25.いや、金ならあるし
「私の名前は咲場 春。気軽にハルって呼んでね」
「カイ。よろしく」
自己紹介。これ大事。
時刻は夕方、色々あったし、これからしなければいけないこともたくさんある。
だが、腹が減っては戦は出来ぬ。とりあえず私達はどこか食事のできるお店を探しながら歩いていた。
そんな道すがら私とカイはまだしていなかったと気が付き、自己紹介をしていた。
「アタシはルル。ちなみに姉よ」
そう名乗ったのは黒髪セミロングの少女。舐められてはいけないという気持ちの表れなのか、少々高圧的な感じが見受けられる。
「……リリィ、です」
こちらは姉のルルと同じくらいの長さではあるものの色は対照的に真っ白な髪を持つ少女。
姉とは逆に気弱そうな印象を受ける。今もルルの陰に身体半分隠している。
それにしても双子だけあって、顔の作りはそっくりである。
よく見ると姉のルルの方が多少目が吊り上がっているがそれも微妙な差であり、背丈などの体格も似ている。本当に髪の色が正反対でなければ見分けがつかなかったレベルである。
「ところで、カイは何でフード取ってるの?」
ロイド師匠に取らない方がいいと言われただろうに、カイはオークション会場を出てからずっとフードを取ったままだった。いや、カイがいいなら別にいいのだが、今の私達はかなりの注目を浴びている。
「2人はウサギ耳が大きいせいでフードも被れないからな。女の2人が耳を出してるのに男のオレがコソコソ隠してたら格好悪いだろ」
ふむふむ。
「つまり直訳すると、オレが隠したままだと2人ばかりに嫌な視線が集まるから、少しでも2人の負担を減らすために取ってるんだぜってことでオーケー?」
「「え……?」」
「全然よくねぇよ!? なにその解釈、誰もそんなこと言ってねぇだろ!」
カイが微かに頬を染めながら必死に否定する。
「えっと……ありがと?」
「…………///」
「お前らも勘違いしてんじゃねぇよ! 違うからな! 全然ちげぇから!」
「そうやって強く否定すればするほど信憑性が増してくよ~」
「うるせぇよ、お前はほんとにうるせぇよ!」
からかってはみたが、カイがフードを取ったお陰で2人への視線は明らかに3等分されていた。いや、こうなると今度は獣人3人を連れた私が何者だということになり、私にも視線が集まるので実質4等分である。私はもう慣れてしまっているが。
そして実際にその視線を受けてみてわかったことといえば、この街の人間はカンナギと比べて嫌悪や敵意といった感情の籠った視線が多いということだ。
これは単に人の数が多いからという理由だけではなく、明らかにそういった感情を持つ人が多く、また1人1人の感情が強いのだろう。
「そういえば2人のあの魔法凄かったね。本当にお花畑にいるみたいだったよ」
オークション会場で真正面から体験した2人の魔法を思い出し、素直な感想を述べる。
「幻覚魔法はウサギ科の獣人が得意とする魔法よ。ただアタシ達は双子で生まれたからか魔力が2人とも少なくて、2人揃ってないと使えないの」
それでも1日に2回が限界なのだけれど。とルルが続けた。
双子であるが故の弊害。
ロイド師匠のような化け物級の天才は別として、普通の魔法使い達と比べてもそもそもの魔力が少ないらしい。2人合わせてようやく1人分の魔力に追い付く。
ルルとリリィは2人で1人。
彼女達は互いに離れることのできない存在。
実の両親に売られ、それでも2人はずっと一緒にいた。唯一無二とはまさにこのことだろう。
「お、ここにしよっか」
良さげなレストランを見つけ、中に入る。
「いら……いらっしゃいませー、4名様でしょうか?」
態度が露骨過ぎる。
私達を見や否や明らかに店員の態度や店の雰囲気が変わった。
しかし、こちらも腹が減っているのだ。誰が貴様らなんぞに遠慮なんてしてやるもんか。
席に着き注文をする。
注文を間違えたり、料理を持ってくるのが遅かったり、最悪異物混入くらいまでは覚悟していたが、特にそういったことはなく、普通に美味しい料理を食べることができた。
