13.あくまでも護身用……
結局ユニコーン馬車を購入することになったが、出発するまでは置場所に困るのでそれまでは預かってもらうことになった。
ちなみにあのユニコーンにはユニーと命名した。
どんな流れでこの名前になったのかというと――
『それで名前どうすんの?』
『もうユニコーンだからユニーとかでいいんじゃない?』
『適当すぎんだろ!?』
『そう?』
『ヒヒーン!!』
『……気に入ってるっぽいよ?』
『というかソイツはお前さんがつけた名前だったら何でも良さそうだな』
『ヒヒーン!!』
『あ、そう……』
こんな感じである。
この後馬車の運転の仕方を教わる予定だったが、何でもユニコーンは人間の言葉を理解しているらしく、口で言えばその通りに動いてくれるらしい。
既にユニーに好かれている私なら問題ないんだとか。
「とはいえ、好かれてる理由がなぁ……」
なんか納得いかない。
ブツブツ言いながら私達は再びガランタさんの武器屋に向かっていた。そろそろ日も暮れ始める頃だ。私のクロスボウが完成しているといいんだけど……
「お、来たか。できてるぞクロスボウ」
まさか見たこともない武器を数時間で、しかも私の説明だけで本当に作り上げてしまうとは。
ガランタさんから渡されたのは確かに私の知っているクロスボウだった。
台座と交差するように弓を横向きに設置し、台座には矢をセットする溝がある。
弦を引く為に梃子の原理が使われているため全くとはいかないが私ぐらいの力でも十分弦を引くことができるだろう。
そして一度引いた弦は固定されるので手元がぶれることもずっと弦を引いていて疲れるという心配もない。
そしてクロスボウの最も特徴的な部分。
拳銃と同じような引き金があることだ。
私はそっと引き金に人差し指を掛ける。指の距離も近すぎず遠すぎずピッタリである。
「重さも思ってたより重くないんですね。これなら何とか片手でも持てる」
「ああ。お前さんにも持てるように弦の弾く威力に耐えられる範囲で出来る限り軽量してみた」
正直助かる。旅の途中は基本的にずっと身に付けておかなければいけないので、あまり重たいものだと疲れてしまう。
私は矢をセットせずにまずは弦のみを引いてみる。
想像以上に堅く重たかったが、何とか弦を引くことに成功。
そしてショットガンを構えるように左手は台座の下に添えて、右手の人差し指を引き金に掛ける。
あ、ちゃんと先端に照星もついてる。ま、さっき説明したときの絵にも描いたから忠実にそれを再現してくれたのだろう。
ちなみに私は体育の成績は確かに2だったが、美術の成績は5段階の5。絵には少しばかり自信があるのだ。
私は照星を見ながら照準をカイに合わせてみる。
「うおっ! 怖ぇよ!! こっち向けんな!」
矢をセットしていないことは分かっているはずなのだが、こんなものをいきなり向けられたらそりゃ怖いか。反省反省。
「ん? 妙に様になってるな」
ロンドンさんがクロスボウを構えた私に言う。
「そうですか? ありがとうございます」
まぁ様になっているのは当たり前だろう。クロスボウを持ったのは初めてだが、銃の扱いには少し慣れているのだ(注:エアーガンです)。
「あの、試し撃ちってできますか?」
「ん? ああ、店の裏庭にそのためのスペースがある。弓を買う奴も少ないがいるし、剣だって大剣なんかだとここで素振りさせるわけにもいかんしな」
ガランタさんの案内で裏庭に連れていってもらう。
裏庭には数本の丸太が布を巻かれた状態で立っていた。
ガランタさんに渡された矢をクロスボウにセットして丸太の一直線上に立つ。
距離は約20メートル。
丸太のど真ん中に照準を合わせて引き金を引く。
弦が弾かれる衝撃が両手に伝わり、放たれた矢は物凄いスピードで真っ直ぐに丸太へと進んでいく。
スカン! という矢が丸太に命中する心地よい音とは裏腹に、私はクロスボウの威力に驚愕していた。
