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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
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4.獣人冒険者


 部屋を借りている客のほとんどが獣人である宿がある。

 ここは別に人間は宿泊禁止というわけでもないのだが、宿を経営している人が獣人なため、自然と客も獣人が多くなる。


 師匠の元を離れ1人で旅を続けてきた犬耳の少女はこの街に来てからはずっとこの宿に泊まっていた。


 朝目を覚ましベッドから身体を起こす。

 眠たい目を擦りながら洗面台へと向かい、冷たい水で顔を洗う。褐色の肌は生れつきのもので、別に日焼けというわけではないのだが活発な印象を受ける。


 完全に目を覚まし、着替えを終えて刀が収められた鞘を左腰に携える。そして最後に膝下辺りまであるローブを羽織り、フードを被る。これが彼女のスタイルだ。

 彼女は非常に珍しい獣人の冒険者で、いつもこうして耳を隠しながらクエストを承けている。

 

 冒険者というのは獣人に非常に寛大である。しかし、依頼をする者は冒険者ではなく一般人がほとんどだ。故にフードを被っていた方が何かと便利なのである。


 2階にある部屋を出て、ロビーに向かう。

 いつも前日に稼いだお金で朝食を取るのだが、昨日はいつも以上に稼ぐことが出来たので朝食もいつもより豪華にいきたい。

 

 少しわくわくしながら階段を降りると、この宿を経営している宿主さんと出会(でくわ)す。


「おや、朝からお出掛けかい?」


「はい。冒険者は毎日稼がなければいけないので」


 冒険者は総じて貧乏である。

 その日の食費はその日に稼ぐという冒険者も少なくはない。

 彼女も少しずつ貯金をしてはいるものの、それでも1日無収入の日があると一気に生活が苦しくなる。


「ま、冒険者ってのは大変な仕事だろうけど、アタシは宿賃さえ払ってもらえれば何も文句は言わないから、頑張りな!」


「はい。ありがとうございます」


 宿主さんに見送られ、少女は宿を出る。


 まずはどこか朝食を取れる場所を探さなければ。


 スンスンと鼻を鳴らしながら匂いを判断する。

 彼女は犬科の獣人であり、目や耳も人間より優れている。しかし、他の獣人と比べてもより優れているのが嗅覚である。


 彼女は良い匂いを辿りながら1つのお店に着く。

 ここは獣人が店長を勤める定食屋で、店員も皆獣人である。いつもはギルドの簡易食堂で食事を済ませている彼女だが、たまには贅沢もいいだろう。


 彼女が美味しそうな匂いに釣られながら店の扉を開けようとする、が、その手が不意に止まった。


 店の中から変わった匂いがする。

 窓から店内を覗いてみると、獣人と人間が同じテーブルに座っていた。


 様子を見ていると楽しそうに食事をしている、ようには一応見える。

 この街の人間は確かに獣人に寛容である。しかし、それはあくまでも同じ街に暮らす程度(・・・・・)なら問題ないというだけで、人間と獣人が共に行動する(・・・・・・)ところなど見たことがない。

 

 そこで、昔師匠に言われた言葉を思い出す。



『獣人コレクターという者達には気を付けよ。奴等は獣人を物としか見ていない。しかも質が悪いことに街中でわざと連れている獣人に優しくしているところを見せることで、他の人間から疑われないようにしているのだ』



 もう一度窓から店内を覗く。

 1人の人間と3人の獣人が同じテーブルを挟んでおり、テーブルの上にはステーキやらパスタやらと朝から信じられないほど豪華な料理が並んでいた。


 自分は朝は毎日干し肉で済ませているというのに……なんて贅沢な……っ。

 美味しそうに食べるご馳走につい涎が垂れる。


 窓に映ったそんなだらしない自分の姿を見てハッと気を取り直す。


(こんなところでご馳走に見入っている場合じゃない! あれは師匠の言っていたコレクターだ! もしそうならあの獣人達は私が助けなければ!)


 少女は涎を拭き、店の中に入る。


「いらっしゃいませー。何名様でしょうか」


「1人だ」


「それではこちらのカウンターへどうぞー」


「うむ」


 狐耳の店員に案内され、カウンターの席に着く。


「ご注文が決まりましたらお声掛けください」


「うむ」


 とりあえず定食屋に入って何も頼まないというのは駄目だろう。そもそも彼女はここに朝食を取りに来たのだ。


 メニュー表に目を通し、そして目を見開いた。

 値段はどのメニューもお手頃であり、何より目についたのは″丼物大盛り無料″という文字だ。


「すみません」


「はーい」


「この山盛り山の幸丼というのも大盛りにできるのだろうか?」


「や、山盛り山の幸丼の大盛りですか?」


「できるよ」


 店員さんが困った表情をしたのでやはり無理だったかと思いながら他の大盛りにできる丼物にしようとメニューに視線を戻すと、カウンターの奥から野太い女性の声が聞こえた。


「できるのですか?」


 厨房で調理をしていた店長とおぼしき身体の線が少し太い女性が手元のフライパンに視線を落としながら応えた。


「明日からも来るなら超大盛りにしてやってもいい」


「必ず毎日来ます」


「ちょっと待ってな」


 まさか、山盛りの山の幸が乗ったご飯を超大盛りで食べられるなんて。

 しかも値段だってギルドの料理とさほど変わらないときた。

 何故今までこんな素晴らしい定食屋に来なかったのか。ここならお金のことを考えずにお腹いっぱい食べられたのに……っ!


