26.細工は流々、仕上げを御覧じろ
「それで、どうするんだ?」
「ん? 何が?」
カイが主語のない問い掛けをしてくる。
ちなみに今は宿の借りている4人部屋におり、ルルリリィ姉妹は部屋に備え付けてあるお風呂に入っているため、今部屋にいるのは私とカイの2人だけだ。
初めは2人部屋を2つ取ろうと思ったのだが、双子が私達と一緒がいいと言ったので、この宿屋で一番立派な部屋を借りることにした。
宿屋の主は最初渋っていたのたが、お札を数枚チラつかせたら快く貸してくれた。
カイは一応男の子ではあるものの、正直着替えを見られても何とも思わないレベルの年齢だし、というかカンナギでも同じ部屋に泊まっていたので特に気にすることはない。
「何がって……あのコレクター女だよ。まさかこのまま放置なんてことないだろ? あの女をぶん殴ってでも囚われた獣人達を助けるつもりなんだろ?」
この子は私のことを何だと思っているのだろう。
「あのねぇ、人のものを盗むのは犯罪なんだよ? 一応あの人はオークションでお金を払って獣人を買ってるんだから。それは君が1番よく知ってるでしょ? 食い逃げ上手のカイ君」
「ぐっ……じゃあこのまま何もしないままってことかよ」
「誰もそんなこと言ってません。あの獣人達は助けます」
「はぁ? 言ってることが違うじゃねぇか」
「違いません。あの獣人達は助ける。ただ今ファネルの家に踏み込んで獣人達を助けても、私達はただの強盗になる。ましてや相手は貴族のお嬢様だしね」
あの獣人達を助けるにしてもそれなりの理由がいる。
仮に問答無用で踏み込んで獣人達を解放したとしても、お縄につくのは私達の方だ。
この国には一応警察(正しくは警備隊)もいるし、法律もある。いくら私達が奴隷にされている獣人を助けるためにやったと主張しても貴族であるファネルが一言「やってない」と言えば私達はそれこそ問答無用で捕まる。
「それならどうするんだ?」
「簡単だよ。それなりの理由がいるのなら作ればいい。言ったでしょ? 『売られた喧嘩は買うのが礼儀』。それなら向こうから喧嘩を売ってくるように仕向ければいい」
「は?」
「それができればこっちはあくまでも『やられたからやった』と言えばいい」
「いや、確かにそうかもしれないけど……どうやって仕向けるんだよ」
「ん? もうやったよ?」
私の言葉に「はい?」と首を傾げるカイ。
だがこれは別に嘘でも冗談でもない。
「え、いつ?」
「さっきファネルと話したとき」
先程のファネルとの会話を思い出す。カイ同様に思い出そうとしているようだ。
「あのオークションの司会だったクズ男が言っていたことを思い出してみ」
『気に入った獣人がいるのなら大金を積んででも、それでも無理なら奪ってでも、拐ってでも手に入れる。そういう輩のことです』
「あの言葉が本当なら、大金を積んで手に入れられなかったファネルは次の手段に出る。今までチヤホヤされながら育ったお嬢様がこんなガキにクソババア呼ばわりされたんだから、このまま黙って引き下がる訳がない」
あの会話自体がファネルを挑発するためのトラップ。そうじゃなきゃ誰があんな女と話なんてするもんか。
「早ければ今日の夜にでも、ファネルは行動に移すと思うよ」
細工は流々、仕上げを御覧じろってね。
「……待て、それはあの2人を囮にするってことか?」
「……ま、違うとは言い切れないかな」
「……! それはダメだ。獣人コレクターなんて呼ばれてる奴らだぞ、何をされるかわからないだろ! あの男も言ってたじゃないか、1日ともたず死なせる奴もいるって!」
座っていたベッドから立ち上がり、作戦を否定するカイ。
カイが心配するのもわかる。ただ――
「殺されることはまずない。獣人コレクターは自分の欲求を満たすために獣人を手に入れる。その欲求が獣人を殺すことで満たされるのなら危険だけど、ファネルは獣人を殺してはいなかった」
「殺してはいなかったって、じゃあそれ以外はあるかもしれないってことだろ」
否定はできない。というか、ほぼ間違いなくファネルに飼われている獣人達の身体には人にはあまり見せられない傷やら痣やらあるはずだ。あのワンピースはそれを隠すための物だと思われる。
「あの2人に限っては殴る蹴るの暴力も考えづらいかな」
「何でそんなことわかるんだよ」
「私ならそんなことしないから」
「理由になってねぇよ!?」
いや、別にふざけてる訳ではない。
「こう見えて私もお金持ちの一人娘でお嬢様なんだよ?」
「は? だから?」
「もし私がファネルの立場なら殺すよりも痛め付けるよりも先に、あの2人が屈服して甲斐甲斐しく従い尽くしている様を自分を馬鹿にした奴に見せつけたい」
「えー…………」
全く納得していない態度のカイだが、私的にはかなり自信があるというか、こうなる可能性が高いと考えている。
「それくらい、お嬢様っていうのはプライドが高いんだよ。一目見ればわかる、あの女はプライドの塊だね」
比べて私はそこまでプライドが高くはない。
「確かにお前プライド高そうだもんな」
あっれぇ……?
