15.もしかしたら、もしかするかもしれない
「思ってた以上に沢山集めたね」
「こんな大きさのやつは1つもありませんでしたけどね」
右手の籠手をヒーラに返しながら答えるハル。
屋敷に帰ってきたハルは、カイ達に朝御飯の準備を任せて籠に入っている魔石をヒーラに届けに来ていた。
「これだけあれば、そうだな……多分カイ君のダガーよりもう少し短いくらいの長さになるかな」
「あれよりも短いんですか? じゃあホントに果物ナイフくらいってことですか……?」
「刀身だけに使ったとしても、まあそうなるだろうね。沢山集めたと言っても1つ1つがかなり小さいし、全部合わせてもこの籠手に使われている魔石2.5個分くらいにしかならないだろうし」
「そうですか……」
「どうする? もう1日くらい集める?」
ヒーラの問いにハルはかぶりを振る。
「いや、ヒーラさんは2週間後に発表会を控えてるわけですし、私の我が儘にギリギリまで付き合わせるのも悪いですから。これでお願いします」
「ハルちゃんのお陰でかなり余裕が出来たわけだし、時間は気にしなくていいんだけどね。まあハルちゃんがそう言うならこれで作ってみるよ」
「お願いします」
「あと、はいこれ」
そう言ってヒーラが取り出したのは先程ハルが返したのとは別の籠手。
白を基調としているが所々金色で彩られた籠手である。埋め込まれた紅い魔石が良いアクセントとなっている。
前の籠手は右手の甲まで覆うタイプだったが、今出されたのは手首のみを覆うタイプのようだ。
「これって……」
「約束してたハルちゃん専用の魔道具だよ。ハルちゃんって暗い色の服ばかり着てるけど、こういう明るい色も似合うと思ってね」
「発表会の後でもよかったのに……」
「ハルちゃんのお陰で本当にあとは微調整だけだったし、その微調整もそれで試せたから全然平気だよ。むしろそれをまた1から作って色々と気付けた部分もあったし」
「……ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
ハルは受け取った籠手を右手首に装着する。
「うん。やっぱりその色にして正解だったね。こっちの黒よりも似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます」
イケメンにニコリと微笑まれ、少し頬が熱くなるのを感じる。
(落ち着け私! この人は女この人は女この人は女!)
頭をブンブン振って己を落ち着かせるハル。
そこに屋敷の方から声が聞こえる。
「おーい! メシできたぞー!」
「ほーい! 今行くよ! ヒーラさんも来ます?」
「いいのかい? 実は昨日から何も食べてなかったんだ」
「でしたら是非」
「それじゃあお邪魔させてもらうよ」
一度頷いたハルは屋敷の方を振り返り、カイに聞こえるように叫ぶ。
「カイー! もう1人分お願ーい!」
「はいよー!」
「それじゃ行きましょうか」
「そうだね」
ハルとヒーラは研究所を出て、屋敷へと向かった。
× × ×
ヒーラと共に朝食を済ませたハル達は屋敷にいてもすることがないので、街に出ることにした。
しばらくは適当にぶらつくくらいで特に目的地を決めてはいなかったのだが、ある通りに差し掛かったとき、ハルの足が一瞬鈍る。
その動きをカイ達3人は見逃さない。
だが、何て声を掛ければいいのかわからず、どうしても沈黙状態になってしまう。
そう、ここは昨日爆発事件が起きた大通り。
つまり、あの狸耳の少女が亡くなった場所でもある。
それでも沈黙したのは一瞬のことで、ハルがすぐに知り合いを見つけた。
「あれ? 2人で何してるんですか?」
昨日爆発が起きた場所にいたのは犬耳褐色肌の獣人冒険者であるシュナと1回目の事件のときにリリィの話を聞いていた警備団の男性だった。
「ん? ああハル達か。いや、今日は事件が起きなかったようだから久しぶりにクエストを承けようと思ってギルドに向かう途中ここを通り掛かったのだが、この人がずっと何かが引っ掛かると呟きながらこの現場を入念に調べているから気になって見ていたんだ」
シュナが説明してくれている間も、警備団の男性は地面に手をつき、爆発の熱で焦げた地面を触りながら何かを調べている。
「……やはり、どうしても納得ができない」
「何がです?」
男性の呟きにハルが反応する。
「……どう考えても以前話した魔道具ではこの規模の爆発が起きるはずがないんだ」
男性の言葉にハル達は首を傾げる。
「前も言ったけど、あの魔道具は埋め込まれた者の魔力を利用して爆発するんだ。それで昨日ここで亡くなった少女が勤めていた定食屋のオーナーに彼女のことを訊きに行ったんだ。そしたら、彼女は一般人と比べてもかなり魔力量が少なかったということがわかった」
恐らくハルとシュナが帰った後にこの人も『フランベ』に訪れ、彼女の死を告げたのだろう。
「魔法が使えない一般人程度の魔力量じゃあ部屋の1つも吹き飛ばせない、でしたっけ?」
以前この人が病院の会議室で言っていた言葉を思い出す。
ハルの言葉に男性は頷く。
「その通りだ。しかし今回、いや前回もそうだ。明らかに爆発の規模が魔法使いレベルの魔力の持ち主のそれだった」
「だが、狸耳の少女の魔力は一般人にも劣っていたと」
「うむ」
シュナも腕を組み、難しい表情をする。
