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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第6章 選択
141/186

1.グリフトの選択


 旧サランド皇国首都ベーダ ~王城~


「儂をこんなところに呼び出して、何の用かの?」


 白髪に白髭、そして立派な犬耳を頭頂部から生やした老獣人――グリフトは海を越えてビスト帝国から大陸の最西端まで呼び出されていた。前回大陸に来た際はドラゴンに跨がっていたし、帰るときはアランの転移魔法だったため楽だったが、今回は船での移動だったため少々お疲れ気味だ。


「いやなに、これから起こす戦争には君にも参加してもらう予定だからな。少し早めに来てもらっただけだよ」


 玉座に座る男の前でも態度を一切変えるつもりのないグリフトは疲れ気味の様子を隠そうともせず、大きなあくびを見せる。


「……? どういうことじゃ? 儂は向こうで国の警備が仕事だったはずじゃが」


「……予定は変更された。アンタの剣は役に立つ」


 玉座の横に立っていたアランが端的に答える。しかしそれではグリフトの欲しかった答えにはなっていないので、グリフトは王に向き直り、改めて問い直す。


「儂にはお前さんが作った兵器は扱えんし、正直役に立たんと思うがの。あの兵器の凄さは認めるが、だからこそ老いぼれを最前線に置く理由が解らん」


「それは君の功績を認めてのことだよ。30ヶ所にも及ぶマヒユ教教会への襲撃にその際におけるマヒユ教徒の殺害。実に見事な手際だった。君の力は敵を内側から叩くのに十分役に立つ」


「それこそ無理な話じゃ。儂は既にアインツベルク王国を始め、その他の国にも指名手配されておる。今更簡単に侵入できる国などありはしない。それに今回のサランド皇国襲撃で他国のマヒユ教の警戒度はハンパないしのう。そんな警戒された中で、変身魔法も使えない儂がマヒユ教教会を探してウロウロしていたら一発でしょっぴかれるわい」


「なら何も問題ない。今回の君の任務はマヒユ教教会への襲撃ではない」


「なに? だが、この戦争はマヒユ教を滅ぼすのが目的なのじゃろ? なら他にどこを狙うと言うのじゃ?」


「……ふむ、そうか。そういえば君にはまだ詳細を話していなかったな」


 王は少しだけ考える素振りを見せると、玉座から立ち上がり窓がある方へと歩いていく。

 窓に手をつき、外を眺めながら今回彼らが起こした戦争の目的、そしてグリフトに任せようとしている任務について話し始めた。


「確かに、我々にはマヒユ教をこの世から消滅させるという目標がある。それはビスト帝国の者なら誰しもが知っていることだろう。だが、俺はそんなところで終わるつもりは毛頭ない」


「……と、いうと?」


「グリフト。君は今のこの世界ことをどう思う?」


「……ふむ、獣人が住みにくい世界じゃな」


「その通りだ。もはやそこにマヒユ教は関係なく、世界そのものが獣人を住みにくく、生きにくくしている。そう、もはやマヒユ教など我々にとっては眼中にもない」


「何が言いたい?」


「世界なのだよ。我々の敵は」


 今更マヒユ教を叩いたところでこの世界のメカニズム、獣人差別主義は変わらない。もう世界そのものがそういう形になってしまった。


「マヒユ教も標的の一部であることは間違いない。だが、我々獣人が真の自由を手に入れるにはそれだけでは足りないのだよ」


「……おい、まさか貴様──」


 グリフトの言葉にニヤリと口を歪める王。

 その先は言わずとも判るだろうという表情だ。


「……待て。儂は昔からマヒユ教の考えが気に入らんかった。だから貴様らに協力もした。だがの、そこまで行っては儂の当初の協力理由とかけ離れすぎておる。忘れるな、儂は利害の一致によってお主らに協力しておるまでじゃ。それが無くなるというのなら、いつだってお主らと剣を交えることになろうと構わんぞ」


「…………くくくっ、そんなに血を滾らせるな。もう歳だろう、血管が切れるぞ。それに君だって、獣人が生きやすい世界を望んでいるのだろう?「儂は全ての獣人の味方でありたい」そう言っていたのは君じゃないか」


