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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
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3.仲良くなった獣人と人間


 この街は山のすぐ麓にあり、山には多くのモンスターが生息している。


 そのため、この街にはモンスターを討伐する冒険者の数も自然と多くなる。冒険者が多くなるとクエストを発注したり、承けたりするためのギルドが必要不可欠となる。


 このギルドという仕組みはキサラギにも一応あったものの、アランカほど冒険者が活発ではなく数もそれほどいなかったため、そこまで大きいわけでもなければ目立った建物でもなかった。


 しかし、アランカのギルドはこの街のシンボルともいえる巨大な時計台の1階部分を占めており、毎日多くの冒険者や、クエストを発注する所謂依頼者が頻繁に出入りしている。


 冒険者は基本的に獣人を差別しない。例外もいるとは思うが、それでも今までの経験上冒険者はカイ達にも気安く話し掛けたりしてくれていた。


「故に冒険者が多いこのアランカという街は自然と獣人にも寛容になっているんです」


 毎日来ている獣人達が経営している定食屋の店員の少女に教えてもらった。


 この街にハル達が来てから5日が経っている。


 人間の客は珍しいこのお店に毎日通っているため店員にも店長にもハル達は顔も名前も覚えられていた。

 初めは警戒されていたものの、害はない客だと判断されたのか、最近ではよく色んな話を訊かせてくれる。


「そういえばハルさん。近頃開催される魔法科学の研究発表会の事はご存じですか?」


「魔法科学? 研究発表会? 存じないなぁ」


「私には難しくてよくわからないんですけど、何でも自分達で開発した魔道具を発表する場らしいですよ?」


「魔道具かぁ。あんなものを開発する人の頭ってどうなってるんだろうね~」


「わかります! 説明とかされても全く理解できない自信があります!」


「だよね~」


 イエーイと意気投合する獣人と人間。


「それって一般人でも観られるの?」


「はい。普通に一般公開していますよ。まあ観に来るのは他の研究者か使える魔道具を探している冒険者くらいなものですけど」


「冒険者ってどれだけ魔道具使ってても絶対に仕組みとかは理解してないよね」


「ですよね。冒険者って強ければなれるので頭が良くない人多いですよね」


「わかる~」


 フゥー! と意気投合する獣人と人間。

 理解していないのに魔道具を使っているのは冒険者だけではないのだが、自分達の事は棚に上げて失礼なことを言う2人。

 

 もし冒険者がたくさん歩いている店の外でこんなことを言えばリンチに遭うかもしれない。


「3人ともどうする? 観に行ってみる?」


「オレ達が観てもどうせ理解できないだろ」


「でも私達も魔道具使うかもしれないし観といた方がよくない?」

「…………」


 数秒前の自分達の会話すら忘れてしまったのか。とハルに可哀想な目を向けるカイ。


 ハルはその視線を無視してルルとリリィにも訊く。


「アタシは別にいいわよ」


「わたしも、構いません」


 ルルとリリィは一緒に頷く。


「皆観てみたいって。それっていつやるの?」


「オレは一言も観たいなんて言ってないけどな」


「次回は来週ですかね。1ヶ月に1回のペースでやってます。そろそろギルドとかに案内の貼り紙が出されると思いますよ」


「わかった。皆で行ってみるね」


「オレは一言も観たいなんて言ってないけどな」


 流石に面倒なので無視するのはやめておこう。


「じゃあカイは1人でお留守番ということで」


「え」


「あー、あの屋敷に1人は少し寂しいわね」


「おみやげ、何かあれば、買ってくるね」


 ルルとリリィもハルの悪乗りに便乗する。2人もカイの扱いが上手くなった。


「ま、待った。観たいとは言ってないけど、行かないとも行ってない」


「じゃあ行くの?」


「……いく」


 そっぽを向いて小声で呟くカイを見て狸耳の店員である少女がくすりと笑う。


「カイ君はツンデレさんだね」


「ねー、わかりやすいよねー」


「ち、ちげぇよ!」


 あははは、と楽しくカイを弄っていると、カウンターから店長さんの声が聞こえてくる。


「はい! 山盛り山の幸丼の超大盛りお待ち!」


 山山盛り盛りうるさいよ! というツッコミは野暮なのでやめておいた。

 山盛りの大盛りとはどれ程盛り盛りなのかとそちらを見てみると、そこには大きな(どんぶり)に30センチ程の高さまでよそわれたご飯。さらに山の幸丼というだけあって、すぐ横の山から採れたきのこやらたけのこやら山菜やらが大胆に乗せてあり、上から特製のタレをかけた1品がフードを頭から被ったローブの人の前に出されていた。


