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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第2章 魔法科学
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2.お金持ち、家を買う。


 ハルはアランカの街にある銀行に訪れていた。

 現金を少し下ろしておこうというのと、何だかんだでカンナギやキサラギで色々と使ったので、今の残高を知っておきたいのだ。


「まあ、残高を気にするレベルの金額じゃないんだけどね」


 そう1人ごちる。

 この街は獣人も比較的安全に暮らせているようなので、カイ達にはお小遣いを渡して別行動をしていた。故に今はハルは1人である。


「あ、現金の引き出しをお願いします。あと記帳も」


「かしこまりました。いくらお引き出し致しましょう?」


「うーん、まずは記帳の方をお願いしていいですか?」


「かしこまりました」


 受付のお姉さんに通帳とキャッシュカードを渡し、本人確認の為に水晶玉に手を乗せる。

 初めてやった時は不思議な感覚だったが、これはその人の魔力を調べる魔道具らしい。地球でいう静脈認証のようなものだ。


 魔力とはどんな生き物にもあり、当然ハルにも微弱ながらある。魔法が使える者が魔法がが使えない者と比べてその魔力が多いというだけで、魔法が使えない者に魔力が全くないというわけではないのだ。

 他の魔法使いよりも魔力が少ないルルとリリィでさえ、魔法が全く使えないハルやカイと比べれば何10倍もあるのも確かだが。


 そして魔道具とはそんな微弱な魔力しか持たない者でも魔法に似た現象が起こすことができるようにと開発された道具なのだ。


「記帳が済みました。ご確認ください」


 お姉さんに通帳を返してもらい、それを開いて確認する。

 今まで自分がいくら下ろしたかなんていちいち覚えていなかったが、思った以上に預金残高は減っていない。


 クロスボウ等の武器やちょっとした魔道具、ユニコーンのユニー、オークションに入院・治療費とそれなりに散財していた気はしたものの、それでもこの世界に来て一月とちょっとで100万も使っていなかったようだ。


 いや、この世界の100万は円に直せば1億なわけで、当たり前といえば当たり前なのだが。

 

 それに、街にいた期間といえばカンナギとキサラギを合わせても2週間もいなかった。

 カンナギからここアランカの街までの3週間弱はいくつもの山を越えていただけなので、お金は一切使っていない。

 そうなるとたった2週間足らずで1億円近く使っていたことになるのだが、それでもハルの財産にとっては誤差でしかない。


 あれだけお金を使ってもほぼノーダメージだというのなら、もう少し大胆に使っても問題ないような気がする。それに、銀行があるというのなら当然利息だってある。利率がいくらくらいなのかは知らないが、常に25億以上預けておけばそれなりの利息は見込めるだろう。


 もう一度通帳を見て、ハルは決める。


「とりあえず10,000Gでお願いします」


「かしこまりました」


 下ろしたお金を財布にしまい、銀行を後にする。


「よし、いっちょ大きな買い物でもしますか」





        ×  ×  ×





「家を買ったぁ!?」


 カイは合流したハルの事後報告に叫ぶように驚きの声を上げた。


「うん、おっきいの」


「は、いや、え? 何でいきなり?」


「いやー、毎回宿暮らしっていうのもあれだし、拠点となる場所も欲しかったからさ」


 ははは、と笑いながら買ったという家まで案内をするハル。その後ろを戸惑いながらカイ達もついていく。


「あ、ここだよ」


 案内されて連れてこられたのは馬小屋付き2階建ての大きな建物。

 カンナギにあったファネルの屋敷程ではないにしろ、4人で住むには十分広すぎる家だ。不動産によると築10年らしいのだがとてもそうは見えない。掃除が行き届いた見事なレンガ造りの家である。


 一応街中ではあるが中央の巨大時計台からは少し離れており、周りにはこの家以外の建物がない。比較的静かな場所だ。

 この街は街の中心に向かっていくにつれて建物が増えていく。では何故中心から離れた場所にこんな立派な家があるのかというと。


「なんでも10年前にここに家を建てて、その周りで農園を造ろうとした金持ちがいたらしいんだけど、この周りの土は農作物が育ちにくい土だったらしくすぐに土地ごと売っちゃったんだって」


 そしてほとんど新築のまま誰にも買われることなく10年が過ぎたらしい。

 

「家っていうのは住まないとすぐに悪くなるっていうけど、流石新品同然なだけあって中々立派だね」


「いや、でもおかしくないか? こんな立派な家に10年も誰も住み着かないなんて」


「そうでもないよ? この家を買う人は強制的にその金持ちが農園にするはずだった土地も買わなきゃいけないんだって。家だけを売ってくれっていう人はたくさんいたらしいけど、その周りの土地ごと買わなきゃいけないって聞くと誰も買わないらしい」