「でも、それは全部お前の推測だろ?」
「否定はしない。もしかしたら捕まってすぐに殺されるかもしれないし、暴力の限りをつくされるかもしれない」
「だったら……」
「それでも、そうしなければあの女に飼われている獣人達は救えないのでしょ?」
「……! お前らいつから聞いてたんだよ」
お風呂場の戸を開け、ルルが壁にもたれ掛かるように腕を組んで立っていた。その後ろにはリリィもいる。
「お前、わかってんのか? お前らが1番危険なんだぞ? せっかくファネルの手に渡らなくて済んだのに、自ら捕まるなんて……」
「確かに私達はハルに救われたわ。でもそれなら尚更、アタシ達だけ救われて救えるはずの獣人が救われないのは目覚めが悪いわ」
「でも……」
「それに、放っておいてもあの女はアタシ達を拐う気なのでしょ? あの女から逃げてビクビク暮らしていくくらいなら、ハルの言う通り向こうの策に乗ってさっさと潰してやればいいのよ。それなら手っ取り早く心配事も消えるし、獣人達も助けられる。はい、一石二鳥」
やはりこの娘は強い。
この双子はまだ12歳だ。私は12歳の時、こんな風に強かっただろうか?
「リリィはどうなんだよ。マジで何されるか分からないんだぞ」
「わたしは、お姉ちゃんと一緒なら、大丈夫……。それに、なにかあっても、ハルさんと、カイくんが守ってくれるから」
「そうそう。そんなに心配なら何かされる前にアタシ達を助けて見せなさいよ」
ルルが試すような笑みを浮かべながらカイを挑発する。
「……ぐっ、わかったよ! 助けてやるよ! お前らも囚われてる獣人達もな!」
「ヒュ~、カイ君かっこい~」
「うるせぇよ、いやホントお前はうるせぇよ」
とはいえ、この作戦が危険なのは本当のことだ。
私は枕元に置いておいた掌サイズで直方体の箱のような物体を手に取り、ルルにそれを渡す。
「……? これは?」
「とある魔道具だよ。これに魔力を注ぎながら『転移』って唱えれば唱えた者とその者に触れている生物を強制的に転移させるらしいよ。念のために持ってて」
「……! それって、かなり便利な魔道具なんじゃ……」
「ただし、使えるのは1回のみで1回使ったら壊れちゃうんだって。その上、転移先は完全にランダムでもしかしたら海のど真ん中に転移しちゃうかもしれないし、火山の中に転移しちゃうかもしれない。だからこれを使うのは本当にヤバいと感じたときだけにして欲しい。それと転移するなら絶対に2人でするようにして」
「わかったわ。できるだけこれを使わなくて済むことを願ってるわ」
ルルは大事そうにその魔道具を抱える。
「あんな魔道具いつ手に入れたんだ?」
「あのクズ男司会者から買った」
実はオークション会場から出る前に、あの男から何か便利な魔道具はないかと訊いたらこれを薦められたので大金はたいて買っておいたのだ。
「向こうもこっちが完全に警戒の準備が整う前に仕掛けたいと思ってるはず。つまり十中八九今夜中に仕掛けてくると思う。ルルは肌身離さずその魔道具を持ってて。カイと私は常に警戒して、2人が拐われたらすぐに後を追う」
「わかった」
「2人は怖いと思うけど、絶対に守るから頑張って欲しい」
2人も頷く。
「今日は長い夜になるよ」
× × ×
~翌朝~
「うん、ほんと長い夜だったな」
「う~ん、眠いわ」
「…………zzz」
…………。
「えっと……十中八九の一、二の方でした」
何か、ごめんね?
よろしければ、感想、評価、ブックマークの方をお待ちしております。




