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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第1章 異世界転移
21/186

21.この街は……


 宿も決まり、今私達は武器屋に来ていた。


「すみません、この矢に一番近い矢ってどれですか?」


 私はクロスボウの矢を店員さんに渡して見てもらう。

 そう、私だけのクロスボウを作ってもらったはいいが、問題はこのクロスボウの矢もガランタさんのオリジナルだった場合、普通の弓矢の矢で代用が効くのかどうかというところに行き着く。


「ん? うちは弓矢は少ないんだけど……いや、これならあるな」


「え、全く同じものですか?」


「ああ」


 そう言って店員さんは奥から矢を1本持ってくる。

 私が渡した矢の横に並べて見比べる。確かによく似ている、というか全く同じものだ。


「この矢は弓矢の中でもオーソドックスなタイプだから流石にうちにもあったよ」

 

 どうやらガランタさんはこういうことも想定して普通の弓矢で使われている矢に合わせてクロスボウを作ってくれたようだ。まぁただクロスボウ専用の矢を作るのが面倒だったという理由かも知れないが。


「じゃあそれを50本ください」


「50ね、多分あると思うけどちょっと見てくるね」


 店員さんが再び奥へと消える。


「今のうちにカイのダガーを見ておこっか」


「いいのか?」


「……? もちろん。カイが強くなるためならお金に糸目はつけないよ」


 今更何を遠慮しているのか、らしくもない。

 カイが強くなるならそれだけ私達の危険が減るということだし、ここでケチる理由がない。

 

 店に入ったときから目につけていた物があったのか、カイは迷うことなくそのダガーの方へ向かう。


「……やっぱり。これにする」


「早いね。ちょっと私にも見せて」


 カイが選んだダガーを持ってみる。おー、なるほど。カイのダガーより少し軽いくらいかな? しかし、一番気になるところはそこではないんだろうな。


「黒いね」


「ああ、だから決めた。チョーかっけぇ」


 やっぱり。このダガーは刀身の部分が真っ黒なのだ。所謂黒刀というやつだろうか。


「ちゃんと重さとか長さとか見た?」


「問題ない。かっこいい剣に切れ味の悪いものはない」


「その考えは改めた方がいいと思うよ」


 そういえば初めてユニーに会ったときもかっこいい! ってテンション上がってたもんなぁ。威嚇されてすぐに涙目になってたけど……

 かっこいいものが好きなのはやっぱり男の子だよなぁ。


「お客さん、50本用意できたよ」


「あ、じゃあこれと一緒にお願いします」


「はいよ」


 店員さんにダガーとそれを入れるケースを渡して、一緒に精算してもらう。


 カイは早速ダガーを腰に装着し、何度も抜き入れを確認している。

 私も私で本当に矢が同一の物かを確認してから背中に背負っていたクロスボウを手に持ち、一度セットしてみる。

 問題なく発射できるようなので安全装置(セーフティ)をかけて、再び背負い直す。


 私達は店を出て軽めの昼食を取ることにした。

 結局カンナギでは出来なかった念願の食べ歩きである。


 クレープ生地に肉や野菜を挟んでソースで味付けをしてあるケバブのような食べ物を出店で買い、それに齧り付きながら街を散策していた。


「いやどんだけ買ってんだよ」


 ケバブの入った紙袋を抱えた私をジト目で見てくる。


「だって今朝は何も食べてなかったし、カイだってお腹空いてるでしょ?」


「オレは2つで十分」


「え、マジ? 私5個は余裕なんだけど」


「太るぞ」


「ダイジョブダイジョブ。私どれだけ食べても太らない体質だし」


 ん? 今いっせいに道行く女性に見られたような……。


「……! カイ、ちょっと」


「へ?」


 私がいきなり道沿いにあった自然公園に入ったことで呆けた声を出すカイ。


 私達が向かった先では――



「おい、そいつら押さえとけ」

「おう!」

「はいよ」


「やめて! やめてよ!」

「いたいよ!」


 3人の子供が獣人の子供2人を押さえつけて殴る蹴るという行為に及んでいた。


 明らかに一方的なそれは喧嘩というには無理があり、いじめと取れる光景だった。


「おい! お前ら何やってんだ!」


 カイが急いで2人の間に止めに入る。


「あ? 誰だよお前。おれが誰だかわかってんのか?」


 ほう、有名な子なんだろうか?


「おれは将来ロイド様やカナタ様のような凄腕冒険者になって、国王に仕える男だぞ!」


 ……凄く聞いたことのある名前が出たような気がしたんだけど? 同姓同名かな?


