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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第5章 記憶
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20.終戦記念日


 今日はサランド皇国とビースト諸国連合の終戦からちょうど31年が経つ、終戦記念日だ。


 サランド皇国の首都ベーダは終戦記念日のお祭りということで、朝から街は喧騒に包まれている。

 昨日までこの街への道のりを案内してくれていたミュートの話では、そろそろ当時の戦争被害者、実際に兵として命を落とした戦死者達への黙祷があるはずだ。祈りを捧げた後、戦争の勝利を祝う祭りへと移行していくのがどうやらしきたりらしい。


 と、まぁ終戦記念日ということで基本的にはこの国の人達が楽しむ仕様となっている祭りだ。


「うお、これ旨ぇ! 何だこれ、鳥肉じゃねーぞ。何の唐揚げだ!?」


「知らずに頼んだの? 港街なんだし、鯨の唐揚げとかに決まってんじゃん!」


「いや、坊主、嬢ちゃん、それはコローヴっつう牛のモンスターの肉だ」


「「そのモンスターの生息地を詳しく」」


 とはいえ、祭りと聞いてテンションが上がらないほどハルという少女は大人ではなく、日本にいるときは一緒に夏祭りに行くような友達もいなかったので、本当に小さい頃以来の祭りということで現在絶賛カイとの屋台巡りをハイテンションでお届けしている。


 そんな2人の様子を後ろから見ていたルルは呆れ気味に、苦笑い混じりの溜め息を吐いていた。


「まったくあの2人は……元気を通り越して、ただの子供じゃない。ねえ、シュナ」


「ふぁふぁ、ふぁふひふぉひふふぉふぉふぁ、ほふふふふぉふぉへ」


「師匠、口元がソースだらけですよ!」


 アマネに口元を拭かせ、大量に何かを頬張りながら喋っているシュナ。当然何を言っているのかは分からないので、自分から話を振っておいてなんだが無視することにした。

 続いて横を歩いている妹のリリィに問い掛ける。


「…………リリィ、せっかくなんだし貴女も何か食べて――」


「ん? どうかした、お姉ちゃん?」


 何やらふわふわした砂糖菓子をもふもふと頬張るリリィを見て、流石のルルも頭を抱えた。


「貴女達ね! ここへ何をしに来たのか忘れたんじゃないでしょうね!? なに祭りを満喫してるのよ! 現地の人達以上に満喫してんじゃないわよ! どんだけ食ってんのよ! ていうかリリィもずっと隣にいたじゃない、いつの間にそんなものを買ったの!? ちょっとそれ、アタシにも食べさせなさいよ!」


 甘いもの大好きのルルによる最後は欲望丸出しの発言に、ハル達も当初の予定を思い出した。


「ハッ……! そうだった。そういえば私達は今日色々と情報収集しなきゃいけないんだった。よし、じゃあ皆。各自次の屋台で最後ということで!」


「この場に及んでまだ食べるつもりなの!?」


「ああ……! お姉ちゃん、食べ過ぎ……!」


 むしゃむしゃと真っ白なふわふわの砂糖菓子を半分ほど平らげながらのルルのツッコミも虚しく、各々が最後の屋台を決めるために散開した。





        ×  ×  ×





『ええー、ただいまより、黙祷の儀を行います。現在この街にいる方々は皆さん、いったん足をお止めいただき、我らが慈母神マヒユ像へしばしの祈りを捧げください』


 魔法なのか、それとも魔道具なのか、突然流れてきた街中に響き渡るアナウンスにより、賑わいを見せていたベーダの町並みが一斉に静まり返った。


 道行く人も、屋台の店員も、家の中にいる人も、全員が動くことをやめて街の中央にそびえ立つ100メートルを超えるマヒユ像に黙祷を捧げた。

 周りの人達が全員と言っていいほど同じ方向を向いて目を瞑っているが、ところどころに何事か分からずキョロキョロと辺りを見渡している者もいた。恐らくハル達と同じく外から来たマヒユ教ではない者達だろう。


 ハルはそんな静まり返った中、キョロキョロと辺りを見渡し、先程の声が一体どこから聞こえていたのかを探す。そして目線はこの街の一番奥、マヒユ像のインパクトのせいで若干印象は薄れているもののここは一応サランド皇国の首都であり、アインツベルク王国における王都にあたる。


 つまり、この国の皇王が住む王城が存在している。

 左目の眼帯を少しだけ上げ、王城がある方角を見る。


『ご協力ありがとうございます。次に、皇王様からのお言葉があります。空中に映し出される映像にご注目ください』


(空中……?)


 ハルが今の言葉に疑問の念を抱いていると、次の瞬間、王城の方から大量の魔力が街全体に飛び出していき、そのうちの1つがハル達のいる屋台が集まっている場所の空中に止まった。


「……!?」


「な、なんだあれ……!?」


「魔法……か? だが街中にこれほどの魔法を展開するとは、相当高レベルの魔法使いが何人も必要だぞ」


「魔道具ってことは?」


「む……考えられなくもないが、一応アランカにしばらく住んでいる私でも、こんな魔道具は聞いたことがない。これほどの魔道具なら少しくらい噂になると思うのだが……」


 空中に突如として現れたディスプレイを見上げながらハル達がそんな会話をしていると、たまたま横にいた屋台のおじさんが親切に信じられないことを教えてくれた。


「何だ、嬢ちゃん達は外の人かい。確かに初めて見るなら驚くかもな。でもこの街じゃもう皆見慣れちまってるよ。アレは魔道具じゃなく正真正銘魔法だよ。それも、たった1人で展開している魔法だ」


