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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第5章 記憶
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26.中庭帰還


「あの子達、今頃楽しんでるかな~」


 王城の中庭に設置されたテラスでティータイムを営んでいたシュガレットとヒーラは、研究の疲れを紅茶のまろやかな味わいと微かに感じる柑橘系の香りで癒していた。


「確かサランド皇国とは大陸の最西端にある国でしたよね」


「そだよー。特に首都のベーダは港町で、新鮮な魚介がよく取れるんだよ」


「海、でしたっけ? 塩水でできた巨大な池ですよね」


「……うん、まぁ、間違ってはないね。この国から出たことがないなら見たことがないのは仕方ないもんね」


 ヒーラの海の認識の仕方に苦笑しながら、シュガレットはカップに口をつける。


「シュガレットさんは海を見たことがあるんですか?」


「そりゃあるさ。私、サランド皇国出身だし」


「……………………………………え?」


 さらっと衝撃告白をしたシュガレットにヒーラは固まってしまう。アインツベルク王国の国家専属魔道具研究者なんてものを務めているシュガレットは、生まれも育ちもアインツベルクだとばかり勝手に思い込んでいた。


「いや、でも……言い方は悪いですけど、よく国家専属なんてなれましたね。いっても他国の出身なわけで、それこそスパイとか思われなかったんですか? ましてや国王陛下もいる王城に住めてるなんて」


「んー……まぁ昔は色々あってね。簡単に言うと、私と私の姉さんは国を追放された身なんだよ。あ、この国っていうのはサランド皇国のことね」


「追放……?」


「そ、反マヒユ教徒の民として。両親は処刑されて、まだ子供だった私と姉さんは国を追い出されちゃった」


「…………」


 その後も、想像以上に過酷な人生を何の気なしにペラペラと他人事のように話すシュガレットを見ると少しだけ背筋が凍った。とても自分の半生を語る人の目ではなく、まるで興味のないフィクションを機械的に話しているようだった。


 まだ10歳と幼かったシュガレットは国家反逆罪として両親が処刑される姿を目の前で見せられ、10歳年の離れた姉とシュガレットは国を追放された。反マヒユ教徒だった両親がマヒユ教を否定する旨の話を町中に流布したのが事の発端だったらしい。


「んで、馬もなし、食料もなし、本当に手ぶらで国を出た私達は色んな国を渡り歩きながらこの国まで辿り着いたってわけ。すごいっしょ? この2本の足だけで大陸を横断したんだぜ。まぁこの国より東には行ったことがないから完璧に横断したとは言えないけど」


 とは言っても、地図もなしにモンスターだっている中、何年もかけてここまで辿り着いたということだけでも奇跡に近い。


「この国に住み着いた後は……ま、色々あったけど、今はこの国に忠誠を尽くしていまする!」


 バッと敬礼のポーズを取るシュガレット。国王陛下の前であっても常にふざけることができるシュガレットの図太さはどうやら子供の頃に鍛えられたものらしい。過酷な経験をしてきた彼女にとって国王陛下や第一王子の前で何かをする程度のこと、朝飯前というわけだ。


「あの……ちなみに今お姉さんは?」


「10年前に死んだ。昔から病気持ちでね。向こうに住んでた頃は仲の良かった友人に腕の良い魔法使いがいて診てもらってたんだけど、その人が突然いなくなっちゃって、その後も病弱な身体を引きずりながらもまだ子供だった私を守るために無理に旅を続けてね。この国に着いた頃には身体はボロボロ。医者にも診てもらったけどもう手遅れだった。今の私と同じ歳だったかな……そうそう、元々姉さんの方が魔道具研究者だったんだよ」


「え、そうだったんですか……?」


「うん。私は姉さんの研究を見るのが好きだった。たまに手伝ったりもしてたっけ。行く国々で姉さんが面白い魔道具を作って、それで何とか生活できてたって感じ。ふふっ……本当に、姉さんの作る魔道具は凄かったんだ……」


 先程までは淡々とつまらなさそうに話すだけだったシュガレットだったが、姉の話になった途端どこか懐かしむような、それでいてどこか楽しそうな表情に変化していく。


「…………お姉さん、どんな魔道具を作ってたんですか?」


「お、気になる? 流石は私の一番弟子。んじゃ、多分姉さんが作った中で最高傑作とも言える魔道具を教えてあげよう。これはさっき少し話した私達の友人に頼まれて作ったものなんだけど――」


