5.チョロイン登場?
「とりあえずこいつどうする?」
カイ式シャイニングウィザードをこめかみに食らったシュナは完全に気を失い、カイはそんなシュナの顔をつま先で乱暴につついている。
「ていうか、何でこの人は私を攻撃してきたんだろ?」
「わかんね。ただ、オレ達に危害を加えるつもりはないとか何とか言ってたけど……」
「は? いや、私めっちゃ殺されそうになったんだけど?」
「だから、″オレ達に″」
そう言ってカイは自分とルルとリリィを指差す。
「……? 私は?」
「……さあ?」
「意味がわからん!!」
「同感だな」
ハルとカイでうーん、と悩んでいると、騒ぎを聞き付けたギルドの職員が駆け寄ってきた。
「あの! な、何かありましたか?」
「ん? ああ実はこいつが……むぐっ!」
「実はこの人がいきなり貧血で倒れまして」
ハルが正直に話そうとしたカイの口を塞いで息をするように嘘を吐く。
「貧血? ってシュナさん!? はぁ、だから食事はしっかり取るようにって言ったのに……!」
ギルドの男性職員がシュナに近寄ると、溜め息を吐きながら呆れたように手で顔を覆う。
「彼女のこと知ってるんですか?」
「ん? ええ、もちろん。彼女はこの国では珍しい獣人冒険者ですからね。ギルド職員は皆知ってますよ」
獣人というのはあまり冒険者には向いていない。冒険者は武器や防具などにお金がかかる職業であり、基本的に貧乏なのだ。
ハル達も主にキサラギで体験したことだが、獣人だからという理由で売価を高くする人間は確かにいる。
さらに冒険者はクエストを依頼する依頼主が拒否したらそのクエストを承けられなくなる。
そういう点から言っても獣人は冒険者には向いていないだろう。
「この人もこの街じゃトップレベルの実力者なのに獣人という理由で承けられるクエストが制限されているんです。だからいっつも金欠で、ここの簡易食堂で干し肉ばっか食べてるんです」
ギルド側はあくまでも依頼主の条件を尊重しなければいけないため、クエストに関してはどうすることもできないのだ。
「……いや、今朝山盛り丼食べてたよね?」
「食ってたな」
ハルとカイが小声で話すが、その声は職員まで届かない。
「仕方ない。今はフライベア騒ぎで人手が足りないし、ギルドの休憩室に寝かせておくか」
「あ、それなら私達が看病しますよ? その場所だけ教えてもらえれば」
「本当ですか? ではお願いします。休憩室はあの奥なので」
「わかりました」
職員はもう一度お願いしますと告げると、奥へと戻っていった。
「……よし、今のうちにこのシュナとかいう犬耳を連れていこう」
「どこに?」
「は? そんなの――」
―――うちに決まってんじゃん。
× × ×
「……ん、ここは……?」
「ようやくお目覚め? またずいぶんと寝てたね」
手首を身体の後ろで固定されたシュナが目を覚ますと、目の前には邪悪な笑みを浮かべた少女が立っていた。
「ハル、それは駄目よ。ファネルと全く同じことを言っているわ」
「え、マジで? ヤバいヤバい」
まだ意識が完全に覚醒していない中、自分が何故こんな状況に置かれているのかを考えるシュナ。
手は縄か何かでキツく結ばれているのか全く動かず、頭にも鈍い痛みが響いている。
「貴様、いったい何者だ?」
「うーん、それはこっちの台詞なんだよな~。いきなり攻撃してきたのはそっちだったと思うけど?」
その言葉にシュナは完全に思い出す。
(そうだ、こいつはあの獣人達を連れていたコレクター……っ! つまり、私もこいつに捕まり、物になってしまったということか……申し訳ありません師匠、あれほど気を付けろと教えられたのに。申し訳ありません神の定食屋の店長さん。もう貴女のお店には行けそうもありません……っ)
急に俯き静かになったシュナを見て、ハルとルルは互いに首を傾げる。
「あ、あれ? 何か急に黙り込んじゃったんだけど」
「頭が痛いんじゃないの? アタシがあれを食らったら簡単に死ねる自信があるわよ」
「確かに、あれはホント痛そうだよね」
自分をそっちのけで盛り上がり始めるハルとルルを見て、シュナは俯かせていた顔を上げる。
「……? お前達は何故そんなにも……お前は獣人コレクターなんだろ?」
「―――。」
シュナの疑問に言葉を失うハル。
まさか自分が獣人コレクターに間違われる日が来るなんて。
「ああ、なるほど。ハルをコレクターだと思ったから攻撃したのね。それでアタシ達には危害を加えるつもりはないと。残念だけどハルはコレクターじゃないわよ」
「……! そうだったのか。私はお前達を助けようとして、それで「おい」……?」
シュナの言葉を遮り、ハルはシュナの顔に自分の顔を近付ける。
