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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第1章 異世界転移
19/186

19.対等になるには


『アクアボム』


 ギャアアアアアア!!!


「破ッ!」


 クペッ!


「…………」

「…………」


 私達が2人がかりで何とか仕留めたイノシシ型モンスターと同じくらいの大きさの虎に似たモンスター2体を一撃ずつで倒しちゃったよ。

 私達出番なし。


「この2人強すぎない?」


「次元が違うな……」


 どうやら私達はとんでもない護衛を雇ってしまったようだ。





        ×  ×  ×





 この2人の、特にロイドの戦いを見て冒険者に弓使いがいない訳がよくわかった。

 魔法は便利すぎる。こんな魔法が使えるのならわざわざ弓矢なんて使うはずないし、弓矢と魔法が一対一で戦ったら弓矢に勝ち目はない。

 魔法は攻撃にも防御にもなるし、射程距離も弓矢より長い。

 強力な魔法になるにつれて詠唱も当然長くなるが、短い詠唱のものでも弓矢と同等かそれ以上の魔法が撃てている。


 カナタによるとロイドは魔法使いの中でもトップクラスの天才で、このレベルの魔法使いは滅多にいないらしい。それを聞いて少し安心した。


「にしても、カナタが私より年下なんて未だに信じられないよ」


「そ、そんなに老けて見えますかね?」


「違う違う。大人っぽく見えるんだよ」


 特に女性特有の場所とか。


 日も暮れかけてきたので今日進むのはここまでということとなり、私は今人生初の野宿にドキドキしながら先程2人が倒した虎モンスターで夕飯を作っているところだ。といっても昼と同じく塩振って焼いているだけだが。


 道中色々と話を聞いた。どうやら2人の年齢はロイドが15歳、カナタは16歳らしい。

 私より年下が平気な顔してドラゴンと戦ってるって、この世界はどうなっているんだ。地球じゃまだ中3と高1だよ? 恐ろしや~。


「どうでもいいけど、ハルのその武器って何? 見たことないんだけど」


 ロイドが私のクロスボウを手に取り眺めながら訊ねる。

 やはりこの世界は魔法のせいで弓矢が発達しておらず、クロスボウという武器も誕生していないようだ。


「これは弓矢の進化版っていったところかな」


「ふ~ん、なるほどね。この土台で矢を安定させて弦も引いた状態で固定できるようになってるんだ。そして狙いを定めて指1本で矢を発射させると。なかなか面白い武器だね」


「ああ。弓矢だと弦を引いた状態で完全に停止して狙いを定めるにはそれなりに経験がいるし、どうしても数撃っていると疲れで弦を引く力も落ちてくる。これはそのどちらも解消できている上に、自分が動いていても撃つことができるという利点もあるみたい」


 ロイドとカナタが何やら私の武器を考察している。

 やはり冒険者という職業柄、初めて見る武器には興味を示してしまうのだろう。

 それにしても私のクロスボウ、凄腕冒険者であるこの2人のお墨付きなんじゃないの? 流石私の武器なだけはある。


「ま、僕の魔法の方が1000倍くらい便利だけど」


「そりゃそうでしょ」


 ですよねー。


「ていうか、何か危ないんだけどちゃんと安全装置(セーフティ)かかって……」

「あ」


 撃ったぁぁぁぁぁ!?


「おっと」


 避けたぁぁぁぁぁ!?


「危ないなロイド。それは人に向けて撃つものじゃない」


「ごめんごめん」


「いやどっからツッコめばいいのかわからないんだけど!?」


 普通に3メートル前にいる人の顔目掛けて矢を撃つロイドもおかしいし、それを首を傾けるだけで躱すカナタも相当おかしいんだけど! 何これ私がおかしいの!?


「」


 あ、カイが唖然とした顔で固まってる。よかった、おかしいのはやっぱりこの2人だった。


「はぁ……ていうか、ロイドの魔法が凄いのはわかってけど、カナタも何か魔法が使えるの?」


「いや、私は魔法の才能が全くありませんから」


「魔法が使えるかどうかは生まれ持った才能で決まるからね。魔法に関してだけは才能がないと努力することすら認められないんだよ」


「シビアな世界だ……」


 魔法が使えない者は何百年努力しても魔法は使えない。だから冒険者で魔法が使えない者は剣を握る。弓では魔法に勝てないから。


「たとえ魔法が使えなくてもこの武器があれば、僕達の護衛はいらないと思うんだけど。そりゃあドラゴンとかは無理かもしれないけど、あんなのは滅多にいないわけだし」


「そんなことない。ハルは止まっている的にしか当てられないから。今日だけでウサギを5回逃がしてる」


 ちょっとカイくん? それは別に言わなくてよくない?


