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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第1章 異世界転移
22/186

22.オークション会場


 ″獣人保護のファネル″。

 この街ではかなり有名な女性らしく、話によると貴族の娘ながら親元を離れ、ここキサラギの街で獣人を保護しているらしい。


 公園で彼女を見つけてから5分程カイに彼女を追わせて、私は正直邪魔だったドラゴンの爪を換金しに行った。


 その後すぐにカイと合流して更に5分程が経っていた。


「どこ行くんだろ」


「なあ、これストーカーみたいで嫌なんだけど。何で話しかけないんだよ」


「会いに行くとは言ったけど、話しかけるとは言ってない」


「コミュ症か!」


 特に話しかけることなくただ後を追っていることに流石に我慢の限界が来たのかカイが半分キレる。

 あと私はコミュ症ではない。


「でもカイだって気になるでしょ? あの人がどんな人なのか。それにほら、さっきの獣人2人もいないし、御付きの護衛とやらもいない。多分今は完全プライベートなんだよ」


 と、そんなことを話ながら尾行を続けていると、ファネルがとある建物の地下へと続く階段を下りていった。

 私とカイは互いに頷きあい、その地下へと続く階段へと向かう。


「ちょっと待った」


「ぐえっ」


 すると突然、後ろから服の襟を掴まれる。

 いきなり首が絞まる形になり、おかしな声が出てしまったではないか。


「え、なに?」


 一瞬カイかとも思ったが、私の襟を掴んできたのは階段の横に立っていた男性だった。


「え、なに? じゃない。ここは子供が来るような場所じゃないんだよ。さっさと帰りな」


 シッシッと動物を追い払うかのように手を払う男性に少しだけカチンと来た。


「子供じゃないつもりなんですけどね」


「……何歳なんだよ」


「17歳ですけど?」


「十分ガキだよ。大人になってたくさん稼げるようになってからまた来な」


 稼げるようになってから?


「ここは何かを売っているんですか?」


「一言で言いやあオークション会場だ。ま、ガキのお小遣いでどうにかできる額の商品は扱ってないけどな」


 ……オークション会場。それなら貴族の娘が入っても不思議ではないのだろう。高額の商品しか売っていないのなら貴族なんて美味しい客だろうし。


 だが、金なら貴族じゃなくても持っている。


「そっかー、何か気に入った商品があったらどれだけ出しても良かったんだけどなー。でも私子供だしなー、入るなって言われたら入れないなー」


 わざとらしい声を上げながら、チラリと懐から札束を少しだけ覗かせる。先程売ってきたドラゴンの爪の分と、旅に出る前にカンナギで最後に下ろしておいたお金だ。


「…………なっ」


 札束に気が付いたのか、男が目の色を変える。


「しょーがない。カイ、行こうか」


「ま、待った! いや、待ってくださいお客様」


「あっれぇ~? 私はここに入れないような子供なのでお客様じゃないんですけど~?」


「ぐっ、さ、先程の失礼な態度をどうかお許し下さい。ここはあらゆる珍しい商品を取り扱うオークション会場です。オークションなので当然商品は1つしかありません。一番高額で買い取った人がその商品を手にすることが出来ます」


 見事に掌がクルクルしている。

 ま、商品を売る側からしたら当然お金を持っている人を見逃すわけないよね。それがオークションという形なら尚更だ。


「さっきの女の人はよくここに来るの?」


「え、ええ。ファネル様はお得意様です」


「ふーん、そっか。じゃ、入らせてもらうね」


 男に頭を下げられながら、私とカイは階段を下りる。


「やっぱりお前、性格悪いわ」


「このくらい普通普通」


 さてと、どんな商品が売られているのやら。





        ×  ×  ×





 地下へ続く扉を開くと、そこには多目的ホールのような開けた場所に出た。


 奥にステージがあり、そこから客席がスロープ状に並んでいる。


 地下ということで開けた場所といってもかなり狭い。人も凄く多いというわけではないのだが席は既に全て埋まっており、後ろの方で立ち見をしている客もいる。


『それでは次の商品です! 次はこの魔道具! なんとこの魔道具は――』


 ステージの上ではマイクを持った男性が何かの魔道具の説明をしていた。ネットオークションならしたことがあるが、こういう形のオークションを見るのは初めてだ。


 魔道具に興味がないわけではないが、今はファネルを探すことにする。


 ファネルを探していると、カイに服の裾を引っ張られる。

 カイが指差した方にファネルが座っているのを発見した。


「それにしても、今日は少なかったな」


「ああ、もう次で最後なんだろ?」


 隣で立ち見をしていた2人組の客の話し声が聞こえてくる。

 次で最後……どうやらもうほぼ終わりかけのようだ。


『さあさあさあ! 本日の最後の超目玉商品! 何とも珍しい、モノトーンで彩られた双子のウサギの獣人です!』


「…………なっ!?」


「…………」


 どよっと会場が沸く。

 ステージに現れたのは2人の獣人。頭の上には長く立派なウサギの耳が生えており、片方は髪が真っ黒な少女、もう片方は髪や肌が真っ白な少女だ。

 顔はそっくりだが、その髪の色が真逆である。

 