「あー、はいはい。予定は未定な」


「あ!? てめー、あんま舐めてると痛い目見るぞ」


 これはカイも頭に血が上ってるっぽいな。このまま放っておくと相手の子が怪我しかねない。


「……にしても」


 私はぐるりと辺りを見渡す。

 人の通りがないわけじゃない。ここは自然公園のど真ん中だ。目立っているし、誰もが気が付いている。


 しかし、誰1人として立ち止まろうとすらしない。


「てめえ!」


 おっと、流石に限界かな。


「はいストップストップ!」


「なんなんだよ次から次へと!」


「まあまあまあ、ハッキリ言うけど君じゃこの子には勝てないよ」


 カイの頭にポンと手を置く。歳はカイとそこまで変わらないだろうが、どう見ても経験が違う。カイはこの2日で私以上に成長している。


「なんだと! おれが誰か……」


「あ、聞いてた聞いてた。冒険者になりたいんでしょ? なりたいっていうことはまだ街の外に出たことないんでしょ? じゃあカイに勝つのは無理だよ」


「ふざけんな。おれに勝てる奴なんかいるもんか」


「……これなーんだ」


 私は懐から硬く鋭く尖った大きな爪を取り出す。


「……っ!? ど、ドラゴンの爪!?」


「そ。この街に来る途中に会ったんだけどね。ちょっと換金するためにもらってきちゃった」


「ま、まさか……」


「ドラゴンのお肉は美味しかったよね、カイ」


「あ、ああ」


 ドラゴンがどれだけ恐ろしいモンスターかを教えられているのか、その顔が驚愕に染まる。


「もう一度だけ言うけど、君じゃまだカイには勝てないよ? っていうか、このまま続けたら怪我じゃ済まないかもよ? それこそ、このドラゴンみたいに……」


「うわああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 私の言葉を最後まで聞かずに全力で逃げ出す少年。

 他の2人もその少年の後を追っていった。


「オレ達はドラゴン倒してねぇぞ」


「私達が倒したなんて一言も言ってないよ」


 あの子が勝手に勘違いをしただけだ。


「うわ、性格悪っ」


「にゃんだとー!」


「…………あ、あのっ」


 手に持ったドラゴンの爪でカイの頭をグリグリしていると、後ろから小さな声が掛けられた。


「ほい」


「え?」


「これあげる。お腹空いてるんじゃない?」

 

 私は紙袋に入ったケバブを1つずつ2人に渡す。


「お前ら! 何でやられっぱなしなんだよ!」


「ヒッ……」


「やられたらやり返せよ! そんな風にウジウジしてるからいじめられるんだろ!」


「落ち着けい!」


「グペッ!」


 私のチョップが脳天に直撃したカイはその場に倒れる。


「ごめんね、この子も君達と同じ獣人だから我慢できなかったみたい」


「え……」


「……絶対に強くなれなんて言わないけどさ、諦めたって何も変わらないよ? 一度いじめられるのを受け入れちゃったらもう二度と逆らえなくなっちゃうからね」


 俯く2人にできるだけ優しく諭すように言葉を続ける。


「私とこの子は元々1人だったけど、一緒に行動するようになってからは毎日が楽しくなった。多分この子も同じ風に考えてくれてると思う。君達もせっかく2人でいるんだから、一緒に楽しまなきゃ損だよ?」


「……どうやって?」


「まずは前を向こう。そして笑おう。下を向いてたら目の前にある幸せを掴めないし、泣いてたらその幸せすらやってこない。簡単でしょ? ほら笑え笑え」


 2人は互いに顔を合わせ、涙を拭うと笑顔を見せた。

 少しぎこちないけど、それも確かな1歩だ。


 それじゃあねー、と2人と別れて私達は公園に残された。


「……あの2人、身体の至るところに(あざ)があった。新しいものから古いものまで。何度もあんなことされてるんだ。何度も何度も何度も、獣人だからって理由で!」


「…………」


 あの2人の痣には私も気が付いていた。


『……1つ忠告しておくと、この街じゃそのフードは取らない方がいいよ』


『獣人保護のファネルと聞いて知らない人はいませんよ』


『誰1人立ち止まろうとすらしない』


『……あの2人、身体の至るところに痣があった。新しいものから古いものまで』


 …………。


「この街は……」


 言いかけて、途中で止めた。

 まだこの街に来て数時間しか経っていない。人を見かけで判断してはいけないように、街も、街の人も決めつけるにはまだ早すぎる。


「……! あれは」


「……? ハル?」


 公園から少し離れたところで見覚えのある人物が歩いているのを見つける。数時間前に見たばかりだ、見間違いではないだろう。


「カイ、行くよ」


「ど、どこに……」


 カイの手を引いて公園を出る。



「この街で一番有名な人のところにだよ」




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