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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第1章 異世界転移
23/186

23.落札


「聞こえませんでした? 私はその双子に10万G払うって言ったんですけど」


『じゅ、10万ですか?』


「はい。それで、どうします? お姉さん」


「…………」


 通路側の席に座るファネルの横まで移動し、笑顔で問いかける。


「10万……1000」

「11万」


 ノータイムで答える。お前に渡す気はないと、そういう意味を込めて。


「じゅ、11万500」

「12万」


「……12万300」

「15万」


 私はノータイム戦法によりファネルを追い詰める。会場も静かに私達の攻防を見守っている。

 いや、この場合攻防とは言わないか。

 悪いけどこの勝負で私が負けることはない。


「……じゅ、17万!」


 おおっ、という声が会場のどこかから聞こえる。それを言ったファネルもやってやったという顔だ。


「…………はぁ」


 1つ溜め息をつく。


 その溜め息を聞いて私が諦めたと思ったのか、ファネルが勝ちを確信した表情をした。


 しかし、さっきも言った通りこの勝負で私が負けることはない。今の溜め息は不安から来る溜め息でも当然負けを認めた溜め息でもない。


 ただただ、面倒臭くなってきたなという溜め息である。


「50万」


「……え?」


 流石のファネルもぽかんとしている。

 静まり返っていた会場も再びざわめき始める。いや、それだけじゃない。ステージ上のウサギの獣人2人も自分達に出された金額を聞いて顔を青くしている。


 そんな中、一番早く正気に戻ったのは意外にも司会の男性だった。


『はい、そこまで! この獣人の双子はそこのお姉ちゃんが50万で落札!』


 会場中が沸き上がる。


「おい50万って……あれまだ子供だよな?」

「あいつもどっかの貴族の娘とかか?」

「にしちゃあ、何か普通っぽいけどな」


 おい、失礼だな。全部聞こえてるよ。

 ていうか、これでも地球では超大企業の社長の一人娘だったんだけど? 超お嬢様だったんだけど?


 まあいい、とりあえずこれで無事落札できた。


「…………落札ってのは、あまり使いたくないな」


 自分で言っておきながら、いや自分で言ったからこそ改めて落札という言葉に嫌悪感が出てくる。


 オークションだから落札という言葉は当たり前なのだが、改めて私も獣人を買ったんだと思い知らされる。


『それでは今日のオークションはここまで。商品を落札した方は裏で精算します』


 司会者の声を合図に客がぞろぞろと出口に歩き始める。


 横で座っていたファネルも立ち上がり、無言で出口に向かう。一瞬目が合ったが、お互い何も言わなかった。






 私とカイは案内人に連れられてステージ裏にある部屋まで来ていた。

 既に部屋には私達と先程の司会者、あと双子の獣人しかいなかった。既に他の客の精算は終わったようだ。


「それではまずはこちらの契約書にサインを頂けますか?」


 司会の男に1枚の紙を渡される。

 そこには契約内容が書かれているのだろう。しかし読めない。

 そして1番下に恐らく名前を書くのだろう欄がある。しかし書けない。

 まだこの世界に来て1週間程。色々忙しかったのでこの世界の文字の読み書きがまだまるで出来ない。


 ……どうしようか。


「カイ」


 私は小声でカイを近くに呼ぶ。


「これ別に変なことは書いてないよね?」


「あ? あー……………………ん、まぁ普通の契約書だろ。見たことないからよく知らんけど」


 よかった、どうやらカイは文字が読めるようだ。


 私は「だよね」と言った後、カイが背負っているリュックサックを開けて通帳を取り出す。私はクロスボウを背負っているので荷物はこのリュックサックにほとんど入っている。服などの大きな荷物は宿に置いてあるが。


 私の名前ならこの通帳に書いてあるので、これを見よう見真似で書けばいい。


「……よし。はい、書けた」


「ありがとうございます」


 司会者の男は私から紙を受け取り、一度確認してからそれを懐にしまう。


「それではサクバ ハル様、少し説明させていただきます。サクバ様は10万G以上での落札ですので、支払い期間が1週間となります。7日後までに50万Gを持ってきて頂いたらそこで商品をお渡しいたします」


「その商品って言い方やめてもらえます? この2人は物じゃないので」


 それにそろそろカイが殴りかかっちゃうかもしれないし。 


「……申し訳ありません」


「いえ。じゃあ2人の手錠を外す鍵をもらえます?」


「は? いえ、ですからこの2人をお渡しするのは支払いが済んでからで――」


 どんっ、と1000G札100枚の束を5つ、締めて50万を机に置く。これもカイのリュックサックに入れていた。


「鍵、もらえます?」


「し、少々お待ちください」


 そう言って司会者の男は部屋を出る。


『おい、中に行って金を数えておけ。俺は鍵を持ってくる』


『わかりました』


 聞こえてるよ。契約書まで書かせたくせに信用ないなぁ。


「失礼しま……あ」


「ん? あ、階段のお兄さんじゃないですかー。いやー、お兄さんがここに入るのを許してくれたお陰でこの娘達に出会えましたよ」


「そ、そうですか」


 お兄さんは私の前に座り、机の上の札束を数え始める。


「…………? 私の顔に何かついてます?」


 さっきからお兄さんがお金を数えながらチラチラとこちらを見てくる。


「い、いえ……ただ17歳の女の子がこんなお金持っているなんて、一体何者なのかなと」


 訊かれて普通に答えるなんて正直者なのかな?


「しかも獣人に50万って……もしかしてお客さん、獣人コレクターですか?」


 私とカイの肩が聞き慣れない単語にピクリと動く。


「……獣人コレクター?」


「あ、違いましたか!? 失礼しました!」


「待った。初めて聞く言葉なんですが、獣人コレクターってなんでしょう?」


「え? ああ、獣人コレクターっていうのは……」


「お待たせしました」


 お兄さんが獣人コレクターの説明をしようとした瞬間、部屋の扉が開き、先程の司会者の男が入ってくる。


「っ、せ、先輩……」


「数え終えましたか?」


「は、はい。ちょうどでした!」


「そうですか。それでは持ち場に戻りなさい」


「はい!」


 バタバタと慌てるようにお兄さんが部屋を出ていく。この人普段どれだけ恐い人なんだろうか。


「こちらが手錠の鍵です。これで契約は以上となります、またのご来場をお待ちしております」


 私達に向けて一礼する。しかし、これでは私もカイも納得できるはずもなく――


「態度があからさま過ぎますよ。獣人コレクターっていうのは何なんですか?」


 頭を下げていた男がゆっくりと上体を起こす。


「お客様が本当に知らないのでしたら、そのまま知らない方がよろしいかと」


「ま、語感的にもあまり良い単語とは思えませんけど。それでも、獣人を仲間にしている以上は放っておけない言葉のような気がするので」


 ″獣人コレクター″

 どう考えても気分の良い言葉には聞こえない。



「……そうですか。そうですね、その考えは正しいかもしれません。獣人コレクターというのは――」





        ×  ×  ×





 オークション会場を後にして、4人で宿への帰路につく。

 

 その雰囲気はあまり良いものではなく、特にカイに至っては無言を決め込んでいた。


 と、そんな私達の前に見覚えのある女性が建物にもたれ掛かるように立っていた。




「待っていました。少しお話しませんか?」



 私達を待っていたのは″獣人保護のファネル″だった。






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