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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第6章 選択
145/186

5.親友の依頼


「それについては、私から説明しようかな」


 挙手をしてそう言ったのはハルの隣に座っていたシュガレット。白衣の右ポケットから円形状のペンダントを取り出すと、それを机の上に置いた。


「あれ、それって……」


 見覚えのあるペンダントにハルは自身の体をまさぐる。

 机の上に出されたペンダントは弓を構えた女神のレリーフが彫られており、上部からは首から下げられるようにチェーンで繋がれていた。

 間違いなく、ハルがサランド皇国の廃村で拾ったマヒユ教の証となるペンダントだ。


「ごめんね。気になって少しの間借りてたって言うの忘れてたよ」


「いや、それは大丈夫ですけど。何もありませんでしたか?」


「……何もって?」


「それを最初に見つけたとき、いきなり頭を殴られたような激痛が走って、私一回気を失ったんです」


「…………そう、ハルちゃんが……。ねえハルちゃん、君……ミラって名前に聞き覚えない?」


「ミラ……ですか? ……ないですね」


「……じゃあ、これはどこで見つけたの?」


「ベーダから3日ほど歩いた場所にある廃村です。その中の一番大きい屋敷の中で見つけました」


 ハルの回答にそっかと頷くと、シュガレットはしばらく黙り込んでしまう。

 そんなシュガレットを見てハル、ロイド、ライン王子は互いに顔を見合わせて首を傾げる。


「シュガレット、このマヒユ教のペンダントがどうかしたのかい?」


 ライン王子が訊ねると、シュガレットはごめんごめんと頭を掻きながら一度咳をして仕切り直す。


「これはね、普通のペンダントじゃないんだよ。見た目は他のマヒユ教徒のペンダントと何ら変わりはないんだけど、実はこれ……マヒユ教のペンダントを魔道具に改良したものなんだ」


「魔道具だって?」


「あ、やっぱりそうだったんですか。それを持った瞬間私も魔力の制御ができるようになったので、シュナ達とそうなんじゃないかって話してたんです」


「…………」


「あれ? シュガレットさん?」


「…………うーん、この魔道具にそんな効果はないはずだけど」


「ええ……!?」


 噛み合わない2人の会話に、ロイドが助け船を出す。


「とりあえず、シュガレットの話を全部聞いてみようよ。考察はそれからでいい」


 ロイドの提案に他の3名も頷き、シュガレットはペンダントを指差しながら説明を続けた。


「これは私の姉さんが生前に作った最高傑作だよ。これはまだ、私が子供だった頃の話なんだけどね……」


 



        ×  ×  ×




 当時、サランド皇国は今ほどマヒユ教徒ではない者に寛容ではなかった。

 今のマヒユ教といえば、無理矢理マヒユ教に入信させるようなことはせず、あくまでも獣人や獣人を仲間とするようないわゆるハルのような人間にのみ牙を向く傾向にある。


 ただ、当時のサランド皇国は戦争が終わってまだ数年しか経っていなかったこともあってか、マヒユ教徒でない者は全て敵といわんばかりの過激集団であった。


 反マヒユ教徒とまではいかないが、マヒユ教徒でもなかったシュガレットの家族は常に周りから蔑視され、肩身の狭い暮らしを強いられていた。


 そんな国すぐに出ればよかったのにと思う者もいるだろう。だが、当時のサランド皇国は戦争の後始末に追われほとんど鎖国状態にあったため今ほど簡単に国の外へは出ることができなかった。


 つまり、常にピリピリとしたいつ切れるかも分からない張り詰めた糸のような、そんな状態が当時のサランド皇国だった。


 シュガレットには10歳も年の離れた姉がいた。

 名はアスレア。

 当時まだ20歳にして巷で有名な天才魔道具研究者だった。


 彼女は生まれたときからあまり身体が強くなく、よく熱を出して寝込んだりしていた。

 しかし、その代わりなのかどうかは分からないが彼女の頭脳は次々と目新しい魔道具を生み出していった。当時はまだ10歳だったシュガレットは、そんな姉が作る魔道具が、そして何より魔道具を作るときの姉の姿が大好きだった。


 ところが、マヒユ教徒ではない彼女の作った魔道具はサランド皇国の国家に相場の何十倍もの安値で買われていった。国は外に持っていかれては困ると判断したらしく、形式的には国家の専属魔道具研究者となってはいたのだが、その待遇は酷いもので、その僅かな収入でシュガレット達家族は細々と暮らしていた。


 そんなアスレアとシュガレットにも親友と呼べる友人がいた。

 名はミラ。シュガレット達が暮らす首都ベーダから少し離れた小さな村に住む女性だ。


 彼女は2人よりも年上でありながら、いつも明るく元気で活発な印象があった。魔法を得意としていて、誰に教わるでもなくあらゆる魔法を使いこなしていた。


 昔から身体の弱かったアスレアも、ミラの回復魔法で診てもらえるようになってからは見違えるように元気になり、彼女と会うときだけはマヒユ教だとか異教徒だとか何も気にすることなく過ごすことができた。


