11.第2の殺人事件
「いらっしゃいませー」
朝食を取りに定食屋『フランベ』に来たハル達4人はいつもの狸耳の店員とは違う店員に出迎えられた。
「4人で。いつもの狸耳の娘は今日は休みなの?」
いつこの店に来ても毎回出迎え、注文を訊いてくれていた狸耳の少女が今日は店内のどこにもいなかった。
「それが、無断欠勤なんです。そんなことする娘じゃないからちょっと心配なんですけど……」
狐耳の店員が注文を受けつつ答えてくれる。
ハル達からしてもいつも真面目に働いていたという印象が強いので、少し心配になる。
「ただの風邪とかならいいんですけど。お昼に一度家まで見に行くつもりです」
「そっか。もし風邪で寝込んでいたりしたら私達も心配してたって伝えておいて」
「わかりました。それではごゆっくり」
最近は家で朝食を済ませている4人だが、今日は何故か警備団の詰所に呼び出しを受けているため、その道中にあるこの定食屋によったということだ。
すると、
「店長! 親子丼大盛りで!」
「お客様毎回言ってますけど注文は私達を通してください!」
そんなやり取りが聞こえてくる。
聞き覚えのある声にそちらを振り向くと、そこには腰に刀を携えた褐色肌の犬耳少女がカウンターの席で注文をしていた。
「あれ、シュナ?」
「ん? おお、ハル、それに皆も。奇遇だな」
そう、カウンターの席で親子丼を頼んでいたのは昨日リリィの命を救った獣人冒険者のシュナだった。
シュナは店員に席を移動することを告げ、ハル達の座っているテーブルに水の入ったコップだけ持ってやって来る。
「こんなところで何してんの?」
「私は毎朝ここで朝食を済ませている」
「あ、そうなんだ」
「それと、この後警備団の詰所に呼ばれている」
「え、シュナも?」
ハル達4人にシュナ。昨日も揃っていたメンバーだ。
このメンバーが警備団の詰所に呼ばれるということで少し嫌な予感がする。
「うむ。何でも今日の早朝、また路地裏で刺殺死体が見つかったらしい」
「……! じゃあシュナの言った通り……」
「まだ事件は終わっていなかったということだ」
そこで昨日事件の一部だと思われる爆破事件に巻き込まれたリリィとシュナその付き添いでハル達が呼ばれたということなのだろう。
話を続けようとしたハル達だったが、料理が運ばれてきたため流石にいったん殺人の話はやめて食事を取ることに集中した。
× × ×
掻い摘んで説明すると、ハル達が詰所に呼び出された理由は、本格的に事件の捜査に協力して欲しいという要請だった。
もし今回の事件も昨日の事件と同じ手口での犯行なのだとしたら、警備団が犯人を捕まえようとしても自爆してしまう可能性があるため冒険者のシュナや爆発を目の前で見たリリィに協力してくれとのことだ。
警備団ではないとはいえ、自爆しないとも限らないのでかなり危険な依頼なのだが、シュナとリリィによると爆破の前には身体のどこかに埋め込まれているはずの魔道具が光を放つはずなので、すぐに離れれば大丈夫だという。
これは昨日警備団の男性が話していた魔道具の特徴とも一致することなのでまず間違いないと思われる。
「とはいえ、昨日はリリィがたまたまぶつかった相手がその犯人だったってだけで、今回も偶然見つけられるとは限らないんだよね」
「……あれ? でもシュナさんは、昨日、事件現場に残った匂いを追って、犯人の居場所を突き止めたって……」
「ああ。今日もそう思って朝現場に行ったんだが、既に警備団が何人も出入りしていたらしく匂いが多すぎて分からなかった」
昨日は数人の警備団が現場を調べていただけだったので、残っていた獣人の匂いが判別できたのだが、今日は昨日に引き続き2度目ということで警備団も本格的に調査するために何人もの警備団員が現場にいたらしい。
「被害者も昨日の被害者のようにメッタ刺しになっていたようだ」
「それでも昨日の被害者と今日の被害者には特に何の関わりもなかったんでしょ?」
「ああ」
当然、昨日攻撃されたリリィも2人の被害者とは何の関わりもない。
警備団でも本格的に無差別殺人を念頭に置いており、街の人々に夜に1人で出歩かないように呼び掛けている。
「とりあえず、昨日のように血のついた凶器を持っている可能性が高い。気を抜かない方がいい」
「そうだね」
ハルは自分の左腰にある矢筒の中の矢を数える。
近づかずに敵の動きを止める。
それに一番適しているのはハルのクロスボウだ。
魔道具で動きを操られている以上、操られている者にルルとリリィの魔法をかけても意味がない。
クロスボウの矢で物理的に動きを止めるしかないのだ。
「矢は11本。足元に撃っても意味ないだろうし、直接身体に撃ち込むしかないよね」
「そうなるだろうな。腕を折っても戦わせるくらいだからな、足の甲に向けて地面に撃ちつけるくらいした方がいい」
「…………」
確かにハルはキサラギの街のファネルの屋敷において人に向けて矢を放ち、その身体に撃ち込んだ。
その時はルルとリリィを助けるために必死だったし、敵も悪人と分かっていたため引き金を引くのに躊躇いはなかった。
しかし、今回の相手は確かに人を殺してはいるものの、それは操られてしているにすぎないのだ。
むしろ、身体を操られて人を殺し、捕まりそうになったら自爆させられる。一番の被害者は操られている本人なのかもしれない。
そんな相手に矢を撃ち込むのは流石に躊躇われる。
何とか自爆させる前にその魔道具を解除することはできないかと考える。
昨日の警備団の男性の話によるとその身体に埋め込まれた魔道具を身体から取り除けば操られることも、爆発することもなくなるという。
しかし、それを取り除くには当然近づかなければいけないし、そんなことをしようとすれば、どこかで隠れて見ているはずの真犯人が爆発させない訳がない。
結局、一度その魔道具を埋め込まれた者はその時点でもう助からないのだ。
だから戦争中はこの魔道具がかなり危険視され、戦争が終わった後は処分されたのだ。
たとえ操られている者を見つけてもその者を救うことは出来ないという事実に深く溜め息を吐くハル。
ハルの横を歩くカイはそんなハルを横目で見てから、前に視線を戻すと見覚えのある少女が歩いているのを見つける。
「おいハル。あれって『フランベ』の店員じゃねぇか?」
カイの声にハルも前に視線を向けると、だいたい30メートル程前方に見覚えのある狸耳を生やした少女の後ろ姿が見えた。
「ホントだ。無断欠勤って言ってたけど、何してるんだろ……」
ハル達は小走りで狸耳の少女に近づくと、その足音に気がついたのか、少女は立ち止まってハル達の方を振り返る。
その瞬間、シュナとリリィが真っ先に足を止めた。
それに少し遅れるようにルルとカイも足を止める。
一番最後まで駆け寄っていたハルも足を徐々に緩め、そして、止めた。
狸耳の少女が右手に持っている、血のついた包丁に気が付いてしまったから―――
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