「は? いやいやこんな矢が安定してて弦も固定された武器でどうやって外すの?」


「ぐはっ……」


「え、マジなの? ああ、もしかして人間の小指サイズのウサギだったとか?」


「ろ、ロイド……言い過ぎ」


「いやだってこんな便利な武器だよ? 初めてこれを持った子供でもウサギくらいなら仕留められるでしょ」


 もうやめてください。私のライフはとっくに0です。


「そ、そんなに言うならロイドはできるん? ちゃんと1発で仕留められるん!?」


「だから余裕だって」


 そう言ってロイドは掌サイズの水の玉を発現させた。その水の玉はフワフワと漂いながら近くにあった木の近くまで飛んでいく。


 パチン


 ロイドが指を鳴らした瞬間、水の玉が破裂する。


 その音と衝撃に驚いた数羽の鳥が木から飛び立つ。

 ロイドはその鳥達に向けてクロスボウを構えると同時に引き金を引いた。


 矢は勢いよく飛んでいき、数羽の中の1羽に突き刺さった。矢が刺さった鳥は飛行不可となり、そのまま私達の近くに落下した。


 ロイドは矢を抜いてから鳥をカイに渡す。


「これもついでに捌いといて」


「わ、わかった……」


 カイに鳥を渡したロイドは私に振り向き、クロスボウを返しながら一言。


「ね?」


 …………。


「……ロイドくん、いや、ロイド師匠!」


「師匠?」


「私に撃ち方のコツを教えてください!」


 もうウサギにすら当てられないトロくて(のろ)い奴だなんて言われたくない!(←言われてません)


「え、嫌だけど?」


「ええ!?」


「何で僕がそんなことしなきゃいけないのさ。面倒くさい」


「そんなこと言わず、師匠!」


「その師匠ってやめてくんない?」


 仕方ない……


「もちろん、ちゃんと教えてくれたら報酬に上乗せさせていただきますよ?」

「何してんの早く構えて。あとこれから僕のことはちゃんと師匠と呼ぶように」


「はい師匠!」


 チョロいっすね師匠!







 一方、残された2人は……


『何その構え。もっと脇締めて、肩の力は抜く』


『うっす!』


「アンタの相方チョロ過ぎない?」


「あ、あはは……」


 カイが素早く鳥の皮を剥ぎ捌いていく。

 そんなカイとハル・ロイド組を見て、手持無沙汰になったカナタが口を開く。


「向こうは向こうでやってるみたいだし、カイは私が教えようか?」


「え、何を?」


「剣を使った戦い方」


 カイが使うダガーを指差しながら言う。


「いや、オレはいいよ。別にハルみたいに強くなりたい訳じゃないし」


 カイのどこか興味のない反応に、カナタは少しだけ顔を(しか)める。


「でもハルさんだけ強くなったらカイはハルさんの足を引っ張ることになるんじゃない?」


「…………」


「嫌でしょ? 一緒に旅をしてるのに頼ってばかりじゃ」


 カイは黙ったまま鳥を捌き続ける。


「私もさ、ロイドと組んでからはよりいっそう努力するようにしたんだよ。そうしないとあっという間に置いていかれちゃうから」


「…………」


「あいつは天才だからさ。でもその天才と対等でいたいから。いつまでもあいつの横に立って一緒に戦っていたいから」


「何も知らない人が聞いたらプロポーズに聞こえるな」


「…………プッ、アッハッハッハ! 私があいつにプロポーズ? カイは面白いこと言うな」


 ウケるー! と自分の膝をバシバシ叩きながら爆笑しているカナタ。


「でも、カイもハルさんといつまでも対等でいたいでしょ?」


「それは……」


 対等――。

 果たしてハルとカイの関係は対等なのだろうか? 対等と言っていいのだろうか?

 答えは、もちろん否だ。

 

「…………まずはとりあえず強くなっておけばいいんじゃない? 難しく考えるのはそれからで」


「……なんだそれ」


 そんな適当な物言いについ笑みが溢れる。


「それにハルさんは女の子なんだよ?」


「……? それが?」


 カナタは立ち上がり腰に手を当て、立派な胸を張ってハッキリと言った。





「女を守るのが、男の役目でしょ?」





 そんな格好良いことを言うカナタを見上げながらもカイが思うことは1つだけだった。



 ――お前も女だろ。と。

 


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