 何故ならこのミラという女性は、マヒユ教徒でありながら、反マヒユ教徒の考えを持つ女性だったからだ。何でも彼女は読心魔法という魔法が使えるらしく、初めて会ったその日に2人がマヒユ教徒ではないことがバレてしまい、その代わりと言ってはなんだが彼女の考えや思いを教えてもらった。


 もちろん初めは胡散臭く、信用していいのかとも思ったが、不思議と彼女といると全てをさらけ出すことができた。だからアスレアもシュガレットも彼女とすぐに打ち解けることができたのだろう。


「ミラ、貴女ってここから結構離れた場所に住んでいるのよね? 毎日どうやってここまで来ているの?」


「そりゃ、こうやってだよ」


 いつも会う場所はベーダから程近い森の中で、ミラの村までは馬車だと1日、徒歩だと3日は掛かるのでいつも疑問に思っていたのだが、彼女の得意魔法の1つである転移魔法を見せてもらって納得した。


 アスレアも天才と言われてはいるが、ミラほどの天才は見たことがなかった。それはアスレアも同じだったらしく、ミラの魔法を見せてもらうときはいつも2人して目をキラキラさせながら見ていた。魔法の才がないこの姉妹にとってやはり道具を使わない魔法というのは新鮮であり、憧れるものでもあった。


 そして、ミラと出会ってしばらくが経ったある日、彼女がこんなことを言い出した。


「国家専属の魔道具研究者に個人がこんなお願いしちゃ駄目なことは重々承知の上なんだけど、1つだけ頼みを聞いてくれないかな?」


「頼み?」


 そう言って彼女が取り出したのは街でも嫌というほど見飽きた、マヒユ教徒である証のペンダントだった。


「これは私のペンダント。これを見た目はそのままで魔道具に改良してもらいたいんだよ」


「改良? そのペンダントを? どんな風に?」


「うーん。それは任せるよ」


「は!? 任せる!? どういうこと? 改良してくれって言っておいて、その内容は任せるってどういうことよ。」


「いやー、何となくこんな時に使えるような魔道具っていうイメージはあるんだけど、具体的な形にはなってなくてさ」


「曖昧ね……とりあえずそのイメージとやらを言ってみなさいよ。できそうなら考えてあげなくもないから」


「……ちなみに、国家専属の魔道具研究者にオーダーメイドを頼むときってお値段はいくらくらいになるのでしょう……?」


「そうね。ま、ミラなら友人価格として相場の1.5割り増しの値段で大丈夫よ」


「それ私の知ってる友人価格と違う!」


「あら、友人ならお金が無くて生活に困ってるあたし達家族のためにそれくらい払ってくれてもいいんじゃないかしら?」


「私の家も別にお金持ちじゃないのに!」


「村長の娘なんでしょ?」


「村そのものが貧乏なんだよぉ!」


「いいから、言ってみなさいよ」


「私はあんま良くないんだけど……そうだなぁ、誰かが困ってるときに自分の力を分け与えられるような、そんな魔道具があったら素敵だなぁ」


「自分の力を分け与える……」


「あ、分け与えるんじゃなくても、自分の力を使って、誰かの力を引き上げたりとか……」


「それ、貴女の回復魔法じゃ駄目なわけ?」


「だから、回復魔法とはまた別の効果で、いっちょお願いしやす!」


「…………これほどまでに曖昧な内容の依頼は初めてよ。でも、何でそんな魔道具が欲しいの?」


 それは、何のこともないただ単純な疑問だった。

 誰かを守る術ならいくらでも持っているはずの彼女が、何故そんな魔道具を欲しがるのかが純粋に気になっただけだった。


 ただ、思いの外彼女はこの質問を重く捉えたらしく、しばらく考え込んだ後、良く分からない回答をした。

 今までにも時折あったことだった。彼女に何か質問をすると、考えていたこととは少しズレた回答が返ってくることがあった。でもこの時の彼女の回答は、今まで以上に謎だった。


「私はね……いつか、人間も獣人もマヒユ教も関係ない、皆が平等で、何の壁もなくただ笑って暮らせる……そんな世界を夢見てるんだ。誰もが助け合い、支え合い、種族とか性別とかそんなもの一切関係なく、ただ……皆で一緒に暮らしたい。それだけなんだよ……」


「………………?」


「だから、そんな魔道具をお願いね」


「………………………………………………………………?」


 無茶苦茶な依頼にアスレアは、そして横で聞いていたシュガレットですら首を傾げて疑問符を浮かべていた。






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