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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
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6.研究発表会事前公演


 私は生まれてこの方、恋というものをしたことがない。

 顔が特別良いというわけでもないし、男を魅了するような身体つきでもない。

 片手で数えられる程度だが学生時代に男子から告白されたことはあった。誰一人として受け入れたことはないが。


 昔、私がまだ中学生くらいの頃、何かのパーティーでどこかのお偉いさんであろう人に「春お嬢様がうちの息子と結婚して下されば嬉しいのですが」と言われたことがある。

 その時は笑って誤魔化したが、私は開口一番「いや、中学生に何言ってんの?」と言いかけた。もちろん実際には言っていないが。


 それは明らかに、自分の息子が結婚できるかどうかの心配ではなく、自分の会社、しいては自分の今後を案じた発言だったということは中学生の私でもわかった。

 案の定、その人の会社は半年後に倒産した。


 つまり、私とその息子が結婚するだけで倒産寸前の会社が安定するほどには私の家の財産は魅力的だったのだろう。


 それからだ。私が人の好意を素直に受け止められなくなったのは。

 同級生から告白をされても結局はお金が目当てなのではないかと思うようになり、全ての告白を断った。

 もしかしたら中には本当に私だけを好きになってくれた人もいたのかもしれない。それでも、どうしても、私は誰かからの好意を心の底から受け入れることはできなかった。


 だから私は今まで恋というものをしたことがない。

 

 だからきっとこれは、私の初恋(、、)、なのかもしれない。





        ×  ×  ×





「そういえば今日ですね、研究発表会」


 ハル達4人はいつも通り朝食を取るために獣人が経営しているレストラン、『フランベ』に来ていた(因みにこのお店でフランベをしているところは見たことがない)。

 朝のちょうどいい時間のため客も少なく、いつもの狸耳店員の少女と会話をしながら食事をする。


「そうそう。この後会場に行くつもりだよ」


「魔道具の発表会なのよね? 魔道具ってあの強制転移装置みたいなものよね?」


「たぶんね。どんな魔道具があるか楽しみだよね~」


 以前ファネルの事件の時にルルとリリィに持たせようとした強制移転装置。

 たった一度使うだけで壊れてしまう魔道具だが、僅かな魔力を注ぎ、「転移」と唱えるだけでその者を強制的に転移させてしまう魔道具だ。

 問題点といえば先述した通り一度しか使えないという事と、転移先が完全にランダムだという事。

 最悪の場合海のど真ん中に転移してしまうなんてこともある。

 

 しかし、転移魔法といえば超高等魔法であり、魔法使いの中でもほんの一握りしか使えない魔法だ。そんな魔法を一般人が生まれ持つ程度の僅かな魔力で使えるというのはかなり画期的な魔道具であると言えよう。


「天才っていうのはどの世界にもいるもんだね」






 ―――なんて思っていた時期が私にもありました。



『それでは、お次の方どうぞ!』


 司会の紹介と共に舞台上に現れたのは少し小太りの男性。その手に持つのは直方体の箱のような魔道具。


「これは念写魔法を組み込んだ魔道具です。念写と同じように一瞬でその場面を切り取ることができるのです!」


 念写魔法とは心に思い描いた物、目で見た風景などを紙などに投影する魔法。新聞などに載っている似顔絵は大体がこの魔法が使われている。二次元的にしか念写できないため幻覚魔法の下位互換と言われているが、幻覚魔法とは違い、印紙などに念写された画像は消えることはない。


 小太りの男性はその箱を横向きに持ち、客席に向かって構える。そして箱の上に付いた突起を指で押し込むとピカリとその箱が光りを放つ。


「これで会場にいる皆様の絵が切り取られました! 次にこれを念写してご覧に入れましょう!」


 その合図と同時に男の後ろに横6、縦3メートルほどの巨大な羊皮紙が運び込まれる。


 そして、その男が羊皮紙に魔道具を向けると、みるみるうちに羊皮紙にモノクロの画像が浮かび上がってくる。


 間違いなくたった今撮られた客席の画像だ。

 その光景に客席からは驚きの声が上がり、巨大な写真が出来上がると拍手喝采が巻き起こる。


 そんな中、ハルは最前列の席で口を半開きにし、その光景を唖然としながら見上げていた。



 ――まごうことなきカメラだ……



 そう、その魔道具はどう見てもポラロイドカメラだった。


 実はこれまで見てきた他の魔道具も似たり寄ったりだったのだ。つまり、既に地球に存在する機械ばかりで、ハルの心を動かすような魔道具はまだ1つとして出ていなかった。


 この世界は魔法が広まっているせいで科学が進んでいない。

 それが必ずしも悪いことだとは言わない。地球では転移魔法のような一瞬で移動する機械は存在しないし、何もない空間から火や水を発生させることもできない。


 魔法は科学より優れている。それは確かに正しいのかもしれない。


 だが、問題はそこではない。

 魔法は万人に扱えるものではないのだ。

 生まれ持った魔力の量とそして才能。この2つがなければ魔法を使うために努力するという資格すら与えられない。

 それがこの世界の魔法だ。


 魔道具はそんな資格が与えられなかった者でも科学の力で魔法に似た力が使える。たとえそれが本物の魔法の劣化版だとしても、魔法を使える喜びを味わうことができる。

 魔法は万人に扱えるものではない。しかし科学によって作られた道具は万人に扱うことができる。


 どちらが合っているとか間違っているとかではない。

 どちらも間違ってはいないのだ。


 ただ――、


「もしかしなくても地球の科学技術ってヤバいんじゃね?」


 魔法というものが存在しない科学の星からやって来たハルにとって、ここで発表されている魔道具とは何10年も昔から存在する道具ばかりなのだ。


(もっと、あの転移魔法の魔道具や隷属の首輪みたいな凄い魔道具を期待してたんだけど……)