「お会計、700Gとなります」
「……は?」
食事を終えてレジで精算したら普通ではあり得ない金額を請求される。
「……お姉さん? 桁を1つ間違えてるんじゃないですかね?」
「いえ、合っています。700Gです」
……なるほど。普通に食わせた後だから払わなければ無銭飲食になるということか。くだらない嫌がらせだ。
よく見ると、周りで食事を取っている客もこちらを見てニヤニヤと笑っている。
カンナギではここに似たレストランで4人分食べても恐らく50Gもいかない。明らかにぼったくりである。
ただ、これだけは言える。
喧嘩を売る相手を間違えてるんだよなぁ。
「……ま、いいや。ほい、1000G」
1000G札をお姉さんに向けて放る。
ピシッとお姉さんの額に当たった1000G札がひらひらとレジの机の上に落ちる。
そのお札を見てお姉さんが目を見開いて驚き、他の客も唖然としている。
「あ、お釣りはいらないから。私、小銭は好きじゃないし」
300Gを小銭だなんて言ったらロイド師匠にブチ切れされそうだが、正直なところ私にとっては本当に端金であり、より相手にダメージを与えるためにはこう言うのが1番効果的だろう。
あと、一度言ってみたい言葉でもあった(これが大部分を占める)。
ただ、やられっぱなしというのも癪に障るので、一言付け加えておく。
「私はお金があるからいいけど、基本冒険者は貧乏だからなぁ。旅の途中で仲良くなった冒険者達には教えておかないと。キサラギの街角にあるレストランは、高額な料金を請求する割に出してくる料理はただの大衆料理で明らかにぼったくりだから行かない方がいいよって」
「なっ……」
「冒険者ってクエストで色んな街に行くからあっという間に広まるだろうなぁ。ま、私には関係ないけど」
店員のお姉さんが何かを言おうするがそれを遮るように言葉を続ける。
「じゃ、客が少なくなった頃にまた来るよ。ごちそうさま~」
そう言い残して私達は店を出る。
あ、全然一言じゃなかった。
× × ×
「何度目かわからんけど言わせてもらう。お前性格悪いよな」
「そーかなー?」
店を出てからカイに溜め息混じりの文句を言われた。
「いや、明らかにオレ達のせいでぼったくられた訳だし文句は言えねぇんだけどさ。絶対最後のはいらなかっただろ。お釣りはいらないまででよかっただろ」
「甘いなーカイは。いい? 私が産まれ育った国にはこんなことわざがあるんだよ。『売られた喧嘩は買うのが礼儀』ってね」
そう言う私にカイは文句を言うのも面倒になったのか、溜め息をつくだけでそれ以上は何も言ってこなかった。
「……かっこいい……」
「ん?」
「ハル、さん……かっこよかったです。わたし達のせいであんな大金まで払ったのに……特にお釣りはいらないと言ったところ、とか……」
リリィが本当にありがとうございますとお礼を言ってくる。
私的には本当に1000Gなんて端金なので、そんなに恐縮されると少し困るのだが、感謝されているのなら素直に受け取っておこう。
「そう? ありがとね。ほらカイ~、あんたもリリィみたいに素直に格好良いって言ってみなよ」
「何でオレがそんなこと言わないといけないんだよ!」
「カイってツンデレというやつなの?」
「そうだよ」
「ちげぇよ!」
レストランを出た後もカイを弄りながら私達は宿屋へと向かうのだった。
ちなみに宿屋でもルルとリリィを連れてきて、カイも獣人だとわかった宿屋の主が「獣人を泊めるような部屋はねえ!」と言って私達を追い出そうとしたので、私が「せっかく通常の10倍の料金を払おうと思ったのに」と呟いたら、快くもてなしてくれた。
「……いや、うん。全部オレ達が原因だから本当に文句は言えないんだけど……やっぱり性格が悪い、というか性格がひん曲がってるな」
失礼な。
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