6.あと、どれくらいですか……?
「結局、その意味は一緒に聞いてた私もよく分かってないんだけど、でも完成した魔道具を見せた時のミラの反応からして喜んでは貰えたみたいだったから……正解だったのかな」
「それが、この魔道具だと?」
「そ。ハルちゃんが拾ったって場所からして間違いないよ」
「それで、この魔道具はどんな効果があるんだい?」
「……それが今回の一番の問題だね。ハルちゃん、ここからは君に絶対に理解してもらわないといけないんだけど……」
シュガレットは机の上のペンダントをハルの前に掲げると、真剣な眼差しで口を開く。
「この魔道具は、困っている人に自分の力を分け与えるというミラのイメージを具現化した魔道具。………………自分の魔力を大幅に消費して、他人の魔力を全回復させるんだ」
「「…………っ!!」」
シュガレットの言葉で全てを理解したロイドとライン王子は、焦ったような表情で揃ってハルの方に視線を向けた。
「君が分かった上でこれを使用したのかは不明だけど、君の二度の魔力暴発はこいつの効果を使ったと見て間違いない。それ以外に説明できないからね」
まるで問い詰めるかのように、シュガレットはペンダントをハルの顔の近くに寄せさらに追求を進める。
「君は馬鹿じゃない、ここまで言えば分かるだろう。君は……君の中に残っている僅かな君の魔力を使って、ロイドの魔力を全回復させたんだ。当然、全回復したロイドの魔力に君の身体のキャパシティは耐えることができず、魔力暴発を起こした」
「…………」
「話によると、恐らく一度目は無意識にこの魔道具を発動させてしまったと思われる…………だが二度目は違う。さっき君の口から、自分で魔力暴発を起こしたと聞いたからね。この魔道具の効果を、完全に理解した上で使ったのかな?」
「…………そのペンダントを使えば、魔力暴発を起こせることは分かってました」
「そのために自分の魔力を消費することは?」
「…………いえ」
「…………なるほどね。ま、知らなかったのなら仕方がないか。もう使ってしまった訳だし、今さらどうこう言っても遅い。問題はこの先の話だ」
はぁ……と一度溜め息を吐いたシュガレットはペンダントを机の上に置き直すと、もう一度ハルに身体ごと向き直る。
「いいかいハルちゃん、よく聞くんだ。今のハルちゃんは自分の体内にあるロイドの魔力を暴発させるために二度も自分の魔力を使ってしまった。しかも、現状のハルちゃんの体内にある魔力割合からいって、ハルちゃんが使った魔力は生命維持に必要な魔力だったと思われる」
現在ハルの体内にはハル本来の魔力と、ロイドの魔力が流れている。ただし、ロイドの魔力の回復スピードと単純な魔力量のせいでハルが魔法に使用している魔力は全てロイドの魔力になっている。ならハルの魔力はどこに存在するのかというと、それは全て生命維持活動に回されているのだ。
魔力というものは魔法に使われる為に存在しているものと、生命維持に使われているものに完全に別けられている。本来ならこの魔法に使われるための魔力が底を尽きた時点で人は魔力切れを起こし、それ以上魔力を使わないように──つまり生命維持に使っている魔力まで魔法に使ってしまわないように脳が勝手に意識を遮断してくれる。
しかし、以前ハルがアランカの街を守った際はミラーの魔道具を使用してしまったがために、増幅した魔力に脳が勘違いをして生命維持に必要な魔力まで使用することを許可してしまった。
そのせいでハルは生死を境をさ迷うこととなったのだが、ここでロイドがハルの命を繋げるために自分の魔力をハルの魔法を使うために必要な場所に移植した。
そのお陰でハルは魔法用の魔力を回復させる分の力を生命維持用の魔力の減少を止める方に割くことができ、無事に一命を取り止めることができた。だが、ロイドの魔力があまりにも多大だったがために魔法用の魔力を貯めておく場所に、本来のハルの魔力の居場所がなくなってしまった。
今のハルの体内は魔法用の魔力はロイドの魔力、生命維持用の魔力はハルの魔力という形に完全に別れてしまっているということだ。
「つまり、君は生命維持用の自分の魔力を使って魔法用のロイドの魔力を回復させたんだ。普通の人間はその2つの魔力はどちらも自分の魔力だから、本当ならあり得ないことだ。これは体内に別の人間の魔力を持ったハルちゃんだからできたことでもある」
