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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
42/186

8.\(^o^)/


「……ふぁ~……はよー」


 ヒーラに熱い抱擁をされてハルが気絶した日から3日ほど経ったとある日の朝、カイが眠たげな眼を擦りながらリビングに入ってくる。


「あ、カイくん。おはよう」


「おはよう。もう朝食の準備はできてるわよ」


「……ん。さんきゅ」


 朝があまり得意ではないカイは未だ半分寝ぼけたような状態でテーブルに着く。


「…………? ハルは?」


 残りの1人の姿がリビングにないことに気づき、キッチンに立つ2人に訊く。


「ハルならとっくに朝食を食べて、研究室に行ったわ」


「あー……毎日毎日懲りずによく付き合うよ。オレは初日でもう何言ってるかわからずにギブアップしたのに」


「アタシもよ。本当にハルは彼が言っていることを理解しているのかしら」


「た、たぶんハルさんは、あの魔道具が気になってるってだけじゃ、ないと思うな……」


「「…………?」」


 あ、この2人はこういう話に疎いんだった。とリリィは言ってから気がついた。


 3日前、突然ハルが倒れたとハルを背負ったヒーラが屋敷に飛び込んできた。

 初めは何事かと大騒ぎになりかけたのだが、何故かとても幸せそうな顔をしながら気を失っているハルを見て、リリィがヒーラにどういう状況で倒れたのかと訊くと、すぐに倒れた理由がわかった。


 しかしそれに気がついたのはリリィだけで、カイとルルはヒーラが何かしたのではないかと問い詰めようとしていたので、それを必死に止めたのはまだ記憶に新しい。


(ハルさんも、あんな女性らしい表情を、するんだなぁ)


 いつもカイ達と一緒に無邪気に笑ったりふざけたりしてはいるものの、歳不相応な冷静さと強い心を会わせ持ち、常にどこか1歩引いているような印象をリリィは受けていた。


 そんなどこかミステリアスなところが格好良いと思っていたし、憧れていたのだが、年頃の女の子らしい感性も持ち合わせていたのだと分かり、どこか安心もしていた(←無自覚に失礼)。


「わたしは、今日はお布団を干すつもりだけど、2人は、どうするの?」


 テーブルにパンやサラダを置きながらルルとカイに向けて質問をするリリィ。


 ちなみにこの屋敷に住む4人の中で1番料理が上手なのはリリィだ。前までは朝食は街の定食屋『フランベ』に食べに行っていたのだが、家を買ってから少し落ち着いてきたこともあり、ここ3日くらいは家で朝食を済ませていた。