「……朝からあれを食べるんだ」


 いただきますと手を合わせた後、がつがつと山盛り丼を食べるフードの人。


 逆にハル達は朝食を終え、食休みもある程度済んだので代金を支払い店を出る準備をする。


「じゃあまた明日来るよ」


「はい! お待ちしております! ありがとうございましたー!」


 狸耳の少女の元気な挨拶に見送られ、ハル達は店をあとにした。



「せっかく家も買ったんだし、皆の服でも買おうよ」


 ハルの言葉にルルとリリィが反応する。

 ハルとリリィは今までハルの少々大きめな服を借りていたので、かなりだぼだぼな服を着ていたことになる。


「それはいい考えね。いつまでもハルの服を借りているわけにもいかないし」


「うん。服、見たいです」


 ルルとリリィが目をキラキラとさせているのとは対照的にカイはげっそりとした表情を見せていた。

 恐らくカンナギで着せ替え人形にされたのが若干トラウマになっているのだろう。


「オレは持ってる分だけでいいから、新しいのはいらない」


「何言ってんの。もうフードは被るつもりないんでしょ? だったらフード付きの服以外の服も着ようよ」


「別に今あるので満足してる!」


「まーまー、そう言わずに。ほらほらレッツゴー!」


「お前はオレを着せ替え人形にしたいだけだろ!」


「そうとも言う!」


「開き直るな!」


 楽しげに服屋へと向かう4人だった。


 



        ×  ×  ×





 ルルには真っ白なフリルの付いたワンピース、リリィには同じワンピースでも真っ黒なワンピースと、双子コーデとなるお互い髪の色とは逆の色のワンピースを着せたり、カイにはフード以外の服をたくさん着せた。

 最初は渋っていたカイだが、3人で「かっこいい」「似合ってる」などと言っていたら満更でもなさそうだった。


 その後は昼食をとり、狸耳の店員に教えてもらったようにギルドに行くと、中は多くの完全武装した冒険者達でごった返していた。


 冒険者同士で会話している者達。クエストの内容が書かれている紙が貼り出してあるボードの前に集まる者達。


 そんな冒険者達を尻目に魔法科学の研究発表会のポスターを探していると、いきなり1人の冒険者がギルドに飛び込んできた。


「おい! 大変だ! また山からモンスターが街に下りてきた! フライベアの群れだ!」


 その声を聞くやいなやギルド内にいた冒険者達がいっせいに外へと飛び出していった。そして10数秒後にはあれだけいた冒険者達がほとんどいなくなっていた。


 この街にも当然警備団は存在する。

 しかし、警備団の仕事はあくまでも街中で人が起こした事件を解決することであり、所謂対人組織である。


 それに対して冒険者は基本的にモンスターを討伐する者達のこと。この街は山の麓にあるため、よくモンスターが山から街に下りてくる。山に入ってモンスターを狩るのも冒険者の仕事だが、街に下りてくるモンスターを討伐するのも冒険者の仕事なのだ。


 あっという間に静かになったギルド内に残った人を見てみると、そこにはクエストボードを見上げている見覚えのある人物がいた。


 今朝山盛り丼を食べていたフードの人である。

 今の騒ぎに反応することもなく、ずっとクエストボードを見上げていた。


 ハルはその人に近付き、声を掛けてみる。


「あなたは行かなくていいんですか?」


「……あれだけの冒険者が行ったんだ、私の出る幕はない」


「まあ、確かにあの人数だしね」


 フライベアというのは名前の通り空を飛ぶ熊のモンスターだ。

 背中から鷲の様な翼を生やしているのだが、実際は魔法の力で飛んでおり、その翼は空を飛ぶ為には使われていない。では何故翼が生えているのか。

 その翼は魔力を溜めておくための場所であり、翼が大きなフライベアは例外なく持っている魔力量も多いのだ。

 

 このフライベアに似たモンスターにグリフォンというモンスターもいる。


「……それに、私にはフライベアよりも倒さなければいけない者がいる」


「へー、それは訊いてもいいのかな?」


「ああ、問題ない。何故なら――」


 そこまで言うと被ったフードを取り、腰の鞘から抜いた刀をハルの首元に突き付けながら振り向く。


 ハルよりも2、3歳年上であろうその女性は、頭の上に生えている垂れた犬耳をぴくぴく動かしながら言い放った。




「――私が倒すべき者とは、お前だからだ」






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