」


「と、いうよりも、もしかするとこれまでの2回は練習及び調整だったと考えられる、かもしれないよね」


「やばいじゃねぇか! 早く中止しねぇと!」


「いや、起きるかどうかも分からない爆発を恐れて半年に一度の祭りを中止にすることなど不可能だ」


「じゃあどうすれば……!」


「落ち着きなさいよ」


 そこで、今までずっと黙っていたルルがようやく口を開いた。

 啜っていたお茶の入った湯呑を机に置き、慌てるカイを睨む。


「さっきから聞いていたけど、貴方達推測だけでよくそこまで慌てられるわね。ミラーが犯人でほぼ間違いないことは分かっているけど、どれだけ辻褄が合っても、どれだけ動機があっても、証拠が出ない以上彼を犯人にすることはできない。そうでしょ?」


「いや、確かにそうかもしれねぇけど……爆発が起きてからじゃ遅いだろ」


「爆発が起きてからじゃ遅いのは認めるけど、証拠も出ていないのに発表会自体を中止にするのは早過ぎよ。中止にしなければアタシ達が犯人だと睨んでいるミラーは必ず会場に現れるのだから、確実な証拠を出させてから捕まえても遅くはないわよ」


 ルルはそこまで言って再び湯呑に口を付けた。





        ×  ×  ×





 何百人と入る会場での爆発。

 もしミラーが犯人なのだとしたら十分考えられることだと警備団の男性は言っていた。


「証拠を出させる……か」


 ソファーに寝転がりながらハルが呟く。


(とはいえ、例えばあの魔道具が埋め込まれた人がステージに出てきたとしても、既に爆発スイッチが起動した後だったら気が付いた数秒後には全てが吹き飛ぶ。正直、発表会を中止させた方が安全なのは確かなんだよな~。でもそうすると、ミラーが会場に現れずに会場以外のどこで爆発させるか全く見当がつかなくなる。うーん……)


 ソファーの上で足をばたつかせながら頭を抱えて唸る。


(発表会が始まるまであと約1時間……完全に中止させるにはそろそろ動かないと間に合わない……はぁ)


 ハルは一度立ち上がり頭を冷やそうとキッチンに向かう。

 冷蔵庫を開けて中を覗き込む。


(ていうか、カメラはないのに冷蔵庫はあるんだもんな~。地球だとどっちが先に出来たんだっけ?)


 そんなくだらないことを考えながら自分用にとっておいたアイスを……


「…………あれ? 私のアイスがないんですけど」


「冷蔵庫に入ってたアイスなら、さっきカイくんが、持ってってましたけど……」


 湯呑みをお盆に乗せてキッチンにやって来たリリィが教えてくれる。


「……カァァイ!! 私のアイスを勝手に食べたのはお前かぁ!!」


 走ってリビングに戻ると、テーブルに置かれたガラスでできた高級なアイスクリームカップに乗ったアイスがカイの前で半分くらい溶けていた。


「のわぁぁぁ!! しかも溶かして食ってる! 邪道! 邪道反対!!」


「な、なんだよ。別に食い方なんてオレの勝手だろ」


「その前にカイはいい加減その人のものを勝手に食べる癖を直しなさい!」


 カイのこめかみをグーでぐりぐりしながら説教する。こういうことはこの屋敷ではよくあることなのだ。


「痛い痛い痛い! だったら名前でも書いておけよ!」


「自分で買った覚えのないものだったら食べる前に一度訊くのが普通でしょうが!」


「オレは普通じゃないんでわかりません」


「開き直るな! はぁ……しかも何で溶かして食べてるのさ」


 ハルはテーブルの上の半分溶けたバニラアイスに視線を向ける。


「最初の3分の1くらいは普通に食べて、残りは少し溶かしてから食べるのが旨いんだよ」


「邪道だ……」


 ハルが床に手を付き落ち込む。

 すると、今のカイの言葉に少し引っ掛かりを覚えた。


(……途中までは普通に食べる?)


「…………! そっか……何で私は0か100でしか考えられなかったんだろう。ミラーを会場に誘き寄せた上で発表会を中止にさせればいいんだよ」


「何の話だ?」


「皆、会場に向かうよ。発表会を中止にする」


 ハルの言葉に目を細めたのはルルだった。


「昨日警備団の人が言ってたじゃない。発表会当日にあるかどうかも分からない爆発のために中止になんて出来るわけない。そんなの遠くから来ている人達が納得しないわ」


「それなら中止せざるを得なくすればいいんだよ」


「どうやって?」


 ルルの疑問にハルは不敵な笑みを浮かべ、


「実際に、やればいいんだよ」


 右手首に装着された籠手を握り締めながらそう答えた。





        ×  ×  ×





「ただし、初めから中止にしちゃうとミラーは会場に現れない。だから発表会の途中で中止にさせる」


 会場に入り、ハルとカイは2階の客席へ、ルルとリリィは1階の出入り口付近へ向かっていた。


 会場は中央にステージがあり、それを360度ぐるりと客席で囲んでいる設計になっている。天井もついているため、外の光は会場内には入ってこない。

 見やすくするためステージ上にのみ明かりが当り、客席は逆に薄暗くなっている。


 そのため、フードを被っているハルとカイの顔が他の人に見られるということはほぼない。


「あの魔道具を起動するには誰かの身体に埋め込まなければならない。つまり、ミラーがステージに明らかに操られている者を連れてきたらそれはもう十分な証拠になる。私達なら操られているかどうかは一目見れば分かるしね」


 黙って聞いているカイは一度頷き先を促す。


「ただし、恐らくミラーがその者を爆発させるのは発表が済んだあと。そうしないと自分まで爆発に巻き込まれてしまうから。自殺するつもりなら今までの事件だって起こしてないはずだし、彼に死ぬ気はないと思う」


「つまり、発表が終わった後に操られている奴だけをステージに残して自分は会場から出る。そのタイミングに合わせて爆破するってことか……」


「その可能性が一番高いと思う」


 2階の客席に着いた2人は、最前列の席に座ってステージを見下ろす。既に1人目の人が魔道具の発表を始めていた。


「ミラーが操っている人をステージに上げたら作戦を開始するよ」


 ハルはスカートのポケットから会場の入り口で貰った大会のしおりを出し、ミラーの順番を確認する。

 参加者は22人。そしてミラーの順番は最後から2番目だ。


(ヒーラさんには特にちゃんと謝らないとなぁ)


 ミラーの次の発表者、最後の発表者である人の名前を見て、悲しそうに微笑むハル。


 ヒーラの発表順は一番最後。ミラーが発表している時に発表会を中止にするのだとしたらヒーラの魔道具は発表されないままで終わってしまう。

 ヒーラがどれだけ頑張っていたのかを知っているため、罪悪感が襲ってくる。


 だが、人の命には変えられない。


 ヒーラには悪いが、ほぼ間違いなくヒーラに順番は回ってこない。


 今は心の中で謝りつつ、ハルは2人目の発表者になっているステージ上に意識を戻した。








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