「それで、お前はその土地ごと買ったのか?」


「うん」


 当たり前でしょと言わんばかりに頷くハル。

 そこにずっと家を見上げていたルルが話に入ってくる。


「それで、その土地とやらはどのくらい広いの? 農園と言うからにはそれなりの広さなのでしょ?」


「あ、ここに街の縮尺図があるよ。これ見れば大体わかると思う」


「…………?」


 首を傾げながら地図を覗き込む3人。

 何故いちいち地図で確認しなければいけないのかと思った3人だが、その理由は地図を見てすぐに理解する。


 ハルが買った土地とは、東京ドーム2個分はある超広大な土地だった。屋敷はファネルの屋敷程ではないにしろ、土地の広さは莫大だった。


「「「…………」」」


 唖然呆然。

 開いた口が塞がらないとはまさにこの事を言うのだと、3人の反応を見たハルは思うのだった。

 




        ×  ×  ×





「相談なしにこんなバカでかい土地どうするんだよ、ていうかいくらするんだよこれ……」


 家、というか屋敷に入った4人はとりあえずリビングに置かれたソファーに腰掛ける。


 ちなみに家具はこの家を建てた金持ちがそのまま置いていった物をそのまま使っていいとのこと。


「そんな大した金額じゃなかったよ? 現金一括で払ってきたし。まあ不動産の人はその現金を見て卒倒してたけど」


「お前の貯金がいくらあるのか本気で訊いてみたいけど、怖くて訊けねぇ……」


 ハルとしては別に隠すつもりはないし、訊かれれば普通に答えるのだが、訊きたくないというのなら無理に言うこともない。


「ていうか、本当に何でいきなり家を買おうと思ったんだよ」


「いきなりじゃないよ。前々から拠点とする街を決めたかったし、その場合自分の家も欲しかった。帰る場所があるっていうのは大事だからね」


 さらにハルは続ける。


「ただそうした場合、キサラギは広いけど論外。カンナギも悪い街ではなかったけどあの時は他の街を見たことがなかったからまだ家を買うには早いと思った。王都でも良かったんたけど、王都って貴族も多いでしょ? あまり貴族に良いイメージが沸かなかったから候補から外して、そうしたら獣人に寛容なこの街に辿り着いた。もうこれは決めるしかないっしょ」


「ないっしょ。って言われても、本当にこんなすごい家に住んでもいいのかよ……」


 きょろきょろと屋敷内を見渡す。

 どうやらカイは広い家にビビっているだけらしい。


「ハル。家の中見てきていいかしら」


「探検、したいです」


 ウサ耳姉妹がウズウズしながらハルに訊いてくる。

 家が駄目になれば当然高く売れないため不動産屋は毎月何度かこの屋敷を掃除していたらしく、屋敷の中もそれなりに綺麗だ。


 しかし、多少ながら埃っぽくもあるので掃除は必要だろう。まあ少し見て回るくらいなら大丈夫か。


「後で一応皆で掃除するから、あんま埃っぽいところには入らないようにね」


 はーい。と返事しながらルルとリリィは屋敷の中を探検しに行った。

 

「…………」


「……カイも見てきていいんだよ?」


「は、はぁ? 別に見たいなんて言ってないしっ」


「そんな明らかにソワソワしながら言われても……説得力皆無にもほどがあるよ」


 カイはふんっと顔を逸らしながら立ち上がると、


「別に見たい訳じゃないからな。ていうか、これから住むならいつでも見れるわけで、今すぐ見る必要なんてないし。でももしかしたら床が抜けたりしてあいつらが危ないかもしれないから、様子を見てくることにする」


「はいはい。いってら~」


 ハルはわかったわかったと呆れながらルル達とは違う方を見に行ったカイを見送った。


「飼い猫を新居に連れていくと家の中を探検するってよく聞くけど、それに男の子の探求心やら好奇心やらが合わさったら最強だね~」




 その後たっぷり30分間屋敷の中を探検した3人がリビングに戻ってきてから4人で屋敷の掃除を始めた。


 とりあえず部屋は1階2階合わせて8部屋もあるので1人1部屋与えられた。自分達のベッドの布団を干すところから始め、リビングやキッチン、廊下や階段、窓拭きも忘れず、最後に空き部屋も皆で掃除し、全てが終わった頃には陽も暮れていた。