「でもその欠点ってあくまでも戦時中の話ですよね? 何年前の話か知らないですけどその欠点が改良されただけなんじゃないんですか?」
ハルの言葉ももっともである。
今回使われているだろう魔道具は30年前の戦時中に作られた魔道具である。
それなら明らかな欠点が改良されててもおかしくはない。
しかし、警備団の男はかぶりを振る。
「それはあまり考えづらい。当時は当然その欠点を何とかしようと天才魔法科学者達が集まって改良を試みたという。しかし、この魔道具は自爆の前に人の身体を操るという強力な魔法の効果がある。その魔法と自爆の魔法を1つの魔道具に併存させるにはこれ以上の改良は物理的に不可能だと結論出たんだ」
物理法則を遥かに凌駕するのが魔法だろうと思わないでもないが、魔道具とはあくまでも科学の力をもって微量な魔力で魔法を使う道具だ。
そこには自分達には理解できない仕組みがあるのだろうとハルは無理矢理納得させた。
「…………あれ? 対象者の魔力を使って自爆する?」
ハルが突然呟き、考え込み始める。
(つい最近、何かヒントになるような物を見たような…………なんだ? 思い出せ、私はこの世界に来てまだ2ヶ月くらいしか経ってない。どこかにヒントがあったはずなのに……)
「しかし、魔法科学の研究発表会が2週間後に控えている以上、それまでに犯人を捕まえないと、当日に会場で爆発なんて起きたら大惨事だ」
「……研究、発表会……っ! まさか……!」
ハルはスカートのポケットに入れていた研究発表会のチラシを広げる。そして、出場者の似顔絵と、その下に書かれた本人の名前と発表する魔道具の名前。
それに目をやり、ある人物及び魔道具名のところで視線が止まる。
そこに描かれた似顔絵は顎に無精髭を生やした痩せ細った男。
その似顔絵の下には『ミラー』という男の名前と、
″魔力増幅魔道具″という魔道具名が記されていた。
「……シュナ、シュナって魔道具の事前発表会って観に行った?」
「ん? 先月のは行っていないが、その前のは観に行ったな」
「…………」
シュナの言葉に再び黙り込んでしまうハル。
そんなハルの様子に他の者が首を傾げていると、ハルが突然警備団の男性に詰め寄った。
「おまわりさん。路地裏で殺された2人には何の関係性もなかったって言ってましたよね?」
「あ、ああ。間違いない」
「その2人の写真、はないから、似顔絵ってありますか?」
「署に行けばあったはずだが……」
「じゃあすぐに行きましょう。もしかしたら、もしかするかもしれません」
警備団の男性の返事を待たずにハルは警備団の詰所がある方へ歩き出した。
× × ×
「1日目の被害者の人は知らないけど、2日目の被害者の人は見たことがある」
警備団の詰所に着いた一行は早速被害者の似顔絵を見たのだが、ハルが開口一番に似顔絵を指差しながら言う。
「どこで会ったんだよ?」
カイが不思議そうにハルに訊ねる。
基本的にいつも共に行動しているのにハルが知っていてカイが知らないというのは珍しい。
「カイも見てるはずだよ。カイだけじゃない、ルルとリリィも」
「「え?」」
双子のルルとリリィも驚きながらもう一度似顔絵を見る。
「見覚えがないのだけど……」
「わたしも、です」
しかし、ルルもリリィも見覚えがなく、カイも首を横に振っている。
「まあ3人とも発表されてる魔道具に釘付けだったし、仕方ないか」
「魔道具?」
「ってことは……」
ルルとカイに頷いてからハルは警備団の男性に向き直る。
「この人は先月私達が行った魔道具の事前発表会にいた男性です。私達の後ろに座っていた男性2人の内の1人だったかと」
警備団の男性はそういえば……と呟く。
「1人目の被害者も確か先々月の事前発表会に行っていたと被害者の奥さんから聞いたような」
「その後襲われたリリィもシュナも、そして私達も全員その事前発表会に行っています」
「……つまりその事前発表会にヒントがあると?」
「これを見てください」
ハルは先程見ていた2週間後に開催される魔道具の研究発表会のチラシを広げる。
「このミラーという男性。この男の魔道具は私もよく覚えています」
「魔力増幅魔道具? どういった魔道具なんだ?」
「名前の通りですよ。一時的に使用者の魔力を増幅させる物です。増幅させられる時間がかなり短く、使用した後に使用者が物凄く疲労するという欠点があり会場が嘲笑に包まれていましたが」
「ああ、あの小さい球みたいな魔道具か」
カイが思い出したように呟き、ハルもそれに頷く。
「ただ、もしもその魔道具で増幅させた魔力を、自爆のエネルギーにできるとしたら……?」
ハッとハルの言いたいことに気がつく一同。
自爆の魔法が起動し、魔道具を埋め込まれた者の意識が戻ってから実際に自爆するまでの時間はほんの僅かしかない。
だが、そのほんの僅かな時間の間に一時的に魔力が増幅していたとしたら、実際の魔力量に合わない規模の爆発が起こっても不思議ではない。
「これはあくまでも状況証拠でしかありません。でも、辻褄は合う」
「うむ。調べてみる価値はあるかもしれない」
完全に停滞化していた事件が、ようやく動き出した。
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