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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第5章 記憶
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19.夢と記憶と私の町


「さて、ご飯も食べてお腹も膨れたし、明日の祭りに備えて寝るとしますか」


 ハルがそう言い出したのは午後8時。流石に早すぎる。


「待て待て、流石に早すぎはしないか? まだ8時だぞ?」


「でもわざわざ部屋にお風呂がついてる宿を探した訳だし、風呂屋に行く必要もないわけで、しかも私は既に入浴済み。明日の体力を養うためにはもう寝た方が良くない?」


 そう言いながらふわぁ~と欠伸をするハル。どうやら本当に眠そうだ。


(……そういえば、今日は昼前にここに着いてからは一度も睡眠を取っていない。昨日までは休憩の度に熟睡していたんだ、もしかしたらまだ完全に回復しきっていないのかもしれない)


 数日前に魔力暴発を起こしたばかりのハルの身体は、もしかしたらシュナ達の想像以上に無理をしているのかもしれない。実際、シュナが魔力切れで倒れた時は丸3日目を覚ますことはなかった。

 本来はそれが普通のことで、一晩寝れば回復するハルが――いや、ハルの体内を巡るロイドの魔力が規格外なのだ。だが、今回は一晩寝て目を覚ましてからも、どこか怠そうな様子のハル。昼間は旅のテンションもあって元気にはしゃいでいたが、やはりどこか無理をしていたのだろう。


「そうだな……まぁ夜は特にすることもないしな。私も風呂をいただいたら眠るとしよう」


 ハルの身を案じ、結局早めの睡眠に賛成する。

 ルルとリリィもハルの身体は心配なので、特に反対の声は上がらなかった。


「ああ、そうだ。このペンダント、移動中は私が預かっていたがどうする? やはり私が持っていても特に何も起きなかったが……」


 シュナが取り出したのは、廃村で見つけたマヒユ教の証にもなるペンダントだった。

 ハルの予想では、このペンダントに何か秘密が隠されているのではとのことだったが、村で試した時と同じく、カイやシュナが持っていても特に何か起きることはなかった。


 初めは人間か獣人かで反応するのかとも思われていたが、アマネが持っていても特に変わった様子がなく、何故かハルにだけ反応するペンダントだった。


「んー、本当に何で私だけなんだろうね? でもシュナが持ってても仕方ないし、やっぱり私が持っとくよ」


 このペンダントが反応したのは恐らく3回。

 これを見つけた際にカイから初めて受け取った時。この時は頭を何かに殴られるような激痛に襲われ、そのまま謎の光景が視界に飛び込んできた。


 2回目は、そのすぐ後。気を失っていたハルが目を覚まし、再び今度はアマネから受け取った時にハルは何もないとこの時は誤魔化したが、微かに魔力の流れを感じた。しかし、他の皆が、特に獣人でないアマネが何の反応を見せなかったため、何もないと嘘を吐いてしまった。


 そして3度目。

 これはあの魔力暴発の時だ。村を囲んでいたモンスターを殲滅し、右手首の魔道具の魔力が底を尽きかけていたので不思議と「今なら魔力制御ができる」と確信していたあの時に魔力の補充をしておこうと思ったのだ。しかし、何故かその時にこのペンダントが反応した。ハルの記憶にあるのはそこまでなのだが、ペンダントがいきなり光り出して体の内側から魔力が溢れ出てくる感覚に襲われたのは何となく覚えている。


 シュナからペンダントを受け取り、枕元に置く。

 今触れたときは特に何か起こるということもなかった。やはり反応する時は何かしらの条件があるのかもしれない。


 私は風呂に入ってくるというシュナの声を聞きながら、ハルは布団に潜る。

 今日は疲れた。いつも以上にはしゃいだということもあるが、あの村を出てから常に眠気が襲ってきている。

 街を探索している最中は眠気よりもテンションの方が勝っていたため、何とか日中は乗りきることができたが、正直夕飯を食している時も限界に近かった。お腹も膨れて、その眠気もピークに達している。もう1秒ももたない。