 流石に疲れた4人は今から料理を作る気にもなれず、街でご飯を食べ、ユニーを引き取って屋敷の横にある馬小屋まで連れてきた。





        ×  ×  ×





 順番にお風呂に入り、各々おやすみを言って部屋に戻っていった。


 昼の間干していた布団はぽかぽかと太陽の香りがして私の身体を包んでいく。


 久しぶりの1人の時間・空間で、私は薄着のままだらしなくベッドに寝転がっている。


 カンナギではカイと同じ部屋だったし、キサラギでも4人部屋だった。旅の間は野宿なので当然4人馬車の荷台で雑魚寝だった。

 つまり、私が1人で部屋にいるというのはこの世界に来た初日以来ということになる。


「別に同じ部屋でも楽しかったけど、たまにはこういう解放感もいいよね~」


 何だかんだ言っても私もまだ17歳の年頃。

 弟・妹的な感覚の3人なので特に気にせず同じ空間で一月過ごしてきたが、久しぶりの自分だけの空間に何故かわくわくする。


「…………」


 するのだが、やはりどこか物足りない。

 皆一緒にいる空間に慣れてしまったのだろうか。


 地球にいるときは家ではいつも1人だった。

 父は毎日朝早くから夜遅くまで仕事仕事仕事。あれだけ稼いでいたのだから当たり前といえば当たり前か。


 昼は学校に行っており、家にはお手伝いさんもいたのだが、夜になるとお手伝いさんは帰るのでいつも1人になった。

 お手伝いさんも自分の家庭があるので当たり前だ。むしろ休日は私の買い物にまで車を出してくれていたのであの人には感謝しかしていない。まあ、あの人のお陰で私の家事力は皆無なのだが。


 それでも夜になるとやはり寂しかった。

 小学生の頃は寂しくて1人泣いていた夜も少なくなかった。


 中学生になるとエアガンで妄想射撃訓練をしていたため、1人の夜は楽しかったのだが、あれも寂しさを紛らわすためのものだったのかもしれない。


「1人の夜はとっくに慣れたはずなんだけどな~」


 冗談っぽく口に出して自然と笑みが溢れる。

 それを久しぶりに思い出して寂しくなる。つまりそれは、楽しく1人じゃない夜に慣れてしまったということだ。

 

 私はもう1人じゃない。

 

 もう親の愛を感じることはできないけれど、仲間の愛、家族の愛は感じることができる。

 私はあの子達を愛しているし、これからもきっと愛し続けるのだろう。


 だからこそ、愛するあの子達が生きやすい世界を創らなければいけない。



 世界があの子達を否定しても私だけはあの子達を肯定する?



 甘い。甘過ぎる。

 世界があの子達を否定するなら、世界にあの子達を認めさせる。主人公になりたいならそれくらい言えなきゃ駄目だ。

 

 別に私は主人公になりたいわけではないが、あの子達の幸せの為なら主人公だろうがなんだろうが喜んでなってやる。


 ベッドに寝転がりながら部屋の電気に手を伸ばす。

 そんな中二っぽいことをしていると、部屋の外から何やら物音がした。


『――っ――!』

『――!』


「……?」


 廊下から聴こえてくるのは誰かの話し声っぽいのでベッドから起き上がり、部屋の扉を開ける。

 すると、そこにはパジャマを姿のルル、リリィ、そしてカイの3人がいた。


 ハーフパンツにキャミソールという薄着の私を見てすぐに目を逸らすカイを面白がりながら、私は3人に訊く。


「こんなとこでなにしてんの?」


「えっと……そう! リリィがね、いきなり広い部屋に1人だと寂しいってアタシの部屋に泣きながら入ってきたから!」


「え、ちょっ、お姉ちゃん! ち、違います! お姉ちゃんがわたしに部屋に来るようにって、言ってきたんです!」


「お、オレはたまたま喉が渇いたら水を飲みに来ただけだし」


「嘘を吐くのはやめなさいよ。あなたが1番早くここにいたくせに」


「はぁ!? んなわけねぇし! でたらめ言うなし!」


「はぁ!? でたらめ? ただの事実じゃない!」


「どこがだよ!」


「どこをどう見てもよ!」


「ふ、2人とも、落ち着いて……」


 何やら言い争いを始める2人とそれを止めようとアワアワしているリリィ。旅の間もこの2人はこうしてよく口喧嘩をしていたのだが、もう見慣れた。何だかんだで楽しそうだし。


 それにしても、考えていることは皆同じだったようだ。

 その事に少しだけ嬉しくなり、私は3人に笑顔を見せる。


「何か久しぶりの1人だと私寂しくてさ~。よかったら皆一緒に寝ない?」


「……! し、しょうがないわね。ハルが寂しいっていうのなら一緒に寝てあげないこともないわよ?」


「いっしょに、寝たいです」


「ほら、カイも早く入りなよ」


「い、いや、オレはいい」


「えー、何? カイってば恥ずかしいの~?」


「この中で1番年下のくせに何を恥ずかしがる事があるのよ」


「オレは正確な年齢を知らねぇんだから年下かどうかわかんねぇだろ!」


「そんなの身長でわかるわよ」


「うっせ! バーカバーカ!」


「あ、こら! ベッドを独り占めするのはやめなさい!」


 部屋に入りベッドの真ん中に貼り付いたカイを必死に剥がそうとするルルとそれに加勢するリリィ。


 そんな3人の微笑ましい姿を見て、また明日も頑張ろうと思う私なのであった。







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