 イキイキと話し始めたシュガレットだったが、その話は中断されることとなる。

 何故なら、2人がいた中庭の真ん中に、突如青白い魔方陣が展開されたからだ。


「……!? ヒーラちゃん、私の後ろに」


「は、はい。あれ、でもあれって確か転移魔法の魔方陣じゃ……」


「ああ。でもロイドや王子様がここに来るために転移魔法を使うとは思えない。気を付けて……っ!」


 魔方陣の展開により発生した突風に煽られながらも、ヒーラを後ろ手に庇うシュガレット。片手はヒーラを庇うように横に挙げて、もう片方の手は白衣のポケットの中。さらにそのポケットの中にある魔道具を握りしめている。


(私達の命と王城の中庭1つ……天秤にかけるまでもない。王様も分かってくれるでしょ……)


 もしこの魔方陣から敵意を持った見知らぬ輩が飛び出してきたら迷わず投擲するつもりでその魔道具を強く握る。


 しかし、相手を殺す心配も、中庭を吹き飛ばす心配も、魔方陣から出てきた者達を見て杞憂に終わった。


「…………っ」


 そこから真っ先に現れたのは左腕を包帯で首から固定されており、右手には物騒な剣を握っているハルだった。どう見ても満身創痍といった感じで、息切れが激しい。


「……!? ハルちゃん!?」


 先程まで話題にも出ていた本人がいきなり登場したことに驚きを隠せないヒーラだったが、シュガレットはハルの状態、そしてその後から次々と転移してくるシュナ達を見て、それどころではないと判断した。


「……何があったの?」


 真っ先にシュガレットが先頭のハルに訊ねる。

 しかしハルからの返答はなく、代わりにカイを抱いていたシュナから焦ったような声が掛かる。


「……! ヒーラ! すまないが今すぐ医者のところまで連れていってくれ!! カイが重症を負っている!!」


「え、え!?」

 

 突然のことにパニックになるヒーラだったが、冷静だったシュガレットがすぐにヒーラに指示を出す。


「ヒーラちゃん、すぐに彼女達を医務室に案内! リリィちゃんもついていってあげて。ハルちゃん、ルルちゃん、アマネ君は何があったか説明してくれるかな?」


 突然のハル達の帰還に驚く暇もなく、ヒーラは負傷したカイを医務室まで案内すべく王城の中へと入っていった。


「……さて、いったい何があったの? 予定ではもう少しゆっくりしてくるはずじゃなかったっけ? まぁ、その様子じゃ予定外の事が起こったことは分かるんだけど。どうなのハルちゃん? ……? ハルちゃん?」


 転移してきた時から片膝を地面につき、項垂れていたハルだが、ここまで返事がないというのは流石におかしい。

 シュガレットがハルの顔を覗き込むように見ると、息切れしながら変な汗をかき、表情を苦しそうに歪めながらハルは意識を失っていた。


(これは……魔力切れの症状……? さっきの転移魔法で魔力を使いきったってこと? あれ……? そもそもハルちゃんって転移魔法使えたんだっけ?)


「シュガレットさん、ハルさんは恐らく魔力を使い果たしています。彼女もすぐに休ませないと」


「……そうみたいだね。仕方ない、話は後にしよう。アマネ君、ハルちゃんをおぶれる?」


「待って、ハルは腕も怪我してるの。アマネ、衝撃を与えないようにお姫様だっこにしなさい」


「あ、分かりました」


(旅に出てまだ数日……たった数日でこんな負傷者が出るなんて……あの国、また戦争でも始めたわけ?)


 シュガレットの冗談混じりの疑問はほとんど正解だった。ひとつ違うところがあるとすれば、それは戦争ではなく、一方的な侵略だったという部分だろうか。






 数日後、アインベルツ王国の王都に一報が入る。


 サランド皇国は終戦記念日である祭りの日に突如現れたビスト帝国を名乗る獣人兵部隊に襲撃を許し、首都ベーダはその日のうちに陥落。皇王シファは最後まで前線に立ち抵抗を見せるも、初めて見る兵器によって殺害。


 その3日後には周辺の町や村も攻め落とされ――、


 サランド皇国はビスト帝国によって、完全に侵略された。






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