「なに? アレほどの魔法をたった1人でだと?」


「ああ。まぁ、あんな魔法が使えるのは俺もあの人しか知らないんだけどな。でもこれまでも何度も見てるし、これが1人の魔法ってのは確かだ」


 ハルはその話を聞いて、もう一度王城の方向を見る。

 流石に距離が離れすぎているため、この魔法の発信地が王城ということは分かるのだが、誰がこの魔法を使っているのかまでは分からない。


「……それで、この魔法を展開している人っていうのは?」


「見てれば分かる。今から出てくるよ」


 おじさんが空中ディスプレイを見ながらそう言うので、ハル達も大人しく視線を上に上げる。

 そこには恐らく王城らしき建物が映し出されているが、それ以外は何も映ってない。そのままではただの静止画と思われても仕方がないほど動きがなかったが、そんな画面の右端から1人の男性が現れた。


「……!? あの人って……」


 その男性はゆっくりと歩いてくると、画面の中央で足をとめる。

 服装はアランカにいたマヒユ教の司祭が着ていた司祭服をさらにきらびやかにしたようなもので、頭には王冠を乗せている。


 その見覚えのある顔にダラダラと冷や汗を流すハル。


「そう、あの人こそこの魔法を展開している張本人。この国で最も位の高いお方であり、最も高位の魔法使いでもある、サランド皇国皇王――シファ様だ」


 つい昨日、マヒユ教の博物館にて少々口の利き方が悪くなってしまった、ハルが教会の司祭か何かなのだろうと勝手に思い込んでいた男性、その人だった。


(うお……マジか。初めて来た国の一番偉い人に普通にタメ口利いちゃってたんですけど。ていうか、ちょっと生意気なことも言っちゃった気がするんですけど。大丈夫だよね? そんなこといちいち覚えてないよね? アインツベルクの国王陛下とか見てると王様とかって結構忙しそうだし、こんな小娘のことなんて覚えてないよね?)


 アインツベルク王国の国王陛下やライン王子などに慣れてしまっているため感覚が麻痺しがちだが、本来国王陛下やそのご子息である第一王子に「ちわーす」とか「マジすか」などと普段から話していること自体おかしいのだ。普通なら無礼千万の首切り腹切りさようならである。第一あのロイドですら(昔は知らないが)国王陛下には片膝付いて頭を垂れている。


「ん? 大丈夫かハル? 顔色が悪いぞ?」


「え? べべべ別に大丈夫ですけど? 私何も言ってませんけど?」


「いや、本当にどうした……?」


 ハルの反応に首を傾げるシュナだが、そういえば昨日博物館に行ったときシュナ達は入り口付近にいたはず。ならば誰かしら覚えているのではないだろうか?


「シュナはあの人見たことある?」


「いや、他国の王は流石にな。申し訳ないが名前も初めて聞いた」


 他の仲間にも訊いてみるが、全員初見だそうだ。


「ちなみに、昨日の博物館で私達が入った後に出入りした人がいたよね?」


「……? いや? 確かいなかったと思うぞ。私達はずっと入り口横の戦争についてのものを見ていたが、私達がいる間は誰も通っていなかったと思う」


「え……」


 もしや転移魔法が使えるのだろうか? 確かに高位の魔法使いなら使える可能性はあるが、その時点で少なくとも教師役を務めるウィーネ以上の魔法使いということになる。

 だが、もし転移魔法が使えるなら、護衛もつけずに博物館まで来たのも納得だ。むしろ誰にも言わずに勝手に出てきたという可能性もある。


(あの人以外誰にも聞かれていないなら、あの人が誰かに「何か博物館にいた小娘に生意気なこと言われたんだけどー」と漏らしさえしなければ大丈夫か……? 誰にも言っていないことを祈るしか……)


 内心ビクビク震えながら、空中ディスプレイに目を向けると、ちょうど皇王シファが話し始めるところだった。


『皆さん、あの戦争からはや31年が経ちました。私はまだつい先日のように、あの地獄の19年間を思い出すことができます。私は自分の目の前で、多くの戦友をあの戦争で亡くしました。皇王になって15年になりますが、多忙な職務の最中にも未だにふと彼らの死に逝く顔を思い出してしまいます。彼ら無くして、我がサランド皇国の勝利はなかったことでしょう』


「え、あの皇王様も戦争に参加してたってことですか?」


「ああ、あの方は世襲制から外れた初めての皇王だ。元魔導兵士で、31年前の戦争にも高位の魔法使いとして前線に立っていたらしい。俺もそのころはまだ小さかったからあんま覚えてないんだけどな」


「ちなみに皇王様の歳は?」


「確か今年で60だったかな? 戦争には15の時に参加したらしいから、開戦当初からいたってわけじゃない」


「…………とても60には見えませんけど」


「それは誰もが一度は思ったことだな」


 それにしても、15で戦争に参加させられるのか。

 いや、日本でも昔はそれくらい当たり前だったはずだ。まだ日本以外の国では10歳の子供に銃を持たせる国だってあったはずだ。自分が如何に平和な時代に生まれたのかを実感する。


『我々は勝った。突如として攻めてきた愚かな獣人を打ち払い、勝利をもぎ取った。死んでいった者達は誰もが勝利を信じて、生きている者に勝利を託して、前のめりに倒れていった。これは彼らの勝利でもあります。なら、その勝利を、生き残った私達が盛大に祝ってやらねば一体誰が彼らに報告してやれるというのでしょう。彼らはきっと言うはずです。「勝利の美酒を味わえ」と。遠慮することは彼らに対する侮辱です。今日一日は、盛大に盛り上がってください』





 皇王の言葉に国民の歓喜の声が上がった。














 

 その何秒後だろうか……

 歓喜の声が、悲鳴に変わっていったのは――





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