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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
幕間
108/186

幕間②


「よし……行くか」


 全身に防寒着を纏い、背中にはクロスボウを背負う。これより向かうは死をも覚悟せねばならない恐怖の山脈。


 戦闘が得意な優秀な冒険者3人は数週間前から再開した学校に行っているため現在は不在。つまり行くのはハルとカイと……


「いってらー」


「…………」


 暖炉の前で毛布にくるまりながらぬくぬくと暖まっているカイが、こちらを見ることもなく気だるげに言ってくる。


「お前も行くんだよー!」


「無理だよ! 外見ろ外!」


「外?」


 カイが指差すその先には、チラリチラリと舞い落ちる雪の粉。寒い寒いと思っていたが、どうやら今日は朝から雪が降っているようだ。


「山の上の方はもう雪が積もってる。こんな日に山行ったら遭難するぞ。やめとけ」


「カイは寒くて行きたくないだけでしょ。ねーえ、ルルとリリィも何とか言ってよー」


「放っておきなさい。そのこたつ? ができてもカイだけ入らないつもりなんじゃない?」


 ピクリと頭上の耳が動く。


「ハルちゃーん? 準備できた? そろそろ行こうか」


 玄関からヒーラの呼ぶ声が聞こえる。こたつの熱源にする予定の魔石を見分ける人が必要なので当然ヒーラもついていくことになっており、ヒーラの護衛&荷物持ちのアマネも既に玄関でスタンバっている。

 つまり未だにごねているのはカイだけなのだ。


「そっかー。カイはこたつができても入らないんだー。皆でぬくぬくと暖まりながら団欒している最中も、1人寂しく暖炉の前でブルブル震えてるんだね」


「そ、そんな手に乗るかよ……オレは絶対に行かないからな……」


「もう本当に置いていきましょうよ。寒いとか何とか言い訳してるけど、本当は怖いだけなのよ。寒くなってからほとんど家から出てないし、体が鈍ってるからモンスターにやられるかもってビビってるのよ」


 カチンという音が聞こえた気がした。


「…………おいおい、言ってくれるじゃねーかクソアマ。誰がビビってるって?」


「アンタよアンタ。いつまでも駄々こねて。そんなにモンスターが怖いなら無理して来なくてもいいわよ。お外は寒いでちゅもんねー」


「ああ!? やってやんよ! 舐めんじゃねーぞコラァ!!」


 纏っていた毛布を放り投げ、自分の部屋に駆け出し、ものの数十秒で装備を整えて再びリビングへと戻ってきたカイ。

 カイを動かすにはこのやり方が有効らしい。覚えておこう。


「さ、準備もできたみたいだし。行こうか」


 西の空が暗く重い雲に覆われている。ちらつく雪が本降りになる前に、さっさと済ませる必要がありそうだ。





        ×  ×  ×





 山を登るにつれ、雪が積もっている場所が少しずつ増えてきている。

 目指す洞窟には何度か行ったこともあるため、道は分かってはいるものの、寒さのせいかやはり進む足も少し遅くなってしまっている。


「……おい、洞窟はまだかよ。さみぃよ……死んじまうよ……」


 確かに歩けば少しは暖かくなるかもと思ってはいたが、予想以上に寒かった。モンスターとの戦闘も視野に入れていたため身動きの取りやすさを考えると、どうしても完全防寒とまではいかない。しかも幸か不幸か、こんなときに限ってモンスターとは一切鉢合わせしないという。


「おいルル。戦闘で体を暖めようと思ったのに、全然モンスター出てこねーじゃねーか。どうなってんだよ」


「この時期は大抵のモンスターが冬眠中だから、滅多に出てこないわよ」


「話がちげーじゃねーか!」


「ああでも言わないと、アンタ本当に家から出てこなかったでしょ!」


「ざけんな! オレは帰るぞ!」


「まあまあカイ君。そりゃあ普通のモンスターは冬眠してるけど、逆にこの時期でも出てくるモンスターは冬眠が必要ないくらい強いモンスターばかりだから、いざというときにカイ君がいないと僕たち困っちゃうんだよ」


 いい加減見飽きたカイとルルの口喧嘩にハルとリリィとアマネはまた始まったかと、呆れ半分で放置していたが、そこは流石年長者。ヒーラが間に入り、上手くカイを宥める。


「それにほら、お目当ての洞窟に着いたよ」


 ヒーラが指差す先には見覚えのある洞窟が。洞窟の入り口の回りには青々とした木々や蔓が這い、そこだけがまるで別世界のように切り離された空間として存在していた。


「……? ここだけ雪がない? それどころか、植物がまるで夏頃みたいに青々としてますけど……」


「これがお目当ての魔石の効果だね。熱源となる魔石が洞窟内にあって、常に一定の熱を発してるから洞窟の近くの木々は1年中青々としてるんだよ」


 以前来たときはまだ暖かい気候の時だったため気付かなかったが、ちらほらと雪が積もっている今の状況だと明らかにここだけが異質を発していた。


「……ん? 洞窟内も1年中温度が変わらないということは……」


「そう。常に洞窟内にいるモンスターは、冬眠をしません」


「………………マジか」


 ヒーラの言葉にハルが若干嫌そうな顔をする。

 というのも、この洞窟に住むモンスターはそれなりに強いモンスターが多い。学校で教師をしている3人のうち誰か1人でもいてくれれば余裕だったとは思うのだが、今ここにいない者のことを嘆いても仕方がない。ハル達はそれぞれ己の武器を手に、洞窟へと踏み込んだ。


