15.魔法使いユニー
仕留めたイノシシ型モンスターを血抜きし、皮を剥ぎ、解体していく。カイが。
何故わざわざ倒置法を使ってまでカイを強調したのかというと、本当に解体をしているのがカイ1人だからだ。
では私は何をしているのかというと――
「うっ……」
その獣臭さとあまりにも多い血の量に気持ち悪くなっていました。
確かにあのモンスターの頭部に矢を放ち止めを刺したのは私だ。
しかし、こう見えても私はお嬢様育ちなのだ。
料理というものは基本完成したものしか見たことがない。例外的に自分で完成させるときもあったが(カップ麺)。
こんなイノシシの解体はもちろんのこと、魚を捌くところすら生で見たことがなかった。
「気分悪かったら向こうで休んでていいぞ?」
「ありがと……そうさせてもらう」
その場はカイに任せて私は馬車の荷台の中に入り、少し横になることにした。
いや、いやいやいや、こんなことでいいのか咲場 春。
これからこういった場面は何度もやって来るぞ。
どこか1つの街に住み着くならまだしも、色んな場所を訪れるつもりなら当然旅をすることになるし、野宿だってすることになる。そうなると食料不足になってモンスターを狩って食べなければいけない状況には今後も絶対にやって来る。
解体……は、まぁカイに任せるとしても、調理くらいはしないと。
と、大体30分くらい馬車の荷台でゴロゴロしていたら、解体を終え、焚き火まで用意してくれていたカイが呼びに来た。
「おーい、解体終わったぞ」
「お。了解。じゃあ調理は私に任せなさい」
「……ホントに大丈夫かよ」
「だいじょぶだいじょぶ。カイ、ダガー借りるよ」
カイのダガーを持ち、肉塊の前まで移動する。
「……でけぇなおい」
これは、一体何円相当の肉なのだろうか。こんな大きい肉塊は私も見たことがない。
そもそもあんな大きい生き物を見たのも初めてなんだし当たり前と言えば当たり前か。
大きくカットして大胆にステーキにでもしてやりたいのは山々なのだが、生憎そんな分厚い肉を焼ける道具がないのでまずはこれを唐揚げ程の大きさにカットしていく。
さらにリュックサックから鉄串を取り出し、カットした肉を次々突き刺していく。
そこに味付け用に買っておいた塩を軽く振りかける。
焚き火で炙れば、はい完成。
「ほい、どうぞ」
4本持っていた鉄串のうち2本をカイに渡し、私も自分用の2本を両手に持つ。
「それでは、いただきます」
私達の為に犠牲になったイノシシ型モンスターに心から感謝し、焼いたお肉を頂く。遅めのお昼だ。
「……うまっ! やだ、私ってもしかして料理の天才?」
「ただ塩振って焼いただけじゃん」
「あっれー? 文句言うなら別に食べなくてもいいんだよー?」
「だ、誰も文句なんて言ってないだろ!」
そう言ってお肉を守る様にしながら食べるカイ。かわええのぉ。
「それにしても、失敗したな」
3本目を自分で焼いているカイが唐突に呟いた。
「え、焼くの失敗した? 私がやってあげようか?」
「違う。そっちじゃない。2人で食べるにはコイツは大きすぎたってこと」
確かに、軽く10人前以上はあるこのモンスターは相撲取りや柔道部とかならまだしも、か弱い女子とショタの2人でこれを完食するのは流石に無理がある。
「生肉だから長持ちもしないし、とはいえ棄てるのは勿体無い、というかあのモンスターに申し訳ない」
どうしようかと悩んでいると、少し離れた所で休んでいたユニーがこちらに歩いてきた。
「あ、ごめんごめん。ユニーの分忘れてた。ユニーも焼いた方がいいのかな?」
私達より大きめに肉をカットして、串に刺し、焼き始める。
すると後ろで何やら騒いでいた。
「おいユニー、今肉焼いてるからそっちをそのまま食おうとするな!」
「ぶるるるるるる!!」
「いや、ぶるるるじゃなくて!」
何をしてるんだが……。
「こらユニー、何して………………え?」
ユニーを注意しようと振り返ると、そこには見事に冷凍されてカチンコチンに固まっている肉塊があった。
「え、何したの?」
「いや、なんかユニーが息を吹き掛けたらいきなり肉が凍った」
「なにそれ怖い」
息を吹き掛けたら肉が凍るって、どんな手品……
「あ、もしかしてユニー、魔法が使えるの?」
「ぶるるるる」
私の言葉にユニーが頷く。
マジか! まさか私もカイも使えないのにユニーが魔法使えるとは。
しかしこれである程度はこのお肉も保存が効く。
よし、これで今日の晩御飯も確保だ。ユニー様様だ。
「よーしよしよし、ユニーよくやった。ほれこれ食え! これ食え!」
「ぶるるるるるる!!」
ユニーの魔法に見とれて少し焦がしてしまったがまぁ大丈夫だろう。ほらユニーも喜んでるし!
串から肉を抜き取り、お皿の上に乗せてユニーの足元に置いてやるとユニーはお肉にかぶりついて食べ始めた。
「そろそろ移動した方がいいよな」
「あ、そうだね」
ロンドンさんの教えによるとモンスターの死体はその死臭で他のモンスターを誘き寄せてしまうらしい。
あまりこの場に長居はできない。
ユニーがお肉を食べている間に私達は焚き火を消し、鉄串や塩などをリュックサックにしまい、凍った肉塊を綺麗な布で包んで荷台に運ぶ。
ユニーも食べ終わり、私達はモンスターが集まって来る前に出発することにした。
私達はこの時まだ、既にモンスターに囲まれていることに気付いてはいなかった。
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