「そうじゃ。だからこそ、マヒユ教徒を滅ぼさんとした。獣人を悪魔の末裔などと呼び、根拠もなく虐げている奴らさえ滅ぼせば十分じゃろ」


「根拠もなく? そうか……君は獣人の歴史を知らないのか」


「……なんのことじゃ?」


「そうだな……少し、昔話をしようか」










「──と、これが獣人の正体だ」


 王はグリフトに対し、獣人の成り立ちを嘘偽りなく話した。

 盲目の剣士クァルフが力を手にするため、自らの容姿と引き換えに悪魔と契約を結んだ。全ての獣人は、ここから始まっている。


「待て、クァルフとはマヒユ教の話に出てくるあの大罪人クァルフのことか?」


「ああ。だからそうだな……我々獣人を悪魔の末裔と呼ぶのは確かに不適切だ。正しくは、蛮勇クァルフの末裔といったところだ」


「その話はマヒユ教徒が獣人を排除するために考えた、作り話ではないのか?」


「いいや、全て実話だ。我々の先祖を辿れば、全てクァルフの元に辿り着く」


「だが! 人間同士の間にできた子が獣人だったという実例も存在する! それが本当ならおかしいではないか!」


「何もおかしくはないさ。獣人と人間の間にできた子が人間の容姿で生まれてくることもあるのだから。だが、その子にも獣人の、クァルフの血は流れている。その子と人間の間にできた子が獣人でも……不思議ではないだろう?」


「…………」


 つまり、グリフトがずっと考えていた突然変異説は完全に否定された。

 人間同士の間に生まれた獣人も、正しくは人間と獣人のハーフと人間の両親から生まれた獣人だったというわけだ。そして、マヒユ教はそんなクァルフの血が流れた獣人はいずれ自我を失い、完全な獣として暴走してしまうと考え、獣人の絶滅を願った。だが、それはあくまでも当時のマヒユ教の教え。


 現在のマヒユ教は獣人でも生涯自我を失ったりはしないことを知っている。そしてサランド皇国皇王シファは言った。


「『自我を失わないからこそ、獣人は排除すべき』なのだと」


「…………」


「つまり奴らは何もしていない我々を、生れた時に授かったその力を見ただけで排除しようとしている。そんなこと、許されるはずもない。だから、奴らが一番恐れたやり方で、奴らを殺してやればいい。相手の思う壺と思うなら思ってもらって結構だ」


 グリフトの脳内は大量の情報を一気に与えられ、それを整理するためフル回転していた。


(つまり、マヒユ教は人間よりも力を持った獣人を恐れ、人間に敵対する前に排除をもくろみ……ビスト帝国はマヒユ教及びそんなマヒユ教をのさばらせて、挙げ句便乗している人間に天誅を食らわせるのが目的……? そんなの……どちらが正しいかなんて儂には…………儂はただ……)



『ハルはな、本気で獣人と人間が共存する世界を目指してるんだよ。冗談でも何でもなく、本当に本気で。まるでこの世界の事情など、私達獣人が今まで人間にどんな扱いをされてきたのかも知らないかのように。でも、あいつの目を見ていると、いつか本当にやり遂げてしまう気がするんだ。それくらい、あいつは…………いつもふざけているくせに誠実で、馬鹿なのに賢くて、嘘ばっかり吐くくせに大事な事はちゃんと目を見て言葉にして言ってくれる。あいつ自身はもしかしたらそんなつもりないのかもしれない。だが、あいつの何気ない一言に救われた人は意外と多い。だからかな……初めて、誰かに付いていきたいと思えた。あいつとなら、どんな無茶なこともできる気がした。それこそ、獣人と人間が手を取り合って生きていく世界だって……』



(…………馬鹿げておる、どいつもこいつも)


「王、そろそろ本題に」


「そうだな。グリフト、そこで君にはとある国に潜入し、その国の国王の首を落としてきてほしい」


「なんじゃと?」


 確かにビスト帝国にしかない協力な兵器を持ってはいるが、たった一国が大陸全土に戦争を仕掛けたとなるとかなり無謀とも思える。王自身、正面から戦いを挑んで完全勝利できるとは思っていないのだろう。


「大陸全ての国のトップをまずは殺す。そうすれば否が応でも士気は下がる」


「……そうまでして、やらねばならん争いなのか?」


「ああそうだ。これは全獣人が自由になるために必要なことなのだ。その為には、人間など……一匹たりとも生かしてはおけん」


 この男は駄目だ。グリフトはそう思った。もはや話ができる相手ではない。一体何が彼をここまで突き動かすのか皆目検討もつかないが、恐らく彼は止まらない。それだけは確かだろう。


「同じ獣人の自由を願う者として、引き受けてくれるな?」


「…………大陸全土と言ったな。儂に行かせようという国はどこじゃ?」




「やる気になってくれたようで嬉しいよ。君に向かってほしい国は──アインツベルク王国だ」



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