「灯りは僕に任せて。ちゃんと用意してあるから」


 洞窟内は暗闇なため、夜目が効くカイ達はまだしも、ハルとアマネとヒーラには当然灯りは必要だ。暗視ができるカイと小さな音でも拾えるリリィを先頭にし、その後ろを灯りを持ったヒーラとそのヒーラを守るように歩くアマネ。最後尾にこれもまた耳が優れたルルと、最悪の場合魔眼があるハルという並びで洞窟を進んでいく。


 確かに洞窟に入った途端、暖房の効いた部屋に入ったかのような感覚に陥る。この洞窟はかなり広かったはずなのだが、こんな入り口にまでしっかりと温かい空気が行き届くということはかなりの熱量を持った魔石ということだろうか。


「いや、魔石1個だけならそこまでの熱は持ってないよ。つまり、この洞窟の奥にそれだけ大量の魔石があるってことだね」


 ヒーラの言葉になるほどと頷く一同。それだけあるなら、1個や2個取ったところで問題はないだろう。


「ていうか流石に暑いね。上着とか脱ぎたいけど、脱ぐとかさばるしなぁ」


 外との温度差で汗をかき始める。やはり奥に行くにつれて温度も増しているようだ。


「待て。この先に何かいるぞ」


 急に止まったカイが言うと、緊張感が一気に上がる。

 カイは先を見つめながらダガーを構え、アマネはヒーラの1歩前へ出て剣を抜く。ハルもクロスボウの安全装置(セーフティ)を解除して、左目の眼帯を外す。


「ほんとだ。……3、4、5……8体だね。人型をしてるけど多分人間じゃなさそうだ。……っ! 来るよ!」


 向こうもこちらの存在に気付いたのか、突然一斉に駆け出し、こちらに向かってきた。

 ヒーラの持つランプの明かりが届く範囲に入ると、その姿が明らかになる。


「ホラーマンだと!?」


「カイ、スケルトンソードだよ」


 カイのボケに冷静にツッコミを入れるハル。

 だが、実はこれは結構まずい状況だ。数ヵ月前のあの事件の際に山の麓近くまで降りてきていたスケルトンソードだが、本来はこの洞窟に生息しているらしい。


 ボロい布切れでできたマントを羽織っている全身骸骨のアンデッド系モンスタースケルトンソードの最大の特徴は、両手が鋭く尖った剣になっているところにある。

 見た目は骨でありながらも、鉄の剣と打ち合っても決して折れることも切断されることもない強度を誇っている。武器の材料にも使えるため冒険者達からは重宝され、ギルドではかなりの高値で売れる。


 だが、そんな凶器が自分に振りかかってくると思うと話は別だ。

 しかも全身骸骨であるが故に、ハルのクロスボウとは相性が悪い。それに洞窟に入ったばかりでまだあまり通路も広くないこの場所で、制御の利かない右手首の魔道具を使うわけにもいかない。


 そうこうしているうちに先頭のスケルトンソードの腕とカイのダガーが打ち合いを始める。


(まずい……8体は想像以上の数だ。しかもよく見ると滅茶苦茶強そうじゃん! 以前はシュナが簡単に倒していたせいでそこまで警戒してなかったけど、カイ1人じゃ流石に対応しきれない!)

「アマネ! っ……!?」


 カイの援護をするよう頼もうとアマネの方を見ると、そこにはカタカタと構える剣を支える腕が震えているアマネの姿があった。


(そうか……スケルトンソードは確か……)


 アマネは冒険者の中では以前の事件の最初の被害者と言ってもいい。アマネの仲間が殺された時の相手もスケルトンソードだったと聞いている。そんなアマネにスケルトンソードと戦ってこいと言うのは少し酷かもしれない。



 だが、ハルはそこまで過保護ではない。

 それに、アマネの師匠は、ここで戦わずに逃げることを許しはしないだろう。



 ハルは後ろからアマネの尻を思いっきり蹴飛ばす。


「…………っ!?」


「おら、何ボーッとしてんの?」


「ハルさん。で、でも……」


「何のために毎日シュナと修行してんのさ。強くなるためでしょ?」


「……強くなれてるんでしょうか?」


「知らんよそんなこと。それを確かめてこいって言ってんの」


「…………」


「仇、打ってきな」


「…………っ!」


 最後の言葉が後押しになったのか、アマネの表情が変わる。

 真剣なその瞳は、先のスケルトンソードを睨み付ける。


「ちょっと、助太刀してきます」


「いってら。私も後ろから援護するから」



 どうやら剣を握る手の震えは、止まったらしい。






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