 まあその理由の中にハルが朝から屋敷の横にあるヒーラの研究室に行っているからという理由もあるのだが。


 料理のレベルはというと、


 ハル:肉やパンを焼くくらいなら。

 カイ:同上(ただしモンスターや魚を捌くことはできる)。

 ルル:サラダの盛り付けは得意。

 リリィ:難しい料理でなければある程度は。


 といった感じである。


 それなら料理はリリィに任せればいいのではと思うのだが、変なプライドが邪魔をして、料理は当番制となっている。


「アタシは昨日買った本を読むわ」


「待てルル。今日はユニーにブラッシングをするから手伝ってくれ」


「……アタシ、本が読みたいのだけれど?」


「おいおい。キサラギからの山々を越えられたのもユニーのおかげだろ? それくらいしてやってもいいじゃねぇか」


「それなら貴方がしてあげれば……ああ、そういえばカイってユニーに嫌われてるんだったわね」


「ち、ちげぇし! ただオレ1人じゃ大変そうだから手伝ってくれって言ってんだよ!」


「はいはい。わかったわよ」


「それならわたしも、お布団を干した後に、手伝いに行くね?」


「助かる」


 その後はとりとめのない話をしながら朝食を済ませる3人だった。





        ×  ×  ×





「……ハルちゃん。もっと力を抜いて」


「……はぁ、はぁ……こ、こうですか?」


「慣れるまではもっとゆっくりと、少しずついれていった方がいいよ……」


「……ふぅ……こんな感じ、かな?」


「そうそう。いい感じだよ」





 魔道具をすぐに試せるようにと研究室の横に造られた実験場で私はヒーラさんの籠手型魔道具にゆっくりと自分の魔力を注いでいく。


 右手に装着した籠手には魔力を溜め込むことのできる魔石が嵌め込まれており、その魔石に溜めた魔力を放出することで武器に魔法の力を付与することができるのだ。


 もし今の私とヒーラさんの会話で変なことを想像した人がいたらその人は今すぐ腹筋30回するように。

 私は屋敷に戻ってから腹筋することにします。


「よし、それじゃあ矢に魔法を付与してみよう。放出量は一応調整してあるからこの間みたいなことにはならないと思う」


「はい」


 私は矢をクロスボウにセットし、弦を引く。引き金に指をかけたところで右手の魔道具を発動させる。


 その瞬間矢が青白い光を纏いバチバチと音を立て始める。


 ギリギリまでその光を矢に溜め込んだ後、引き金を引く。

 発射と同時に今までの比にならないくらいの反動が私に襲い掛かり、後ろに倒れかける。

 しかしそこは流石イケメンというか、ヒーラさんが私の肩を掴んで倒れないように支えてくれる。


 一方、一気に放たれた矢は、雷の魔法を纏いながら物凄いスピードで翔んでいき、的の為に立てられていた丸太を粉々に破壊した。


「すご……」


 自分の放った矢の破壊力を目の当たりにし、私は眼を見開く。


「うん、スピードは普通の時のおよそ3倍。威力も申し分無さそうだね。ただ、あれだけの威力だとやっぱり反動も凄いし、矢が1発しか使えないというデメリットもあるね」


 2人で矢が着弾した場所を見に行くと、粉々になった丸太と雷の魔法と衝撃に耐えきれなかった矢が真っ黒に焦げて半分から先の部分が無くなっていた。


「魔力の問題もありますし、あまり多用は出来ないですね」


「そうだね。ここぞという時の切り札って感じかな。ただ、魔力に関してなら問題はないよ?」


「え、どういうことですか?」


 ヒーラさんは私の右手に装着された籠手を指差しながら。


「その魔石はあらかじめ魔力を溜めておけるんだ。今の1発でさっき入れた魔力は全部使っちゃったみたいだけど、毎日コツコツと魔力を溜めておけば、いざ戦いになったときに今レベルの攻撃が何発も撃てるということになる」


「なるほど……」


「今以上のパワーの攻撃をしようとすれば当然消費する魔力も増えるけど、その大きさの魔石なら溜めておける魔力はかなりの量になるだろうし、滅多なことがない限り1戦闘で全て使いきるってことはないと思う」


「使いすぎて壊れるということは?」


「うーん……ないとは言えないけど、たぶんそれも滅多にないと思うよ。もし壊れたら僕の所に持ってきてもらえればすぐに直すしね」


 眼鏡を外しながらにこりと微笑むその笑顔に胸の奥がキュッとなる。ここ3日で何度も感じた感覚だ。


 この3日で私はしっかりと自覚をしていた。


 今まで経験のしたことのない気持ち。

 でも地球にいる私と同い年の人はきっと皆これを経験したことがあるのだろう。


 こんなにも切なくて苦しいのに、不思議と嫌じゃない。

 ドキドキと高鳴る鼓動がうるさいくらいに鳴り続いているのに、何故かそれが心地良い。


「いやー、それにしても剣じゃなく弓矢っていう発想はなかったなぁ。弓矢なら魔法を付与してすぐに発射すればいいから剣の時みたいに使用者が火傷するってこともないし。ホント、ハルちゃんのおかげだよ」


 私の気持ちも露知らず私にありがとうと再び微笑むヒーラさん。

 そしてその笑顔にまたも胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚になる。


 もう疑う余地もない。

 