「誰がコレクターだコラ。こちとらルル達のことは仲間であり家族だと心から思ってんだよ。適当なこと言ってると流石の私もキレるぞ」
「わ、わわわ、近い近い! わかったわかった! 私の勘違いだったみたいだ!」
「か、かぞく……///」
あと数センチ進めば唇が触れそうなくらいの距離でハルに凄まれたシュナはその近さに顔を僅かに赤らめながら謝り、ルルは家族という言葉に反応していた。
「ったく、カイにはよく胡散臭いとか性格悪いとか言われるけど、コレクターなんかに間違われるとは不快にもほどがある」
ハルはシュナの手を締め付けていた縄をほどきながらなおもブツブツと文句を言っていた。
「す、すまなかった。本当に私の早とちりで……」
「まったくだよ」
その後ルルからハルがファネルを倒して獣人達を助けた話などを聞いたシュナは自分の勘違いを理解し、ハルに謝り倒していた。
「おーい。飯が出来たぞ」
夕飯の支度をしていたカイがハルを呼びに来る。
「……ほら、行くよ」
「え? いや迷惑をかけた私がそんなお邪魔をするわけには」
「いっつも金欠でまともな物食べてないんでしょ? さっきルルに言って5人分用意してもらってるから、食べてってもらわないと逆に困る」
「わ、わかった。それではお言葉に甘えて……」
若干ハルに逆らえなくなっているシュナがカイとハルに続いてリビングへと向かった。
「こ、これは……こんなご馳走本当に食べていいのか?」
「アタシとリリィが途中で見つけなかったら茶色い食卓になってたところだったのよ。あなたちゃんと野菜も食べなさいよ」
「うっせ。お前らが当番の日は野菜ばっかなんだから、オレが当番の日は肉ばっかでもいいじゃねぇか!」
「いいわけないでしょ」
食卓には色んな種類の肉を焼いて塩コショウを振っただけの肉料理がずらりと並んでいた。
全員料理を覚えられるように夕飯は基本家で食べることにしたハル達は、料理を作るのを当番制とした。そのためお肉大好きなカイが夕飯当番の日はお肉中心の食卓となる。
「またずいぶんと手抜きだね~」
「いいんだよ、旨くて量があればそれが正義だ」
ハルの呟きにふんっと唇を尖らせながら正義を語るカイ。
「しょっぼい正義ね」
「うるせぇよ! 野ウサギすら捌けねぇくせに!」
「う、ウサギ科にウサギを捌かせようとする方がおかしいのよ!」
「残念でした~、オレは猫だろうが虎だろうが捌けますぅ」
「野蛮児」
「なんだとぉ!」
「なによ!」
ウガー! と掴み合いの喧嘩を始めるが、いつもの光景なのでハルとリリィは無視して食事を進める。以前まではリリィも一応止めようとしていたが、最近は面倒になったのか放置するようになった。
「シュナさんも、食べて、いいんですよ?」
「う、うむ。ではいただきます」
肉の山から一切れ箸で掴み、白米と一緒に口に運ぶ。
「……! う、うまい! 何だこの肉は……!」
「ハルさんが昨日買ってきた、超高級お肉です」
「おお! 超高級お肉! 何という甘美な響き! ハルさんは物凄く良い人なのだな!」
「何て現金な奴なんだろう」
ハルの呟きが聞こえていないのか、がつがつと肉を口に含んでいく。
比較的高い肉ばかりを食べていき、途中でカイにそれを見つかってからは2人で大食いバトルとなり、ハル、ルル、リリィの分の肉まで貪り尽くしていった。
「非常に美味しい肉だった。ご馳走さまでした」
「く、もう動けねぇ」
結局大食いバトルはシュナの圧勝で、カイは倒れたまま動けなくなっていた。
「それでは私はこれで失礼する。この度は本当に迷惑をかけた」
「勘違いは、誰にでもあります。大事なのは、それを認め、反省し、謝る事ができるかどうか……です」
良いこと言う。
リリィの言葉を聞いて、シュナはハルに向き直る。
「改めて、ハルさんには特にご迷惑をかけた。すみませんでした」
「ま、確かにリリィの言う通りだし、ちゃんと誤解が解けたならもういいよ。あと、シュナの方が2つ年上なんだし、呼び捨てでいいよ」
「む、そうか。で、ではハル。あの、えっと……」
「……?」
「ま、また来ても良いだろうか?」
「……? うん。まあ、もちろんいいけど」
「本当か! それはよかった。この家のご飯は美味しいからな! やはりハルは良い人だ!」
シュナはそれではまた来る! と言って楽しげに歩きながら屋敷を出ていった。
「あいつ、飯を食わせてくれれば誰でも良い人になるんじゃねぇの?」
「……やっぱり何て現金な奴なんだ」
カイとハルの言葉は、既に屋敷から出ていったシュナに届くことはなかった。
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