まさか、ここまでの威力とは……
私が放った矢は半分近くまで丸太にめり込み、人間相手なら間違いなく貫通している。
丸太でこれなら頭などの骨が密集している部分でも簡単に貫通してしまうだろう。
たった指1本で人を殺せる。
その恐ろしく、けれど紛れもない事実に私は願わずにはいられなかった。
″どうかこの凶器を人に向けなければいけない場面に出会いませんように″と。
「おお。いきなり命中か」
「やるじゃんハル」
「威力も十分だな」
私の胸中はよそにロンドンさん、カイ、ガランタさんがそれぞれ呑気な声を上げる。
大丈夫……。これはモンスターに遭遇したときに使うあくまでも護身用なんだから……。
人に向けることはないとそう自分に言い聞かせて3人の元へ戻る。
「ま、これくらいはね」
射撃の腕には自信がある。
昔、中学2年生くらいのとき、『家に強盗が入ってきたけど何故か銃を持った私は気付かれず自由に動けたので自分の力で複数の強盗犯を制圧する』という妄想でエアガンを家の中で撃ちまくっていたのが役に立っているようだ。
……うん、今思い出すと恥ずか死ぬ。
と、そんなことは置いといて――
「ガランタさん。これ安全装置ついてないですよね?」
「安全装置?」
先程撃つ直前に気付いたのだが、このクロスボウには安全装置がついていなかった。エアガンですらついているのに、こんな殺傷能力のある武器に安全装置がついていないのは危なすぎる。
「誤射などを防ぐためのものです。それを解除しないと引き金が引けないようになるんです」
私は安全装置の説明を詳しく進める。
間違って自分の足を撃ち抜いたりはしたくないし、当然カイや他の人にも危険が及んでしまうのは避けたい。
「なるほどな、確かにそれは必要だ。わかった、明日の朝までには矢と一緒に準備しておく。明日この街を出るんだろ? その前にここに寄ってくれればその時に渡すぞ」
「わかりました」
安全装置さえつけばあのクロスボウは今のところ文句はない。
あとは――
「ガランタさん。カイの武器は?」
預けたクロスボウを弄り始めたガランタさんにカイの武器はどうするのかを訊く。
「ん? ああ、獣人のガキならこれで十分だ」
「へ?」
ポイっとカイに向けて放り投げられたのはケースに入った1本のダガー。
大量にある凄そうな武器の中から選んだのがダガー1本……?
「……獣人ならこれで十分って、どういう意味ですか?」
少しだけ語調が強くなってしまった。
「おいおい、そんなに睨むな。今のは差別的な意味で言ったんじゃねぇよ。獣人ならその特性を活かした戦い方をしろって言ったんだ」
「特性……?」
「獣人っていうのは動物の特徴・特性を持った人間だ。例えばそこのガキ。猫科ならスピードと瞬発力、そしてその小さな身体を活かして接近戦で戦うべきだ」
それでダガーか。ガランタさんもちゃんと考えてダガーということらしい。
「それにクロスボウを使う中距離タイプが仲間にいるならもう1人は近距離の方がパーティーとしても動きやすい」
「……なるほど」
ダガーをケースから取り出して眺めているカイを見る。
確かにカイは身体能力かなり高い。
初めて会ったときに全く追い付けなかったのは私の足の遅さもあるが、カイの足の速さも相当だ。
そもそも何回も何回も同じ店で盗みを働いていたということはそれだけ逃げ足が速いということだ。
「カイもそれでいい?」
「ん、気に入った」
カシャリとダガーをケースにしまい、それをベルトに通して自分の腰に装着した。
カイが気に入ったのならそれでいいか。
私のクロスボウは一度預けて明日の朝引き取りに来ることにし、カイはダガーを持って帰ることにした。
その日の晩は宿屋のロビーでロンドンさんの旅の心得講座が開かれた。
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