 昨日までの自分を脳内でボコボコにしていると、窓際の席から楽しそうな声が聞こえてくる。


「カイ君はツンデレさんだね」


「ねー、わかりやすいよねー」


「ち、ちげぇよ!」


 あははは、楽し気な声が聞こえてくる。

 

(ハッ! そうだった、私はあの子達を救うという使命が……っ!)


「はい! 山盛り山の幸丼の超大盛りお待ち!」

(きたーーーーーー!!!)


 カウンターテーブルに置かれたそれはまさに山盛り。

 座っている少女の顔辺りの高さまでよそわれた白米に椎茸やたけのこ、山菜の天ぷらなどが所狭し乗せられており、全体に染み渡るように注がれた出汁が食欲をそそる香りを漂わせている。


 いただきます。と両手を合わせ、割り箸をほかほかのご飯に沈めるとふんわりとした感触が箸越しに伝わる。

 出汁が掛かった白米とたけのこを一緒に口に含むと口の中が味の暴力に襲われる。


「こ、これは……!」


 経験したことのない旨みの過剰摂取に箸が止まらない。


「ふん、良い食べっぷりじゃないか。気に入った。こいつも食べな、サービスだ」


「ふぁふぃがとうごふぁいまふ」


「口に物を入れて喋るんじゃないよ!」


「む……ごくん。これは失礼した。改めてありがとうございます」


 山盛り丼の横に置かれたスープに口をつける

 

「うまい!」


 シンプルな野菜スープなのだが、これまた出汁が効いており、旨く温かいスープが食道を通り胃に流れていくのを確かに感じる。


「何故昨日までの私はこんな素晴らしい料理を出してくれるお店に来ていなかったのか!」


「それがわかったなら、明日からはちゃんと毎日来ればいい」


「必ず……必ず来ます!」


「よし」


「流石店長。ああやって営業も欠かさない。プロの鑑だよ」

「私達も見習わないと」


 がつがつとあっという間に完食し、スープも一滴残らず飲み干す。


「ごちそうさまでした」


「6Gだよ」


(この量、この旨さでこの値段。これからここは神の定食屋と呼ぶことにしよう)   


 少女は意味のわからないことを考えながら10Gを払い、お釣りを貰って店を出る。


「ふぅ……久しぶりに朝からいい気分だ。さて、今日も1日クエストを頑張るとし……よ、う?」


 何かを忘れていいるような……


「ハッ!」


 慌てるように振り返り、店内の窓際の席を見る。

 そこには食器を下げ、テーブルを拭く狸耳の店員しかいなかった。

 少女は急いで辺りを見渡すが、あの4人組が近くにいる様子はなく、匂いを辿ろうにもすぐ後ろの良い匂いが邪魔をする。

 

 完全に見失った。


「……まさか瞬間移動の魔法が使えるのか?」


 自分ががつがつ山盛り丼を食べているときに普通に出て行っただけなのだが、そんな可能性は微塵も考慮せず、獣人冒険者のシュナは勝手に獣人3人を連れていた少女を強敵扱いし、いつも通りギルドへと向かうのだった。





        ×  ×  ×





「……私が倒すべき相手?」


 いきなり刀を喉元に突き付けられたハルは、冷や汗を流しながらゆっくりと背中のクロスボウに手を伸ばす。


「ハル! 伏せて!」

「……! フッ……!」

「……っ!」


 ルルの声に即座に反応したのはシュナだった。

 目で追えないレベルのスピードでハルの首目掛けて刀を振りぬく。


 そして刀の刃がハルの首筋に入る寸前、僅かに空間がブレる。

 ほんの一瞬前まで目の前にいたハルが消え、シュナの振るった刀が空を斬る。


「なに……!?」


 ハル達お得意の幻覚魔法作戦である。

 しかし魔法を受けたシュナはおかしな答えに辿り着いていた。


(……! そういえばこの女は瞬間移動の魔法が使えるはずだ……っ!)


 全く微塵も使えないのだが、シュナは勝手にハルの強さを高く再評価する。


 しかしそんなことを考えているのも束の間、ダガーを構えたカイがシュナの目の前まで迫っていた。


「ぐっ!」


「オラッ!」


 カイの両手に持たれたダガーで猛攻を受けるシュナ。

 何とか刀で防いでいくが2本対1本、それもダガーの間合いに入り込まれた状態では防ぎきるのにも限界がある。


「ま、待て! 私は君達に危害を加えるつもりはない!」


「嘘吐けボケェ! 思いっきり攻撃してきたじゃねぇか!」


「あれは君達ではなくあの女にっ……くっ、仕方ない、少し我慢してくれよ」


 シュナがカイのダガーを大きくかち上げ、その一瞬の隙にカイの懐に入り込む。

 そして刀の柄の部分でカイの鳩尾に一発入れる。


「ガハッ!」


「あ、やば」


 想像以上に体重が軽かったカイに対して力加減の間違えた一撃を入れてしまったシュナは、吹き飛ぶカイを見てやっべーと冷や汗を流す。


「動くな」


「……っ!」


 そんな一連の流れの中でハルはしっかりシュナの後ろを取っていた。


 クロスボウにセットされた矢をシュナの後頭部に突き付ける。あとは人差し指を軽く引くだけでシュナは命を落とすだろう。


「ぐっ……いったいいつから……」


「カイがアンタの気を引いてくれてた時に決まってるじゃん」


 シュナは刀を下ろし、参ったと口を開きかけた瞬間、


「だらっしゃい!!!」


「ぐぼはぁぁぁっ!!!!」


 シュナが横に吹っ飛んでいった。


「……カイ君や? 不意打ちのカイ式シャイニングウィザードは命に係わるからやめようね?」


「あいつの鳩尾もこんくらい痛かった」


 それはどうだろうか……





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