「待って、それなら体内のロイドの魔力を使って生命維持に必要なハルちゃんの魔力を全回復させれば──」
「無理だね。この魔道具はあくまでも使用者の魔力を使って他人の魔力を回復させるもの。ハルちゃんがこの魔道具を使用するなら、ハルちゃんの魔力、つまり生命維持用の魔力を使う必要がある」
「じゃあ別の人がこれを使って、ハルちゃんの生命維持用の魔力を回復させることはできるんじゃないのかい?」
「……私よりも魔法や魔力に詳しい2人ならもう分かってるだろ? さっきも言ったけど、人間の魔力ってのは魔法用と生命維持用に完全に場所が別けられてるんだよ。この魔道具で回復できるのはあくまでも魔法用の魔力のみだ。そもそも生命維持用の魔力なんて、寿命以外で減ることなんてないんだ。それを回復させるってことは不老不死を作ることと同義だよ」
「……っ」
シュガレットのハッキリとした物言いに言葉を詰まらせるライン王子。
すると、ずっと黙っていたハルが手を挙げてシュガレットに質問をする。
「以前私が魔力切れで倒れてロイドが魔力をくれたことで一命を取り止めた時、私の生命維持用の魔力は回復したんじゃないんですか?」
「……今言ったけど、生命維持用の魔力が回復することはないよ。その魔力は減る一方だ。その場にいなかったから何とも言えないけど、恐らく君はロイドの魔力を得たことで、生命維持用の魔力の減速スピードを抑えたに過ぎないんだ。元々その時に減ってしまっていた生命維持用の魔力を君は今回さらに二度も使用してしまった。私の言いたいこと、分かるかな?」
「…………私の寿命は、あとどれくらいなんですか?」
しん──っと一瞬だけ部屋が静まり返る。誰もが思っていたこと。そして、口には出さなかったことだ。だが、ここまで来たらハッキリさせるしかない。それが、ハルのためでもある。
「……正確には分からない。元の君の魔力量や今の魔力量、そして君の本来の寿命を数値化できるわけではないから。数年かもしれないし、もしかしたら数ヵ月かもしれない。でも……5年以上はきっと無理だと思う」
「なっ……!」
ハル以上にライン王子の反応の方が大きかった。何となくだが、ハルは自分の身体というのもあってか心のどこかで覚悟できていたのかもしれない。
(5年か……カイ達には何て伝えようかな……あーあ、5年じゃきっと無理なんだろうな……)
ハルの頭の中には死への恐怖よりも、自分が死んだ後の仲間の心配の方が先に浮かんできた。
彼らは多少の違いはあれど、皆ハルと出会ったから今の生活がある。彼らの中心には常にハルという存在がある。ルルとリリィに関しては形式的にはオークションで買ったハルの所有物ということになっている。その場合ハルが死んでしまったら彼女達の所有権はどうなってしまうのだろう。などと、そんなことばかりが頭に浮かんでくる。
「……あと、追い討ちをかけるようで悪いんだけど、これも言っておかないといけない」
「なんです?」
「もし、あと一度でもこの魔道具を使うようなことがあれば、きっとハルちゃんはその時点で死ぬ」
「……でしょうね」
「物分かりが良くて助かるよ……やっぱり君は賢い。だからこそ、何でこんな馬鹿なことを何度もするのか、理解できないんだけどね」
取り繕っても無駄とばかりに思ったことをそのまま口にするシュガレット。
そんなシュガレットの言葉に苦笑いを浮かべたハルは──
「私の夢は……人間とか獣人とか関係なく、皆が笑って暮らせる世界を見ることですから」
と、そんな答えにもなっていない答えを述べると、机の上のペンダントを掴み立ち上がる。
「待ったハルちゃん! 話を聞いていただろう、そのペンダントはこちらで預かる。ハルちゃんは一度無意識にその魔道具を使ってしまっている。ハルちゃんに使う気はなくともまた使ってしまうとも限らない」
「大丈夫です。これの使い方はもう理解してますし、無意識に発動するなんてことはありませんよ。それに、これは私が持ってておきたいんです」
ハルはペンダントを見つめた後、ゆっくりと振り返りほんの少しだけ悲しそうな笑みを浮かべながらこう言った。
「これは……天才少女だった私の母の形見ですから」