 ハルのベッドから寝息が聞こえてきたのはその1秒後だった。





        ×  ×  ×





 そこは、見慣れたコンクリートジャングルだった。

 見えるところに緑は歩道と車道の間にしかなく、空気も汚い。

 照り返る日差しを受けながら、汗を流して歩くスーツ姿のサラリーマンを見ると、見知らぬ人なのに何故か可哀想だなと無責任に思ってしまう。


 そう、ここは見慣れた風景だった。

 ここ最近の夢は見慣れない、いや、ハルの目では実際には見たことのない場所の夢ばかりだった。

 だが、今日の夢は物凄く見覚えのある景色が広がっていた。


 10ヶ月程前まで、咲場 春はここで暮らしていた。


『なつかしい……間違いない、私が暮らしていた町だ』


 景色を懐かしむように歩いていると、ふと何かしら違和感に気が付いた。


『ところどころ、お店が違う……? もしかして、この10ヶ月で色々と変わった?』


 不況の中でお店を続けるというのは大変なんだなと自分勝手な解釈で結論付けると、ある一点のお店に焦点が定まる。


『え……!? あのおもちゃ屋さん、なつかしい! 私が10歳くらいの時に閉店しちゃったおもちゃ屋さんだ! ……………………あれ?』


 自分の言葉にこれまた違和感を覚えた。

 確かに、今目の前に見えるおもちゃ屋はハルが小学4年生くらいまで家の近所にあったおもちゃ屋さんで、父の影響からよくここでエアガンやプラモデルを買っていた記憶がある。


『塗装が新しい……もしかして、私が死んだ後にまた新しくオープンすることになったとか……? マジかよ勘弁してくれよ……』


 何故自分の生前に間に合わせてくれなかったのかと心の中で文句を言っていると、お店の中から1人の老人男性が出てきた。


『あれ? おっちゃん? おっちゃんだ! 何でおっちゃんが!? 確かおっちゃんが亡くなったからあのおもちゃ屋は………………ん? 何か、私が覚えてるおっちゃんより、だいぶ若いような……』


 ここでようやく、ずっと感じていた違和感の正体に気が付いた。


『ここ……もしかして私が死んだ後じゃなくて、その逆……?』


 よく見ると、おもちゃ屋の前にはオープンおめでとうという花束が3つほど置かれていた。

 名前を見ても誰からのものかは知らないが、恐らくおっちゃんの知り合いからなのだろう。


『オープン……確かこの店は私が10歳の時に閉店して、その時20周年まであと2年だったのにとかって話していた記憶が……』


 そこから計算すると、ここは今から25年前の日本。ハルが生まれる8年前の町だ。


『何で……こんなところに……』


 ハルが生まれる前の町ということは、当然ハルの記憶ではない。

 では、この夢はいったい……


 すると、信じられない光景を目にした。

 店の前にいつの間にか人がいて、その人とおっちゃんが何か話をしている。

 

 だが、その会話の内容はハルの耳には入ってこない。今のハルはそれどころではなかった。


『な…………んで……』







 そこで、目を覚ました。

 

 昔、何かの本で読んだことがある。

 夢とは記憶をランダムに繋ぎ合わせたものだと。だから、遠い親戚の家の近くに自分が通っている小学校が出てくる夢を見たりするのもそのせいだと。

 だからあのような夢を見たのか……? だが、そうなるとおかしな点も生まれてくる。25年前のあの町の記憶など、当然ハルは持ち合わせていないのだ。


 つまり、あの25年前の町並み、ハルが生まれた頃には既になくなっていた店達、オープンしたてのおもちゃ屋、まだ少し若いおっちゃん。あの全てがハル以外の誰かの記憶ということになる。


 そして――今までの夢に出てきていたハルの知らない記憶は多分彼女(・・)のものなのではと、薄々気付いてもいた。どんなトリックかは知らないが、彼女の記憶が、ハルの脳を通して夢としてハルに見せているのではと。


 そう、ハルの知らない記憶は全て、彼女のものなのだと今では思っている。

 では何故――?





「――なんで、あんたの記憶に、25年前の日本があるんだ……」







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