 私はこの人に恋をしたんだ。


 咲場 春、17歳。

 私は異世界で初めて恋をした。





        ×  ×  ×





「ん? 実験は終わったのか?」


 ハルがヒーラと共に屋敷に戻ると、屋敷の横にある馬小屋(普通の3倍ほどの広さ)で動きやすそうな服を着ているカイとルルがユニーの軽い水浴びとブラッシングをしていた。


「まだ微調整はあるけど、一応一段落といったところかな?」


 カイの質問にヒーラが答える。


「こんなに早く終わるだなんて思ってもみなかった。それもこれも武器を剣じゃなく弓矢にしてみてはと提案してくれたハルちゃんのおかげだね」


「そんなことないですよ」


「いやいや、いずれは剣にも魔法を付与させるつもりだけど、来月の研究発表会には間に合いそうになかったからね」


 そう言いながらヒーラはルルがブラッシングしているユニーに近づく。


「あ、おい。そいつ男には……」


「……ん? 何か言ったかい?」


 ユニーの喉元を撫でながら首を傾げるヒーラ。

 ユニーもカイのときのように特に嫌がるというわけでもなく、静かに受け入れている。


「な、な、な……っ」


 ユニーのその反応にわなわなと肩を震わせるカイ。


「本格的に貴方が嫌われているだけという説が濃厚になってきたわね」


 プッとルルがブラッシングをしながら鼻で笑う。


「何でお前がよくてオレはダメなんだよ!」


「……? よくわからないけど、昔から動物にはよく好かれるんだよね」


「なるほど、イケメンは動物にも好かれるんですね」


「ははは、ハルちゃんってば僕は別にイケメンなんかじゃないよ」


「嫌味か!」


 カイが涙目で馬小屋の掃除を始めた。


「それはそうとヒーラさん。確か3徹って言ってましたよね?」


「ああうん。あの研究室があまりにも使いやすくてね。少し集中し過ぎてしまったよ」


「よかったらうちのお風呂にでも入ってゆっくりしますか? ヒーラさんの研究室の2階にも造ってありますけど、うちの方が大きいのでくつろげると思いますよ?」


 ハルの提案に瞳を輝かせたヒーラは撫でていた手をユニーから離し、ハルの手を握る。


「お風呂! 大衆浴場ではない大きなお風呂に憧れていたんだ! いいのかい?」


「え、ええ。ゆっくりしてください」


「あ、そうだ! ハルちゃんも一緒に入ろう! 実験を手伝ってくれたお礼に背中を流すよ!」







 え?






 今おかしな言葉がヒーラの口から発せられたような気がした。

 ユニーのブラッシングをしているルルも、小屋を掃除しているカイも動きを停めて驚いた表情をし、ハル達の方を向いている。


「えっと……今なんて?」


「ん? だから一緒にお風呂に入らないかい? 背中を流すよ?」


 もしこれがイケメンでなければ1発セクハラでアウトだろう。

 しかしそれがイケメンで、さらに惚れている相手からの言葉だと――


(お、おおおおおお風呂!? 一緒にお風呂!? そんないきなり!? だってお風呂って一糸纏わぬ姿になるんだよ? お互い生まれたままの姿になって身体を洗いっことか? 無理無理無理! 絶対鼻血が止まらなくなる! そういうのはもっと順序を踏んでから……)






「ね? どうかな? 別に女同士だから(、、、、、、)恥ずかしくもないよね?」





 ん?


 今なんと?


「僕、女友達と一緒にお風呂とか入ったことないんだよね」


「」


 ハルは頭がついていかず口が半開きのまま固まっている。

 そんなハルを見かねて代わりにルルが訊く。


「……あの、ヒーラさんって、もしかして女性なのかしら?」


「へ? もしかしてもなにも、見た通り女だよ?」


 両手を広げてその場でくるりと1回転するヒーラ。


 カイとルルの視線がハルに集まる。





「\(^o^)/」




 

 この瞬間、咲場春の初恋は黒歴史に変わった。




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