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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第1章 異世界転移
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28.拉致


「だからね、貴族っていうのは国王から直々に与えられた階級な訳よ。だからね、許可なく勝手に名乗るのは法律違反なわけ。わかる?」


「はい……」


「そりゃね、君の話を聞く限り君達をカツアゲしようとした奴等が悪い。教えてもらった4人組は今こちらで探してる。でもね? 貴族を装って追い返そうとするのはいただけないな」


「その通りでございやす……」


「なんだっけ? サックバー家? ないから。そんな貴族この国にはいないから」


「いや、ホンマすんません……」

「……反省してる?」


「はい……そりゃあもう海より高く、山より深く」


「なるほど反省してないね。とりあえず今日1日はそこで反省するように」


 がちゃん! と牢の閉まる音が響く。


 10畳ほどの広さの牢屋に4人揃って放り込まれる。


「私の人生でまさかこんなところにお世話にときが来ようとは」


「お前がちゃんと反省しないからだろ」


 そうは言っても、何を反省していいのか分からなければ反省のしようがない。

 確かに私が貴族のフリをして悪事を働いていたのなら捕まっても文句は言えない。

 

「でも、私がしたのは悪事を働いていた者を追い返すため。つまり良いこと! 善行! 捕まった意味がわからない!」


 私達を捕まえてる暇があったらあの4人組を捕まえろっての。


「もういい、寝る!」


 私は不貞腐れたように冷たい地面に寝転がる。


「はぁ……仕方ない。今日1日って話だし、オレ達も寝るか」


 後ろでカイ達も眠りにつく準備をする音が聞こえてくる。こういう時はさっさと寝て忘れるのが一番だ。


 冷たい地面に辟易しながら、いつもより時間をかけて眠りについた。







 ―――身体に妙な気怠さを覚えて目を覚ます。

 初めは慣れない場所で寝たからかと思いもした。しかしそんな考えは一瞬にして吹き飛んだ。

 気怠い? そんなレベルではない。


 ――身体が、全く動かない……?


 そう。指先1つ動かすことができないのだ。

 意識が一気に覚醒する。

 辛うじて動かすことのできる眼球を限界まで動かし辺りの様子を確認する。


 すると、牢の扉が開いていることに気が付いた。

 更にそこには2人の人影。

 看守? にしてはここに入った時に見た看守とは服装が違う。ここの看守は青を基調としたそれこそ警備団に似た格好をしていた。

 しかし、この2人組は違う。

 全身が黒ずくめ。顔にも鼻の上まで覆った真っ黒な布のマスクをしており、頭にはフードを被っているため露出しているのは本当に目の部分のみ。ここの看守でないことは明らかだ。大柄の男と小柄な男の2人組が何かを話しているがその内容は聞こえてこない。


 聞こえては来ないのだが、2人が何をしにここへ来たのかは理解できた。


 大男の両脇にウサギ耳を生やした少女2人が抱えられているのだ。


「―――っ、――!」


 待て! と叫ぼうにも声が出ない。

 向こうはこちらを気にも止めずそのまま牢屋の扉から外へ出ていく。


 出ていく一瞬、小柄な男と目が合った気がした――。





        ×  ×  ×





「おい! おい起きろ!」


 そんな大声で私は目を覚ます。

 牢屋の中に1ヶ所だけある格子の付いた窓から光が射し込んでいる。どうやら新しい朝が来たようだ。


「おい! 大丈夫なのか!?」


「は……?」


 半分寝ぼけ眼で私を起こした男を見上げる。

 そこには慌てるような表情をした昨日の警備団の男性が立っていた。


「何があった!? 怪我は!」


 まだ完全に起きていない頭では彼が何を言っているのか理解するまでに時間がかかった。が、理解してからは早かった。


「……! ルルとリリィは!?」


 慌てて牢屋の中を見渡してみるが、私の横で気持ち良さそうに眠っているカイしか見つけることができなかった。


 ……昨夜のあれは、夢じゃなかったんだ。


「それはこちらの台詞だ。朝来てみたら入り口に立っているはずの看守が眠らされていて、中に入ってみれば牢屋の扉が開き、ウサギ耳の双子がいなくなっていた。あの2人はどこへ行ったんだ」