 これは期待はずれだったかなと、思いながら横に座る仲間達を見てみると、


「うお、何だアレ! かっけぇ!」


「本当に一瞬で念写してしまったわ……」


「わたしも、あれ、使ってみたい……」


 大変好評なようで。


 仲間達の楽しそうな表情を見ると、それだけで来て良かったと思えるほどには仲間のことが大好きなようだ。とハルは呆れたように己を笑った。


「いやー、今回は大粒揃いだな」

「ああ。この様子だと来月の本番は過去最高の盛り上がりになるぞ」


 ハル達の後ろの席に座っていた男性2人の話し声が聞こえた。


 そう、この研究発表会とは半年に一度他の街や、たまに他の国なんかからもお客がやって来る超巨大イベントだ。


 現在行われているのはその事前公演のようなもので、客の反応などが知りたい魔法科学者達の為に毎月催されているプレテストのようなものなのだ。


 半年間、毎月行われているこれは魔法科学者達にとっては自分の魔道具の完成度を確かめる場であり、初めのうちは未完成の人も多いのだが、本番を来月に控えた最後の事前公演である今回はほぼ全員魔道具を完成させている。


 ″ほぼ″とつけたのは、そうでない人もいるからなのだが――


『それでは、お次の方お願いします!』


「は、はい」


 上擦った返事と共に舞台に現れたのは、先程の男性とは対照的な痩せ細った男。


 その男が取り出したのはピンポン玉ほどの大きさの球。

 

「こ、これは魔力を一時的に増幅させる、魔道具です」


 どよっ、と会場がざわつく。

 ハルもその言葉に反応していた。

 

 今までの魔道具とは違い、この世界でしか使えない魔道具に少しテンションガ上がる。


(それが本当なら、私にも魔法が使えたり……)


「た、ただ、その、増幅できるのは本当に一瞬だけで、それに、増幅が終わったら物凄い疲労感が襲うので、まだまだ、改良していくつもりです」


 痩せ細った男のその言葉に会場が一気に笑いに包まれた。


「なんじゃそりゃ! そんなのもともと魔法が使える魔法使いが無茶苦茶疲れながら魔法の威力を高めるくらいにしか使えねぇじゃねえか!」

「意味ねぇ~!」

「魔道具の使い道をもう一回考え直してこいよー!」

「ていうか、あと一月で本当に改良なんてできんのかー?」


 ゲラゲラと下卑た笑いに包まれる。

 しかし、言い方は置いといて、彼らの言っていることは一理ある。


 一瞬しか魔力を増幅できないのなら魔法使いが魔法の威力を上げるくらいにしか使えない。


 そもそも魔法が使えない者は魔力が少ないという理由の他にもともと魔法の才能がないという理由がある。魔道具とはそんな才能のない者に魔法を使わせる道具だ。


 魔法の才能がない者に魔力だけ増幅させても魔法は使えない。


 しかもそれは一瞬で使ったあとは莫大な疲労感に襲われるとなると、何度も使用することは躊躇われるし、魔力を増幅させて魔法の特訓をするということもできない。


「―――っ」


『あ、ありがとうございました。それでは本日最後の方です。どうぞ!』


 司会者が慌てたように痩せ細った男を下がらせ、次の発表者を呼ぶ。どうやら次で最後のようだ。


 司会者の声で舞台に現れたのは、紺色が混じった黒髪に黒縁の細い眼鏡が似合う超絶美形の白衣を着た青年だった。

 

「うっわ……めっちゃイケメン」


「あれはモテそうね」


「格好いい、ですね」


 ハルも含めた女性陣がその美形に見とれていると、不意にその青年と最前列のハルの目がバッチリと合う。


「……?」


「今回はお客様の中からお手伝いをしてくれる方を選びたいと思っています。お願いできますか? 最前列の可愛らしいお嬢さん」


「へあっ!? わ、私!? え、可愛らしいって私のこと?」


「もちろん。お願いできますか?」


 青年に指されたハルはあまり言われなれていない可愛いという言葉に頬を軽く染めながら、青年に手を引かれて舞台に上がる。


「さて、僕の魔道具は武器に魔法の力を付与させる魔道具です」


「なっ……!」


 青年の言葉に今度こそ心の底から驚く。


「フフフ、それじゃあ、まずこちらの剣を持ってみてくれるかな?」


 青年から1本の剣を渡され、右腕には真ん中に宝石のような綺麗な石が嵌め込まれた籠手を装着させられる。


「これであとはその籠手に魔力を注ぎ込み、剣に発現させたい魔法をイメージするだけだよ。そうだな今回は炎をイメージしてみようか」


 言われた通り籠手に魔力を注ぎ込み、頭の中で燃え盛る炎をイメージする。その瞬間――


 ボウッ!


 という音と共に剣が炎を纏う。



 それも、天井に届きそうなくらい大きな炎が。



「あ、あれ?」


「……ッ!! 熱い熱い熱い!!! 何コレあっつ!!!」


 巨大な炎を纏った金属でできた剣は一気に熱を伝え、握っているハルの手を燃やしにかかる。

 慌てて離した剣は炎を纏ったまま舞台上で倒れ、その炎が舞台の袖にかかったカーテンに移る。


「「あ」」


 ハルと青年の声が重なる。



「火が広がるぞ! 水! 水を掛けろ!」

「魔法使いはいないのか!! 早く消火するんだ!」

「客席の皆様急いで会場の外へと避難してください!」

「煙を吸い込むなよ! 体勢を低くしながら移動するんだ!」


 まさに阿鼻叫喚。


 その後、駆け付けた魔法使いや警備団によって火は消されたが、会場は半壊した。







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