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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第1章 異世界転移
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24.獣人コレクター


「獣人コレクターというのは、その名の通り獣人を趣味で集めているコレクターのこと。気に入った獣人がいるのなら大金を積んででも、それでも無理なら奪ってでも、拐ってでも手に入れる。そういう輩のことです」


 趣味で獣人を集める。

 その言い方はまるで獣人を物としか見ていない。


「コレクターって、ただ眺めて楽しむとか?」


「世界は広いですからね、そういう獣人コレクターがいないとは断言できません。ですが、大抵の場合は違うでしょう」


「と、いうと?」


奴隷(・・)ですよ。大金を積んで買った物をただ眺めるだけなんて滅多にないでしょう。いわば獣人コレクターというのは獣人という奴隷を買う、暇を持て余した金持ちのことです」


 奴隷。現代日本で育ったハルにとってその言葉は歴史の授業の中でしか聞いたことのない言葉だった。


「獣人コレクターにとって獣人というのはただ己の欲望を満たす道具でしかないんですよ」


「…………」


「手に入れた奴隷には首輪をつけ、無抵抗の獣人に暴力を振るう者もいれば、危険な肉食モンスターがいる檻に閉じ込めて戦わせたりとか。私が聞いた話では高額で買ったはいいものの1日ともたずに死んでしまった獣人もいるそうで。くっくっくっ、まったく、酷い話ですね」


 この男はそれが酷いことだなんて微塵も思っていない。それだけはわかった。


「この街にはまだ子供の獣人が何匹も彷徨(うろつ)いているのを知っていますか?」


 公園で出会った2人を思い出す。


「何故獣人コレクターはそんな子供の獣人は放っておくのか。子供だけでいるなら拐うのだってそう難しくないのに。理由は簡単、拐うほどの価値がないからですよ。子供の獣人など下手すれば半日ももたずに死んでしまう。そんなの時間の無駄でしかないですから」


「……狂ってる」


「……? そうですね。獣人コレクターに正常な人間はいません」

「違う。獣人コレクターが狂っているのは言うまでもない。私が言ってるのはアンタだ。こっちが訊いたこととはいえそんな話を嬉々として話すなんて狂ってる」


「……否定はしませんね。流石にコレクターのようなことはできませんが、そんなコレクターに獣人を売ることには特に躊躇(ためら)いはありませんから」


「…………ッ!」


 その言葉を聞いた瞬間、カイが男に向かって殴りかかる。

 が、その拳が男に届く前に私が羽交い締めにして止める。


「離せハル!」


「ここでこの人を殴っても何の解決にはならないよ」


「オレの気が数ミリ治まる!」


「数ミリなら我慢なさい」


 私の腕の中で暴れまわるカイを何とか落ち着かせたのだが、暴れていたせいで被っていたフードが取れてしまう。


「おや? まさかまさかその少年も獣人でしたか。私としたことが気が付きませんでした」


「ああ!? オレが獣人だからなんだってんだ!」


「そうですね、やや幼いですが気に入る人はいそうです。どうです? その獣人、私に売りませんか? 高値で買い取りますよ?」


「…………調子に乗るなよ、ゲス野郎」


 今まで出したことがないくらい低い声が出た。ただ、私の大切な仲間を物扱いする奴に繕う必要はない。


「アンタはそうやって獣人を手に入れてるのか。コレクターに売るために」


「そういう場合もありますが、相手から買ってくれと言われることもありますよ?」


「……は?」


「何を隠そう、そこの双子もそうやって私に買われたのですから」


 話の矛先が自分達に向いたことでビクリと肩を震わせる双子。


「その双子は売られたんですよ。実の両親(・・・・)に」


「なっ……」


「私は商売のためには相手を選びませんからね。獣人だろうとコレクターだろうと」


「何で……自分の子供を……」


「知っての通りこの世界は獣人にとって生きにくい世界ですからね。自分達が生き延びるためには仕方がなかったのではないですかね? 獣人が何を考えているかなど私にはわかりませんが」


 男の言葉に白髪(はくはつ)の娘がウサギ耳を萎らせ、肩を震わせながら必死に涙を堪えている。


 狂っている。この世界は間違いなく腐っている。

 この世界にはこんな境遇の獣人が溢れ返っているのだ。


 私は机の上に置かれた鍵で2人の手首に繋がれた手錠を外し、そのまま2人を強く抱き締める。


「……大丈夫。もう大丈夫だから。これからは食べるものも住むところも着る服も困らせないから。2人は絶対に私が守ってあげるから。だから、私と、私達と一緒に来ない?」


 2人の目を見て、できるだけ優しく微笑む。


 双子は一度互いに顔を合わせた後、小さく頷いた。





        ×  ×  ×





「話? 私は話すことなんてないんですけど?」


 獣人保護のファネル。

 正直なところ、あの話を聞いてからはこの人がその通り名通りのことをしているとは思えなかった。


 獣人保護を謳いながらこの街には明らかに貧しい格好をした獣人の子供がいる。公園にいた2人以外にもだ。

 それはこの街の人間は誰でも知っていることで、当然この人だって知っているはずなのだ。

 では何故保護していないのか。

 その価値がないから。そもそもこの人は獣人を保護なんてしていないからだ。


 確かにただの憶測に過ぎない。もしかしたらこの人は本当に獣人を保護していて、子供の獣人を保護していないのは何か保護できない理由があるからかもしれない。

 その時は土下座でも靴舐めでもなんでもしてやろう。


 それくらい今の私はこの人を完全に信用していない。


「私にはあるのです。少しでいいのでお時間いただけませんか?」


「……どうぞ、この場でよければ」


「では、単刀直入に言います。そこの双子2匹を私に譲っていただけませんか? お金なら貴女が払った倍額払います。それでも納得できないのなら、私が保護している獣人5匹も一緒につけましょう。その双子ほどではないにしろ、それなりの容姿をした5匹です」


 確信した。

 この人がコレクターだと確信させるものが言葉の節々に感じられる。


「……そういえば、昼前に連れていた2人の獣人はどうしたんですか?」


「ああ、見ていたのですね。あの2匹なら先に帰らせました」


「あの2人の首についていたお揃いのチョーカー、可愛かったですね」


「あれですか、うちにまだいくつかあるのであれも一緒につけましょうか?」


「それに、まるで何かを(・・・・・・)隠すかのように(・・・・・・・)手首や足首までしっかりと覆われたワンピースとか」


「…………」


「『私が保護している獣人5匹もつけましょう』? 無茶苦茶おかしなこと言ってるって自覚あります? ″獣人保護″のファネルさん」


「……その口ぶりからいって、私のことを知っているみたいですね。あんな高額でその双子を買ったときから薄々思っていましたが、貴女もコレクターですか。それなら話は早い。同じコレクターなら私の5匹はそれなりに納得してもらえる――」


 私は言い終わる前にその距離を詰め、ファネルの胸ぐらを掴む。


「なっ、離しなさい! 私を誰だと思って……」


「そもそもの大前提としてさ、獣人を″何匹″なんて数え方をする人にこの子達を渡す気はないんだよね」


 こいつは獣人を人として見ていない。

 完全に奴隷として扱っている。

 そんな奴に大事な仲間を渡すわけがない。自分で言うのもなんだけど、基本温厚な私をここまで不愉快にさせる人も珍しい。


 だからこそハッキリと、目を見て、心の底から、敵意を込めて私は口を開く。







「獣人コレクター……? 



  一緒にすんなよオバサン(・・・・)








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