「……眠らされていた?」


「ああ。どうやら魔法をかけられているようだ」


 魔法……そうか、昨日のあれは魔法で動けなくなっていたのか。


「そういえば、ウサギ科の獣人は魔法が得意だったな」


「……! 待った。あの2人が使えるのは幻覚魔法だけで誰かを眠らせることなんてできない。あの2人は黒ずくめの2人組に連れ去られた」


「なに!? それは本当か! それを見ているだけで何もしなかったのか?」


「私も魔法にかかって動けなかった」


「彼女が言っていることは本当です」


 声がした方を振り返る。

 そこにはここの牢屋のある部屋の入り口に立っていた看守の男性がいた。


「大丈夫なのか?」


「はい。それと、彼女の言っていることは本当です。私もその2人組を確かに見ました。その直後眠らされてしまいましたが……」


 くそ、やられた。まさか牢屋の中から拐われるとは思わなかった。完全に油断していた。


「……! 私達の荷物は!?」


「ん? それなら隣の部屋にまとめて置いてあるが……あ、こら!」


 それを聞くと同時に走り出す。開いている牢屋から飛び出し、隣の部屋に入る。そこには確かに私のクロスボウやカイのダガーやリュックなどが無造作に置かれており、それらと一緒に掌サイズの長方体の箱が置かれていた。


「やっぱりか……」


 一昨日の夜にルルに渡しておいた強制転移魔道具。

 連れ去られたのならこれを持っていく余裕なんてあったはずがない。

 これで彼女達は私達が行かない限り助け出すことはできない。


「こらこら、勝手に出ちゃ……」


「ファネルの家ってどこですか?」


「え……?」


 警備団の男性に問う。

 焦るな。犯人はわかっている。今2人がどこにいるのかも分かっているのだ。

 予想外だったのは敵にあんな魔法使いがいたことと、こんなところまで2人を拐いに来たということだけ。

 あの2人が拐われるのは想定内だったではないか。

 少しイレギュラーがあったものの、ここまでは計画通りだ。


 問題は魔道具を持っていない2人がいつ危険な目に合うか分からないということだ。

 一昨日カイには心配させないようにああ言ったはいいものの、カイの言う通り全ては私の推測でしかない。今こうしている間にもルルとリリィは暴力の限りを尽くされているかもしれない。


「ファネルって貴族のファネル様のことか? 何故彼女の家を……ああなるほど。彼女は獣人保護をしているからね、何か知っているかもしれないということだね? ちょっと待ってなさい。地図を持ってくるから」


「ははは……」


 面倒だしそういうことにしておこう。

 とりあえず荷物を纏める。クロスボウを背負い矢筒を腰に巻き、準備を整える。


 すると、隣の部屋からバタバタと慌てたような足音が。


「おい! ハル! ルルとリリィがいねぇぞ!」


「わーってる、わーってる。今から取り戻しに行くよ」


「どこにいるか分かってるのか?」


「どこにって……1つしかないでしょ」


「……! まさかあの女、こんなところまで来やがったのか」

「そこは私も完全に想定外だった。1番安全な場所だと思ったんだけどね。せっかく昨日はここに泊まれるようにふざけた態度をとったのに」


「待て、じゃあ昨日のあのおかしな態度は演技だったのか?」


「当たり前じゃん。そういう法律がある以上私のしたことは法律違反なんだし」


「昨日と言ってることが違う!?」


 納得しているかと訊かれれば当然答えはノーではあるが、そういう法律なんだ、仕方がないと割り切るしかない。


「お、猫耳君も起きたか。あ、これ地図ね。ファネル様の屋敷があるところに印を付けておいたから」


「どうも」


「我々も捜索に出よう」


「いや、どこにいるかは大体予想がついてる。これは私達の問題だし、私達で解決する」


「そうか……だが十分気を付けるように。あと、もう貴族の真似事はしちゃ駄目だぞ」


「反省しています」


「よし。ああ、あと君達をカツアゲした4人組、今朝方またカツアゲしているところを恐喝の現行犯で逮捕したよ」


「そうですか、それはよかったです」


 正直どうでもいい情報を聞き流しながら私達は拘留所を出る。

 一度警備団の男性と看守の男性にお辞儀をしてから、私達は目的地へ走り出した。


 目指す場所は1つ。

 

 絶対に守ると言った以上はそれを貫く。

 強制転移魔道具がない以上今の2人は危険に晒されている。これは完全に魔道具が駄目になったときの予防策を考えていなかった私のミスだ。


 とにかく、今は急ごう。

 



「ねぇカイ君や! ちょっと走るの速すぎない? 私、もう、無理なんだけど!」


「はあ!? これでもお前に合わせて走ってやってんだぞ! 死ぬ気で走れ!」


 死ぬ気で走ったら着いた頃には私死んでるんじゃないの?


 どれだけ意気込んでも、体育の成績2の実力はそうそう変わらないようだ。





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