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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
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10.遠隔操作


「リリィ!!」


 バンッと開け放たれた扉の外には妹の無事を心配した姉、ルルが涙目で立っていた。


「お姉ちゃん、もっと静かに。一応ここ病院だから」


 口元に人差し指を立てて姉を静かにさせるリリィ。ちなみにここは街の病院の病室、ではなく、会議室だった。


「貴女があの爆発に巻き込まれたって聞いて、病院に運ばれたって聞いて、それで……」


「落ち着いて。確かに、爆発には巻き込まれたけど、わたしは無傷だから」


「ていうか思いっきり部屋の入り口に会議室ってプレートが掛かってたじゃねぇか。怪我人がこんなところにいるわけねぇだろ」


 ルルの後ろからはカイも姿を見せる。


「私達もあの爆発現場を見てきたけど、よくあの規模の爆発に巻き込まれて無傷で済んだね」


 そして更にカイの後ろからは先程まで部屋に閉じ籠っていたハルが顔を覗かせた。


「あ、ハルさん。部屋から、出てきたんですね」


「そりゃ、リリィが爆発に巻き込まれたって聞いて部屋に閉じ籠っているほど薄情者じゃないよ」


 頬を掻きながら照れたように苦笑いするハル。


「それで? 何でリリィは無事だったの?」


「今この警備団の人にも、話したんですが、シュナさんが助けてくれたんです」


「シュナが?」


 リリィは頷くと、ハル達に何があったのかをもう一度説明する。


「昨日の夜に殺人事件があったってことにも驚きだけど、今の話を聞く限りその犯人が爆発したように聞こえたけど」


「わたしは、そう感じました。シュナさんが何かに気がついて、離れろって叫んだ瞬間、あの男の人の身体が内側から光って、そして爆発が起きました」


「その獣人が殺人犯だったっていうのは確かなんですか?」


 ハルはリリィに話を訊いていた警備団の男性に確かめる。


「うーん。何せ死体が粉々になっちゃったからね、何とも言えないけど……この娘や他の目撃者の話からその爆発した男が血のついた鎌を持っていて、この娘のことも襲おうとしたことから、まず間違いないと思ってるよ」


「じゃあ何で爆発したんだ?」


 カイの質問にも警備団の男性が答える。


「まあ、警備団2人が取り押さえようとした時の爆発だったらしいし、普通に考えたら捕まりそうになったから、だろうね」


「その警備団の2人はどうなったんですか?」


「…………1人は殉職。もう1人は一命は取り留めたけど、右足を失った」


「……そうですか」


 今回の爆発事件は場所が普通の通りだったため人通りもあり、爆発に巻き込まれて一般人の怪我人も出た。


 死者は警備団の1人だけだったようだが、負傷者は多数。

 むしろあの場に居合わせて無傷だったのはシュナに庇われたリリィだけで、他の者は少なくとも掠り傷くらいの軽傷は負っていた。


「シュナの容態は?」


「この娘を庇った犬耳の娘だったら、背中に大きな火傷を負ったものの命に別状はないよ。今は治療を受けているはずだ」


「それはよかった」


 先に知らされていたリリィ以外の3人は安堵の表情を見せる。


「今回の件は一連の事件で犯人を合わせて死者が3人も出た。しかし、犯人が死亡した以上、これ以上被害が増えることはないだろう」


 警備団の男がもう安心だと言う。確かに来月には研究発表会で他の街や他の国から多くの人がこの街に集まってくる。そんなときにいつ自爆するかわからない殺人鬼が街にいたら危険なんてレベルではない。


 事件は犯人の死亡という警備団からすれば納得のいかない終わり方かもしれないし、解決とは程遠い終わり方なのだろうが、これ以上被害者が出る心配がないという点においてはよかったのかもしれない。


「それはどうだろうか」


「……! シュナさん!」


 声がした方を見ると、会議室の入り口に刀を腰に携えた犬耳の獣人シュナが立っていた。


「もう大丈夫、なんですか?」


「ああ。問題ない。しかし、魔法というのはやはりすごいのだな。あの傷があっという間に治ってしまった」


 この街は冒険者が多いのでよく怪我人が病院に運ばれてくる。そのため、効率よく病院を回すために医療魔法が使える医者が常に1人はいるのだ。


「……シュナ、妹を守ってくれてありがとう」


 ルルが妹の命の恩人に頭を下げる。


「私からもお礼を言わせてもらうよ。本当にありがとう。また今度ご飯を食べに来てよ」


「うむ。礼には及ばないが、ご飯は食べに行くことにしよう」


 シュナの正直な返しに苦笑いを浮かべる一同。


「それで、それはどうだろうかっていうのはどういう意味?」


 そう、先程彼女が言った言葉が皆気になっている。

 もしまだ終わっていないのなら危険は過ぎていないということだ。


「そのままの意味だ。私はまだ今回の事件、何も解決していないと思っている」


「解決はしてなくても、犯人が死亡したならもう終わったんじゃないの?」


「いや、まだ真犯人が残っている」


 …………!!!