 なるほどね……


 私は席に座るファネルを見る。

 私達は彼女の後を追うようにこの会場に入った。

 しかし、私達が入った頃には既にラストから2つ目の商品を紹介していたとなると、彼女が入った時もほとんど終わりかけだったはずだ。


 つまり、彼女はこの最後のオークションをしに来たということだ。

 

『皆さんご存じの通り、ウサギ科の獣人は幻覚魔法を得意としています。この2匹もそれは例外ではありません。今から皆さんを素晴らしい世界にご案内いたしましょう』


 司会の男が少女に指示を送る。

 少女2人は手錠で繋がれた互いの手を握り、強く目を瞑る。


 すると次の瞬間、薄暗かった会場に一気に光が指したと思ったら一瞬にしてステージや客席が消え、周りには綺麗な花畑が広がっていた。


「うわ……これは凄い」


 あまりにも美しすぎる光景を上手く言葉にできない。

 こういう魔法もあるのか。


 未だロイドとユニー、あと一応ドラゴンのブレスの魔法しか見たことがなかった私は、新しい魔法を目の当たりにして感動を覚える。


『さあ! いかがでしたでしょうか』


「……っと」


 司会の男の声で幻覚が消え、元の薄暗い会場に戻る。


『さてこの獣人、2匹セットで100Gから!』


「110!」

「115」

「118G!」


 次々と手が上がっていく。


 しかし、100Gとなると、円に直せば約1万円だ。

 いくら獣人が差別されているからといってオークションで売られるなんて明らかに狂っている。しかもその金額が2人でたったの100Gて。

 




「1万」


 



 突然発せられたその声に、会場が静まり返る。

 その声の主は静まり返った会場を一度見渡してから、ステージ上の司会者に向けて言う。


「聞こえませんでしたか? 私はその双子に10,000G払うと言ったのですが」


 獣人保護のファネル。

 会場にいる他の客が100だの150だのと言っている中、彼女はその名に恥じない額を提示した。


「ちっ、獣人ごときにそんなに出せるわけねぇだろ」

「あーあ、やっぱ獣人といったらファネルか」

「ま、ファネルがいた時点で予想はついてたけどな」


 周りの人達も高い金額を提示したのがファネルとわかると諦めモードに入る。

 街で聞いた通り、ファネルという名前はこの街ではかなり有名らしい。


 隣の2人組もファネルの話をしていた。

 そして、その会話が私とカイの耳にはしっかりと届いていた。

 

「うわ、やっぱりファネルだよ、あの双子も可哀想に」

「ま、所詮は獣人だし仕方ないんじゃね?」


 届いてしまった。


「……!」

「待った」


 隣の2人組に向かっていこうとするカイを止める。


「私が行くから」


「…………」


 素直に言うことを聞いたカイが半歩下がる。

 代わりに私が2人組に近付く。


「あの、今のってどういう意味ですか? あの獣人が可哀想って」


「あ? ああ、ファネルっていうあそこの女は色んな噂があるんだよ。表では獣人を保護しているなんて言われているが、あいつが保護しているっていう獣人は全部ここで買った獣人なんだ」


 自然公園で出会った2人の子供の獣人を思い出す。

 確かに、何故あの2人は保護していないのかとは思っていた。


「買った獣人だと何が違うんですか?」


「金を払って買ったんだ。つまり買われた獣人はファネルの所有物となる。ただ保護しただけなら獣人も逃げられるかもしれないが、所有物となってしまった以上逃げることはできない」


「それをいいことに家の中などでは人には言えないようなことをしていると?」


「ま、噂の域を越えないがな」


 昼前に見たファネルの後ろにいた獣人の女性2人。

 手首や足首までしっかりと(・・・・・)覆った(・・・)ワンピースに同じ形と色のチョーカー。


「ありがとうございます」


 お礼を言ってステージに目を向ける。

 ステージの上でお互いの手を握り合い、僅かに震えている2人の獣人の女の子。


「…………さて」


「お、おい、もしかしてもう帰る気か? 今の話がもし本当だったら……」


 ……本当にこの子は私相手にはツンデレのくせに、獣人のことになると素直で優しいんだよな。


 私はカイの頭にポンと手を置く。


「……あの2人、助けに行こっか」


「…………!」


 私はステージに向かって続いている階段を下りる。カイもちゃんと後ろから付いてくる。


『さあ10000! 10000Gです! 他にありませんか!』


「あるわけねぇだろ」

「1万って、そんなに払えるかよ」


『それでは10000Gということで、そこの……』









「10万」




『…………え?』


 さっきまで異様にテンションが高かった司会者が素の反応になる。

 そんな司会者に向かって私は言葉を続けた。






「聞こえませんでした? 私はその双子に100,000G払うって言ったんですけど」




 私の言葉に会場が再び静まり返った。




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