 会議室にいるシュナ以外の全員が息を呑む。


「あのネズミ耳の男と対峙した時だ。あの男の剣筋、まあ実際は鎌だったが、あの剣筋はまるで意思の持たない操り人形のように感じた」


「操り人形?」


「そう。ただ鎌を振り回すだけでこちらの動きをまるで見ていない。その上、動きを止めるために腕の骨を折ってやったにも拘わらずまるで痛がりもせず戦闘を続けようとした」


「……そういえば」


 リリィも思い出したように頷く。


「だが峰打ちで斬った時の感触は間違いなく人のそれだった……私の予想は遠隔操作であの獣人が操られていたのではないかといったところだ。それならあの爆発のタイミングも頷ける」


「爆発のタイミング?」


「私と戦っているときはそんな気配全くなかったのに、警備団の2人が捕まえようとした途端身体の右胸の少し上辺りが微かに光り始めたんだ。それで何かおかしいと思って離れるようにあの2人に言ったんだが、間に合わなかった……」


 つまり、ネズミ耳の男は何者かに操られていて、しかも操っていた者はその時近くにいたということだ。そしてシュナと戦うのはよくても警備団に捕まるのはまずいと判断し、遠隔操作で爆破した。


「でも人を操れて、遠隔操作で自爆までできるなんて、間違いなく魔法だよね?」


「いや、そうとも限らない」


「……! どういう意味です?」


 警備団の男が言った言葉に首を傾げる。魔法を使わずに人を操るなんて普通なら考えられない。


「私がまだ若い頃に聞いた話なのだが、一昔前まだ他国同士が戦争していた時代に開発された魔道具で、敵の捕虜の身体に埋め込むことでその者の動きを操り、自爆させることのできる魔道具があったはずだ。当時はその魔道具で敵陣営を内から崩したり、敵陣営のど真ん中で自爆させたりとその魔道具を持っていた国は戦いを有利に進めていたらしい」


「え、えぐい……」


 確かにそんな魔道具があれば戦争を有利に進めることは容易いだろう。

 捕虜になったはずの味方が帰ってきたと思ったらいきなり攻撃されたり爆発されたらたまったもんじゃない。


「もちろん戦争が終わり、その魔道具は全て処分されたはずなんだが……」


「効果的にまず間違いなくその魔道具でしょうね」


 回収し忘れや隠し持っていたなど理由はいくらでもある。


「ただその魔道具にも欠点があってだな……」


「欠点?」


「自爆するエネルギーはその魔道具が埋め込まれた者の魔力を使うんだ。だから戦争中も魔力を多く持つ魔法使いの捕虜にしか使われていなかった。魔法使いでもない一般人レベルの魔力しかない者に自爆させてもこの会議室を吹き飛ばすことも出来ないはずだ」


 しかし、今日起こった爆発は周りも巻き込む大爆発だった。


「つまりそのネズミ耳の男はかなりの魔力の持ち主だったと……?」


「うーん。それなら鎌なんて持たせずに魔法で昨夜の犯行を起こせば楽だったと思うんだけどな……まあ魔力を多く持っていても魔法が使えない者はたくさんいるが……」


 どこか納得がいっていないかのようにブツブツと呟く警備団の男性はいったん置いておいて、ハルは再びシュナに向き直る。


「つまり真犯人がその魔道具をまだ持っていたら、また犯行を起こすかもしれないと」


「そうなる」


 ハルの言葉にシュナも頷く。

 しかし、そもそも今回の事件は犯人が何を考えているかがあまり分かっていない。


 初めは昨夜起きた殺人事件。

 死体の状態から被害者にかなり恨みを抱いている者の犯行だと思われていたが、その後たまたまぶつかったリリィにも同じ鎌で攻撃を仕掛けている。


 そして止めに入ったシュナにまで攻撃をした。


 しかし警備団に捕まりそうになると自爆。


 もしこれが無差別殺人なら次に狙われる者が分からないため対応のしようがない。


 せいぜい警備団による夜間の見回り程度だろう。


「大変貴重な証言をありがとう。とりあえず、しばらくは夜に1人で外を出歩かないように」


 警備団の男性のその言葉でこの日は解散となり、ハル達は帰路についた。





        ×  ×  ×





 その日の夜、シュナの言った通り再びアランカの街の路地裏で殺人事件が起きた。






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